著者
馬場 英朗
出版者
關西大學商學會
雑誌
關西大學商學論集 (ISSN:04513401)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.43-56, 2019-12-25

休眠預金活用法が成立し,約30億円の資金を子どもや若者・生活困難者の支援,地域社会の活性化などに助成することが予定されている。このとき,広く国民の理解を得るためにロジック・モデル等に基づく社会的インパクト評価を実施すると定められているが,その内容についてはいまだ明確になっていない。インパクトとは,介入により個人や社会に生じた変化を抽出することで捕捉された,公益活動が直接的に生み出す社会的価値のことである。イギリスでも公共サービス分野において,インパクト評価が導入されているが,成果を科学的に証明するというよりも,様々な利害関係者がお互いに合意できる立証水準を確保することに主眼が置かれている。成果主義が過度に強調されると,失敗した事業が存在しないかのように取り繕って,十分な成果が出たと見せかける危険性もあるため,活動のプロセス (短期・中期) や政策及び予算 (長期) を適時に見直すことにより,成果指向の考え方を浸透させることが重要になる。
著者
馬場 英朗
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.83-95, 2007 (Released:2008-04-04)
参考文献数
34
被引用文献数
1

NPOと行政の協働が叫ばれる状況下,NPOへの委託事業が増加しているが,十分な対価が確保されず,NPOが安価な下請先とされる懸念もある.この点,NPOと行政の協働が進むイギリスでは,フルコスト・リカバリーの考え方を示し,直接費だけでなく,間接費も含めた全てのコストをNPOが回収するように提言している.本稿では,イギリス及び「NPOと行政の協働に関する実務者会議」(愛知県)の議論を参考に,NPOが回収すべきフルコストの範囲を検討し,愛知県下3例の協働事業についてフルコストの試算を行った.その結果,行政による積算はフルコストの5割から7割しかカバーしておらず,事業内容に見合った人件費単価が設定されていない,事業に必要な経費が漏れなく計上されていない,団体を維持するために不可欠な間接費が見込まれていない,という問題点が明らかになった.ただし,NPO側にも,本当に必要な人件費や間接費の水準を示すことができていないという問題がある.
著者
田中 弥生 馬場 英朗 渋井 進
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.111-121, 2010

NPO法人数の財政的な持続性などの経営課題が顕著になっている.しかし,NPOなどの民間非営利組織の財政面に関する分析や評価手法は,1990年代に入ってようやく米国を中心に開発された分野である.また,日本ではデータベースが不在であったために,定量的な分析はほとんどなされてこなかった.そこで本研究では,NPO法人のパネル・データベースを構築し,財務的な評価ツールを開発することによって分析を行ない,NPOの持続性にかかる実態と促進・疎外要因を明らかにしようとした.ここでは,主たる収入要素及び持続性指標間における順位相関を算出した上で,持続性確保に至る道筋を,共分散構造モデルを用いて構築した.その結果,事業収入は収入規模の拡大に寄与するが,財務的持続性の向上にはあまり貢献しないこと,その一方で,寄付や会費などの社会的支援収入は収入規模の拡大には寄与しないが,財務的持続性の向上に貢献することが明らかになった.<br>
著者
馬場 英朗 BABA Hideaki
出版者
日本NPO学会
巻号頁・発行日
2005-12

(C)日本NPO学会:このデータは、日本NPO学会から許諾を得て、J-stageから引用しています。Original text is available at : https://www.jstage.jst.go.jp/article/janpora/5/2/5_2_81/_article/-char/ja/
著者
馬場 英朗 石田 祐 奥山 尚子
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.101-110, 2010 (Released:2011-08-06)
参考文献数
20
被引用文献数
2

NPO法人の財源については,事業収入のような自律した財源を伸ばすべき,寄付や会費などの多様な財源も確保すべき,といった様々な議論が行なわれている.本稿では,NPO法人の収入構造と財務的持続性の関係について,大阪大学NPO研究情報センターが公開するNPO法人財務データベースを用いて,計量モデルによる実証分析を行なった.その結果,短期持続性については事業収入を集中的に拡大することが有効であり,中長期持続性については寄付金や会費などの多様な財源を獲得することが有効であると判明した.現在,多くのNPO法人では日々の業務に追われ,ファンドレイジング活動に労力を割けないという実態がある.しかし,寄付などの幅広い財源を確保できなければ中長期的に疲弊して,NPO法人が活動を持続できなくなる可能性がある.パネルデータや寄付及び事業収入などの内訳情報を入手して引き続き研究成果を積み上げることにより,NPO法人がとるべき収入戦略を探る必要がある.
著者
馬場 英朗
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.81-92, 2005 (Released:2006-04-15)
参考文献数
38
被引用文献数
1

