著者
渡邊 英美 床井 多恵 辻 秀治 志藤 良子 若林 悠 阿部 杏佳 石井 真帆 三原 彩 栢下 淳 小切間 美保
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.130-142, 2020-08-31 (Released:2020-12-31)
参考文献数
10

【目的】日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(学会分類2013)によって,病院や高齢者施設における嚥下調整食の段階の共通化が進んでいる.しかしながら,食事形態の説明が文言のみで物性値が示されていないため,特にコード3 や4 で人によって解釈が異なることがある.嚥下調整食分類をさらに発展させるためには,不均質な食品の物性測定方法の確立が必要である.本研究では,コード4 に基づいて調理された嚥下調整食のかたさを測定し,その目安を示すことを試みた.【方法】京都市内の介護老人保健施設の27 日間の昼食で提供した軟菜食(学会分類2013 コード外)の主菜および副菜中の199 食材とやわらか食(コード4 相当)の主菜および副菜中の156 食材を試料とした.施設で提供した嚥下調整食は,言語聴覚士,管理栄養士および調理師が学会分類2013 のコードに適応しているか否かを検討して提供可能と判断したものであった.やわらか食の喫食者は主に咀嚼機能が低下した利用者であった.使用食材を嚥下調整食の中から取り出してクリープメータRE2-3305C(山電)の試料台に置き,直径5 mm のプランジャーを用いて測定速度1 mm/s,試料温度20℃で破断測定を実施した.歪率0~90% における最大値をかたさとした.1 食材につき5 サンプルを測定して平均値を算出した.【結果】やわらか食では156食材のうち150食材(96%)でかたさは200 kPa 未満であったのに対して,軟菜食は199食材中81食材(40%)のかたさが200 kPa 以上であった.本研究のかたさ測定方法により,やわらか食と軟菜食のかたさの違いを評価できた.比較のために測定したユニバーサルデザインフードの歯ぐきでつぶせる(コード4 相当)に区分される商品に含まれる食材のうち,にんじんやじゃがいものかたさは200 kPa 未満であったが,しいたけや肉類は200 kPa 以上となった.【結論】この物性測定方法はコード4 に相当する嚥下調整食の新たなかたさ評価方法となる可能性が示唆された.
著者
田上 裕記 太田 清人 小久保 晃 南谷 さつき 金田 嘉清
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.207-213, 2008-12-31 (Released:2021-01-23)
参考文献数
27

姿勢の変化が嚥下機能に及ぼす影響について検討した.対象は,健常成人21名(平均年齢:30.6±9.7歳)とした.研究の説明を十分に行い,同意を得た上で検査を行った.方法は,背もたれのない坐位をとり,頚部は制限せず自由とし,4つの姿勢条件を設定した.①姿勢(a):股屈曲90度,膝屈曲90度, ②姿勢(b):股屈曲135度,膝屈曲90度,③姿勢(c):股屈曲90度,膝屈曲0度(長坐位),④姿勢(d):両下肢挙上位,以上の姿勢条件にて,嚥下造影検査(以下,VF検査)および反復唾液嚥下テスト(以下,RSST)を行った.VF検査は,70%希釈バリウム液15ml を各姿勢にて,合図とともに随意嚥下させ,咽頭通過時間をLogemannの測定法に準じ測定した.同様の姿勢条件にてRSSTを施行し,触診法にて嚥下回数を測定した.尚,統計処理は,一元配置分散分析,Tukeyの多重比較検定にて検討した.結果は,VF検査,RSSTのいずれも一元配置分散分析において有意差が認められた (p<0.05).各群間の比較ではVF検査についてみると,姿勢(a)の咽頭通過時間は,姿勢(b)の咽頭通過時間と比較し有意な差はみられなかったものの,姿勢(c)(p<0.05)および姿勢(d)(p<0.01)の咽頭通過時間と比較し,それぞれ有意に低値を示した.また,姿勢(b)の咽頭通過時間は,姿勢(c)の咽頭通過時間と比較し有意な低値を示した (p<0.05).RSSTは,VF検査とほぼ同様の結果が得られた.摂食・嚥下障害に対し,下肢の肢位に関する報告は少ない.嚥下運動は,筋収縮を伴う一連の全身運動であり,頚・体幹・下肢のポジショニングによって嚥下に関与する筋の効率が変化する.以上の結果より,下肢を含めた姿勢の変化が嚥下機能に影響を及ぼしたことが推測された.頚部・体幹・四肢の相互関係を考慮した姿勢設定の重要性が示唆された.
著者
大熊 るり 藤島 一郎 武原 格 水口 文 小島 千枝子 柴本 勇 北條 京子 新居 素子 前田 広士 宮野 佐年
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.21-27, 1999-12-30 (Released:2019-06-06)
参考文献数
15

