著者
池上知子 高史明# 吉川徹 杉浦淳吉
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第59回総会
巻号頁・発行日
2017-09-27

企画趣旨 2015年6月に公職選挙法が改正され,選挙権が得られる年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられ,2016年夏の参議院選挙から適用された。選挙運動を行うことのできる年齢も同様に引き下げられている。これを機に若者に投票所に足を運んでもらうにはどのようにすればよいか各方面で議論されている。また,受験勉強や部活動に追われている高校生や大学生に政治参加を促す主権者教育が教育現場の大きな課題となっている。一方,半数近い若者が「政治のことはよくわらない」という理由から政治参加に対して不安や戸惑いを感じているという調査結果もある。わが国の将来を担う若者が社会や政治のあり方を変える大きな力となることは歓迎すべきことではあるが,そのためには,若者自身の問題意識の深化や判断能力の向上をはかることが必要である。問題に対する表面的理解,近視眼的判断が国や社会の指針を左右することがあってはならないからである。本シンポジウムでは,日本の若者が現代社会に内包されている問題(格差・貧困・差別等)をどのように認識しているかを探り,社会の深層構造の理解と変革への動機を促す手立てについて考えてみたい。インターネット世代のレイシズム高 史明 近年の日本では,在日コリアン(日本に居住する韓国・朝鮮人)をはじめとする外国籍住民に対する差別的言説の流行が大きな社会問題になっている。こうした流行は2000年代を通して進展してきたが,2013年頃から社会的な関心も向けられるようになり,2016年の「ヘイトスピーチ解消法」の成立・施行をもたらしている。報告者はこうした在日コリアンに対するレイシズム(人種・民族的マイノリティに対する偏見・差別)の問題について,特にインターネットの使用との関連性に注目して,実証的な研究を行ってきた。本報告ではその成果を踏まえて,「若者はいかにして社会・政治問題と向き合うようになるのか」という問いの中でも,「インターネットが日常となった現在において,若者はどのような経路で社会・政治についての情報と接触するのか,それはどういった内容のものなのか,その結果若者はどのような政治的態度を持つのか」について論じる。 まず,若者層の情報獲得手段の変化,つまり新聞を読む習慣の減少とインターネットへの傾斜について,既存の調査および発表者の持つデータにもとづき紹介する。次に,インターネット上の2つのコミュニティ(TwitterとYahoo!ニュースのコメント欄)における言説の特徴についての研究を紹介し,インターネットを通じた情報接触が若者の政治的態度に及ぼしうる影響について論じる。最後に,報告者がこれまで行ってきた調査データを,「若者とインターネットとレイシズム」という観点から再分析した結果をもとに,若者は他の世代と比べてどの程度レイシズムを受容しているのか,またインターネットの利用はどのような影響を若者に及ぼしているのかを論じる。社会意識論から見た現代日本の若者-社会的なものにかかわりたがらない若者たち-吉川 徹 若者論は社会学のなかでも常に活況を呈している分野である。90年代に制服少女を語った宮台真司から,数年前の古市憲寿の幸福な若者に至るまで,若年層の新しく繊細な文化的動向は,「失われた20年」と形容される同時代の見通しにくさを端的に論じてきた。その反面,冷静に見極めると,日本社会における若者のプレゼンスはかつてないほど低下している。これは第一に,若年人口の量的な縮小による。現在の日本の若者の同年人口は,70年安保当時の若者であった団塊の世代のおよそ半数にすぎない。第二に,若者の年齢拡大がある。社会的役割や地位が未確立なアイデンティティ形成期,あるいはモラトリアム期を若者のメルクマールと考えると,非正規化,晩婚化,パラサイト・シングルなどの実態は青年期を長期化させている。