著者
秋山 優子 大熊 志保 平石 剛宏 金子 博行 林 孝雄 溝田 淳
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.119-122, 2012

片眼視力障害者の視力不良性外斜視に対し、手術を施行することはよく行われるが、両眼の失明者に対して手術が施行された症例の報告は、我々が調べ得た限りではみられなかった。今回両眼失明者の外斜視(外転偏位眼)に対して手術を行い、患者の精神的なQOL(quality of life)が向上した1例を経験したので報告する。<BR> 症例は61歳男性。ベーチェット病による続発性緑内障にて両眼失明。左眼は失明後に有痛性眼球癆となり、眼球摘出後に義眼を装着している。今回、残存している右眼が徐々に外転位に偏位し始め、他人からの指摘が気になったため、本人の強い希望にて眼位矯正手術を施行した。術後眼位は良好となり、患者本人の精神的な負担がなくなりQOLの向上に繋がった。<BR> 結論として失明眼による外転偏位眼に対しても、本人の希望があれば患者のQOL向上のため、今回のような手術を行うことは有用であると思われた。
著者
國松 志保
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.17-19, 2013

眼科診療では、眼科医と視能訓練士との共同作業である。よりよい診療のためには、自分の検査・診断結果が、どのように患者の日常生活と関わっているのか、興味をもつことも、時には必要である。<BR> 緑内障患者の場合は、初期のみならず、視野障害の進行した後期から末期であっても、自覚症状がないことが多い。日常臨床の場で、「おかわりないですか?」「はい、かわりはありません」・・このような会話が、数多く繰り返されているのではないかと思う。しかし、本当に「おかわり」ないのだろうか?新しい薬剤や手術デバイスが登場し、画像解析の発展によりさまざまな新知見の得られている緑内障の分野だが、日常生活との関連については、今なお、不明瞭な点が多い。<BR> 本講演では、緑内障患者の「眼圧」・「視野」と日常生活との関連に注目したい。まず、「眼圧」については、「コーヒーを飲むと眼圧は上がる?」「運動すると眼圧は下がる?」等について、実際には、どのような研究が行われ、どこまで分かって、何が分かっていないのか、わかりやすく紹介したい。次に、「視野」については、視野欠損が読書に与える影響について考える。さらに、緑内障が悪化してしまった場合に、公共の交通網の乏しい地方では避けられない自動車運転の問題について、後期緑内障患者(両眼ともハンフリー視野中心24-2プログラムにてMean Deviation<-12dB)の自動車運転実態調査の結果を紹介する。また、本田技研工業の協力のもと開発した、緑内障患者用ドライビングシミュレータ(HondaセイフティーナビGlaucoma Edition)を用いた最新の研究成果についてもお話したいと思う。
著者
野矢 正 山中 忍
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.87-90, 2004-07-31 (Released:2009-10-29)
参考文献数
3

オートレフラクトメータには、両眼開放タイプと内部視標タイプがある。両種のオートレフラクトメータと自覚的屈折検査を比較して調べたので報告する。対象は、当院へ来院した患者43名の85眼で、年齢は6歳から78歳であった。両眼開放タイプとしてGRANDSEIKO-WR5100Kまたは、SHIN-NIPPON Nvision-K5001を、内部視標タイプとしてNIDEK AR-600Aまたは、NIDEK AR-1100を使用した。検査結果の球面値(S)および乱視度(C)を集計した平均値と標準偏差は、内部視標タイプS-3.515D±2.842D C-0.923±0.692D,両眼開放タイプS-3.132D±2.570D C-1047±0.753D,自覚的屈折検査S-2.869D±2.631D C-0.601±0.635D,であった。自覚的屈折検査に比較して、内部視標オートレフが球面値及び等価球面値で有意(t検定危険率5%)に近視傾向を示した。このことは、両眼開放オートレフの方が自覚的屈折検査により近い値であることを示唆している。眼鏡処方の時に両眼開放の自覚的屈折検査を行っている。一方、他覚的屈折検査にあっても両眼開放オートレフが自覚的検査に近い等価球面値であり、内部視標オートレフの値から自覚的屈折検査を始めるよりも有効であろうと思われた。球面値、乱視度、軸の全てが自覚的屈折検査と合致する例は皆無であり、自覚的屈折検査の重要性を再認識した。
著者
金谷 まり子
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.47-60, 2010 (Released:2011-03-28)
参考文献数
47
被引用文献数
1 1

