著者
中川 秀一 宮地 忠幸 高柳 長直
出版者
農村計画学会
雑誌
農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.380-383, 2013-12-30 (Released:2014-12-30)
参考文献数
34
被引用文献数
1

This paper discusses the endogenous development theory in Japan based on the “regions”. It raises contemporary topics by reviewing empirical research in rural geography and by examining some practices in regions. The endogenous development theory has been developed as a social movement theory of municipality. However, since rural areas have been diversified, they should be taken up as places of human development. Therefore the endogenous development theory should be a forum for interdisciplinary research of “regions”.
著者
高柳 長直
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.61-77, 2007-03-30 (Released:2017-05-19)
被引用文献数
4

近年,地域ブランドが社会的に着目されている.とりわけ,農産物や食品では,ブランドの呼称に地名を利用し,産地を強調するものが多数みられるようになった.本稿では,牛肉を事例として,農産物や食品に込められるローカル性の意味について考察するとともに,地域ブランドを利用して産地振興を図る際の方向性について議論を行った.地域性をアピールした牛肉が市場で大量に流通するようになったが,牛の品種・血統や飼料の地域的差異は縮小し,牛肉の品質は均一化しつつある.そもそも,繁殖と肥育が地域分業で営まれ,市場で流通している地域ブランド牛肉には,産地内で生まれたものと産地外で生まれたものとが混在している.また,ブランドは必ずしも品質を保証しておらず,呼称の混乱もみられるほどである.したがって,牛肉の商品自体に付随するローカル性は縮小し,「地域」ブランドは虚構であるといわざるを得ない.牛肉産地における振興の方向性としては,3つのことがあげられる.第1に,ローカル性の喪失には目をつむり,地域ブランドの示す空間範囲を拡大することである.弱小ブランドの産地としては,既存のフードシステムで競争する限り,流通量を増やして,少しでも認知度を高める必要がある.第2に,ローカル性を徹底的に追求していくことである.希少性のある品種を飼養したり,飼料や飼育方法などで,他産地との差別化を図っていく.第3に,牛肉のローカル性が虚構であることを,利用していくということである.現代の日本では,食品の可食部分だけを消費しているのではなく,むしろ食品に付随する情報を消費している.食品に物語性を付加することで,消費者の需要喚起を図っていく戦略が考えられる.
著者
高柳 長直
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018-06-27