政府統計や官庁の公式文書においても,かつては20歳前後であった若者の年齢幅が,いつしか35歳までとされるようになり,現在では40歳未満という見方が定着しはじめている。40歳といえば,一昔前ならば若者の親の世代にあたる。第三に,若者の集団としての画一性が失われ,ひとまとまりの文化現象を呈さなくなっていることがある。浅野智彦らはこれらの動向を受け,若者が「溶解」していると指摘する。 そんななかで,社会に対する広い視野や,人生の長いパースペクティブをもたず,自己利益だけをコンサマトリーに考える傾向が若年層で浸透している。合わせて就労,文化,政治,消費などの社会的活動の積極性も他世代より低い。さらに詳しくデータを見ていくと,これは現在の若年層に一様にみられる傾向ではなく,性別,学歴(社会的地位),地域による分断を確認できる。政治的な関心や政治的な行動には,若者内でのセグメントの分断がとりわけ顕著に表れる。一例を挙げるならば,若年・非大卒層は社会的な積極性が他の層と比べて著しく低い。しかし,かれらこそが,雇用条件の悪化や,経済的困窮,非婚化,晩婚化の当事者として政策上の支援を必要としている人びとに他ならない。本企画においては,このような若者の政治参加をめぐる不整合を検討したい。格差問題への理解を促すゲーミング杉浦淳吉 社会には様々な格差が存在している。経済格差をはじめ,学校教育には「スクールカースト」のような問題もある。格差が生じるプロセスとその葛藤および解決策をゲームによって体験しながら理解する実践的研究を紹介する。ゲーミング・シミュレーションは現実社会の問題構造を現実と切り離された安全な空間で再現し,それを体験できる環境を用意することが可能である。格差問題を扱ったゲーミングとして仮想世界ゲーム(広瀬,1997)が挙げられる。初期条件として優位な集団と劣位な集団を設定し,集団間の葛藤とその解決の学習が可能である。また,階層間移動ゲーム(大沼,1997)では,ゲーム内で階層格差を作り出し,いったん格差が生じると,それぞれの立場から問題をとらえるようになっていく。この2つのゲーミングは,格差による葛藤に対して参加者全体の合意にもとづくルール変更というオプションが用意されている点が特徴として挙げられるが,大多数にとって納得のいく提案でなければルール変更は実現されず,格差を解消するルールの導入は困難となる。これらのゲームは30~40名の規模で長時間にわたる演習が必要であるが,ここでは5~6名のグループ単位で簡便なルール設定による格差の拡大と解消,及びルールの改訂に焦点をあてるゲームの活用方法を提案する。 大富豪というトランプゲームはルールの設定の仕方により格差拡大およびその葛藤と解決を学習する演習に展開できる (杉浦・吉川,2016)。大富豪は様々なルールのバリエーションが存在するが,格差拡大のルールは実際に順位の変動を小さくし,また逆転機会を提供するルールは順位の変動を大きくしており,ルール設定の仕方次第で格差の固定化・流動化が可能となる。グループ間でルールの異なるゲームを設定した演習を行うと,各々体験したゲームが表す社会が閉鎖的か否かといった評価に違いがみられた。ルール改正の話し合いにおいて,リーダーと認識されたプレーヤのリーダーシップタイプと新ルールの評価の関連を検討したところ,リーダーが民主的であると認識されていたグループの方が,リーダーが放任的あるいは専制的であると認識されていたグループよりも,ルール変更により逆転のチャンスが増えたと評価していた。若者の多くによく知られ楽しまれているカードゲームを格差問題の理解につなげる学習ツールとして展開するための方法と効果について討論する。
著者
吉川 肇子 中村 美枝子 杉浦 淳吉
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.50-59, 2021-06-25 (Released:2021-06-30)
参考文献数
12

