著者
一門 惠子 住尾 和美 安部 博史
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
紀要visio : research reports (ISSN:13432133)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.1-7, 2008-07

軽度発達障害を持つ者は、環境刺激の処理、コミュニケーション、微細運動を含む様々な運動における一次的な障害や、それらより派生する二次的な障害により、学校および日常において様々な困難さを抱きながら生活を送っていると考えられている。彼らは、学業、日常動作や様々な課題において、他者よりも多くの努力や時間を必要とし、結果的に失敗に終わってしまうことも少なくない。このような経験を積み重ねることで、様々な課題に対して苦手意識を持ってしまったり、意欲の低下から課題に取り組むこと自体を避けてしまったりするような場合すらある。このような課題への取り組みを避ける行動傾向が、結果的に潜在的な発達の機会を逃してしまい、悪循環のプロセスを辿ることも容易に推測される。学校や日常における課題に対する自己効力感の低下や、他者から低い評価を下されることに起因する自己受容の難しさなどが、自尊感情の低さに繋がっていることが想像される。これまで、障害をもつ児童の自尊感情についての検討としては、吃音児において、吃音を受容できずにやりたいことをあきらめたり、話す場面を避けたりするなどの社会的不適応を示している児童が自尊感情の低下を抱えているという報告がある(Van Riper、1971)。また、太田らは、吃音児の自尊感情の因子構造が、非吃音児のそれとは異なっていることを明らかにしている(太田・長澤、2004)。一方、軽度発達障害を持つ者の自尊感情に関する検討は、軽度発達障害という概念そのものの歴史が浅いこともあるためか、極めて少ない状況にある。例えば、松本らはADHD傾向の高い児童が、そうではない児童に比べ自尊感情が低いことを報告している(松本・山崎、2006)。ADHD傾向を持つ者の自尊感情の低下を報告する同様の報告が存在する(下津・井筒ら、2006;鈴木・中野、2002)一方で、健常児と有意な差はないことも報告されている(増田・福原ら、1998)。このように、ADHDを持つ者における自尊感情に関する検討はその数も少ないほか、一致した見解が得られていない現状がある。さらに、ADHD以外の軽度発達障害を持つ者を対象とした研究状況は、ADHDを持つ者を対象にした研究とほぼ同様かそれよりも貧弱である。そこで本研究では、軽度発達障害をもつ児童、生徒および学生の自尊感情と自己効力感について検討することを目的とした。具体的には、自尊感情尺度(太田・長澤、2004)と熊大式コンピタンス尺度(篠原・勝俣、2000)を用いて、(1)軽度発達障害群(注意欠陥・多動性障害をはじめ、高機能自閉症、アスペルガー症候群、学習障害を持つ者)における自尊感情・自己効力感の様相および、(2)軽度発達障害群と対照群の間にどのような異同が認められるかを吟味した。
著者
和田 玲子
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
紀要 (ISSN:13432133)
巻号頁・発行日
no.41, pp.21-31, 2011-07

本症例は新生児科の病棟内で、音楽を積極的に取り入れた療育を行うことで、児の情緒面の発達が促され、次第に母親の精神状態が安定していったという経過が得られた症例である。超低出生体重児で生まれ、呼吸のコントロールが上手くいかなかった女児母)(以下A子)は、気管開窓術後徐々に軽快し、1歳で退院許可が出たが、当初、養育問題・介護問題(曾祖のため、施設入所とい選択をせざるを得なかった。日々の療育の中で、次第に挨拶などの生活習慣が身につくようになったA子は音楽に対しては、曲に合わせて、リズムをとったり、好きな歌に笑顔を見せたり、機嫌の良い反応を多く見せ、意思表示や感情表現もはっきりと示した。その後、家庭環境が変化し、母親の希望が叶い、2歳で自宅に退院となった。また本報告では、小学校入学まであと一年と成長したA子と、母親、またA子が通う幼稚園の園長にインタビューした内容を記載するとともに、新生児科の病棟内に音楽療法や音楽を取り入れた療育があることがどのような意味をもつのか、医師やコメディカルのインタビューも統括して、その効果を考察していく。