1.はじめに<br> フードシステムのグローバル化への対抗として,あるいは成熟化した食生活の反映として,農産物や食品の地域ブランドが日本では多数みられるようになった。2006年に地域団体商標の制度が始まり,さらに2015年から地理的表示保護制度による登録も開始された。こうした変化に対し,報告者をはじめとして生産や流通の側面からの調査・研究は蓄積されてきたが,消費の側面からの地理学的研究はほとんどみられない。そこで,本報告では,地域ブランド農産物を消費者がどのように認知しているのかを居住地域の相違から明らかにすることを目的とする。<br> 今回は,とくに牛肉を対象とした。日本国内の牛肉市場は,輸入自由化以降,大きく変化した。輸入品と競合する乳用種に代わり,比較的低コストで生産できる交雑種と黒毛和種などの肉用種が市場をリードするようになった。このことは,国産牛肉が品質志向を強めることを意味し,肉用種のなかでも黒毛和種の牛肉がほとんどを占めるようになった。しかし,一方で褐毛和種など,黒毛の牛肉とは外観も肉質も異なるブランド品もある。そこで,このような品種の牛肉も含めて20種のブランド牛肉を対象とした。<br>2.調査方法<br> 消費者のブランドの認知,牛肉の消費経験,嗜好,購入の際の重視点などについて明らかにするため,インターネット調査を利用して,314件の回答を収集した。ただし,登録されているモニターは偏りがあるので,消費者の代表性を確保するために,性別・年齢・居住地域を考慮して予め割付を行い,アンケートの対象を設定した。被調査者の居住地域については,首都圏,関西圏,地方圏に大まかに区分し,地方圏については非黒毛和種の牛肉産地がみられる岩手県,高知県,熊本県と,新興の黒毛和種産地の一つがみられる石川県とした。<br>3.結果<br> 全国19の牛肉ブランド(および比較として「オージービーフ」)の認知度は,日本三大和牛とよばれる牛肉が高く,いずれも約9割の消費者が知っていた。日本三大和牛は,松阪牛,神戸ビーフおよび近江牛または米沢牛を指すことが多く,四大和牛ともよばれる。これらに次いでいるのが,飛騨牛である。また,前沢牛と佐賀牛も多いが,前沢牛は関東,佐賀牛は関西でやや認知度が高い。<br> それに対して,いわて短角牛,くまもとあか牛,土佐あかうしといった非黒毛和種の牛肉の認知度は1~2割の低い水準に留まった。ただし,それぞれの県内の消費者に限定すると認知度は約9割と非常に高い水準であることがわかった。また,それぞれの県内消費者で,当該牛肉を食べたことのある人の割合は約8割,購入したことのある人の割合でも約5割であり,ナショナルブランドではないが,ローカルブランドとして一定の地位を確立していることが判明した。これらの牛肉は,そもそも生産量が少ないので,産地以外ではほとんど流通していないが,それぞれの地域では,県などの行政を中心としたプロモーションが行われているので,このような結果につながったと考えられる。<br> 消費者が各ブランド牛肉に対してどのような価格イメージをもっているか,ここでは5段階評価で質問した。認知度が60%くらいまでは,消費者の価格イメージは緩やかに上昇し,それ以降,急激に上昇している。とくに価格が高いと思われているのは松阪牛であり,他ブランドから群を抜いている。それに神戸ビーフ,近江牛,米沢牛といった三大和牛が続いている。このように認知度と価格イメージの関係は,概ね指数近似していると言える。<br> 牛肉の料理ごとの消費者嗜好では,年齢による相違をある程度確認することができた。しかしながら,地域による牛肉料理の嗜好に相違は見られなかった。一般に,東の豚肉,西の牛肉と言われ,実際その消費量の地域差もみられる。今回の調査で,関西の方が関東よりも,わずかに牛肉の頻度が高いことがわかったが,特筆すべき相違とは言えなかった。むしろ,地方圏が大都市圏よりも,牛肉の消費頻度が低いことのほうが気になる結果であった。<br>4.まとめ<br> 牛肉の地域ブランドには全国的に知名度が高いナショナルブランドと産地の県内で認知されるローカルブランドに大別される。認知度が高いほど高価格が期待できるが,それは一部のものに限定されることが判明した。
著者
高柳 長直
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.135-148, 1998-05-31
被引用文献数
2

かぼちゃは, 近年急速に輸入が増大している野菜である. 本稿は, かぼちや産地を事例として, 国際的な産地間競争が激化していく中で, 国内産地がどのように存続していくのか, その際の課題点について考察を行った. 大都市近郊産地(江戸崎町)では, 夏場に高品質のかぼちやを高価格で販売することによって存続し, 比較的高い所得を獲得してきた. 輸入かぼちやとは品質的に競合せず, 出荷時期もほとんど重ならず, 輸入増加の影響はみられない. むしろ, 担い手の高齢化や流通構造変化への対応のほうがより重要な課題である. 一方, 北海道輸送園芸産地(和寒町)では, 水稲転作作物としてかぼちやが導入され, 不利な立地条件を貯蔵技術の進展によって補い産地が形成されてきた. 和寒産地の場合, 品質的な対抗が難しく価格は低迷している. それに加えて, 出荷経費をはじめとするコストはある程度必要であり, 所得率は低い. 11〜12月は輸入物と競合することになり, 年によって市場価格が低下することによる影響は少なくない. しかしながら, 和寒産地では, 輸入増加の影響をそれほど深刻に受け止めてはいない. かぼちやは, 輪作体系の一つの作目にすぎず, 依然として水稲が農家経営の基幹であるからである.