【目的】梨状窩の形状に個人差があることに注目し,誤嚥との関連について,内視鏡的嚥下検査(VE)および嚥下造影(VF)所見を用いて検討した.【対象・方法】1997年4月~98年3月の1年間にVFおよびVEを行った患者82名のうち,VFにて明らかな嚥下反射の遅延または造影剤の著明な梨状窩への残留を認めた31名(球麻痺14名,仮性球麻痺17名)を対象とした.内視鏡を経鼻的に挿入して梨状窩を観察し,録画したものを計測した.咽頭後壁正中部から梨状窩の外側端までの距離が最大となる距離を長径,長径と直交する形で梨状窩の内側縁と外側縁の間隔が最大となる距離を短径とし,短径/長径の値を求めた.この値が大きいほど梨状窩の幅が広いことを示し,小さいほど幅が狭いことを示す.【結果】披裂喉頭蓋皺襞の腫脹が著明な症例が6名あり,これらは最も梨状窩の幅が狭い症例とも考えられたが,計測困難なため比較の対象からは除外した.また梨状窩の形状に左右差が認められる症例が9名あった.短径/長径の値について,VF所見上の誤嚥あり群(14名)と誤嚥なし群(11名)とで比較した.左右差のある場合は値の大きい側を用いて比較すると,誤嚥あり群では平均0.296,なし群では0.370と,誤嚥なし群で有意に値が大きかった(p<0.05).すなわち,誤嚥のない症例は誤嚥のある症例と比べて梨状窩の幅が広いと考えられた.【考察】梨状窩の幅が広いと,嚥下反射の遅れや嚥下後の咽頭残留があっても,梨状窩に食塊が貯留できるスペースがあるため,気道への流入を防ぐのに有利と思われた.梨状窩の形状に個人差がある原因として,一つには生来の個体差が挙げられるが,咽喉頭粘膜,特に披裂部の腫脹が大きく影響していると思われた.内視鏡で梨状窩の形状を観察することは,誤嚥の危険性を予測する上で有用であると考えられた.
著者
福岡 達之 杉田 由美 川阪 尚子 吉川 直子 野﨑 園子 寺山 修史 福田 能啓 道免 和久
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.174-182, 2011-08-31 (Released:2020-06-25)
参考文献数
35