多くの顔を持つと言われる間歇性外斜視の治療は古くて新しい問題である。 運動面では、せっかく手術をしても、術前、術後の視能矯正的管理がきちんと行われていなければ、多くの症例に戻りが見られ、手術を繰り返している症例も多い。一方視能矯正訓練においても、感覚面の状況をきちんと把握できず、見かけの輻湊訓練等のみを行っていることにより、せっかくの効果を得られていないことも多い。間歇性外斜視の治療においては、感覚面の治療なくしては、間歇性外斜視から、外斜視状態(tropia)をなくした外斜位(phoria)への完全治癒はあり得ないと考える。間歇性外斜視における感覚面で重要なのは、耳側網膜抑制状態であり、そのため、間歇性外斜視の感覚面の視能矯正的検査においては、この抑制状態をきちんと検査、把握することが大切である。 この感覚面の状態把握が大切なことは、今も昔も変わらず、間歇性外斜視の視能矯正的検査の基本である。したがって、1996年の日本視能訓練士協会の講演会シンポジウム「間歇性外斜視」の「間歇性外斜視の視能矯正的検査法」でも述べたことが基本である。その基本的視能矯正的検査を振り返り、特に、間歇性外斜視の病態像の中心である抑制状態の把握、治療方針決定に重要な眼位(最大偏位量)測定方法、その偏位量測定には欠かせない固視視標の重要性と意義、そして抑制検出にもつながる視能矯正的輻湊検査の理論と検査内容の把握について述べた。
著者
原 涼子 奥出 祥代 林 孝彰 北川 貴明 神前 賢一 久保 朗子 郡司 久人 常岡 寛
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.107-111, 2011 (Released:2012-02-22)
参考文献数
11

目的:心因性視覚障害は、視力障害や視野障害の他に色覚異常を訴えることが多い。今回、心因性視覚障害と診断され、片眼の色感覚が消失した1例を経験したので報告する。症例:16歳、女児。右眼で見た時の色感覚の消失を自覚し、近医を受診。2009年6月に東京慈恵会医科大学附属病院眼科へ紹介受診となった。症例は高校生であり、部活動に加え生徒会や学校行事など、学校生活の中で様々な役割を担っており忙しい毎日を過ごしていた。矯正視力は右眼(1.5)、左眼(1.5)であり、右眼のGoldmann視野は、V/4イソプターのらせん状視野、I/4からI/1イソプターの求心性視野狭窄を呈した。色覚検査として、仮性同色表、New Color Test、色相配列検査を片眼ずつ行い、いずれの検査も右眼のみ強度の色覚異常が検出された。特にNew Color Testでは有彩色と無彩色を分けることが難しく、主訴と一致する結果であった。全視野刺激網膜電図における杆体反応・錐体反応の潜時・振幅は正常範囲内であった。頭部MRIに異常所見はなかった。心因性視覚障害と診断し、経過観察していたところ、2010年2月に、色覚が改善したと本人から報告があり、2010年5月に再度色覚検査、視野検査を行ったところ、結果は全て正常であった。経過中、左眼の視機能異常は検出されなかった。結論:心因性視覚障害と診断されたのが、文化祭の実行委員になった直後であったことから、ストレス等による環境的・心理的要因がその背景にあると考えられた。
著者
並木 祐子 林 孝彰 奥出 祥代 竹内 智一 北川 貴明 月花 環 神前 賢一 久保 朗子 常岡 寛
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
Japanese orthoptic journal (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.123-128, 2010-12-29

<B> 目的:</B>小口病は常染色体劣性の遺伝形式をもつ先天停在性夜盲の一つで、視力、視野、色覚に異常はないと考えられている。以前、我々が報告した錐体機能低下および進行性の視野障害をきたし、<I>SAG</I>(アレスチン)遺伝子変異(1147delA)を認めた高齢者小口病の1例(臨床眼科 63:315-21, 2009)について、今回は、黄斑部機能、色覚について検討したので報告する。<BR><B> 症例:</B>70歳、男性。矯正視力は右(1.2)、左(1.5)、Humphrey視野(中心10-2全点閾値)の中心窩閾値は良好であった。スペクトラルドメイン光干渉断層計所見として、中心窩付近の視細胞内節外節接合部ラインは明瞭であったが、それ以外の部位では不明瞭であった。錐体機能を反映する黄斑部局所網膜電図で、a波およびb波とも著しい振幅低下を認めた。片眼ずつ色覚検査を行い、石原色覚検査表国際版38表では誤読数が右4/21、左3/21と成績は良好であった。Panel D-15では両眼ともpass(no error)であったが、Farnsworth-Munsell 100 hueテストにおいては、青黄色覚異常の極性に一致し、総偏差点は右268左292と年齢によるスコアを超える異常値を示した。<BR><B> 結論:</B><I>SAG</I>遺伝子変異(1147delA)陽性小口病の中には、黄斑部錐体機能が低下し、経過中に典型的な後天青黄色覚異常を呈するものがある。