著者
西原 進吉 荒木 敦子 宮下 ちひろ 山﨑 圭子 岸 玲子
出版者
北海道公衆衛生学会
雑誌
北海道公衆衛生学雑誌 (ISSN:09142630)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.27-40, 2017-03-31

我が国では神経発達障害の子どもが増加傾向にある.近年,殺虫用途等で使用される農薬への曝露がその一因であるとも考えられている.そこで,本稿では,胎児期,乳幼児期,学童期における農薬曝露と,注意欠如/多動性障害を中心とした神経発達への影響に関する近年の研究動向について検討を行うことを目的とした.医学文献データベースPubMedを用いて,有機塩素系,有機リン系,ピレスロイド系,カーバメイト系,ネオニコチノイド系農薬と,注意欠如・多動性障害,不注意,多動,神経発達,行動発達を検索用語として,文献検索を行った.得られた176編の論文から,農薬と神経発達に直接関係する疫学論文40編に焦点をあてて検討した.その結果,有機リン系農薬については,胎児期曝露の影響がみられること,生後曝露の影響は一貫しないこと,有機塩素系農薬についても,胎児期曝露の影響を示す報告が多いことが示された.一方,ピレスロイド系農薬では,胎児期よりも出生後の影響が強い可能性が示唆された.カーバメイト系農薬については,胎児期曝露の影響が示唆されたが,論文数は2編のみであった.ネオニコチノイド系農薬については報告が1編のみであった.精神発達においては,検索内容に関する評価項目が多岐にわたり,また,影響が表出する年齢も異なる可能性があることから,農薬曝露と精神発達の関連についての研究報告数は,現状では不十分であり,さらなる研究の蓄積が望まれる.
著者
喜多 歳子 池野 多美子 岸 玲子
出版者
北海道公衆衛生学会
雑誌
北海道公衆衛生学雑誌 (ISSN:09142630)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.33-43, 2013

日本では、子どもの相対的貧困率が上昇しているが、就学前の子どもの発達に及ぼす影響は報告されていない。そこで、諸外国で行われた親の社会経済状態(socioeconomic status; SES)と子どもの発達に関する研究に基づき、今後の課題を探った。PubMedを利用し、主に先進国の原著論文の分析を行った。その結果、①SES指標に親の教育歴、所得、職業が多く用いられていた。②発達は、「発達の遅れ」と「問題行動」に大別して報告されていた。③SESと発達の指標は多様であったが、就学前であっても、SESが子どもの「発達の格差」や「問題行動」に影響していた。④その関連に、親の抑うつ、育児ストレス、不適切な養育態度、物的困窮、少ない育児資源などが複雑に関係していた。欧米の研究は、「関連の強さ」から、「効果的な介入」を求める方向に向かっている。本邦の研究課題は、①日本社会にふさわしいSES指標の発見。②親のSESと子どもの発達に関する調査、及び効果的な介入方法の検討である。
著者
安住 薫 小林 祥子 岸 玲子
出版者
北海道公衆衛生学会
雑誌
北海道公衆衛生学雑誌 (ISSN:09142630)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.29-38, 2012

環境化学物質の胎児期の曝露が、児の発育・発達、疾病に影響を及ぼすことが明らかになりつつある。その作用機序の解明に、最近、エピジェネティクスが注目されている。2012 年までに報告された、胎児期環境化学物質曝露が児ゲノムDNA のメチル化に与える影響を調べた疫学研究の文献レビューを行った結果、喫煙由来や多環芳香族炭化水素などの環境化学物質の曝露により、児ゲノムDNA のメチル化状態が変化することが確認された。曝露要因の中では、妊娠中の母親の喫煙がDNA メチル化に与える影響を調べた報告が最も多かった。DNA メチル化の変化は蓄積することによって遺伝子発現を変化させるため、胎児期の化学物質曝露によって生じる児ゲノムDNA メチル化の変化は、胎児の発育・発達への影響のみならず、出生後の児の健康リスクに影響を及ぼすことが示唆された。
著者
喜多 歳子 池野 多美子 岸 玲子
出版者
北海道公衆衛生学会
雑誌
北海道公衆衛生学雑誌 (ISSN:09142630)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.33-43, 2013

日本では、子どもの相対的貧困率が上昇しているが、就学前の子どもの発達に及ぼす影響は報告されていない。そこで、諸外国で行われた親の社会経済状態(socioeconomic status; SES)と子どもの発達に関する研究に基づき、今後の課題を探った。PubMedを利用し、主に先進国の原著論文の分析を行った。その結果、①SES指標に親の教育歴、所得、職業が多く用いられていた。②発達は、「発達の遅れ」と「問題行動」に大別して報告されていた。③SESと発達の指標は多様であったが、就学前であっても、SESが子どもの「発達の格差」や「問題行動」に影響していた。④その関連に、親の抑うつ、育児ストレス、不適切な養育態度、物的困窮、少ない育児資源などが複雑に関係していた。欧米の研究は、「関連の強さ」から、「効果的な介入」を求める方向に向かっている。本邦の研究課題は、①日本社会にふさわしいSES指標の発見。②親のSESと子どもの発達に関する調査、及び効果的な介入方法の検討である。