著者
内海 泰弘 村田 育恵 椎葉 康喜 宮島 裕子 井上 晋
出版者
[九州大學農學部附属演習林]
雑誌
九州大学農学部演習林報告 (ISSN:04530284)
巻号頁・発行日
no.91, pp.15-18, 2010-03

宮崎県椎葉村大河内地区における植物の伝統的な利用法と方言を記載した。これまでに高木類と低木類について報告してきたが,本報告ではつる植物32種とタケ類8種およびシュロについて複数の年長者からの聞き取り調査結果をまとめた。つる植物のおもな用途は縄,器具材,食材であり,タケ類のおもな用途は建築材,器具材,筍であった。つる植物で縄に用いられたのは5種あり,つるの物理的性質に応じて使い分けられていた。タケ類の中ではハチクとマダケが重要種で屋根材や生活用品の材料として重用された。他の多くのつる植物とタケ類は季節ごとに多様な食料として地域の生活を支えていた。
著者
内海 泰弘 安田 悠子 椎葉 康喜 山内 康平
出版者
[九州大學農學部附属演習林]
雑誌
九州大学農学部演習林報告 (ISSN:04530284)
巻号頁・発行日
no.96, pp.20-27, 2015-03

伝統的な生活様式が維持されている宮崎県椎葉村大河内地区において,シダ植物5種,種子植物64種と4類を含む草本植物の伝統的な利用法を複数の年長者から聞き取り調査した。草本植物の用途として最も多かったのは食用であり,24種が利用され,葉や若いシュートといった一般的な山菜としての活用だけなく,4種の根茎からデンプンを得ることで,貴重な食料源としていた。薬草として用いられていたのは9種あり,医薬品が十分にない環境で,様々な効能を見いだし活用していた。逆に毒草として取り扱われていた種は5種存在した。資材となっていた種は7種あり,これらから屋根材,縄,蓑,草鞋など生活に不可欠な物資を得ていた。
著者
広瀬 健一郎 丸谷 知己
出版者
[九州大學農學部附属演習林]
雑誌
九州大学農学部演習林報告 (ISSN:04530284)
巻号頁・発行日
no.68, pp.p73-84, 1993-03

山地河川においてヤマメ(Oncorhynchus masou masou)が生存システムを確立するためには,産卵空間を備えていることがきわめて重要な条件である.しかし,山地河川では,河床が急勾配であることに起因して時間的にも空間的にも流れが細かく変化し,それに応じて多様なスケールで河床変動が生じている.本研究の目的は,多様な河床地形の位置的な変化と産卵空間との関係を物理的に明らかにすることを目的とする.そのために瀬と淵とが連続して河床地形をつくる堆積作用の卓越した区間において,水深変化,流速変化および淵における底質の砂礫についての粒径変化を分析した.その結果,ヤマメの産卵床は,フルード数が1の常流域と射流域の間に位置し,しかも一定の粒径組成をもつ粗砂,細礫,礫で満たされていることが必要なことがわかった.河川地形学でいうプール―ステップが小規模な河床変動によって形成されており,このような空間はそのプール下端郡に見られること,さらにそのプールは中規模の河床変動によって形成される体積の大きいプールの連続区間において見られることがわかった.
著者
近藤 民雄 大賀 祥治
出版者
[九州大學農學部附属演習林]
巻号頁・発行日
no.83, pp.97-113, 2002 (Released:2014-07-18)

優良形質木の大量増殖に最もかなった増殖方法として,通常さし木あるいは取り木が取り上げられる。クローン増殖がうまくいくかどうかは,多くの場合さし木あるいは取り木での発根の善し悪しで決められてしまう。このときにみられる不定根形成の原動力は,もともと無傷の個体で作動している内生オーキシン固有の発根制御作用と考えられる。従ってさし穂のホルモン処理は,極性移動する内生オーキシンが持つ本来の器官形成能に対する強化助長の処理とみなすことができる。オーキシン処理およびオーキシン以外のホルモンによる処理について概説すると共に,オーキシン処理の際発根部位にあたる,さし穂の基部でどのような生理的反応が進み,あるいは増幅されているか,主として発生上の対応と生化学的反応とに分けて紹介した。さし穂のオーキシン処理は従来含浸とか,塗沫といった一段の処理として取り扱われているが,むしろ誘導処理と始動処理とからなる二段の処理として取り扱うのが適当と判断された。つまり根の原基発生への誘導処理と,それに続く原基発達への始動処理とからなる二段処理として取り扱うのが,処理の実際面からも,また発根の仕組を理解する上からも妥当と考えられた。また内生オーキシンには発根について,促進と制御という2つの相反する作用の内生が予想され,誘導期には前者が,始動期には後者の軽減除去がそれぞれ優先することで発根促進がもたらされると理解される。
著者
太田 和樹 増谷 利博 今田 盛生
出版者
[九州大學農學部附属演習林]
雑誌
九州大学農学部演習林報告 (ISSN:04530284)
巻号頁・発行日
no.71, pp.p13-25, 1994-12
被引用文献数
3

