著者
久保 大輔 髙木 武蔵 鈴木 智高 菅原 憲一
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
pp.JJPTF_2021-05, (Released:2022-06-21)
参考文献数
21

【目的】本研究の目的は,予測的姿勢調整を制御するために補足運動野が活動するタイミングを経頭蓋磁気刺激(Transcranial magnetic stimulation:以下,TMS)を用いて検討することである。【方法】健常成人11 名は,ビープ音に反応して上肢を挙上する課題を行った。課題中,ビープ音から0 ms,30 ms,50 ms,70 ms 後のタイミングで補足運動野へTMS を付与し,三角筋と大腿二頭筋から筋電図を記録した。【結果】三角筋の筋活動開始のタイミングから前100 ms の時間帯にTMS が補足運動野へ付与された場合,TMS のない試行と比較して大腿二頭筋の筋活動開始のタイミングが有意に遅延した。【結論】立位での上肢挙上課題において,補足運動野が活動するタイミングは三角筋の筋活動開始から前100 ms の時間帯にあると推察された。
著者
浅井 直樹 鈴木 智高 菅原 憲一
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.793-800, 2019 (Released:2019-12-21)
参考文献数
19

〔目的〕難度の異なる同種の運動課題を反復練習した前後におけるH反射の変化と運動学習の程度を検討した.〔対象と方法〕健常成人21例を運動課題に用いる不安定板の底部の形状によって高難度群と低難度群に分け,それぞれ不安定板上での平衡運動課題の練習を行った.練習前後に運動課題遂行時の目標との誤差とヒラメ筋H反射,表面筋電図を計測した.〔結果〕H反射と前脛骨筋の活動が高難度群で練習後に有意に低下した.運動課題の誤差は低難度群で練習後に有意に減少した.〔結語〕運動課題の難度が高い場合では運動学習に伴って脊髄運動神経の興奮性や筋活動が変動し,難度が低い場合これらは変動しないが運動学習の効果はより高い可能性が示唆された.
著者
髙木 武蔵 久保 大輔 鈴木 智高 菅原 憲一
出版者
日本基礎理学療法学会
雑誌
日本基礎理学療法学雑誌 (ISSN:21860742)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.107-116, 2021-03-08 (Released:2021-03-09)

The purpose of the present study was to examine the effect of changes in the trunk position on the H-wave and motor evoked potential MEP) of the tibialis posterior TP) muscle in healthy subjects, and clarify the necessity of postural control for the treatment of spastic clubfoot in stroke patients. The participants were 13 healthy people 6 men, mean age 21.6±1.3 years). The following measurements were obtained with the participants in trunk flexion or trunk extension in the sitting position. The electromyography reaction time of ankle dorsiflexion as well as the H-wave and MEP of the TP were measured. The effect of the trunk position on each measured value was determined. When the tibialis anterior TA) muscle was at 5% and 20% of the maximum voluntary contraction MVC), the H wave of the TP was significantly lower in the trunk extended position than in the trunk flexed position. There was no significant difference in the MEP during the different trunk positions at 5% and 20%MVC of the TA. However, under the condition of imaging 20%MVC of the TA, the MEP was significantly higher in the trunk extension position. It was revealed that the spinal reflex of the TP was suppressed by maintaining trunk extension. Moreover, it was suggested that excitability changes in the primary motor cortex of the TP might be involved in this process.
著者
内田 賢一 高木 峰子 鈴木 智高 川村 博文
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.G4P3234, 2010

