著者
髙橋 稔
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.106-113, 2018-10-31 (Released:2020-01-05)
参考文献数
21

臨床心理学の分野では,心理学的技法の効果を検証するために,しばしば一般にみられる虫や動物などの恐怖経験を対象としてアナログ研究を重ねてきた。本研究は,虫に対する自己評価式の恐怖経験評価尺度(以下,虫恐怖尺度)を作成し,信頼性と妥当性を確認することを目的とした。新たに作成した33項目からなる虫恐怖尺度を配布し,336名を分析対象とした。探索的因子分析および確認的因子分析の結果,虫恐怖尺度は11項目,1因子構造となった。虫恐怖尺度は内的整合性が高く,再検査信頼性も高かった(r=.88)。虫恐怖尺度とFQ-虫との相関はr=.67 であり,虫恐怖尺度とFQ-16(広場恐怖,血液・外傷恐怖,社会恐怖)との間ではr=.24~.34であった。また虫恐怖尺度とPRS-虫との間には有意な正の相関が確認された(r=.66~.72)が,PRS-小動物との間では有意な相関は確認されなかった(r=.19~.26)。本研究結果から,虫恐怖尺度は信頼性と妥当性を備えた尺度であることが示された。しかし,臨床群への応用については課題が残された。
著者
大村 美菜子 髙橋 稔
出版者
容装心理学研究編集委員会
雑誌
容装心理学研究 (ISSN:24363367)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.13-19, 2022 (Released:2022-05-02)

産後女性のストレス要因の中で「容姿の変化」は大きく,本研究では産後の化粧行為に焦点を当てた。本研究では,産後の化粧行為の実態について把握することを第一の目的,化粧行為とメンタルヘルスとの関係について把握することを第二の目的とした。産後の出産という大きなライフイベントを迎えた産後女性を対象に,化粧行為とメンタルヘルスとの関連について検討した。調査対象者は,20~40代の産後1年以内の経産婦206名であった。結果としては,化粧行為にかける時間は産前と比較して産後は減少し,化粧行為の内容についても産後は簡易化していることが確認された。また,産後において化粧行為による満足が自己肯定感を高め,それによって気分の落ち込みが低下することが明らかになった。
著者
髙橋 稔
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.183-192, 2016-05-31 (Released:2019-04-27)
参考文献数
14
被引用文献数
2

本論文では、慢性腎疾患を患っていたクライエントに対して、うつ症状の再発予防を目的とし、アクセプタンス&コミットメント・セラピー (ACT)に基づき介入を行った症例を報告した。ケースフォーミュレーションの結果、クライエントには価値の明確化が不十分であり、体験の回避や認知的フュージョンが見られた。またクライエントは、ACTへの動機づけが高く、治療者との関係のなかでプライアンスを強めてしまうことも予測された。面接はセルフヘルプのマニュアルに従い、クライエントの日常生活での出来事を取り上げながら進めた。面接の途中、大きな体調の変化に見舞われたが、気分や感情の変化も大きくなく、それまでとは異なるような人間関係も報告された。また、面接経過を経て、AAQ-IIも徐々に高くなり、BDI-IIは低く安定し、STAIも低くなった。以上の結果を踏まえ、クライエントの理解と介入の特徴をACTの視点から検討した。
著者
髙橋 稔 武藤 崇
出版者
広島国際大学心理臨床センター
雑誌
広島国際大学心理臨床センター紀要 (ISSN:13482092)
巻号頁・発行日
no.3, pp.40-47, 2005-03-10

lronic Process Theoryは,思考を意図的に統制しようとするとむしろ逆の効果をもたらされるという現象を説明している。睡眠障者や不眠についてもこの現象が注目され,入眠時の思考統制について検討されはじめた。本研究では,入眠時に浮かぶ思考に対してどのような対処を行っているか調べるために, Harvey (2001)のTCQ-Iにより調査を行った。対象は大学生157名とした。因子分析の結果,思考妨害,思考の再評価,否定的な自己焦点化の3因子が関与していることが明らかになった。さらに,各因子で因子得点を基準に低得点群と高得点群を抽出し,睡眠の諸様相の違いについて検討した。否定的な自己焦点化では,高得点群は低得点群と比較して睡眠の質が低いこと,思考妨害,思考の再評価については,睡眠の質や睡眠リズムに関係がないことが示された。これらの結果から,臨床への応用可能性と今後の課題について討論した。