著者
井上 まり子 錦谷 まりこ 鶴ヶ野 しのぶ 矢野 栄二
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.117-139, 2011 (Released:2011-08-04)
参考文献数
110
被引用文献数
14 18

非正規雇用者の健康に関する文献調査:井上まり子ほか.帝京大学大学院公衆衛生学研究科―目的:非正規雇用者の健康に関する原著論文を収集して整理し,その内容を概観することを目的とした. 方法:非正規雇用に関連するキーワードをもとに,米国国立医学図書館のMEDLINEと医学中央雑誌刊行会の医中誌webで検索して文献を入手した.各文献を研究方法,調査データの種類,標本規模,調査国,結果となる健康指標,非正規雇用の定義,主な研究結果について整理して分析した. 結果:条件に該当したのは英語論文68編であった.これらの論文を結果指標である労働災害,身体的健康,精神的健康,代替的健康指標の4種類に分け,研究デザイン(コホート研究,症例対照研究,横断研究)別に概観した.非正規雇用者の健康状態が正規雇用者と比べて悪かったのは,一部の労働災害による傷病と身体的健康における死亡率であった.精神的健康ではGeneral Health Questionnaire等の指標を用いた研究で,概して非正規雇用で健康状態が不良であると結論づけた研究が多くみられた.そのほかの代替的健康指標として,医療へのアクセスについても非正規雇用で限りがあるという傾向や,非正規雇用者では正規雇用者と比べて病気による休職や欠勤が少ないという傾向が認められた. 考察:非正規雇用者で正規雇用者より健康状態が悪い場合が,複数の研究から示された.不安定な雇用契約や,しばしば変化する職場環境下で働かざるをえない非正規雇用者の負の側面が,健康に影響を及ぼす可能性がある.一方,正規雇用者の健康度が悪いと結論づける研究もあり,雇用形態が多様化する社会においては雇用形態を問わず健康度が悪化する可能性がある. (産衛誌2011; 53: 117-139)
著者
鶴ヶ野 しのぶ 井上 まり子 中坪 直樹 大井 洋 矢野 栄二
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.15-18, 2009 (Released:2009-04-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

年越し派遣村村民の健康:鶴ヶ野しのぶほか.帝京大学医学部衛生学公衆衛生学―わが国では雇用の流動化が進行している.2008年からの世界的不況により,2009年には派遣労働者をはじめとする非正規雇用者の大量解雇が予測されている.海外の先行研究では,不安定な雇用形態そのものが健康に影響する可能性が示唆されている.2008年の年末,職と住まいを失った労働者の緊急の避難所として「年越し派遣村」が東京に設営された.我々は2009年1月8~10日に東京都福祉保健局が行った健康相談及び健康診断に参加したが,そこでみられた村民の健康状況について報告する.健康相談に訪れた村民は89名であった(平均年齢48歳).身体症状としては多い順に,呼吸器症状(咳43%,痰36%),微熱(16.9%),筋骨格系症状(13.5%),皮膚症状(5.6%),消化器症状(3.4%),神経症状(3.4%)その他で,不安や不眠などの精神症状(10.1%)もみられた.個別の相談では,自覚症状があっても医療機関の受診が困難であったり治療が中断されているケースが多かった.また,1年以内に健康診断を受診した村民は23.8%(84名中)にとどまっていた.非正規雇用者の健康問題については十分認識されていないが,注目していく必要がある. (産衛誌2009; 51: 15-18)