著者
波夛 伴和 瀧井 正人 高倉 修 森田 千尋 河合 啓介 須藤 信行
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.857-863, 2015-07-01 (Released:2017-08-01)

生活習慣や治療行動(食事や運動など)は糖尿病患者の病状を左右する重要な要素である.患者を適切な治療行動に導くために,従来,糖尿病治療者は教育・指導に注力してきた.近年では,患者の問題解決能力を尊重して,その能力の発揮を援助する考え方(糖尿病エンパワーメントなど)が紹介され,効果も報告されている.しかし,中には自身の能力を発揮するのが難しい患者も存在する.そのような患者を効果的に援助するためには,より深く患者を理解することが必要である.本稿では,糖尿病患者を理解するためのかかわりについて,筆者の学びの過程を示しながら考察した.患者の大きな変化につながるような言葉や,技法が明確な心理療法に注目が集まりやすいが,その前段階の土台作りの重要性についても強調したい.
著者
須藤 信行 服部 正平 三上 克央 吉原 一文 高倉 修 波夛 伴和 古賀 泰裕
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

極端なやせを追求する神経性やせ症(anorexia nervosa: 以下ANと略)患者においては、体重を恒常的に増加させることが極めて困難であり、種々の治療に抵抗性を示し、重篤な感染症や肝機能障害を併発して死の転機をとることも珍しくない。ANの早期診断、治療、予防法を開発することは喫緊の課題であるが、未だその取り組みは十分な成果を上げていない。本研究では、AN患者群の糞便中腸内細菌叢を次世代シークエンサーによって解析し、健常者と比較することでその詳細な特徴を明らかにするとともにAN患者の腸内細菌叢を移植した“AN型人工菌叢マウス”を用いて、AN患者に見られる腸内細菌叢の異常が、実際の体重変動や行動特性の発現に関与しているかについて検討している。平成29年度は、AN患者の腸内細菌を無菌マウスに移植して作製した“AN型人工菌叢マウス”を用いてAN患者の腸内細菌が体重制御や行動特性の発現にどのように影響しているかについて検討した。その結果、“AN型人工菌叢マウス”では、健常女性の糞便を移植して作製した人工菌叢マウスと比較し、体重増加が不良であった。しかしながらどちらの人工菌叢マウスもエサの摂取量は同程度であった。この結果は、“AN型人工菌叢マウス”では、摂取した食事成分から栄養を抽出する効率、いわゆる栄養効率が低下していることを示唆している。次に人工菌叢マウスの行動特性について、我々のグループが開発した“アイソレーター内行動解析法”にて検討を進めている。
著者
久保 千春 高倉 修 古賀 泰裕 須藤 信行 河合 啓介 森田 千尋 古川 智一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、定量的PCR法に基づいたYakult Intestinal Flora-Scanを用いて、神経性食欲不振症(AN)女性患者の腸内細菌叢を年齢を一致させた健常女性と比較した。AN患者では健常群と比較し、総細菌数、Clostridium coccoides group、Clostridium leptum subgroup、Bacteroides fragilis group、およびStreptococcusの細菌数が有意に減少していた。AN群では健常者と比べ糞便中の酢酸、プロピオン酸濃度が有意に低かった。以上の結果は、AN患者では腸内細菌叢の異常が存在することを示している。
著者
館 雅之 野崎 剛弘 瀧井 正人 占部 宏美 高倉 修 河合 啓介 久保 千春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.9, pp.803-811, 2007-09-01
被引用文献数
1

大量の下剤乱用を10年間にわたり続けていた神経性食欲不振症の遷延例である.このような症例は難治であり予後も不良とされるが,当科で行っている,「行動制限を用いた認知行動療法」が奏効し,退院後3年半経っても順調に推移しているので,報告する.「行動制限を用いた認知行動療法」では,患者が肥満恐怖に向き合い,体重増加を図っていくと同時に,行動制限中に表出してきた患者の問題行動を適宜扱う.本患者は,入院治療の過程で,現実生活でいやなことから逃げるという「葛藤回避」が自分の本質的な問題であることを認めるようになった.その結果,「葛藤」から逃げることなく,実際に体重を増やすことができ,体重のみならず家族や対人関係における認知や行動に変化がみられるようになった.本稿では,治療を通じて,患者の認知や行動が変化していった経緯と治療上の留意点について述べた.