本論文では,シミュレーション&ゲーミングを使ったオンライン授業の例を紹介する.紹介するのは主にThiagiの手法(Thiagarajan 2005)によるものである.1つは,オンライン授業においてゲームを実施した事例である.もう1つは,授業のレポート課題に対話性を導入したものである.COVID-19の流行により,日本の大学は多くの授業をオンラインで実施せざるを得なくなった.COVID-19流行以前には,著者らは対面で実施するようなゲームを教育目的で導入していた.本来対面で行うゲームをオンライン授業に転用するにあたっては工夫が必要であった.結果として,Cisco Webex Meetingシステムを使ったオンライン授業において,対面のゲームを,対話性を維持しつつ,オンラインで実施することができた.また,講義の中でゲームを使うのではなく,レポート課題をゲームのようにすることで対話性を維持するように試みた.1年の実施経験を経て,物理的に対面していなくても,対話性を維持しつつ,授業を実施することは可能であるという結論に至った.本稿の中では,実施によって明らかになったこれらの実践の長所や短所についても述べる.
著者
杉浦 淳吉 三神 彩子
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.45-54, 2020-07-10 (Released:2020-07-10)
参考文献数
18

本研究では,住環境と省エネルギーに関する学習教材を開発し,その学習効果を検討した.知識の獲得だけでなく行動につなげるという課題から行動変容に関する社会心理学の理論を背景とし,手法としてゲーミング・シミュレーションを選定し,すごろくを開発した.すごろくではテーマに関するエピソードが問題認識,対処としての住宅リフォーム,問題解決,省エネに関する行動変容,地球環境とのつながりの5つの観点から整理された.学習者はエピソードの読み上げとポイントの増減を通じて課題を理解し行動変容につながるようにした.首都圏の中学校・高等学校の計555名を対象として学習効果を検討した.ゲーム後の振り返りとしてのアンケート調査の結果から,ゲームによる学習は住生活学習への関心を高め,楽しく学べることで学習への動機づけを高めていた.また,ゲームでの学びの際に現実の生活を意識させることで行動変容への意欲が高まっていた.自由記述のキーワードからは「エコ」「地球環境」「省エネ」といった環境にかかわることが高く意識されていた.自由記述における動詞の使われ方として認知・理解,意識改善,行動改善を意味するキーワードが出現したことから,学習内容と現実の生活とが関連づけられていた.
著者
杉浦 淳吉 大沼 進 広瀬 幸雄
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.27-37, 2021-06-25 (Released:2021-06-30)
参考文献数
27

本研究では,論争のある社会問題について当事者の選好を参照しながら意思決定を行うことを通じて政策決定とその評価の熟慮のプロセスについて学ぶゲーミング・シミュレーションを開発した.ドイツのノイス市における路面電車に関する問題について取り上げた.ノイス市では,中心地の狭い通りを走る路面電車の路線について,市民の利便性の点から存続させるか,安全性などの点から撤去するかの論争があった.開発したゲームの実践において,参加者は,最初に路面電車の問題の背景について講義を受けた後,2~5名からなるグループごとに,2009年にノイス市で実施された社会調査をもとに作成された市民のプロフィールカード3名分を参照しながら6つある論点について優先順位をつけ,3つの選択肢(存続,単線化,撤去)から1つを選んだ.特定の価値だけでなく,市民全体の価値の意見分布に関する熟考を促すために,個々のプレーヤーの優先順位づけした論点がグループで選んだ選択肢と合致するほど得点は高くなるようにした.ゲーム後のディブリーフィングでは,各グループの選択と得点結果を実際のノイス市での政策決定と比較しながら議論した.振り返りの結果から,各自の優先順位と市民プロフィールをもとに議論し,市民全体の意見分布も加味して多様な価値をバランスよく取り入れることで利害対立を避けることができていたプレーヤーほど得点は高くなっていた.最後に,実際の当事者の意見を参照しながら意思決定を行う本ゲーミングの応用可能性について議論した.
著者
杉浦 淳吉 三神 彩子
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.87-99, 2018-05-20 (Released:2019-08-06)
参考文献数
28

本研究ではカードゲームのデザインと実践・評価を行い,そのプロセスから学習システムとしての転用可能性を検討した.カードゲームはゲームのルールとカードのコンテンツから成り立っており,それぞれを考える学習システムについて検討した.社会的課題として省エネルギー行動の普及を事例として取り上げ,カードゲームのコンテンツを考案した.カードゲームのルールとして七並べを応用し,カードを並べながらコンテンツの内容と構造を理解していくプロセスを「省エネ行動トランプ」のデザインと実践から考察した.省エネ行動トランプの評価について親子を対象としたワークショップから検討した.またゲーム実施と現実の省エネ行動との関連について大学教育での実践で検討した.さらに七並べのバリエーションを検討し,ワークショップとしてのプログラムを示した.省エネ行動のゲームのルールと学習すべき内容をデザインすること,逆にデザインされたゲームからコンテンツとルールを検討するという両方向を考察することから,この事例の学習システムとしての転用可能性を展望した.
著者
杉浦 淳吉
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.11-21, 2016-03-30 (Released:2019-11-01)
参考文献数
22

