著者
豊田 有 石垣 竜 嶌村 泰人 河合 よーたり 長屋 良典 丸橋 珠樹 MALAIVIJITNOND Suchinda
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.81-85, 2019 (Released:2020-02-14)
参考文献数
13

The stump-tailed macaque, Macaca arctoides, is the most distinctive in its genus with respect to reproductive anatomy and sexual behavior. Male-male mounting behaviors have been mentioned in many reports; however, ejaculation has not yet been recorded. Herein, we report a very rare case of ejaculation in the context of male-male mounting in wild stump-tailed macaques in Khao Krapuk Khao Taomor Non-hunting Area, Thailand. The behavior was observed during documentary filming of the animals. Daily observations were conducted for 28 days from July 4th to 31st, 2018, from 8 am to 6 pm. This rare behavior was documented on July 12th, while following and filming the Wngklm group. A young male of this group, WKM-M33, and a young male of another group (Fourth group), FTH-M33, started mounting. Initially, this mounting seemed to be social interaction in the context of a group encounter. However, after a thrust of a few seconds, the mounter, WKM-M33, exhibited ejaculated-like behavior. The mountee, FTH-M33, exhibited teeth-chattering behavior and touched the mounter's genital area. After completion of the mounting, whitish semen dropped to the ground and was eaten by WKM-M33. Then, WKM-M33 squeezed out sperm from the erect penis and ate it. We were therefore convinced that the mounter, WKM-M33, had ejaculated at the time of mounting. Although it is dificult to draw a definitive conclusion because it is a single case report, we propose two possible interpretations: 1) accidental case owing to extreme tension from group encounters during social interaction or 2) homosexual behavior between males with little access to females.
著者
小川 秀司 CHALISE Mukesh K. MALAIVIJITNOND Suchinda KOIRALA Sabina 濱田 穣
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第33回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.66-67, 2017-07-01 (Released:2017-10-12)

マカク属における社会行動の進化を考察するために,アッサムモンキー(Macaca assamensis)とチベットモンキー(Macaca thibetana)のブリッジング行動や他の親和的社会行動の種類や頻度を比較した。アッサムモンキーは(1)タイのチェンライにあるTham Pla寺院(北緯20°20′,東経99°51′,高度843m)で2009~2012年にと,(2)ネパールのカトマンドゥー近郊のShivapuri-Nagarjun国立公園西部のNagarjun地域(北緯27°44′,東経85°17′,高度1300~2100m)で2014~2015年に,チベットモンキーは中国安徽省の黄山(北緯30°29′′,東経118°11′,高度700~800m)で1991~1992年に,餌づけされた複雄複雌郡内の数頭のオトナオスとオトナメスを交尾季と出産季にそれぞれ各10時間個体追跡した。ブリッジング行動は,チベットモンキーと(1)タイのアッサムモンキーにおいて観察されたが,(2)ネパールのアッサムモンキーにおいては観察されなかった。(ブリッジング行動とは,2頭のオトナが一緒にコドモを抱き上げる行動であり,その際オトナは抱き上げたコドモの性器をしばしば舐めたり触ったりする。コドモを抱いているオトナに別のオトナが近づいていって行われる場合と,あるオトナが抱いたコドモを別のオトナに運んでいって行われる場合がある。)また,オトナオス間のペニスサッキング行動は,チベットモンキーにおいて観察されたが,(1)と(2)両国のアッサムモンキーにおいては観察されなかった。アッサムモンキーとチベットモンキーが含まれるマカク属のシニカ種群においては,まずアッサムモンキーのうちの東の分布域に生息する個体群においてブリッジング行動が生じ,そこから分岐していったチベットモンキーにおいてはさらにオトナオス間のペニスサッキング行動が加わったと考えることが可能であろう。
著者
豊田 有 丸橋 珠樹 Malaivijitnond Suchinda 香田 啓貴
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第35回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.32, 2019-07-01 (Released:2020-03-21)

