著者
緑川 信之
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.117-128, 1997-09

ファセット概念には, 多次元構造におけるファセット慨念と階層構造におけるファセット慨念の2つが使われている。どちらも区分原理に対応するものであるという点では共通している。しかし, 多次元構造におけるファセット概念は, ひとつの主題を多面的にとらえるために用いられる。そのため, 区分原理なら何でもよいのではなく, 広い区分原理あるいは基本的な区分原理である方が, この多面的にとらえるという役割に適している。それに対して, 階層構造における区分原理は, ひとつの主題を多面的にとらえるという役割はなく, 一群のまとまりをもった項目という意味しかない。そのため, 階層構造におけるファセット慨念は区分原理と区別がつかない。あえてファセット概念を階層構造に導入する意義はないように思われる。
著者
若松 昭子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.1-16, 1998-03-30

バトラーの図書館学の基礎を築いたといわれるニューベリー図書館時代に焦点を当て, ウイング財団の印刷史コレクションの形成過程を考察した。その結果, 彼が, 人文学的かつ学術的な印刷史コレクションの形成をめざし, 積極的な収集活動によって質の高いインクナブラを収集したことが明らかになった。彼が収集対象をインクナブラに絞った理由は, それらが歴史的, 学術的, 芸術的に優れているという判断によるものである。また成功の誘因として, 彼の学識, 充実発展期における同図書館の支援体制, 第一次大戦後のインクナブラ収集の好機という特殊な時代状況があったことも分かった。バトラーの収集方針と収集過程には, 印刷史の出発期を文化史の重要な時期と位置づけていた彼の書物観がうかがえる。
著者
薬袋 秀樹
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.145-160, 1997-12-30

現在, 地方分権推進委員会は, 地方分権, 規制緩和の観点から, 地方自治体における様々な専門職員の必置規制の廃止や見直しを勧告している。国から補助金を受ける公立図書館には, 館長が司書資格を持つこと, 一定人数の司書及び司書補を配置することが義務づけられているが, この2点の廃止が勧告されている。本稿では, 必置規制の定義, 評価, 成立条件を明らがにし, 現在の司書の制度がその成立条件を満たしているかどうかを検討した。その結果, 次の4点が明らかになった。(1) 地方では司書の養成・資格取得の機会が不十分である。(2) 司書資格の学歴要件と取得方法が柔軟性に欠ける。(3) 司書の配置は小規模自治体にも義務づけられている。(4) 司書の力量の客観的評価は行われておらず, 教育内容が不明確である。これらをもとに, 司書資格の取得方法, 司書の力量の評価, 図書館学教育, 司書の人事管理等について,そのあり方を論じた。
著者
大庭 一郎
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.111-127, 1998-12-30

「司書および司書補の職務内容」(以下,「職務内容」と略す)は, 1950年9月に, 文部省が文部事務次官通牒(文社施第370号)として通達した文書で, 図書館の専門的職員としての司書と司書補の職務内容を示している。本稿の目的は,「職務内容」の成立過程, 内容, 基本的性格を明らかにすることである。そのため,「職務内容」と関連文献の計39点を収集・分析し, 更に,「職務内容」の成立事情に詳しい3人の方にインタビューを行なった。その結果, 以下のことが明らかになった。1)「職務内容」の主な目的は, (1)新しく養成する司書と司書補の職務内容を明らかにし, 養成内容(教育教科)を明確化すること, (2)図書館に勤務する現職者に対する暫定資格付与の判断基準を提示することである。2)「職務内容」は, 図書館の専門的職員である司書と司書補の職務内容を明示したものである。3)「職務内容」に示された司書補の職務は, 米国の公共図書館における非専門的職務に対応している。4)「職務内容」は, 実質的には職務区分表である。5)司書補は, 専門的職員として位置づけられているが, 専門的職務と非専門的職務を担当するように考えられている。
著者
大城 善盛 鍛治 宏介
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.103-116, 1997-09-30

1997年4月現在で136を越えるインターネットOPACを, Web版OPACとtelnet版OPACに分け, 検索システム, 検索対象フィールド, 検索結果表示画面, 利用者支援機能等を遠隔利用者の立揚から調査し分析した。その結果, この2, 3年の間にWeb版OPACが急速に普及し, 数の上ではtelnet版OPACを追い越していることが分かった。また, Web版OPACおよびtelnet版OPACとも従来のOPACに比べて使いやすくはなっているものの, 主題検索機能や利用者支援機能等においてまだまだ課題を抱えていることが分かった。
著者
渡辺 智山
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.19-37, 1997-03
被引用文献数
1

本稿はCarol C. Kuhlthauによる研究のレビューである。彼女は, およそ10年間, 図書館利用者の情報探索過程を追跡調査し,「知(思考)」「情(感情)」「動(行動)」の三要素から成る情報探索過程モデル (Information Search Process Model : 以下は「ISPモデル」と表記する) を構築した。このモデルは, 利用者研究にとって新たな観点を生み出したという点で評価されるべきモデルであるが, 問題解決過程という領域の狭さ,「情(感情)」の捉え方, モデルを構築するにあたってとられた調査方法など, 多くの間題点を指摘することができる。結果として以下の点が明らかになった。それは「ISPモデル」を一般化していくためには, 異なる観点によって再構築され, 図書館という枠組みに囚われることなく他の領域で検証されなければならないこと, である。この間題を克服した時, 新たに「情報」探索過程のモデルが生まれることになる。
著者
村上 泰子 大城 善盛 生嶋 圭子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.17-31, 1998-03
被引用文献数
1

本稿は, 小規模大学の図書館で実施されているグループ(学生)を対象とした, 利用者教育の実態調査報告である。過去2年にわたって規模別に実施してきた一連の調査のしめくくりにあたる。これまで同様アンケート調査法を採用し, オリエンテーションとそれ以外の利用指導に二分し, それらの指導内容, 方法, 規模, PRの方法等ついて調査した。結果は268館中105館が図書館独自のオリエンテーションを実施し, 132館がオリエンテーション以外の利用指導を実施していた。大規模大学, 中規模大学の調査結果との比較により, 小規模大学の特徴として次の2点が明らかになった。ひとつは図書館ツアーの実施率が高いことであり, もうひとつはオリエンテーション以外の利用指導で, 中規模大学に見られたオリエンテーションのレベルと専門的指導のレベルとの両極化傾向が見られなかったことである。この他, 国公立と私立, 関東と関西, 首都圏および京阪神地区とその他, 医歯薬系とその他の比較も試みた。