著者
饗場 郁子 松下 剛 齋藤 由扶子 沼崎 ゆき江 河合 多喜子 楯 澄子 伊藤 信二 松岡 幸彦
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.177-180, 2003-03-20 (Released:2011-10-07)
参考文献数
7

今回われわれは,入院中の進行性核上性麻痺(progressive supranuclearpalsy:PSP)患者の転倒・転落について調査し, パーキンソン病(Parkinson disease:PD)患者と比較検討した. 対象は平成13年9月1日から10月31日の2ケ月間に国立療養所東名古屋病院へ入院していたPSP14名およびPD(Yahr stageIII以上, 痴呆の合併なし)11名. 転倒・転落した患者の割合はPSP 50%, PD 45%であった. 一人当りの転倒・転落回数はPSPでは平均3.2回/月, PDでは0.7回/月であり, PSPではPDに比べて頻度が高かった. またPSPでは転倒・転落時, 21%に外傷をともなっていた. PSPでは, 歩行可能なレベルだけでなく, ADLが悪化し臥床状態になっても転倒・転落が生じており, 転倒・転落はPSPを介護する上で長期にわたり大きな問題となっていた. PSPにおける転倒・転落原因は単に姿勢反射障害のみならず, 前頭葉性痴呆症状が強く関与していると考えられ, 医療者の注意, 指導にかかわらず突発的な行動をおこして転倒・転落にいたる場合が多い, 以上よりPSPにおいて転倒・転落を防ぐことはきわめて困難であり, 転倒・転落時の受傷を予防・軽減するための対策が必要である.
著者
犬飼 晃 片山 泰司 見城 昌邦 横川 ゆき 饗場 郁子 齋藤 由扶子
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.634-640, 2010 (Released:2010-10-04)
参考文献数
30
被引用文献数
5 10

症例は55歳の女性である.皮疹なく右C2,3皮膚分節の異常感覚で発症し,症状は,約3週間で右C2~C6領域まで拡大した.触覚,痛覚の鈍麻あり.頸髄MRIでC2レベル髄内にT1WIで等信号,T2WIで高信号,ガドリニウム(Gd)で増強される病巣をみとめた.脳脊髄液では水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の抗体価指数が高値で髄腔内抗体産生が示唆され,皮疹を欠くVZV神経障害(zoster sine herpete:ZSH)にともなう脊髄炎と病因診断した.抗ウイルス療法と抗炎症・浮腫療法で後遺症を残さず治癒した.ZSHにともなう脊髄炎では,脳脊髄液中抗体価指数による髄腔内抗体産生の評価が病因確定に有用であった.
著者
饗場 郁子 齋藤 由扶子 松岡 幸彦
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.467-470, 2005-09-20 (Released:2011-10-07)
参考文献数
16

進行性核上性麻痺は, 1996年に国際的な臨床診断基準が提唱され, 本邦ではパーキンソン病関連疾患として, 2003年から大脳皮質基底核変性症とともに厚生労働省特定疾患治療研究事業(特定疾患)に加えられることとなった. パーキンソニズムを呈する神経変性疾患であるが, 進行が速く, 臨床症候もパーキンソン病とは異なる部分が多い. その臨床特徴は, 初期からみられる易転倒性, 垂直性核上性注視麻痺, 体幹部や頚部に強い固縮, 前頭葉徴候・前頭葉性の認知障害, 進行性の言語障害・嚥下障害などである.
著者
齋藤 由扶子 坂井 研一 小長谷 正明
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.152-157, 2016-04-25 (Released:2016-05-31)
参考文献数
10
被引用文献数
1

目的:かつてスモン(SMON:subacute myelo-optico-neuropathy)患者には認知症は少ないと言われ,原因の一つにキノホルムのアミロイドβ凝集阻害効果が推測された.一方キノホルム中止後40年以上が経過し,スモン患者は高齢化し老年症候群である認知症の増加が予想された.そこでスモン後遺症をもつ高齢者の認知症の有病率,および現在のアルツハイマー病(以下ADと略す)発症に過去のキノホルム内服量が影響しているかを調査した.方法:対象は2012年スモン検診において,MMSEを解析しえた647例(男性195例,女性452例,平均年齢77.9歳)である.1次調査(MMSE)の結果23点以下は105例であった.2次調査:105例の認知症の有無と背景疾患を,検診を行った神経内科医あるいはかかりつけ医に質問した.次に検診のデータベースを用い「最も重度であった時のスモン症候の重症度」と現時点のAD合併との関連を解析した.結果:認知症の有病率の推定値は9.9%(95%信頼区間:7.3,12.7%),65歳以上に限定すると10.9%(7.9,13.8%)であった.認知症35例のうちADは25例,ADと血管性認知症の合併は4例であった.AD合併と過去に最も重度であった時のスモンの重症度との関連性は,視力障害,歩行障害のいずれにおいても認められなかった.結論:2012年スモン検診受診患者における認知症の有病率は9.9%(65歳以上では10.9%)で65歳以上地域住民(15%)に比べて低値であった.しかし本研究では,対象が検診患者のみでスモン全体を反映せず過小評価の可能性がある.従ってキノホルムのAD発症予防効果は言及できない.キノホルム量はスモンの重症度と関連するため,現時点のAD合併は過去に内服したキノホルム量と関連はないと推察した.