著者
東樹 宏和 曽田 貞滋
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.46-52, 2006-04-25 (Released:2016-09-06)
参考文献数
32
被引用文献数
3

軍拡競走による急速な形質進化は、集団間の適応的分化を促進する。近年、「共進化の地理モザイク」を扱った理論・実証研究により、同じ種と種の組み合わせであっても相互作用の進化・生態学的な動態が地理的な変異を示すことが明らかにされつつある。本稿では、著者らが取り組んでいるヤブツバキ(Camellia japonica)とツバキシギゾウムシ(Curculio camelliae]の作用系を例にとり、種間相互作用に起因する自然選択がいかにして集団間で変異し、形質の適応分化を促すのか、その要因を考察する。
著者
奥崎 穣 高見 泰興 曽田 貞滋
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.275-285, 2012-07-30 (Released:2017-04-27)
参考文献数
28
被引用文献数
3

生態的に似た複数の近縁種が共存するには、種間の資源競争あるいは繁殖干渉が緩和される必要がある。オサムシ科オオオサムシ亜属は、成虫期に多食性の捕食者であるが、幼虫期はミミズ専食である。またオスは異種のメスに対しても交尾行動を示す。彼らは分布域の大部分で2-3種が共存しており、同所的に分布する種間では体サイズが異なっている。この種間の体サイズ差は、幼虫期に捕食可能なミミズのサイズに応じた資源分割をもたらし、資源競争を緩和するかもしれない。また成虫期に異種間の交尾行動を機械的に妨げる生殖隔離として、繁殖干渉を緩和するかもしれない。この2つの仮説を、京都に分布するオオオサムシ亜属4種(山間部の大、中、小型の3種、平野部の大型1種)を用いて検証した。まず、4種の幼虫(1-3齢)に様々なサイズのミミズを与えた。その結果、すべての幼虫は、ミミズのサイズに関わらず捕食行動を示した。またミミズのサイズ増加に伴う捕食失敗は、小型種の1齢幼虫期でのみ観察された。したがって、種間の体サイズ差は資源分割に有効ではないと考えられた。次に、4種の成虫で16通りの雌雄ペアを作り、交尾行動(交尾意欲、マウント、交尾器の挿入、精包形成)を観察した。その結果、体サイズ差が大きい異種ペアでは、交尾意欲があっても交尾器が届かず、挿入ができないペアが多かった。すなわち、種間の体サイズ差による交尾前生殖隔離が成立しており、このことが体サイズ差の大きい近縁種の同所的分布を可能にしていると考えられた。一方、体サイズ差が小さい異種ペア(山間部の大、中型種と平野部の大型種のペア)では、大半のペアで交尾器の挿入が行われ、精包形成まで達成するペアも見られた。このことから、体サイズの似た種が同所的に分布しないのは、資源競争ではなく繁殖干渉のためであることが示唆された。
著者
奥崎 穣 曽田 貞滋 齊藤 隆
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

オオルリオサムシとアイヌキンオサムシは北海道内で体色とその多型頻度を変化させながら系統分岐を繰り返してきたことが分子系統解析から明らかとなった.体色進化の地理的パターンは2種間で異なっていたが,2種の体色は北海道北部でよく似た赤い色であることが分光計測によって確かめられた.またDNAバーコーディングの結果,オサムシの捕食寄生者3種が確認され,北海道北部にはそのうちの1種,ヤドリバエ科Zaira cinereaのみが生息していた.2種のオサムシの赤い体色はこの寄生バエに対して隠蔽色として機能しているかもしれない.今後はZ. cinereaの成虫を捕獲して,オサムシの体色への選好性を調査していく.
著者
田辺 力 曽田 貞滋
出版者
日本動物分類学会
雑誌
タクサ:日本動物分類学会誌 (ISSN:13422367)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.24-25, 2022-02-28 (Released:2022-03-01)
参考文献数
5

Mechanical isolation found in two sympatric species of Parafontaria millipedes is caused by mismatched genital and body sizes between sexes during mating. Effective precopulatory isolation is lacked between the two species.
著者
伊東 啓 柿嶋 聡 上原 隆司 守田 智 小山 卓也 曽田 貞滋 John Cooley 吉村 仁
雑誌
第78回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, no.1, pp.577-578, 2016-03-10