トランプによるカードゲームはシンプルなカード構成で様々なルールが存在する.そのルールによって現実の様々な問題構造を表現することができる.例としてダウトは嘘をついたりそれを見抜いたりする必要性がルールで表現されている.そこでトランプゲームの応用方法を提示し,社会的課題の理解について検討した.「大富豪」は階層間格差を表現しているが,多様なオプションルールのどれを採用するかはプレーヤー間の合意形成の課題として理解できる.「ベーシックラミー」のルールを応用し,食材を組み合わせて料理を完成させる学習ゲームを開発・実践し,食材の組み合わせにおける合意形成課題として発展させた.「99」のカードの数字を足し合わせながら一定数を超えたら負けというルールを用い,合計値をプレーヤー全員で復唱する際の緊張感を環境問題の切迫感と位置づけた.トランプゲームをプレーヤーが社会の仕組みを捉え理解するツールとして活用する方法とその普及について考察した.
著者
山川 肇 佐藤 真行 杉浦 淳吉 福岡 雅子
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会研究発表会講演集
巻号頁・発行日
vol.21, pp.2-2, 2010

本稿では、販売包装に関する小売事業者の2Rの取り組みとして肉の袋入り販売を取り上げ、その先進事例の実態と容器包装の発生抑制効果について考察した。その結果、1)袋売りの対象となる肉はさまざまであり、袋の種類も事業者により違いがある、2)手間の増加があるという店舗もあったが大きな問題となっておらず、一方、コスト減や顧客増のメリットも見られる、3)鶏・モモ肉の場合、袋入りの売上割合は15~30%であり、すでに一定程度、消費者に受容されている、4)買うことはあるが毎回は購入しない主な理由は、安売りのときだけ買う、まとめ買いのときのみ買う、売り切れが多い、などであることがわかった。また5)今回の測定サンプルでは、真空パックを除き、袋包装の包装資材重量は2g前後、トレイ包装では6g前後となり、さらにごみ処理される包装ごみの削減率を試算したところ、1パックあたり6~52%となった。
著者
山田 洋子 岡本 祐子 斎藤 清二 筒井 真優美 戸田 有一 伊藤 哲司 戈木クレイグヒル 滋子 杉浦 淳吉 河原 紀子 藤野 友紀 松嶋 秀明 川島 大輔 家島 明彦 矢守 克也 北 啓一朗 江本 リナ 山田 千積 安田 裕子 三戸 由恵
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

質的研究とナラティヴ(語り・物語)アプローチによって、ウィーン、ロンドン、ハノイ、シカゴ、海外4都市の大学において、多文化横断ナラティヴ・フィールドワークを行った。心理学、医学、看護学による国際的・学際的コラボレーション・プロジェクトを組織し、多文化横断ナラティヴ理論および多声教育法と臨床支援法を開発した。成果をウェッブサイトHPで公開するとともに、著書『多文化横断ナラティヴ:臨床支援と多声教育』(やまだようこ編、280頁、編集工房レィヴン)を刊行した。
著者
杉浦 淳吉 野波 寛 広瀬 幸雄
出版者
Japan Society of Material Cycles and Waste Management
雑誌
廃棄物学会論文誌 (ISSN:18831648)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.87-96, 1999-03-31
被引用文献数
7 4

本研究では, ごみを可燃・不燃の2分別でいつでも出せる旧方式から, 資源化を含む26種類に分別し, 月2回の回収日には住民が交代で立ち当番をするという新制度を導入した自治体の事例を取上げた。市内全域に順次導入される一時期において, 制度導入前, 導入直後, 制度導入後1年の3地区について, 各210世帯を対象とする社会調査を実施し, 新しい分別回収制度の社会的利益・個人的コストの個別評価, 新制度の総合評価を比較した。その結果, 新制度の総合評価は, 導入前の地区よりも, 導入からの時間が経過した地区ほど, 肯定的に変化していた。ごみ処理に関する個別評価では, 行政による情報への接触により社会的利益の側面による新制度支持が肯定的に変化した。一方, 制度導入から一定期間が経過することで, 行動実行のコミットメントおよび行動の習慣化により, 社会的利益の側面に加え, 個人的コストの側面からも新制度を支持するように変化した。
著者
杉浦 淳吉
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.3-13, 2003-06-25 (Released:2020-11-02)
参考文献数
14
被引用文献数
6