【目的】<BR>「ハビリテーション」という言葉は,全国民にほぼ浸透していると思われるが,リハビリテーションと同程度に「理学療法士」という職名が周知されているか,と問われれば疑念の意を抱かずにはいられないのが現状ではないだろうか.理学療法士が「理学療法士及び作業療法士法」という法律で規定されている以上、国会の場でどの程度発言されているのかを調査することは,「理学療法士」が我が国においてどの程度周知されているのかを知る一つの手段になるのではないか,と考えられる。そこで今回、国会会議録を基に調査を行い、発言があった委員会名や時期などについて知見が得られたので報告する。<BR>【方法】<BR>国立国会図書館がインターネット上で提供している国会会議録データベースを基にして、昭和36年1月1日を基準日として平成20年12月31日までの57年間の国会会議録すべてを対象に、会議録中に「理学療法士」が一回でも記録されている会議録の調査検討を行った。国会の各種委員会の会議は,国会会期中毎日開催されており,1回の委員会では様々な案件が審議される.そのため,1回の委員会の中で「理学療法士」という言葉が何度記録されても,1回の委員会は1件として取り扱った.あわせて,国会図書館憲政資料室の請願資料一覧から,理学療法士に関する請願資料をすべて収集し検討した.<BR>【説明と同意】<BR>国会会議録は,国籍を問わず誰でも閲覧できる資料であり,倫理的に問題はない.<BR>【結果】<BR>57年間にわたって開催された国会各種委員会の会議録は、総計60,032件であり、そのうち「理学療法士」との記録がある会議録は377件認められた。内訳は,社会労働委員会の133件が最も多く,続いて厚生委員会が39件、厚生労働委員会が36件、予算委員会が19件、内閣委員会が18件認められた.本会議、文教委員会、予算委員会第三分科会がそれぞれ16件、決算委員会が12件、予算委員会第四分科会が9件、国民福祉委員会が7件、法務委員会、および国民生活・経済に関する調査会がそれぞれ4件であった.予算委員会第二分科会、予算委員会公聴会、文部科学委員会、国民生活に関する調査会、決算行政監視委員会はそれぞれ3件,労働委員会、予算委員会第五分科会、逓信委員会、地方行政委員会、税制問題等に関する調査特別委員会、交通安全対策特別委員会、決算行政監視委員会第三分科会でそれぞれ2件ずつ認められた.農林水産委員会、少子高齢社会に関する調査会、国際問題に関する調査会、行政監視委員会、個人情報の保護に関する特別委員会、議員運営委員会、環境特別委員会、外務委員会、科学技術振興対策特別委員会、沖縄及び北方問題に関する特別委員会で,それぞれ1件ずつ認められた。<BR>377件のほとんどが,会議録に名前が出てきた程度であり,「理学療法士」が議論として壇上に上がっていたのは,わずか44件のみであった.44件の会議は,そのほとんどが厚生省,もしくは厚生労働省管轄の会議においてであり,昭和40年代は「理学療法士及び作業療法士法」に関わる特例措置などが主な議題となっていた.当時は,全日本鍼灸按マッサージ師会の多くの会員から,国会に対して特例期間延長に関する請願が提出されていた.なお,昭和47年11月4日,日本理学療法士協会の野本卓会長は,理学療法士の養成を4年制大学で行うよう理学療法士作業療法士の国家試験受験資格の法改正の必要性を請願し,昭和49年5月7日,参議員の社会労働委員会において日本社会党の藤原道子議員から法改正案として議題にあげられたが,審議されず廃案となっていた.<BR>昭和50年代は,大学における教育など養成方法に関することが多く,特に昭和60年12月10日の参議員社会労働委員会においては理学療法士の養成過剰が議論されており,竹中浩治厚生省政策局長からは,今後は質の向上に努力したいとの発言が認められた.<BR>昭和60年代および平成に入ってからは,職域に関する議論が多く,介護保険や老人保健施設における理学療法士の役割などに関する議題が多かった.<BR>【考察】<BR>国会会議録を概観すると,その時代に即した議題が目立っていた.しかし,「理学療法士」が議論として壇上に上がったのはわずか44件しかなく,国会の場で理学療法士があまり述べられていない現状を鑑みると,診療報酬において理学療法の重要性が反映されていないことにつながっているように感じられた.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>第45回衆議院総選挙においては,比例東北ブロックから山口和之氏が初当選したことで,国会の場で理学療法士について議論されることが今後は多くなることが予想される.理学療法士が国会論戦に参加することで,議論の内容がどのように変わるのか,基礎資料となる.
著者
鈴木 智高 髙木 峰子 菅原 憲一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1125-AbPI1125, 2011