音声には様々な機能があるが,その一つに発声個体の性的な魅力などの性質を他個体に「正直に」伝達する信号としての機能がある。特に発声個体の体の大きさは,音声の共鳴特性に反映されやすいため,繁殖競合条件下において同性競合者への威圧あるいは潜在的な繁殖相手への宣伝のために音声が用いられることがある。霊長類においても音声が性選択を受けて特殊化・複雑化したと推察される例はホエザルやテングザル,テナガザルなど種々の報告がある。こうした音声の中で,特に交尾の前後の文脈で生じる「交尾音声(CopulationCall)」として記載される音声は,社会構造のなかで機能する性戦略の一つとして重要である。本発表では,ベニガオザルのオスが射精時に発する交尾音声を分析した結果から,この音声の機能や進化的背景を他種との比較を通じで議論する。タイ王国に生息する野生のベニガオザル5群を対象とした18か月の調査によって得られた383例の交尾の映像データを分析に用いた。交尾オスの個体名と社会的順位および交尾音声の有無を分析した結果,交尾オスの順位が高いほど交尾音声の発声頻度は高く,低順位オスでは低かった。一方で,交尾音声が確認された映像から交尾音声446バウトを抽出し,音響分析をおこなった結果,交尾音声の区切り数,発声継続時間,共鳴周波数の分析から得られた体重推定値はいずれも順位に依存した効果は認められなかった。とりわけ,体サイズを反映する共鳴周波数と順位との関連性が認められないことから,音声情報を介したメスからの選択が難しいことが推察された。これらの結果から,ベニガオザルのオスにおける交尾音声は,高順位オスしか発声しない「順位依存的な」音声であり,繁殖相手であるメスに対する宣伝より,発すること自体が周辺の競合オスに対する権力誇示音声であると示唆される。
著者
丸橋 珠樹 岡崎 祥子 小川 秀司 Nilpaung Warayut 浜田 穣 Malaivijitnond Suchinda
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

2007年12月5日から2008年2月10日までの乾季66日間、158時間の観察時間のデータから、樹上活動時間割合は3%で、ほとんどすべての時間を地上で過ごし、移動は地上移動である。採食部位別時間構成は、果実50%、葉25%、種子24%である。昆虫食は頻繁にみられる。なお、石をひっくり返してカタツムリを採食しようとする行動がみられるが、実際に採食したのは観察158時間で4回に過ぎなかった。また、カエル(未同定)採食も1度観察され、内臓の一部を食べて遺棄した。<br> このような採食生態をもっているベニガオザルの、ウサギの捕獲、肉食が観察された。ウサギ捕食あるいは試みの3例の事例を報告する。2008年1月9日に、何か振り回して捨てていった所に近づいたところ、背中の皮を剥がれたウサギが残され、ウサギは飛び跳ねて森へ逃げていった(丸橋)。2011年10月14日、5歳雄のウサギ捕獲・肉食のVIDEO撮影に成功した(岡崎)。また、2011年12月29日にオトナ雌のウサギ肉食が観察され短時間のVIDEO撮影に成功した(小川)。<br> ベニガオザルのウサギ肉食行動観察の特徴として以下の点を指摘できる。1)肉食対象種はビルマノウサギ (<i>Lepus peguensis</i>) Blyth. 1855 (from Mammals of Thailand) である。2)ウサギが生きている状態で肉食が始まり、つまり捕獲し、その時点でウサギは断末魔の悲鳴を上げていた。3)ウサギの大部分、内臓も含めて消費され、観察時間内では、毛皮は食べられなかった。4)捕獲した個体がだけが継続して、移動しながら肉食し、最低7分半は継続していた。5)他個体の近接や近接個体の追随は見られるが、他の優位個体による奪取や残渣の拾い食いなどは見られなかった。議論では、同じ程度の大きさであるロリスとベニガオザルとの異種間行動についても報告し、反撃を行うロリス<i>Nycticebus coucang</i> (from Mammals of Thailand) では捕食にいたらなかった事例観察(丸橋)との比較を行う。<br> ベニガオザルにとって、ウサギ肉食行動は頻度が低い行動であると考えられ、群のなかで肉食経験のある個体は少なく、食物としての共有認識は低いと考えられ、その影響は個体間での競争や追随はほとんどみられなかったことにも現れている。
著者
豊田 有 丸橋 珠樹 濱田 穣 MALAIVIJITNOND Suchinda
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第33回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.52, 2017-07-01 (Released:2017-10-12)

Food transfer is defined as the unresisted transfer of food from one food-motivated individual, the “possessor”, to another, the “recipient” (Feistner & McGrew 1989). This behavior has been described in different terms, including sharing, scrounging, and tolerbated theft, and it is usually accompanied by diverse behaviors such as begging, displacement of feeding spot, resistance of possessor, stealing, offering, and retrieving (Yamagiwa et al., 2015). Food transfer is mainly reported from apes, however, very few from genus macaca. Here we preliminary report food transfer behavior observed in stump-tailed macaques (Macaca arctoides) in Khao Krapuk Khao Taomor Non Hunting Area, Thailand. In this report, “Retrieving” - an individual takes food that another individual has dropped on the ground or placed there - is regarded as food transfer (see Yamagiwa et al., 2015). The aspect of transfer is different by the food item; transfer was more frequently occurred when they are eating food item that is not abundant and rare, or need to pay risk to obtain. Food transfer is often observed when monkeys are eating big food items which produce the food particles during eating. On the other hand, small food items or all-eatable food items are rarely transferred. Plant food transfer was observed not only among adults but also from adult to immature including transfer from mother to infant. Social interaction which can be interpreted as “Begging behavior” like presenting and greeting was also observed before food transfer occurred.