本論文では「説得納得ゲーム」という教育ゲームについて検討した.このゲームは,環境教育のツールとして開発・実践・改良された.このゲームの概略は以下のとおりである.1)プレーヤーは環境に配慮した消費行動を「アイディアカード」に書き出し,そのアイディアの内容を他のプレーヤーに説明し,さらに実行の「難易度」と多くの消費者が実行した場合の環境配慮の「社会的効果」をプレーヤー同士で評価する.2)プレーヤーを「説得する役割」と「説得される役割」に分け,説得する側は,説得される側に対して,アイディアカードに書かれた内容を実行するように説得する.説得される側は,理由をつけて断る.相手の説得に納得したら,カードに実行を約束する署名をする.3)一定時間で区切り,説得する側と説得される側の役割を交替する.それぞれの役割を2回ずつ経験し,最終的に獲得された署名の数に応じて得点を競う.以上のような説得的コミュニケーションに関わる諸要素を取り込んだこのゲームは,環境配慮行動の普及をテーマに設定された大学の授業および市民ワークショップにおける6つの運用事例における検討から,ゲームのバリエーションの設定により数人から数十人の単位での教育場面に適用可能であることが示された.また,環境教育に限らず,コミュニケーション教育や専門家教育のためのゲーミングとしての可能性や,研究ツールとしての可能性についても論じられた.
著者
前田 洋枝 杉浦 淳吉 安藤 香織
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.12-23, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
34

環境政策に関する科目において,Covid-19の流行により2020・2021年度に説得納得ゲームをZoomのブレイクアウトルームを使用してオンラインで実践し,2019年度の対面授業での実践と比較した.2020年度は説得納得ゲーム相互観察版を参考にしつつ,独自の改変点として説得者が被説得者に説得を行う説得セッションと観察者が説得者・被説得者に対して気づいた点をフィードバックするフィードバックセッションを交互に行うなどした.2021年度は説得者1名・被説得者2~3名とし,説得者が複数の被説得者に説得できるようにするなどした.最後にオンラインでの実践の成果・長所と課題・展望について,2021年度のゲーム後のアンケートの結果も提示しながら,参加者はオンラインでのゲーム体験からも説得が成功した時の喜びや達成感を感じ,環境配慮行動への理解を深めたことや,ブレイクアウトルームの自動割当機能を使用する利点やアイデアカードの活用について論じた.
著者
野波 寛 杉浦 淳吉 大沼 進 山川 肇 広瀬 幸雄
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.264-271, 1997-10-28 (Released:2010-07-16)
参考文献数
14
被引用文献数
44 19

This study researched the effects of cognitive variables on recycling behavior, as well as effects of various media of influence on the cognition and behavior. According to Hirose (1994), the decision making process for recycling consists of two steps. The first leads to goal intention of an ecological lifestyle. The second is related to behavior intention of recycling in line with the goal intention. Mass media, such as newspaper and TV, are thought to influence beliefs about environmental problems, including three determinants of goal intention: perception of seriousness, responsibility, and effectiveness. Personal media, such as personal contacts with pro-environmental activists, are thought to influence evaluation of behavior, including three determinants of behavior intention: evaluation of feasibility, cost and benefits, and social norms. Local media, such as municipal announcement and circular, are hypothesized to have a mixed effect of the two. Path analysis indicated that goal intention affected recycling behavior through behavior intention. Effects of the three media of influence on the cognitive variables were also consistent with the hypothesis.
著者
穐山 浩 高木 彩 井之上 浩一 鈴木 美成 伊藤 里恵 涌井 宣行 浅井 麻弓 杉浦 淳吉
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.187-192, 2021-12-25 (Released:2021-12-25)
参考文献数
9
被引用文献数
1

食品中の残留農薬に関する正確な知識を促進するために,残留農薬のリスクコミュニケーションに関するシンポジウムプログラムをWeb開催した.リスクコミュニケーションプログラムは,プログラム前後のオンラインアンケート調査を使用して統計学的に評価した.105名の有効な参加者のアンケートを回収した.リスクコミュニケーションプログラムは,プログラム後のアンケート結果の分析により,プログラム後の理解と関心の点において効果的であったことが示された.プログラム前の残留農薬のリスク認知や安全性評価の認知は,残留農薬の基準値を確立に関する認識と有意に正の相関性があった.プログラム後のリスク認知はプログラム前よりも有意に高く,プログラムによりリスク認識が増加したことが示唆された.重回帰分析では,プログラム前に残留農薬の安全性評価に関する意識や基準値設定に対する認知が高い参加者ほど,プログラム後の理解度やリスク認知が高くなることが示唆された.
著者
加籐 太一 杉浦 淳吉 飯田 誠 荒川 忠一
出版者
日本デジタルゲーム学会
雑誌
デジタルゲーム学研究 (ISSN:18820913)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.56-66, 2008 (Released:2021-07-01)
被引用文献数
1

