著者
尼子 雅美 隆島 研吾 髙木 峰子 島津 尚子 斎藤 祐美子
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.128-135, 2019-04-01 (Released:2020-04-15)
参考文献数
23

本研究の目的は,短下肢装具を必要と捉えるADL場面や求めている役割について,脳卒中による装具使用者と理学療法士の認識の違いを明らかにすることである.質問紙調査を行った結果,装具使用者は座位での動きを伴う動作,理学療法士は移動を伴う動作において高い割合で装具が必要と認識していた.また移動状況別では,屋内歩行自立群において25項目中9項目で認識の違いを認めた.短下肢装具の必要度について認識の違いを認めた屋内歩行自立群や介助歩行·車椅子移動群では,当事者の意向を反映し,より生活上で意味のある装具とするため,座位動作を含むADL場面での使用も考慮した評価が必要であることが示唆された.
著者
平賀 篤 髙木 峰子 隆島 研吾 鶴見 隆正
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.505-510, 2019 (Released:2019-08-28)
参考文献数
19

〔目的〕本研究の目的は,健常成人に対し超音波療法(ultrasound therapy:US)とスタティックストレッチング(static stretching:SS)の実施条件による検証を行い,併用の有効性を明らかにすることとした.〔対象と方法〕健常成人男性13名を対象とした.下腿三頭筋の筋腱移行部に対しUSとSSを,①US照射中にSSを同時実施,②US照射直後にSS実施,③US単独実施,④SS単独実施の4条件で実施した.測定項目は足関節背屈可動域,深部組織温,深部血流量とし,介入前後の変化量を比較した.〔結果〕背屈可動域の変化は,US同時群が他条件に比べ有意な増大を認めた.US直後群はUS単独群,SS単独群と比べ有意な増大を認めた.〔結語〕可動域変化を目的に行う場合,USとSSを同時に行う重要性が示唆された.
著者
鈴木 智高 髙木 峰子 菅原 憲一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1125-AbPI1125, 2011

【目的】<BR> 私たちが生活する環境には様々な道具があり,日々巧みに操作され活用されている。理学療法においても,歩行補助具や自助具等に道具が用いられ,各場面において理学療法士は対象者の身体運動に応じて環境を調整し,再適応を図っている。生態心理学によれば,環境が提供するアフォーダンスと動物の知覚が相互に作用することで,行為は制御される。特にヒトの場合,進化の歴史からみても,把握・操作可能な道具は重要な位置づけにあり,ヒトにとっても握る行為は,最も基本的な運動の1つである。よって,これらは極めて高い相互関係にあると考えられる。<BR> 近年の研究により,道具に対する知覚が特異的な脳活動を生じさせ,認知処理過程にも影響を及ぼすことが報告されている。しかし,アフォーダンスと実際の行為における相互作用を明らかにしている知見は少ない。そこで本研究は,道具に対するアフォーダンス知覚と行為の対応性に着目し,その対応性が認知処理と運動発現に及ぼす影響を筋電図反応時間(以下EMG-RT)により検討した。<BR>【方法】<BR> 被験者は健常な右利きの学生22名とした。提示する刺激画像には,道具画像(右手で把握可能な道具)と,動物画像(握ることをアフォードしないであろう対照画像)の2種類を用いた。反応する運動課題は,右手指屈曲(本研究でアフォードさせる動作)と,右手指伸展(対照動作)を採用した。刺激画像と運動課題の組み合わせによって,被験者を以下の2群に分けた。Compatible群(以下C群)は,道具画像に対して手指屈曲を(刺激画像と運動課題が一致),動物画像で手指伸展を行った。逆に,Incompatible群(以下IC群)は,道具画像に対して手指伸展(不一致),動物画像で手指屈曲を行った。<BR> 実験1は通常の選択反応課題であり,予告画像(画面中央に"+")後に刺激画像として道具,動物,NO-GOがランダムに提示された。提示後速くかつ正確に運動課題を実行するように指示した。実験2では予告としてアフォーダンス画像(手すり)を提示し,刺激画像が出るまで右手による把持イメージをさせた。EMG-RT(刺激提示から筋電図出現までの時間:ms)は表面筋電図を用いて測定し,被検筋は右浅指屈筋と右総指伸筋とした。解析は,二元配置分散分析を行い,有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は,本学研究倫理審査委員会による承認後実施した。参加者には,事前に書面および口頭にて説明し,同意が得られた者を対象とした。<BR>【結果】<BR> 実験1では刺激画像と運動課題の2要因間に有意な交互作用が存在した。post hocテストの結果,道具画像*屈曲動作のEMG-RTが,動物画像*屈曲動作に比べて有意に遅かった。実験2は,実験1に類似した結果であったが,交互作用はわずかに有意水準に達しなかった。実験間の比較では,C群,IC群ともに実験2のEMG-RTが有意に遅い結果となった。この遅延は,IC群において特に顕著であった。<BR>【考察】<BR> 人工物の認識は自然物に比べて遅いと考えられるが(Borghi AM,2007),本研究の選択反応課題では刺激画像に主効果はなかった。よって,刺激同定段階の影響は少なく,道具画像*屈曲動作の遅延はその対応性によるものであり,反応選択・反応プログラミング段階に差が生じたと考えられる。動物画像に対する動作や道具画像に対する伸展動作は対応性のない無意味な行為であり,刺激同定後,機械的に運動発現に至る。このような対象を識別する視覚情報処理は腹側経路にて行われると言われている。一方,道具画像に対する屈曲動作には対応性があるため,その行為は目標指向性を帯び,視覚誘導性が強調されると考えられる。対象の空間情報や視覚誘導型の行為は背側経路によって制御される。さらに,両経路にはネットワークがあり,道具の認識において相互作用が生じると示唆されている。加えて,道具に対する頭頂葉の特異的な活動を示唆する報告もある。よって,道具の認識と対応する行為の選択には広範な神経活動を伴い,その結果,運動発現が遅延したものと推察される。<BR> 実験2ではアフォーダンス予告により全条件でEMG-RTが延長した。運動イメージを課すことでEMG-RTが遅延した先行研究もあり(Li S,2005),本研究も同様にアフォーダンス予告がタスクの複雑性を増大させたものと考えられる。しかし,この遅延はIC群で著しく,道具画像*屈曲動作において最少であったことから,予告状況下と刺激画像*運動課題の一致がEMG-RTの遅延を軽減させうると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 環境との相互作用により生じるアフォーダンスと行為の対応性は,非意識下において特異的な認知処理を生ずることが示唆された。ゆえに,理学療法場面では患者の特性に応じて各種動作を円滑にする豊かな環境と知覚探索機会をともに提供していくことが望ましい。