著者
小汐 千春 石井 実 藤井 恒 倉地 正 高見 泰興 日高 敏隆
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-17, 2008-01-05 (Released:2017-08-10)
参考文献数
52
被引用文献数
1

東京都内に広く分布するモンシロチョウ Artogeia rapae (=Pieris rapae)およびスジグロシロチョウ A. melete (=P. melete)の2種のシロチョウについて,東京都内全域において,過去にどのような分布の変遷をたどってきたか調べるために,アンケート調査,文献調査およびフィールド調査を行った.その結果,特別区では,1950年代から1960年代にかけてモンシロチョウが多かったが,1970年代以降スジグロシロチョウが増え始め,1980年代には都心に近い場所でも多数のスジグロシロチョウが目撃されるようになったが,1990年代以降,再びスジグロシロチョウの目撃例が減少し,かわってモンシロチョウの目撃例が増加したことが明らかになった.さらにこのようなモンシロチョウとスジグロシロチョウの分布の変遷は,特別区以外の郊外の市町村や島嶼部でも見られることがわかった.
著者
岩崎 貴也 阪口 翔太 横山 良太 高見 泰興 大澤 剛士 池田 紘士 陶山 佳久
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.183-199, 2014-11-30

生物地理学は、歴史的側面や生態的側面などの観点から、生物の分布パターンや分布形成プロセスの解明を目指す学問であり、進化生態学や群集生態学、保全生物学などの分野とも強い関連をもつ学際的領域である。1990年代以降、遺伝解析技術の恩恵を受けた系統地理学の隆盛によって、生物地理学は大きな発展を遂げてきた。さらに近年では「地理情報システム(GIS)」や、それを利用した「気候シミュレーション」、「生態ニッチモデリング」といった新たな解析ツールが、生物地理学分野に新しい流れを生み出しつつある。その基礎的な活用例として、現在の生物種の分布情報と気候要因から生態ニッチモデルを構築し、気候シミュレーションから得られた異なる時代の気候レイヤに投影するというアプローチが挙げられる。これにより、過去や現在、未来における生物の分布を予測することが可能となり、時間的な分布変化を推定することができる。さらに、GISを活用して、モデル化された生態ニッチや系統地理学的データを複合的に解析することで、近縁種間でのニッチ分化や、分布変遷史を考慮に入れた種分化要因の検証、群集レベルでの分布変遷史の検証なども可能となる。本総説では、最初に基礎的な解析ツールについて解説した後、実際にこれらのツールを活用した生物地理学とその関連分野における研究例を紹介する。最後に、次世代シークエンシングによって得られる膨大な遺伝情報や古DNAデータの有用性について紹介した後、それらの情報を用いた生物地理学や関連分野における今後の展望について議論し、GIS技術がその中で重要な役割を果たしうることを示す。
著者
岩崎 貴也 阪口 翔太 横山 良太 高見 泰興 大澤 剛士 池田 紘士 陶山 佳久
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.183-199, 2014-11-30 (Released:2017-05-20)
参考文献数
97
被引用文献数
1

生物地理学は、歴史的側面や生態的側面などの観点から、生物の分布パターンや分布形成プロセスの解明を目指す学問であり、進化生態学や群集生態学、保全生物学などの分野とも強い関連をもつ学際的領域である。1990年代以降、遺伝解析技術の恩恵を受けた系統地理学の隆盛によって、生物地理学は大きな発展を遂げてきた。さらに近年では「地理情報システム(GIS)」や、それを利用した「気候シミュレーション」、「生態ニッチモデリング」といった新たな解析ツールが、生物地理学分野に新しい流れを生み出しつつある。その基礎的な活用例として、現在の生物種の分布情報と気候要因から生態ニッチモデルを構築し、気候シミュレーションから得られた異なる時代の気候レイヤに投影するというアプローチが挙げられる。これにより、過去や現在、未来における生物の分布を予測することが可能となり、時間的な分布変化を推定することができる。さらに、GISを活用して、モデル化された生態ニッチや系統地理学的データを複合的に解析することで、近縁種間でのニッチ分化や、分布変遷史を考慮に入れた種分化要因の検証、群集レベルでの分布変遷史の検証なども可能となる。本総説では、最初に基礎的な解析ツールについて解説した後、実際にこれらのツールを活用した生物地理学とその関連分野における研究例を紹介する。最後に、次世代シークエンシングによって得られる膨大な遺伝情報や古DNAデータの有用性について紹介した後、それらの情報を用いた生物地理学や関連分野における今後の展望について議論し、GIS技術がその中で重要な役割を果たしうることを示す。
著者
奥崎 穣 高見 泰興 曽田 貞滋
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.275-285, 2012-07-30 (Released:2017-04-27)
参考文献数
28
被引用文献数
3

生態的に似た複数の近縁種が共存するには、種間の資源競争あるいは繁殖干渉が緩和される必要がある。オサムシ科オオオサムシ亜属は、成虫期に多食性の捕食者であるが、幼虫期はミミズ専食である。またオスは異種のメスに対しても交尾行動を示す。彼らは分布域の大部分で2-3種が共存しており、同所的に分布する種間では体サイズが異なっている。この種間の体サイズ差は、幼虫期に捕食可能なミミズのサイズに応じた資源分割をもたらし、資源競争を緩和するかもしれない。また成虫期に異種間の交尾行動を機械的に妨げる生殖隔離として、繁殖干渉を緩和するかもしれない。この2つの仮説を、京都に分布するオオオサムシ亜属4種(山間部の大、中、小型の3種、平野部の大型1種)を用いて検証した。まず、4種の幼虫(1-3齢)に様々なサイズのミミズを与えた。その結果、すべての幼虫は、ミミズのサイズに関わらず捕食行動を示した。またミミズのサイズ増加に伴う捕食失敗は、小型種の1齢幼虫期でのみ観察された。したがって、種間の体サイズ差は資源分割に有効ではないと考えられた。次に、4種の成虫で16通りの雌雄ペアを作り、交尾行動(交尾意欲、マウント、交尾器の挿入、精包形成)を観察した。その結果、体サイズ差が大きい異種ペアでは、交尾意欲があっても交尾器が届かず、挿入ができないペアが多かった。すなわち、種間の体サイズ差による交尾前生殖隔離が成立しており、このことが体サイズ差の大きい近縁種の同所的分布を可能にしていると考えられた。一方、体サイズ差が小さい異種ペア(山間部の大、中型種と平野部の大型種のペア)では、大半のペアで交尾器の挿入が行われ、精包形成まで達成するペアも見られた。このことから、体サイズの似た種が同所的に分布しないのは、資源競争ではなく繁殖干渉のためであることが示唆された。
著者
小汐 千春 石井 実 藤井 恒 倉地 正 高見 泰興 日高 敏隆
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-17, 2008
参考文献数
52

東京都内に広く分布するモンシロチョウ Artogeia rapae (=Pieris rapae)およびスジグロシロチョウ A. melete (=P. melete)の2種のシロチョウについて,東京都内全域において,過去にどのような分布の変遷をたどってきたか調べるために,アンケート調査,文献調査およびフィールド調査を行った.その結果,特別区では,1950年代から1960年代にかけてモンシロチョウが多かったが,1970年代以降スジグロシロチョウが増え始め,1980年代には都心に近い場所でも多数のスジグロシロチョウが目撃されるようになったが,1990年代以降,再びスジグロシロチョウの目撃例が減少し,かわってモンシロチョウの目撃例が増加したことが明らかになった.さらにこのようなモンシロチョウとスジグロシロチョウの分布の変遷は,特別区以外の郊外の市町村や島嶼部でも見られることがわかった.