ゲームをコミュニケーション環境と捉えるゲーミングシミュレーションの視点から、プレーヤー間の会話分析手法について検討した。第 1に、プレーヤーの経験を記述する点で重要性が高い「ゲーム展開」発話群が抽出された。第 2には、それらの特徴を示すことを目的として (1)意思決定主体の所在、 および(2)時間性の 2要因からなる、より詳細な分類方法について検討した。その結果、前者における 「他者意思」群、後者における「未来」群に分類される発話の増減を時系列で検討することで、ゲームの特徴を記述しうることを明らかにした。ゲーミング評価研究においては萌芽段階にある会話分析の今後の可能性について展望した。
著者
杉浦 淳吉 吉川 肇子 鈴木 あい子
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.37-49, 2006-06-25 (Released:2020-08-28)
参考文献数
11
被引用文献数
3

本研究の目的は,商品販売・購入場面における交渉過程を再現した交渉ゲームを「説得納得ゲーム」(杉浦,2003)のフレームを用いて開発することである.説得納得ゲームは,説得役と被説得役の2つのグループに分かれ,相互作用を繰り返すゲームであり,当初環境教育のツールとして開発されたものである.説得納得ゲームを改変した『SNG:販売編』は,傘やメガネといった商品アイディアの開発を行い,その後,商品を販売する役割と,それを購入する役割に分かれて交歩を行う.販売者はなるべく多くの商品を売ることが求められ,購買者は賢い消費者として自分の気に入った商品を限られた金額の範囲内で購入することが求められる.大学生等を対象とした実践により,このゲームのバリエーションの有効性が確認された.最後に,説得納得ゲームのフレームゲームとしての消費者教育や交渉トレーニングヘの利用可能性が議論された.
著者
杉浦 淳吉 吉川 肇子 鈴木 あい子
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.37-49, 2006

<p>本研究の目的は,商品販売・購入場面における交渉過程を再現した交渉ゲームを「説得納得ゲーム」(杉浦,2003)のフレームを用いて開発することである.説得納得ゲームは,説得役と被説得役の2つのグループに分かれ,相互作用を繰り返すゲームであり,当初環境教育のツールとして開発されたものである.説得納得ゲームを改変した『SNG:販売編』は,傘やメガネといった商品アイディアの開発を行い,その後,商品を販売する役割と,それを購入する役割に分かれて交歩を行う.販売者はなるべく多くの商品を売ることが求められ,購買者は賢い消費者として自分の気に入った商品を限られた金額の範囲内で購入することが求められる.大学生等を対象とした実践により,このゲームのバリエーションの有効性が確認された.最後に,説得納得ゲームのフレームゲームとしての消費者教育や交渉トレーニングヘの利用可能性が議論された.</p>
著者
杉浦 淳吉
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.39-47, 1998
被引用文献数
2

環境配慮行動を促進させる説得的コミュニケーションにおいて, 社会的便益と個人的便益のどちらを強調するのが効果的であろうか。また, どのような要請主体からの説得が効果的であろうか。本研究では, 公共利益にも私的利益にもつながる「エコロジーダイヤル」への加入という行動をとりあげ, その行動を要請する主体として環境NPO, 電話会社, そして対人ネットワークとしての友人, の3つを設定した。実験は, 3つの要請主体が, 環境保全あるいは個人の経済性を重視した説得的メッセージを用いて加入要請を行う場面を想定した。結果は, 環境保全を重視したメッセージを用いた条件の方が, 経済性を重視したメッセージを用いた条件よりも, 要請主体への応諾傾向が高くなった。加入意図, および加入への態度については, 要請主体の効果がみられた。すなわち, 環境NPOから要請された条件は, 友人から要請された条件と比較して加入意図および加入への態度は高くなった。要請主体への親近性評価では要請主体が友人である条件がもっとも高かったが, 行動意図およびそれを予測する変数との間の関連は低かった。