【目的】本研究の目的は,舌骨上筋群に対する筋力強化の方法として,呼気抵抗負荷トレーニング(expiratory muscle strength training: EMST)の有用性を検討することである.【対象と方法】対象は,健常成人15 名(男性10 名,女性5 名,平均年齢29.3±4.6 歳)とした.方法は,EMST とMendelsohn 手技,頭部挙上を行ったときの舌骨上筋群筋活動を表面筋電図で測定した.EMST は,最大呼気口腔内圧(PEmax)の25% と75% の負荷圧に設定し,最大吸気位から強制呼気を行う動作とした.各トレーニング動作で得られた筋電信号について,1 秒間のroot mean square(RMS)とWavelet 周波数解析を用いてmean power frequency(MPF)を算出し,それぞれトレーニング間で比較検討した.【結果】舌骨上筋群筋活動(% RMS)は,EMST の75% PEmax が最も高く(208.5±106.0%),25% PEmax(155.4±74.3%),Mendelsohn 手技(88.8±57.4%),頭部挙上(100% として正規化)と比較し有意差を認めた.また,Wavelet 周波数解析から,EMST 時には他のトレーニング動作と比較し,高周波帯領域に持続する高いパワー成分が観察された.MPF は,EMST の75% PEmax が最も高く(127.8±20.7 Hz),25% PEmax(107.6±20.1 Hz),頭部挙上(100.4±19.3 Hz)と比較して有意差を認めた.【結論】EMST は,舌骨上筋群の運動単位動員とtype Ⅱ線維の活動量を増加させる可能性があり,筋力強化として有効なトレーニング方法になることが示唆された.
著者
武内 和弘 小澤 由嗣 長谷川 純 津田 哲也 狩野 智一 上田 麻美 豊田 耕一郎
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.165-174, 2012-08-31 (Released:2020-06-07)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本邦初の医療機器承認を取得した「舌圧測定器(TPM-01,JMS 社,広島)」を用いて,舌機能の定量的評価法としての舌圧測定の有用性について検証した.対象は,脳血管障害または神経筋疾患に由来する嚥下障害または構音障害を有する患者(障害群)115名で,それらの障害を有しない患者29 名を対照群とした.調査は,舌圧測定と同時に,基礎疾患名,嚥下障害と構音障害の有無,反復唾液嚥下テスト(RSST),会話明瞭度などについて実施した.舌圧は,前舌による最大押し付け力(最大舌圧)を3 回測定し,その平均値を舌圧値とした.また,舌圧測定の有用性の検証を目的として,舌圧測定値の再現性と,従来の口腔・構音・嚥下機能評価項目との関連について調査した.本器によって測定した舌圧値の信頼性(安定性)は,障害群と対照群の舌圧値の標準偏差(障害群平均2.8 kPa,対照群平均2.2 kPa)が先行研究の結果(平均3.1 kPa)と同等であることから推定した.また,舌圧値と従来の手法による評価法との関連性について,以下の知見を得た.障害群は,対照群よりも有意に低い舌圧値を示した.嚥下障害グレードが中等症(Gr 4~6)および軽症(Gr 7~9)の患者は,正常群(Gr 10)および対照群の患者より舌圧値が有意に低かった.また,準備期および口腔期に嚥下障害を有する患者の舌圧値は,対照群よりも有意に低値であった.RSST 2 回以下の患者の舌圧値は,RSST 3回以上の患者および対照群の舌圧値よりも有意に低かった.以上より,開発したJMS 舌圧測定器を用いて測定した舌圧値は,① 良好な再現性を示し,本器は,② 臨床上問題なく使用できることが明らかとなった.さらに,③ 測定した舌圧値と従来の機能評価との関連性も指摘できた.すなわち,舌圧の測定が,従来の定性的評価を主体とする機能評価に,客観的で定量的な指標を与え,例えば嚥下障害等の評価において,本舌圧測定器が臨床上有用な測定ツールとなることが示唆された.
著者
杉浦 淳子 藤本 保志 安藤 篤 下田 伊津子 中島 務
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.69-74, 2008-04-30 (Released:2021-01-22)
参考文献数
13

頭頸部腫瘍術後患者で,Shaker法やMendelsohn法などの喉頭挙上訓練が実施困難であった例に対し,座位で徒手的に抵抗負荷をかける筋力増強訓練を考案し,嚥下機能の改善を得られたので報告する.症例は頸部食道癌の62歳女性および甲状腺癌の56歳女性,根治術施行後,著明な気息性嗄声,頸部筋群の筋力低下および喉頭の可動域制限があり,仰臥位での頭部挙上は不可能であった.嚥下造影検査で喉頭挙上不良,挙上期型誤嚥,クリアランス低下を認めた.嚥下機能の改善と安全かつ効率的な経口摂取を目的に,間接訓練として頸部筋群の可動域拡大訓練,椅子座位での等張性および等尺性筋力増強訓練,リクライニング位での頭部挙上訓練,pushing exercise,直接訓練として代償嚥下法指導(super-supraglottic swallow,顎引き chin-down等)を実施した.この結果,両症例ともに気息性嗄声と声の持続がわずかながらも改善,訓練開始後28~53日で全量経口摂取可能となり,訓練後の嚥下造影検査では両症例ともに舌骨変位量の増加を認め,症例1は誤嚥がなくなったが症例2は若干の誤嚥が残存した.いずれの症例も頸部の筋力低下による喉頭挙上不良に声門閉鎖不全が合併したために気道防御がより重篤に障害された例だったが,積極的な筋力増強訓練を行った結果,頸部筋群の筋力増加と喉頭の可動性に改善を得て経口摂取可能となった.このことより,頭頸部腫瘍術後の筋力低下などによってShaker法など自動的な頭部挙上訓練が実施困難な喉頭挙上不良嚥下障害例に対しては,他動的な徒手的抵抗負荷をかけた筋力増強訓練が有効と考えられた.
著者
福岡 達之 杉田 由美 川阪 尚子 吉川 直子 新井 秀宜 巨島 文子
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.155-161, 2010-08-31 (Released:2020-06-26)
参考文献数
17