【目的】<BR> 私たちが生活する環境には様々な道具があり,日々巧みに操作され活用されている。理学療法においても,歩行補助具や自助具等に道具が用いられ,各場面において理学療法士は対象者の身体運動に応じて環境を調整し,再適応を図っている。生態心理学によれば,環境が提供するアフォーダンスと動物の知覚が相互に作用することで,行為は制御される。特にヒトの場合,進化の歴史からみても,把握・操作可能な道具は重要な位置づけにあり,ヒトにとっても握る行為は,最も基本的な運動の1つである。よって,これらは極めて高い相互関係にあると考えられる。<BR> 近年の研究により,道具に対する知覚が特異的な脳活動を生じさせ,認知処理過程にも影響を及ぼすことが報告されている。しかし,アフォーダンスと実際の行為における相互作用を明らかにしている知見は少ない。そこで本研究は,道具に対するアフォーダンス知覚と行為の対応性に着目し,その対応性が認知処理と運動発現に及ぼす影響を筋電図反応時間(以下EMG-RT)により検討した。<BR>【方法】<BR> 被験者は健常な右利きの学生22名とした。提示する刺激画像には,道具画像(右手で把握可能な道具)と,動物画像(握ることをアフォードしないであろう対照画像)の2種類を用いた。反応する運動課題は,右手指屈曲(本研究でアフォードさせる動作)と,右手指伸展(対照動作)を採用した。刺激画像と運動課題の組み合わせによって,被験者を以下の2群に分けた。Compatible群(以下C群)は,道具画像に対して手指屈曲を(刺激画像と運動課題が一致),動物画像で手指伸展を行った。逆に,Incompatible群(以下IC群)は,道具画像に対して手指伸展(不一致),動物画像で手指屈曲を行った。<BR> 実験1は通常の選択反応課題であり,予告画像(画面中央に"+")後に刺激画像として道具,動物,NO-GOがランダムに提示された。提示後速くかつ正確に運動課題を実行するように指示した。実験2では予告としてアフォーダンス画像(手すり)を提示し,刺激画像が出るまで右手による把持イメージをさせた。EMG-RT(刺激提示から筋電図出現までの時間:ms)は表面筋電図を用いて測定し,被検筋は右浅指屈筋と右総指伸筋とした。解析は,二元配置分散分析を行い,有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は,本学研究倫理審査委員会による承認後実施した。参加者には,事前に書面および口頭にて説明し,同意が得られた者を対象とした。<BR>【結果】<BR> 実験1では刺激画像と運動課題の2要因間に有意な交互作用が存在した。post hocテストの結果,道具画像*屈曲動作のEMG-RTが,動物画像*屈曲動作に比べて有意に遅かった。実験2は,実験1に類似した結果であったが,交互作用はわずかに有意水準に達しなかった。実験間の比較では,C群,IC群ともに実験2のEMG-RTが有意に遅い結果となった。この遅延は,IC群において特に顕著であった。<BR>【考察】<BR> 人工物の認識は自然物に比べて遅いと考えられるが(Borghi AM,2007),本研究の選択反応課題では刺激画像に主効果はなかった。よって,刺激同定段階の影響は少なく,道具画像*屈曲動作の遅延はその対応性によるものであり,反応選択・反応プログラミング段階に差が生じたと考えられる。動物画像に対する動作や道具画像に対する伸展動作は対応性のない無意味な行為であり,刺激同定後,機械的に運動発現に至る。このような対象を識別する視覚情報処理は腹側経路にて行われると言われている。一方,道具画像に対する屈曲動作には対応性があるため,その行為は目標指向性を帯び,視覚誘導性が強調されると考えられる。対象の空間情報や視覚誘導型の行為は背側経路によって制御される。さらに,両経路にはネットワークがあり,道具の認識において相互作用が生じると示唆されている。加えて,道具に対する頭頂葉の特異的な活動を示唆する報告もある。よって,道具の認識と対応する行為の選択には広範な神経活動を伴い,その結果,運動発現が遅延したものと推察される。<BR> 実験2ではアフォーダンス予告により全条件でEMG-RTが延長した。運動イメージを課すことでEMG-RTが遅延した先行研究もあり(Li S,2005),本研究も同様にアフォーダンス予告がタスクの複雑性を増大させたものと考えられる。しかし,この遅延はIC群で著しく,道具画像*屈曲動作において最少であったことから,予告状況下と刺激画像*運動課題の一致がEMG-RTの遅延を軽減させうると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 環境との相互作用により生じるアフォーダンスと行為の対応性は,非意識下において特異的な認知処理を生ずることが示唆された。ゆえに,理学療法場面では患者の特性に応じて各種動作を円滑にする豊かな環境と知覚探索機会をともに提供していくことが望ましい。