著者
若松 昭子
出版者
聖学院大学
雑誌
聖学院大学論叢 (ISSN:09152539)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.173-188, 2014

本研究では,ボーモン夫人の「美女と野獣」に描かれた読書の姿を通して,18世紀フランスの読書観の輪郭を探った。その結果,以下の事柄が明らかになった。ボーモン夫人は子どもたちに向けて創った教訓的物語のなかに,単純だが強力な読書啓発のメッセージを込めた。「美女と野獣」はその代表例であった。一方,彼女は書物を自分の体面保持に利用する人々や,有害な読書習慣が身に付いた小説読者を風刺的に描いた。それらの表現の中に,読書の理想形を子どもたちに示そうとしたボーモン夫人の意図を読み取ることができた。それは,新しい教育を模索する同時代の人々の読書観を代弁し牽引したものと思われる。
著者
若松 昭子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.143-158, 2001-04-30

ピアス・バトラーがニューペリー図書館の印刷史コレクション構築の中で最も力を注いだのはインクナブラの収集である。本稿では, 当該コレクションを通してバトラーが提示しようとした観点を明らかにするために, ニューペリー図書館のインクナプラ目録およびインクナブラ展示会目録の分析を通してコレクションの内容を検討した。コレクションにはインクナプラに用いられた活字体の変遷や, 書物が写本から標題紙等の機能を備えた近代的な形態へと発展する様子が示されていた。即ち, バトラーは当時発展期にあった分析書誌学の研究成果を採用することにより, 印刷術の歴史地理的な伝播過程, および書物の形成過程という二つの歴史を具現化しようとしていたことが見て取れた。さらに, インクナブラの時代を学問の発展期として位置づけようとしていたこともうかがえた。
著者
若松 昭子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
図書館学会年報 (ISSN:00409650)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.1-16, 1998-03-30

バトラーの図書館学の基礎を築いたといわれるニューベリー図書館時代に焦点を当て, ウイング財団の印刷史コレクションの形成過程を考察した。その結果, 彼が, 人文学的かつ学術的な印刷史コレクションの形成をめざし, 積極的な収集活動によって質の高いインクナブラを収集したことが明らかになった。彼が収集対象をインクナブラに絞った理由は, それらが歴史的, 学術的, 芸術的に優れているという判断によるものである。また成功の誘因として, 彼の学識, 充実発展期における同図書館の支援体制, 第一次大戦後のインクナブラ収集の好機という特殊な時代状況があったことも分かった。バトラーの収集方針と収集過程には, 印刷史の出発期を文化史の重要な時期と位置づけていた彼の書物観がうかがえる。
著者
若松 昭子
出版者
聖学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

アメリカの図書館学者ピアス・バトラーについての研究は、従来、シカゴ大学時代の彼の著作を中心に考察されてきた。本研究では、バトラーの書誌学者としての実践にも注目しその意義を考慮しつつ、彼の図書館学をメディア論の観点から再考した。バトラー図書館学の具体的・実証的な裏づけのために、シカゴ・ニューベリー図書館において彼が構築したインクナブラコレクションを分析した。その結果、バトラーが収集した当該館のインクナブラは、15世紀ヨーロッパにおける印刷術の出現と普及、ならびに近代的書物の形成過程を示す代表例であったことがわかった。即ち、バトラーは、15世紀後半のヨーロッパの様々な印刷所の代表的図書を集めるとともに、活字体の変遷を示す様々な活字の実例、あるいは標題紙、ページ付け、目次、索引などの印刷本特有の機能の発展段階を示す実例などを優先的に収集し、体系的コレクションを構築した。また、バトラーは印刷術発明と普及の影響を、書物形態の変化という分析書誌学的な興味からばかりではなく、多様な思想の表現、近代科学の発展、学術出版の広がり、著作者の権利意識の高揚、母国語出版物の普及による言語の標準化、等々の社会的・文化的な変化としてより広範な視野から捉えようとしたことがわかった。バトラーの図書館学の基礎にあるこの書物観は、20世紀後半のメディア論、つまり印刷術発明の社会的・文化的な影響を人間精神や社会構造の変化として解明しようとする視点と共通する。バトラーによる書物の社会史的な論考は、今日の研究と較べると論証性や実証性に不十分さが見られるものの、書物を社会史との関わりで捉え、印刷術の発明をメディアコミュニケーション革命として位置づけようとした今日のメディア研究と同様の視座を持つ、先駆的存在と位置づけることができる。
著者
若松 昭子
出版者
聖学院大学
雑誌
聖学院大学論叢 (ISSN:09152539)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.325-338, 2006-03-27

One of the influences of printing, invented in the middle of the 15th century, is the modernization of the book. In the history of printing, the most significant change was the appearance of the title-page which made clear who was responsible for writing the book and brought about the right of authorship. The appearance of the title-page and its process development in the latter half of the 15th century are studied through examination of the incunabula of the Newberry Library.