症例は41 歳女性,Foix-Chavany-Marie 症候群(FCMS)の患者である.両側顔面下部,舌,咽頭,咀嚼筋に重度の随意運動障害を認め,構音不能と嚥下障害を呈した.罹患筋の随意運動はわずかな開口以外不可能であったが,笑いや欠伸などの情動・自動運動は保持されており,automatic voluntary dissociation がみられた.嚥下造影は30 度リクライニング位,奥舌に食物を挿入する条件下で実施したが,咽頭への有効な送り込み運動はみられず重度の口腔期障害を認めた.顔面,下顎,舌に対して他動的な運動療法を実施するも,罹患筋の随意運動は改善しなかった.本例では咀嚼の随意運動も不可能であったが,非意図的な場面では下顎と舌による咀嚼運動が生じ,唾液を嚥下するのが観察されていた.そこで,この保持された咀嚼の自動運動を咽頭への送り込み方法として利用できると考え,咀嚼の感覚入力と咀嚼運動を誘発する訓練を試みた.咀嚼運動を誘発させる方法としては,食物をのせたスプーンで下顎臼歯部を圧迫する機械刺激が有効であり,刺激直後に下顎と舌のリズミカルな上下運動が生じて咽頭への送り込みが可能であった.この刺激方法を用いて直接訓練を継続した結果,咀嚼運動による送り込みと45 度リクライニング位を組み合わせることで,ペースト食の経口摂取が可能となった.本例で嚥下機能が改善した機序として,咀嚼運動を誘発させる直接訓練の継続が,咀嚼運動の入力に対する閾値低下と咀嚼のCPG 活性化につながり,咀嚼運動による送り込みの改善に寄与したものと考えた.FCMS では,発声発語器官の諸筋群に生じる重度の随意運動障害により,準備・口腔期の嚥下障害を呈するが,訓練経過の報告は少なく,訓練方法を考えるうえで貴重な症例と思われ報告した.
著者
宮上 光祐 星 達也 福岡 宏之 戸原 玄 阿部 仁子
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.8-18, 2019-04-30 (Released:2019-08-31)
参考文献数
28

【目的】脳血管障害はしばしば嚥下障害を合併し誤嚥性肺炎を発生するが,その頻度については脳卒中の急性期に多く,回復期リハビリテーション病院入院中の経管栄養例の報告は少ない.誤嚥性肺炎の発症要因についても,いまだ十分解明されていない.今回,これらの発生率と発生要因を明らかにすることを目的とした.【方法】発症後1~2 カ月後に回復期リハビリテーション病院に入院した経管栄養を行っている脳血管障害患者158 例を対象として,誤嚥性肺炎の発生率と発症要因を検討した.誤嚥性肺炎発症群と非発症群の2群について,発生要因として年齢,性別,発生部位,嚥下障害の重症度,栄養状態のalbumin (Alb),total protein (TP),body mass index (BMI),入院時のFIM, VF・VE 施行との関連性について検討した.【結果】経管栄養を行っている脳血管障害患者158 例中22 例(13.9%)に誤嚥性肺炎を認めた.肺炎発症群と非発症群の群間比較では,重症の嚥下障害,発生部位 (脳幹・小脳),男性,認知FIM 利得で有意差を認めた (p<0.05).栄養状態 (BMI, TP, Alb),意識障害,回復期入院前の肺炎や合併症,入院時FIM では両群間に有意差を認めなかった.肺炎発症の有無を目的変数,各発生要因を説明変数としてロジスティック回帰分析を行った結果では,肺炎発症の要因として,重症の嚥下障害のdysphagia severity scale (DSS) 1 (OR [odds ratio] 8.747, p=0.001),発生部位の脳幹・小脳 (OR 4.859, p=0.01),男性 (OR 5.681,p=0.006),年齢 (OR 0.941, p=0.043) が要因として抽出された.【結論】回復期脳血管障害経管栄養例の13.9%に誤嚥性肺炎を発症した.肺炎発症の要因として,脳幹・小脳病変,重症の嚥下障害,男性,高齢者が重要であった.
著者
戸原 玄 才藤 栄一 馬場 尊 小野木 啓子 植松 宏
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.196-206, 2002-12-30 (Released:2020-08-20)
参考文献数
38
被引用文献数
1

