著者
髙倉 修 鈴山 千恵 山下 真 波夛 伴和 須藤 信行
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.797-804, 2017 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9

摂食障害は発症や経過に心理社会的要因が密接に関わることから, 広義の心身症ととらえることができる. 患者の多くは発症前に何らかの苦痛や孤独を感じている場合が多く, 低い自尊心が内在している. さまざまな心理社会的ストレスに対して, 過食や拒食といった手段で対処しようとしているともとらえることができる. やせることで周囲から賞賛されたり, 努力すれば体重が減少するといった経験を通して一時的な自尊心の高まりを感じていることも多い.また, 慢性的な飢餓状態により強迫性などが強まるなど, 脳機能への影響も生じる. さらに, 神経性やせ症患者において, 遺伝子の後天的な発現変化が生じることも報告されている.摂食障害の治療は難渋することも多いが, 病態に即した心身両面からの統合的治療が重要である.
著者
波夛 伴和
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.27-32, 2023 (Released:2023-01-01)
参考文献数
9

この10年間で,九州大学病院心療内科を受診する1型糖尿病をもつ人の主訴は大きく様変わりした.以前は,過食やインスリンオミッションを伴う摂食障害を併発した人が受診者の大半を占めていた.一方,近年では,摂食障害併発例の紹介は減り,器質的な異常を認めない身体症状が主訴の人が増えている.当然のことであるが,受診者それぞれに病態は異なり,それに応じて治療法も異なる.本稿の前半では,病態を考えるうえで知っておきたいセルフスティグマの概念,1型糖尿病をもつ人の状態に合わせた3段階の心理社会的ケアについて紹介する.後半では,近年当科を受診した1型糖尿病をもつ人を,試験的に病態別に4つのタイプに分けて,有効と思われる治療法および治療者が果たすべき役割について考察する.
著者
波夛 伴和 瀧井 正人 高倉 修 森田 千尋 河合 啓介 須藤 信行
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.857-863, 2015-07-01 (Released:2017-08-01)

生活習慣や治療行動(食事や運動など)は糖尿病患者の病状を左右する重要な要素である.患者を適切な治療行動に導くために,従来,糖尿病治療者は教育・指導に注力してきた.近年では,患者の問題解決能力を尊重して,その能力の発揮を援助する考え方(糖尿病エンパワーメントなど)が紹介され,効果も報告されている.しかし,中には自身の能力を発揮するのが難しい患者も存在する.そのような患者を効果的に援助するためには,より深く患者を理解することが必要である.本稿では,糖尿病患者を理解するためのかかわりについて,筆者の学びの過程を示しながら考察した.患者の大きな変化につながるような言葉や,技法が明確な心理療法に注目が集まりやすいが,その前段階の土台作りの重要性についても強調したい.
著者
須藤 信行 古賀 泰裕 吉原 一文 山下 真 波夛 伴和
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

近年、宿主と細菌との情報伝達、いわゆる“インターキングダム・シグナリング(IKS)”が注目を集めている。本研究にて、次の事実は明らかになった。①炎症性腸疾患モデルにおいて、カテコラミン(CA)を介したIKSをブロックする化合物であるLED209は腸炎を改善した。②腸管管腔内には生理活性を有するセロトニンが存在しており、一部はグルクロン酸抱合などを受け不活化されていた。以上の結果は、CAを介したIKSが炎症性腸疾患の病態形成において重要や役割を担っている可能性を示している。また管腔内に5-HTの生成や代謝には腸内細菌が深く関わっていることが明らかとなった。
著者
須藤 信行 服部 正平 三上 克央 吉原 一文 高倉 修 波夛 伴和 古賀 泰裕
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

極端なやせを追求する神経性やせ症(anorexia nervosa: 以下ANと略)患者においては、体重を恒常的に増加させることが極めて困難であり、種々の治療に抵抗性を示し、重篤な感染症や肝機能障害を併発して死の転機をとることも珍しくない。ANの早期診断、治療、予防法を開発することは喫緊の課題であるが、未だその取り組みは十分な成果を上げていない。本研究では、AN患者群の糞便中腸内細菌叢を次世代シークエンサーによって解析し、健常者と比較することでその詳細な特徴を明らかにするとともにAN患者の腸内細菌叢を移植した“AN型人工菌叢マウス”を用いて、AN患者に見られる腸内細菌叢の異常が、実際の体重変動や行動特性の発現に関与しているかについて検討している。平成29年度は、AN患者の腸内細菌を無菌マウスに移植して作製した“AN型人工菌叢マウス”を用いてAN患者の腸内細菌が体重制御や行動特性の発現にどのように影響しているかについて検討した。その結果、“AN型人工菌叢マウス”では、健常女性の糞便を移植して作製した人工菌叢マウスと比較し、体重増加が不良であった。しかしながらどちらの人工菌叢マウスもエサの摂取量は同程度であった。この結果は、“AN型人工菌叢マウス”では、摂取した食事成分から栄養を抽出する効率、いわゆる栄養効率が低下していることを示唆している。次に人工菌叢マウスの行動特性について、我々のグループが開発した“アイソレーター内行動解析法”にて検討を進めている。