北米には、13年もしくは17年に一度、大量発生するセミが生息している。このセミはその発生周期から周期ゼミ・素数ゼミと呼ばれており、なぜ素数周期で大発生するセミが誕生したのかは未だに大きな謎である。これまでの研究から、様々な周期が混在したときに、交雑の観点から素数周期だけが生き残ることが数値計算によって導かれていたが、その前段階である周期性そのものの進化は再現されていなかった。我々は、個体ベースのシミュレーションモデルを構築し、氷河期(平均気温の低下)という環境下でセミの周期性が進化する様子を再現することに成功した。これにより、氷河期による成長スピードの低下という危機的状況が周期性進化に大きく関係していることが示唆された。本結果は、環境変動によって進化が引き起こされることを明確に示したものである。
著者
田邊 力 曽田 貞滋
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本産アマビコヤスデ属とババヤスデ属を対象に、種分化と体サイズ及び体色擬態についての関係、体サイズ進化要因について調べ、以下の結果を得た。(1)分子系統推定の結果から、アマビコヤスデ属では本州、四国、九州に分布する小型種(3.5~4cm)アマビコヤスデから3種程度の大型種(4.5~6cm)が分化しており、大型の一種は分化後にアマビコヤスデと交雑していると推定された。(2)キイロヤドリバエの寄生はアマビコヤスデの体サイズ小型化への選択圧となっている可能性がある。(3)アマビコヤスデ属とババヤスデ属の間で確認された体色ミュラー型擬態の進化においてババヤスデ属における多発的種分化の関与が示唆された。
著者
高橋 鉄美 曽田 貞滋
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

集団内多型の維持機構を解明することは、遺伝的多様性の維持と直結するため、進化生物学的・生理学的に重要な課題である。私は、シクリッド魚類のあるグループに見られる集団内オス色彩二型を例に、その維持機構を解明しようとしている。本研究課題では、飼育個体群を用いた連鎖解析と野生個体群を用いた関連分析を行い、二型を支配する遺伝子が組み換えの制限された狭いゲノム領域に存在することを明らかにした。しかし、二型の維持機構を解明するには至らなかった。当初、異類交配によって維持されるという仮説を設定していたが、それを支持する結果が得られなかった。このため新たな仮説を提唱し、今後の研究に筋道をつけた。
著者
曽田 貞滋
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

マイマイカブリのゲノム塩基配列を決定するために,粟島産亜種アオマイマイカブリ1雄から抽出したゲノムDNAを用い,イルミナHiSeq2000を180 bpと500 bpのペアエンドライブラリーのシーケンスデータ(ゲノムサイズの188×),PacBio RSを用いたシーケンスデータ(ゲノムサイズの34×)を得た.HiSeq2000のデータについてはSOAPdenovo, SGA, ALLPATHS-LGを用いてアセンブリを試みた.得られたゲノム配列について予備的に既知の昆虫の遺伝子データベースおよびAUGUSTUSを用いたgene predictionを行った.HiSeq2000データ単独でのアセンブリには限界があるため,HiSeq2000データを参照してLSC,PacBioToCAでエラー補正したPacBioのシーケンスデータをHiSeq2000データと合わせてアセンブリすることを試みた.本研究に関連して,今年度は,佐渡島亜種と粟島亜種の戻し交雑に基づく,亜種間形態変異に関する量的遺伝解析の結果を論文として発表し,またマイマイカブリのゲノムサイズを論文として報告した.また,形態分化の適応基盤に関して,2つの採餌形態間のトレードオフに関する解析を行い,論文を投稿した.さらに,日本列島におけるマイマイカブリの形態の地理的分化について,Ornstein-Uhlenbeck modelを用いた系統比較法解析を行い,論文を投稿した.この研究では,隔離された島だけでなく,本州内の地域間でも,体形に適応的分化が起こっていることが示唆された.
著者
吉村 仁 曽田 貞滋
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本課題では、理論研究と実証研究を同時に進めたが、とくに周期ゼミ全7種のほぼ全ブルード(発生年の異なる集団)の系統解析を実施、アレキサンダーらが提唱していたdecim, cassini, deculaの3系統で17年と13年が独立に進化したという仮説が正しいことを明らかにした。さらに、理論研究では、decim系統で13年が2種確認された問題で、新種記載されたM. neotredecimが17年の個体群に13年のM. tredecimが少数飛来して混入することにより13年周期にシフトする可能性をシミュレーションで示した。さらに人間の経済活動を含む様々な事例で環境変化・変動への適応研究を展開した。