著者
今田 盛生
出版者
九州大学
雑誌
九州大学農学部演習林報告 (ISSN:04530284)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.81-225, 1972-03
被引用文献数
7

本論文は,ミズナラ構造材林の造成を対象とした作業法に関する理論的研究および実証的研究を試みたものである。 まず,ミズナラの構造材林造成上考慮すべき樹性およびミズナラ構造用素材に要求される形質を検討して,それにもとづきミズナラ構造材林の育林技術上の基本的要件を明らかにした。それはつぎのとおりである。 1) 更新期において,密立更新樹を確保すること。 2) 稚幼期において,上層林冠を単層一斉状態に構成すること。 3) 壮令期以後において,上層間伐を採用することにより,肥大生長を促進すること。 4) 収穫期において,長伐期を採用することにより,高令・大径林を造成すること。 ついで,作業法に関する理論的研究を行ない,基本的要件とミズナラの構造材林の作業法に関連する特性にもとづき,各種の作業法について,主として育林技術上の観点から,ミズナラ構造材林造成に対する適用性を検討し,理論上の適用段階における基本的作業法は,伐採木自身からの落下種子を活用する皆伐天然下種更新法であることを明らかにした。その作業法の単位林分に対する適用の基本方式はつぎのとおりである。すなわち,150年生の伐期に達したミズナラ林を対象として,その林分の結実豊作年秋の種子落下後冬期間内に,ミズナラ上木を皆伐し,その伐採木(主伐木)自身からの落下種子を活用して,その皆伐跡地に翌春ただちにミズナラ稚苗を発生させて更新を完了する方法である。 さらに,作業法に関する実証的研究を,基礎研究と応用研究に分けて現実の林地で実行した。前者の基礎研究においては,ミズナラの作業法に関連する特性,すなわちミズナラの林分結実量・発芽・種子散布・上木庇陰下における稚苗の生育状態・稚苗の根系・稚幼期の密立林分における優勢木の生育状態・林分の生長推移を明らかにし,育林技術上の観点から考察したが,その結果はつぎのとおりである。 1) ミズナラの結実豊作年の伐期林分で生産される多量の種子を適切に活用すれば,天然下種更新法により,ミズナラの密立更新樹を確保することは可能である。 2) ミズナラの構造材林造成に,側方天然下種更新法・漸伐天然下種更新法・択伐天然下種更新法を適用することは困難である。 3) ミズナラを人工植栽する場合には,直根性の自然の根系(写真-3・1~3・4)をなるべくくずさないような方法を用いるべきである。 4) ミズナラは,密立一斉林分からでも優勢木が発生し,しかもその樹高生長力は大きく低下しないという樹陛をもっているから,密立単層一斉林を構成することは,育林技術上支障を生じる危険性は小さい。 5) ミズナラの構造材林造成を対象とした場合,更新当初における必要最少限の稚苗発生密度はha当り10万本,また更新完了後5年目における必要最少限の稚樹成立密度はha当り3万本であると推定される。 6) 上層間伐は,主伐候補木の平均枝下高が7mに達する35年生林分から開始すべきである。 7) 主伐期の単位林分における林分構成および収穫材の目標は表-3・21のとおりである。 後者の応用研究においては,基本的作業法を単位林分に適用する場合に必要な育林手段は,施行順にあげると,下種地拵・補播・種子覆土・更新伐・枝条整理・補植・稚樹刈出・除伐・枝打・間伐であることを明らかにし,それらの育林手段のそれぞれについて,補播および補植を除いて,現実の林地で試験した。その試験結果にもとついて,それらの個々の育林手段の体系化を試み,基本的作業法の単位林分に対する適用方法の基準は表-4・1に示すとおりであることを明らかにした。 以上の研究結果を総括して,ミズナラの構造材林造成を対象とした作業法は,その適用林の単位林分に対して,150年伐期により,表-3・21に示した林分構成および収穫材を目標として,表-4・1に示した育林技術を適用する生産方式であることを明らかにした。さらに,この作業法の特性にもとついて,総括的考察を試みた結果,この基本的作業法が適用された全林を組織化する場合には,単位林分の面積をなるべく小さくし,しかもその単位林分を逐次隣接させず,林道網整備を先行させて分散させるべきであるとともに,この作業法は大規模林業経営体に適用される可能性が大きいものと認められた。
著者
今若 慎太郎 佐藤 宣子
出版者
[九州大學農學部附属演習林]
雑誌
九州大学農学部演習林報告 (ISSN:04530284)
巻号頁・発行日
no.89, pp.75-126, 2008-03

近年,総称して「森林環境税」と呼ばれる都道府県による独自税の導入が広がり,地方分権の下で自治体による森林環境政策が模索されている。税目的が明確なため,導入後数年を経て,税事業の効果を厳しく問われることになる。先行研究では,高知県を中心に先発県を事例として税導入の合意形成過程が主に考察され,税事業の内容と実績に関する比較研究はない。そこで本稿では,(1)各県のホームページ等の情報から導入県の事業内容の特徴を分類し,比較検討を行い,(2)事業内容の異なる岡山県と熊本県を事例として,県担当者への聞き取り調査と税事業及び既存事業に関する予算と実施要項等に関する資料収集によって,「森林環境税」導入過程における県民意識と議論過程が税事業の内容をどのように規定したのか,また税事業の実績を既存事業との関係で比較した。更に,(3)多くの県で新たな事業と位置づけられている,強度間伐による針広混交林化事業の実施状況,特に森林所有者の同意状況に関して,熊本県を事例に,県の出先機関と森林組合での資料収集に基づいて分析した。その結果,多様な事業内容の中で,多くの県が荒廃人工林の間伐事業を中心としていること,しかし,その手法は,林業支援とリンクさせた従来の間伐補助事業と同様の事業を補助対象の拡充で実施している県(岡山県型)と行政が費用の全てを負担し直接強度間伐を実施し,混交林化を進める事業(熊本県型)に分けられることがわかった。岡山県では税導入の議論の際,森林環境の向上には林業の担い手対策や所有者への間伐補助金を行うことに対して県民の理解が得られたこと,一方の熊本県では新税導入に際して,私財支援に対する県民の反対意見が強く,県による強度間伐の直接整備に限定する形で県民の理解を得たために林業支援との厳しい切り分けがなされている。税事業実績と既存事業の分析によって,岡山県では森林整備と林業就業者確保に新税が有効であり,施業の放棄を未然に防ぐことや,結果として木材供給量が増加することが見込まれた。しかし,森林を放棄した所有者の森林までの整備には至らず,更には既存事業との差違が明確ではないため,既存事業の税事業化によって間伐予算総額では減少していることが明らかとなった。