九州大学宮崎演習林では細胞式皆伐作業法の適用により,天然生林からスギ・ヒノキ人工林への林種転換が行われてきたが,近年,シカの食害により不成績造林地が増加していることから,代替案を検討する必要に迫られている.そこで,代替案検討の第1ステップとして,対象天然林内に群状に分布するアカマツ混交林の取り扱い方を考えた場合,その林分構造について検討する必要がある.このようなことから,本報告は天然生アカマツ混交林の林型区分を行い,各林型ごとの特徴を明らかにすることを目的とし,径級別・樹種別の材積及び本数を変戯とするクラスター分析により林型区分を行い,類型化された林型の特徴を直径及び樹高の順位系列によって検討した.クラスター分析を行った結果,天然生アカマツ混交林内に設定した34のプロットは林型A~Hの8つの林型に分類された.次に,直径及び樹高順位系列を用いて各林型の林分構造の特徴を明らかにした結果,主に樹種構成,径級別本数及び材積で分類され,天然生アカマツ混交林の取り扱いについて検討を行うための林型区分として適切であった.さらに,林型ごとに今後の取り扱いについて検討した結果,林型G,Hで木材生産が可能であるが,林型A,Bでは不可能であることが明らかになった.その他の林塾では,伐採後の成林の問題もしくは経済性の問題についてさらに検討する必要があることが示唆された.
著者
井上 一信 大崎 繁 山内 康平 壁村 勇二 浦 正一 扇 大輔 大東 且人 柳池 定 長澤 久視 中江 透 古賀 信也 川嶋 弘美 井上 晋 内海 泰弘
出版者
[九州大學農學部附属演習林]
巻号頁・発行日
no.95, pp.45-64, 2014 (Released:2014-07-18)

九州大学農学部附属福岡演習林の樹木園において、1977年以降に試験植栽された演習林自生種と演習林外の国内自生種、外来種、園芸品種68科340種の植栽記録を精査し、植栽位置が特定できた個体について生存率と胸高直径を調査した。植栽記録があり2013年時点までの枯死または現存の照合が可能な個体は4430本であり、この内の現存本数は1853本、生存率は41.8%であった。
著者
扇 大輔 長 慶一郎 山内 康平 大崎 繁 田代 直明 古賀 信也
出版者
[九州大學農學部附属演習林]
雑誌
九州大学農学部演習林報告 (ISSN:04530284)
巻号頁・発行日
no.93, pp.28-36, 2012-03

平成18年10月7日午後から8日午前中にかけて台風並みに発達した低気圧により九州大学北海道演習林に大規模な風害が発生した。今後の資料とするため,ここではその被害概要についてまとめた。被害発生時,北海道演習林内では主に北ないし北北東方向から最大風速10m/s以上,瞬間最大風速20m/s以上の風が吹いたと推定された。被害は北海道演習林のほぼ全域にわたり発生し,被害面積158ha,被害推定本数48,481本,被害推定材積21,284m3に達した。今回の被害の特徴として,カラマツを中心とした針葉樹人工林,とくに40年生以上の壮齢林に大規模な風倒被害が発生したこと,被害が北東斜面の林分に集中し,風向とほぼ一致したこと,カラマツ林の被害形態は「根返り」が最も多く,次いで「傾斜・幹曲がり」で,「幹折れ」の被害はわずかであったこと等が挙げられた。
著者
近藤 民雄 大賀 祥治
出版者
[九州大學農學部附属演習林]
雑誌
九州大学農学部演習林報告 (ISSN:04530284)
巻号頁・発行日
no.92, pp.1-3, 2011-03

本総説では,マツタケについて宿主を用いないで菌床栽培するための要点について論説した。始発培地水分は低い方が好ましいこと,培地栄養分をできるだけ低くすること,相対湿度が重要な要因となることの3点を論考した。
著者
今若 慎太郎 佐藤 宣子
出版者
[九州大學農學部附属演習林]
雑誌
九州大学農学部演習林報告 (ISSN:04530284)
巻号頁・発行日
no.89, pp.75-126, 2008-03

近年,総称して「森林環境税」と呼ばれる都道府県による独自税の導入が広がり,地方分権の下で自治体による森林環境政策が模索されている。税目的が明確なため,導入後数年を経て,税事業の効果を厳しく問われることになる。先行研究では,高知県を中心に先発県を事例として税導入の合意形成過程が主に考察され,税事業の内容と実績に関する比較研究はない。そこで本稿では,(1)各県のホームページ等の情報から導入県の事業内容の特徴を分類し,比較検討を行い,(2)事業内容の異なる岡山県と熊本県を事例として,県担当者への聞き取り調査と税事業及び既存事業に関する予算と実施要項等に関する資料収集によって,「森林環境税」導入過程における県民意識と議論過程が税事業の内容をどのように規定したのか,また税事業の実績を既存事業との関係で比較した。更に,(3)多くの県で新たな事業と位置づけられている,強度間伐による針広混交林化事業の実施状況,特に森林所有者の同意状況に関して,熊本県を事例に,県の出先機関と森林組合での資料収集に基づいて分析した。その結果,多様な事業内容の中で,多くの県が荒廃人工林の間伐事業を中心としていること,しかし,その手法は,林業支援とリンクさせた従来の間伐補助事業と同様の事業を補助対象の拡充で実施している県(岡山県型)と行政が費用の全てを負担し直接強度間伐を実施し,混交林化を進める事業(熊本県型)に分けられることがわかった。岡山県では税導入の議論の際,森林環境の向上には林業の担い手対策や所有者への間伐補助金を行うことに対して県民の理解が得られたこと,一方の熊本県では新税導入に際して,私財支援に対する県民の反対意見が強く,県による強度間伐の直接整備に限定する形で県民の理解を得たために林業支援との厳しい切り分けがなされている。税事業実績と既存事業の分析によって,岡山県では森林整備と林業就業者確保に新税が有効であり,施業の放棄を未然に防ぐことや,結果として木材供給量が増加することが見込まれた。しかし,森林を放棄した所有者の森林までの整備には至らず,更には既存事業との差違が明確ではないため,既存事業の税事業化によって間伐予算総額では減少していることが明らかとなった。