著者
鈴木 哲 小田 佳奈枝 高木 由季 大槻 桂右 渡邉 進
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.25-30, 2011-04-30 (Released:2020-06-25)
参考文献数
14

【目的】嚥下時に前腕を置く机の高さが舌骨上筋群の筋活動に与える影響を検討し,嚥下時の姿勢調節に関する基礎的な情報を得ることを目的とした.【方法】健常者10 名を対象に,机無し条件(両上肢下垂位)と,前腕を机上に置いた机有り条件A(差尺が座高の3 分の1 の高さ),机有り条件B(座高の3 分の1 に15 cm 加えた高さ)の3 条件で,全粥(5 g)を嚥下させ,その際の舌骨上筋群の表面筋電図,主観的飲みにくさ,肩甲帯挙上角度を測定した.舌骨上筋群の表面筋電図から,嚥下時の筋活動時間,筋活動積分値,嚥下開始から最大筋活動までの時間を算出した.各机有り条件の各評価・測定項目は,机無し条件を基準に正規化し,机無し条件からの変化率(% 筋活動時間,% 筋活動積分値,% 最大筋活動までの時間,% 主観的飲みにくさ)を算出した.机無し条件と2 種類の高さの机有り条件間における各評価・測定項目の比較,2 種類の高さの机有り条件間における肩甲帯挙上角度の比較,および各評価・測定項目の机無し条件からの変化率の比較には,Wilcoxon の符号付き順位和検定を使用し検討した.【結果】机無し条件と比べ,机有り条件A では,舌骨上筋群の筋活動時間,最大筋活動までの時間は有意に短く,筋活動積分値,主観的飲みにくさは有意に低かったが,机有り条件B では有意な差はみられなかった.机有り条件A における肩甲帯挙上角度は,机有り条件B と比べ,有意に高かった.机有り条件Aにおける%筋活動時間,%最大筋活動までの時間,%筋活動積分値,%主観的飲みにくさは,机有り条件B に比べ,有意に低かった.【結論】本研究結果から,嚥下時に前腕を置く机の高さは,舌骨上筋群の筋活動に影響を与えることが示唆された.頸部や体幹の姿勢調節に加えて,前腕を置く机の高さを適切に調節することは,嚥下時の姿勢調節のひとつとして有用となる可能性があると考えられた.
著者
赤澤 薫 柏原 健一
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.3-7, 2019-04-30 (Released:2019-08-31)
参考文献数
8

誤嚥性肺炎と診断されて入院し,摂食嚥下リハビリテーション開始時には経口摂取不能であったが,入院前には3食経口摂取であったパーキンソン病(Parkinson's disease: PD)37 例について,3 食経口摂取再開に関連する要因を検討した.退院時に3 食経口摂取となった17 例はそうでない20 例に比べ,年齢が若く,Hoehn-Yahr 重症度が低値,退院時の運動FIM,入院時の認知FIM,退院時の認知FIM,運動FIM 効率が高値であった.また,嚥下機能と運動機能の改善度には相関関係を認めた.誤嚥性肺炎後のPD 患者でも,認知機能が高い患者では,運動機能の改善と経口摂取の再開に至りやすいと考えた.
著者
中村 達也 藤本 淳平 鹿島 典子 豊田 隆茂 鮎澤 浩一 小沢 浩
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.185-192, 2018-12-31 (Released:2019-04-30)
参考文献数
29

【目的】重症心身障害児者の舌骨は,嚥下造影検査(VF)で鮮明に投影されないことも多く,咽頭期嚥下の特徴が不明確である.そこで,本研究では,重症心身障害児者の咽頭期嚥下の特徴を明らかにするために,舌根部と咽頭後壁の接触時の食塊先端部の位置を健常成人と比較した.【対象と方法】健常成人19名(健常群)と重症心身障害児者41名(障害群)について,ペースト食品3~5 mLの自由嚥下時のVFを撮影し,30フレーム /秒で動画記録した.VF動画をフレームごとに解析し,舌骨挙上開始時と舌根部と咽頭後壁の接触時の特定,舌骨挙上開始時の特定が可能だった者の舌骨挙上開始時から舌根部と咽頭後壁の接触時までの時間間隔の測定,誤嚥の有無の評価をした.さらに,舌骨挙上開始時および舌根部と咽頭後壁の接触時の食塊先端部の位置を,喉頭蓋谷を基準に到達前・到達・通過後の3段階で評定した.統計解析は,一元配置分散分析およびFisher’s exact testを用いて比較した.【結果および考察】舌骨挙上開始時から舌根部と咽頭後壁の接触時までの時間間隔の群間差は認めなかった.各群の平均値は0.105~0.231秒であり,舌骨挙上開始時と舌根部と咽頭後壁の接触時の食塊先端部の位置は92.8%の対象者で一致していた. 舌根部と咽頭後壁の接触時の食塊先端部の位置は,健常群では到達前:7名(36.8%)・到達:12名(58.3%)・通過後:0名,障害群では到達前:2名(4.9%)・到達:18名(43.9%)・通過後:21名(51.2%)であり,群間差を認めた.これより,障害群は健常群に比較して,嚥下開始前に食塊が深部に到達しやすいと考えられた.【結論】重症心身障害児者は健常成人よりも,ペースト食品を嚥下する際に,舌根部と咽頭後壁の接触時の食塊先端部の位置が喉頭蓋谷を通過する対象者数が多かった.