著者
高木 英至
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.39-52, 2022

意見によって社会が多数派と少数派に分かれるとき、少数派成員は多数派成員より自己の(自集団の)意見への確信度が高い――この点を筆者の社会的影響モデルから予測できるかどうかを確認する。報告する3つの計算機シミュレーションにより、同モデルがこの予測を生み出すことを示す。社会的影響の公的同調モデルからは、少数派の規模が小さく、個人の信念が適度なバラツキを持つときに、この予測が顕著に成り立つ。
著者
高木 英至
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要 教養学部 (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.133-141, 2010

高木(1992b,1993)では外見的魅力、態度の類似性、報酬履歴に基づいて恋愛関係が形成されるという前提に基づき、恋愛関係形成の計算モデルを構築した。本研究は、基本的にこのモデルを前提とし、新たなプログラミング環境に適合したコード化をしつつ、距離空間を導入した新たなモデルを構築する。距離空間の導入により、対人関係の古典的説明要因である近接性(proximity)をモデルの中で考慮することが可能になる。そしてこのモデルの実行による試験的なシミュレーション試行を実施する。シミュレーションから次の傾向が確認できた。1)成立するデート関係および婚約関係は、距離の導入によって近隣で生じるようになる。2)距離を導入した場合、デート関係の場合より近隣で婚姻関係が生じるようになる。3)距離の導入により外見の良い相手を求める傾向が阻害される半面、高い態度類似性をパートナー間で実現する傾向が生じる。4)位置によって相手の選択が分岐し、中心的位置にあるエージェントは周辺的な位置にある場合より態度類似性が高いパートナーを見出しやすい。これらのシミュレーション結果の含意と、今後の研究の展開を議論する。
著者
高木 英至
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.149-159, 2012

高木(2010)で作成した恋愛関係形成のシミュレーションモデルをもとに, 恋愛関係における戦略が進化するシミュレーションモデルを作成し, 試行的に実施した. シミュレーション結果では次の結果(モデルの予測)が観察された. 1) 社会的望ましさを相手に求める傾向は, 望ましさが高い者ほど強い. 望ましさによるこの相違は, 両性が自由にプロポーズできる場合に顕著である. 2) 社会的に望ましい者は恋愛における積極性(プロポーズや受諾のしやすさ)が低くなる. またプロポーズ権に不平等があるとき, プロポーズ権のない側は積極性が低下する. 3) 相手との釣合いを求める傾向は社会的望ましさの高い者ほど強い. 釣合いを求める傾向はまた, プロポーズ権が両性にある場合に高くなる. さらに, 戦略進化の結果としてカップル間の望ましさにおける釣合いが高まることも示された. このシミュレーション結果は, 相互作用状況の構造的要因から個人レヴェルの志向が生まれる可能性を示唆している.
著者
高木 英至
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.133-141, 2010 (Released:2011-04-27)

高木(1992b,1993)では外見的魅力、態度の類似性、報酬履歴に基づいて恋愛関係が形成されるという前提に基づき、恋愛関係形成の計算モデルを構築した。本研究は、基本的にこのモデルを前提とし、新たなプログラミング環境に適合したコード化をしつつ、距離空間を導入した新たなモデルを構築する。距離空間の導入により、対人関係の古典的説明要因である近接性(proximity)をモデルの中で考慮することが可能になる。そしてこのモデルの実行による試験的なシミュレーション試行を実施する。シミュレーションから次の傾向が確認できた。1)成立するデート関係および婚約関係は、距離の導入によって近隣で生じるようになる。2)距離を導入した場合、デート関係の場合より近隣で婚姻関係が生じるようになる。3)距離の導入により外見の良い相手を求める傾向が阻害される半面、高い態度類似性をパートナー間で実現する傾向が生じる。4)位置によって相手の選択が分岐し、中心的位置にあるエージェントは周辺的な位置にある場合より態度類似性が高いパートナーを見出しやすい。これらのシミュレーション結果の含意と、今後の研究の展開を議論する。
著者
高木 英至 野村 竜也 杉浦 淳吉 林 直保子 佐藤 敬三 阿部 年晴
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究課題の成果は大別して次の4つのカテゴリーに分けることが出来る。第1は、本研究課題で用いた手法、特に計算機シミュレーションの社会科学における位置づけに関する、方法論的ないし哲学的な位置づけである。従来の例を整理しながら、計算機シミュレーションは数理モデルほど厳密ではないものの、柔軟で適用範囲の多い方法であること、特に進化型のシミュレーションに可能性が大きいことを見出した。第2は単純推論型の計算機シミュレーションの結果である。この部類の成果は主に、エージェント世界でのエージェントの分化を扱った。野村は、ハイダー流のPOXシステムのメカニズムを仮定したとき、一定の確率で2極分化した集団構造を得ることを、解析ならびにシミュレーションによる分析で見出している。高木は、限界質量モデルを距離を定義した空間に展開することで、より一般的なモデルを提起している。そのモデルから、エージェント間の影響力の範囲が近隣に限定されるとき、エージェントのクラスタ化や極性化が生じることを見出した。第3は進化型の計算機シミュレーションの成果である。エージェントの戦略が進化するという前提での計算結果を検討し、社会的交換ではエージェントの同類づきあいによって一定の「文化」が生じ得ること、さらに協力のために信頼に基づく協力支持のメカニズム、安心請負人による協力支持のメカニズムが生じ得ることを見出した。第4はゲーミング/シミュレーションの手法に基づく成果である。林らは、人間被験者を用いたシミュレーションにより、地域通貨という公共財が普及するための条件を、ある条件のもとで特定している。杉浦はCross Roadというゲーミングを被験者に行わせることを通して、集団レヴェルの特性が出現する過程の記述に成功した。