NPOは市民社会との関わりの中で活動を行っており,そのアカウンタビリティは法的なディスクロージャーに止まらず,広く社会に対して情報を公開することで果たされる.したがって,財務情報の公開が義務付けられていない現行の非営利法人制度では,アカウンタビリティが十分に果たされているとは言えないが,NPO法人制度の成立に伴い,NPOによる情報開示の重要性が明確化されたことは画期的である.その一方で,愛知県におけるNPO法人の財務データを分析した結果,NPO法人は社会からの資金的サポートを十分に受けておらず,実際には社会に対して大きな責任を負っているわけではないことが判明した.むしろ,補助金や委託事業を通じて行政から資金を得ている社会福祉法人や学校法人に対して,納税者に対する受託責任の観点から情報公開を義務付けるべきであり,アカウンタビリティとディスクロージャーとの間にあるミスマッチを解消する必要がある.
著者
馬場 英朗 石田 祐 奥山 尚子
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.101-110, 2010

NPO法人の財源については,事業収入のような自律した財源を伸ばすべき,寄付や会費などの多様な財源も確保すべき,といった様々な議論が行なわれている.本稿では,NPO法人の収入構造と財務的持続性の関係について,大阪大学NPO研究情報センターが公開するNPO法人財務データベースを用いて,計量モデルによる実証分析を行なった.その結果,短期持続性については事業収入を集中的に拡大することが有効であり,中長期持続性については寄付金や会費などの多様な財源を獲得することが有効であると判明した.現在,多くのNPO法人では日々の業務に追われ,ファンドレイジング活動に労力を割けないという実態がある.しかし,寄付などの幅広い財源を確保できなければ中長期的に疲弊して,NPO法人が活動を持続できなくなる可能性がある.パネルデータや寄付及び事業収入などの内訳情報を入手して引き続き研究成果を積み上げることにより,NPO法人がとるべき収入戦略を探る必要がある.<br>
著者
中嶋 貴子 馬場 英朗 中嶋 貴子
出版者
非営利法人研究学会
雑誌
非営利法人研究学会誌
巻号頁・発行日
vol.14, pp.69-79, 2012

(C)非営利法人研究学会:このデータは、非営利法人研究学会の許諾を得て作成しております。市民の公共サービスに対するニーズが多様化し、社会的課題の解決に取り組むNPO法人が活躍している。しかし、多くのNPO法人では活動資金が不足しており、公共サービスの担い手として財源の成長性と安定性を確保することが大きな課題となっている。本研究では、愛知県所轄NPO法人137団体について、2003年度から2007年度まで5年間の財務パネル・データを作成し、財務的な成長性と安定性に関する4つの仮説に基づいた実証分析を行った。その結果、活動財源の成長に事業収入が寄与する一方、寄付や会費を得ることによって団体の評価を高め、新たな財源開拓に結びつける「寄付の外部効果」は実証されなかった。しかし、収入の安定には会費や補助金などの財源多様化が一定の効果を有することが明らかとなった。NPO法人の持続的な財政基盤を確立するために、「寄付の外部効果」を活用した資金の好循環を作り出し、多様な財源にアクセスできる環境を整えていくことが重要となる。
著者
馬場 英朗 石田 祐 五百竹 宏明
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-10, 2013

利害関係者が重視する財務情報について,欧米では様々な実証研究が行われているが,日本では寄付者がどのような財務情報を選好しているか,実態が明らかで ないままに寄付の税制優遇拡大やNPO法人会計基準の導入が議論されている.本研究では,寄付者等が重視する情報項目をアンケート調査で明らかにするとと もに,模擬的な財務データを示して寄付者等が指向する財務情報の傾向を分析した.その結果,寄付者等は主観的には寄付金収入が重要であると考えても,実際には事業収入が大きい財務データを選択する傾向が有意に見られた.その一方で,人件費が少なく,事業費が大きな財務データを明確に選好するにもかかわら ず,寄付者等の主観的重要性との間には有意な関係が見られなかった.今回の研究では,サンプル数が少ないといった課題も残るが,寄付者が持つ潜在的な判断基準を明らかにすることは,非営利組織の経営方針を定め,適切な情報公開を行う上で有用である.Empirical studies regarding which financial information is preferred by stakeholders have been conducted in western countries. By contrast, there is no research to investigate this situation in Japan even though practical and policy discussions have occurred on expanding preferential tax treatment for contributions and the introduction of accounting standards for specified nonprofit corporations. This paper investigates a trend in which financial information is sought by donors and, using a questionnaire survey, reveals which information items donors emphasize. As a result, actually it was found statisticallysignificant that the donors prefer to choose the financial structure that has larger program revenue even though they subjectively consider revenue from contributions to be important. On the other hand, this paper could not find statistically consistent relationships between the donors’ subjective rating of importance on information items and their preference of financial structure, even though they precisely chose items such as smaller payroll costs and larger program expenses as their financial structure preferences. Although based upon a small data set, this paper reveals latent decision criteria that donors hold, which is useful in setting management policy in nonprofit organizations, and gives guidance on the disclosure of appropriate financial information.