著者
家中 茂 興梠 克久 鎌田 磨人 佐藤 宣子 松村 和則 笠松 浩樹 藤本 仰一 田村 隆雄
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

中山間地域の新たな生業として自伐型林業をとりあげた。技術研修や山林確保など自治体の支援を得ながら新規参入している地域起こし協力隊の事例や旧来の自伐林業者が共同組織化しつつ地域の担い手となっている事例など、産業としての林業とはちがう価値創造的な活動がみられた。典型的な自伐林家の山林における植物群落調査では、自然の分布を反映した地形に応じた分布がみられ、自然を活かす森林管理の手法として注目された。
著者
増村 恵奈 重松 彰 佐藤 宣子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.51-60, 2011-11-01

林地所有者の高齢化や林業経営意欲の減退により相続や売却希望者の増加が予測され,それに起因して所有者の不在村化や森林管理水準の低下等の問題が懸念されている。本論文の目的は,戦後の新興林業地であり,素材生産量が近年拡大している大分県佐伯市を事例として,(1)森林組合員アンケートを用いて林地所有の履歴別に伐採活動と林地の売却意向を考察すること,(2)佐伯市旧宇目町を対象とした土地登記済通知書の分析により林地所有権の移動を定量的に把握することである。その結果,(1)現世代で林地を購入した所有者は他よりも主伐と林地売却の意向が高く,林地所有の履歴が今後の森林管理水準の差に影響することが示唆された。林地売却については現世代購入所有者の23.3%が今後5年間の売却意向を示した。(2)旧宇目町では1999年から2008年までの10年間の合計で1,454件,私有林面積の19.0%にあたる2,554.4haの林地所有権の移動を確認した。対象期間の林地所有権の移動を売買と相続に分けて集計した結果,件数はそれぞれ全体の49.1%と36.2%であり,平均移動面積はそれぞれ1.0haと3.1haであった。
著者
笹田 敬太郎 佐藤 宣子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.1-9, 2013-11

近年大規模災害が発生する中で,過疎・高齢化が進む山村において,いかに地域の安全を守るかが課題となっている。消防団は山村の地域防災の中核に位置付けられ,団員は職業を持ちながら,平時の訓練,有事の際の消火,災害復旧,住民の避難誘導などを担っている。本研究では山村における消防団の実態と課題を明らかにするため,九州山村の3地域を対象に行政資料の収集と団員へのアンケートを実施し,職業別に活動参加実態を考察した。その結果,団員の不足や高齢化の下で,役場職員やOB団員に活動の依存度が高まる傾向を把握した。農林業従事者の団員の比率は35%以下であるが,土建業従事者と共に災害時の出動回数が多かった。地域別にみると,近隣都市への通勤圏にある球磨村では職種や勤務地が多様化し,加入率が他よりも低かった。奥地山村である諸塚村では,出動の中心が役場勤務の団員へと移行し,自治公民館単位に消防団OBからなる消防支援隊が組織されていた。そして広域合併市の五家荘地域では,土建業,林業に従事する団員を中心に住民一体となって活動を実施しているが,行方不明者の捜索への出動が増加し,消防団員の負担が大きいなどの特徴が明らかとなった。
著者
尾分 達也 山田 咲月 藤原 敬大 佐藤 宣子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.17-25, 2022 (Released:2022-08-19)
参考文献数
14

林業は労働者千人当たりの年間死傷者数が,全産業の中で最も高い産業であり,その労働災害対策は,労働災害の発生の抑制だけではなく,発生時に負傷者の重症化を防ぐことが求められる。本研究は,徳島県庁林業戦略課と林業労働災害防止協会徳島県支部,徳島県南部の林業事業体,並びに消防署へ林業労働災害対策の取組みについて聞き取り調査を行い,労働災害発生時の連絡体制および負傷者の移送体制について明らかにした。緊急を要する労働災害が発生した場合,現場作業者は事業体を介さず消防署へ直接連絡を取っており,消防署と円滑に連絡を取るための通信インフラや事業体内での連絡体制の整備の重要性が明らかになった。また負傷者を早急に搬送するためには,通報する作業員が救急処置や状況を消防署へ説明するための当事者意識教育やマニュアルの整備,作業地の位置情報を消防署と事前に共有するなど緊急車両やヘリが現場へ迅速に到着できる体制づくりが求められていた。それゆえ,労働災害発生時の緊急合流地点を事業体と消防署の間で共有し,事業体は現場や状況が変わる度にミーティングなどで作業員へ安全の意識付けを行うことが課題として示唆された。
著者
佐藤 宣子
出版者
森林利用学会
雑誌
森林利用学会誌 (ISSN:13423134)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.67-69, 2011-01-31
参考文献数
5
著者
佐藤 宣子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.3-10, 1998-03-20
被引用文献数
5

林家の林業生産活動が活発な宮崎県耳川流域において,90年代における林家の存在形態を集落,山林保有規模,家族形態別に分析を行った。「いえ」が直系家族を維持し,世代継承がスムーズに行われている集落では,小規模林家層の自営性は低下しているものの,集落全体として林業・森林管理の担い手が確保され,中規模林家で世代交代を契機に新たな複合作物の導入や素材生産の低コスト化といった積極的な経営対応がみられた。また,30歳代の男性後継者や40,50歳代の女性(姑世代)達が,直接都市住民と結びつくような市場経済に対抗的な行動を90年代になって様々な形態で行っている。一方,土木・建設等の不安定兼業化が進み,「いえ」の存続が困難化している集落では,皆伐後の再造林放棄や挙家離村による不在村化の進行,高齢化による林道維持の困難化など,林家だけでは森林管理を担いきれない事態が広がっている。こうした中で,地域組織とりわけ地方自治体の役割が増しており,林家経営の安定化策や直系家族(特に若嫁世代)の定住条件の向上等の山村対策,及び森林の公的管理政策の両面が重要となっている。
著者
佐藤 宣子 佐藤 加寿子 藤村 美穂 加藤 仁美
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

ズギ人工林地帯である九州をフィールドとして、高度経済成長以降、過疎化が進行している山村の持続的な社会への転換と森林、農地、景観等の資源保全に向けた地域連携の課題を明らかにするために、主に、宮崎県諸塚村と大分県上津江村においてアンケートや聞き取り調査を実施した。特に、(1)山村問題を歴史的に概観し、(2)現段階の山村を持続可能な社会へ転換するための課題を、農林経済学、社会学、環境設計論の各立場から明らかにすること、(3)持続的な山村社会形成と森林保全にとって不可欠となっている山村と都市との連携の現況と問題点について検討をおこなった。諸塚村での村民アンケート(1400部強)と小集落アンケート(72集落)によって、近年、道路の維持管理が困難となっており、山村コミュニティにとって、(1)山村社会を支える主体形成のあり方(男性壮年層中心から女性や高齢者、Iタ-ン者などが参加しやすい活動への転換)、(2)集落組織の再編方向(小集落組織合併、集落機能の見直し、村内NPOなど「選択縁」的組織と地縁組織の連携)、(3)地域連携・都市山村交流活動を推進するための山村側の課題(自治体による住民に対する説明責任、都市住民との対等な関係作り、住民の意識改革)といった3点が明らかとなった。また、都市との連携に関して、産直住宅運動、草地景観保全ボランティア、農産物産直について考察を行い、活動を通じて山村住民の意識変化と同時に都市住民との意識差異が依然として存在していることが示された。
著者
今若 慎太郎 佐藤 宣子
出版者
[九州大學農學部附属演習林]
雑誌
九州大学農学部演習林報告 (ISSN:04530284)
巻号頁・発行日
no.89, pp.75-126, 2008-03

近年,総称して「森林環境税」と呼ばれる都道府県による独自税の導入が広がり,地方分権の下で自治体による森林環境政策が模索されている。税目的が明確なため,導入後数年を経て,税事業の効果を厳しく問われることになる。先行研究では,高知県を中心に先発県を事例として税導入の合意形成過程が主に考察され,税事業の内容と実績に関する比較研究はない。そこで本稿では,(1)各県のホームページ等の情報から導入県の事業内容の特徴を分類し,比較検討を行い,(2)事業内容の異なる岡山県と熊本県を事例として,県担当者への聞き取り調査と税事業及び既存事業に関する予算と実施要項等に関する資料収集によって,「森林環境税」導入過程における県民意識と議論過程が税事業の内容をどのように規定したのか,また税事業の実績を既存事業との関係で比較した。更に,(3)多くの県で新たな事業と位置づけられている,強度間伐による針広混交林化事業の実施状況,特に森林所有者の同意状況に関して,熊本県を事例に,県の出先機関と森林組合での資料収集に基づいて分析した。その結果,多様な事業内容の中で,多くの県が荒廃人工林の間伐事業を中心としていること,しかし,その手法は,林業支援とリンクさせた従来の間伐補助事業と同様の事業を補助対象の拡充で実施している県(岡山県型)と行政が費用の全てを負担し直接強度間伐を実施し,混交林化を進める事業(熊本県型)に分けられることがわかった。岡山県では税導入の議論の際,森林環境の向上には林業の担い手対策や所有者への間伐補助金を行うことに対して県民の理解が得られたこと,一方の熊本県では新税導入に際して,私財支援に対する県民の反対意見が強く,県による強度間伐の直接整備に限定する形で県民の理解を得たために林業支援との厳しい切り分けがなされている。税事業実績と既存事業の分析によって,岡山県では森林整備と林業就業者確保に新税が有効であり,施業の放棄を未然に防ぐことや,結果として木材供給量が増加することが見込まれた。しかし,森林を放棄した所有者の森林までの整備には至らず,更には既存事業との差違が明確ではないため,既存事業の税事業化によって間伐予算総額では減少していることが明らかとなった。