現在,摂食・嚥下障害の評価法では嚥下ビデオレントゲン造影(Videofluorography;以後VF)が gold standardとして広く認知されている.VFは誤嚥の有無のみならず嚥下関連器官の形態・機能異常すなわち静的および動的異常を観察でき,信頼性の高い摂食・嚥下障害の診断を可能とする有用な検査法であり,設備を持つ施設においては摂食・嚥下障害が疑われる患者に対しほぼルーチンに行われている.しかし実際にはVFに必要な設備を持たない施設は多く,問題があれば経管栄養を選択せざるを得ず,摂食・嚥下障害の評価,対応が適切になされているとは言い難い.このため,医療,福祉の現場からはVFを用いない簡便な臨床的検査法を求める声が高かった.平成11年度厚生省長寿科学研究「摂食・嚥下障害の治療・対応に関する統合的研究(主任研究者:才藤栄一)」において,改訂水飲みテスト,食物テスト,および嚥下前・後レントゲン撮影といった臨床検査の規格化とそれらを組み合わせたフローチャート,および摂食・嚥下障害の重症度分類が作成された.何らかの摂食・嚥下障害を訴えた63名の患者に対し,VFと各臨床検査を行い,食物を用いた直接訓練開始レベルの判定が本フローチャートにより可能であるかについて,実際のVF結果との比較検討を行った.各臨床的検査のカットオフ値は妥当であり,フローチャートの感度,特異度,陰性反応的中度,一致率は極めて高かった.よって直接訓練開始可能レベルの判定において,フローチャートは有用であると考えられた.また安全性も高く特にVFを持たない施設において有用であると結論できた.
著者
西北 健治 井尻 朋人 鈴木 俊明
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.222-228, 2021-12-31 (Released:2022-05-11)
参考文献数
21

【目的】本研究は,体幹傾斜角度と頸部の角度を変化させたリクライニング車椅子姿勢と嚥下困難感との関係を明らかにすること,また顎舌骨筋と胸骨舌骨筋の座位姿勢の筋活動量と嚥下困難感との関係を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は健常成人10名とした.課題は ① 姿勢保持の筋活動の測定,② 9パターンの姿勢での嚥下動作,③ 各姿勢での嚥下困難感の回答とした.座位姿勢は頸部屈曲20°,中間位,伸展20°の3 パターンと体幹傾斜80°,70°,60°の3 パターンを組み合わせた9 パターンを設定した.嚥下困難感は安静座位(頸部中間位,体幹鉛直位,股関節,膝関節共に屈曲90°,足底は床面接地)での嚥下を基準として,10 が最も飲み込みやすいとした0~10 で回答させた.筋活動の測定は顎舌骨筋と胸骨舌骨筋とした.【結果】頸部屈曲20°,中間位,伸展20°いずれにおいても,体幹傾斜60°が80°より有意に嚥下困難感の値が低値であった.そして,体幹傾斜60°かつ頸部伸展20°は他の肢位と比べ嚥下困難感の値が最も低値であった.またリクライニング車椅子座位姿勢時の顎舌骨筋,胸骨舌骨筋の姿勢時筋電図積分値相対値と嚥下困難感に有意な負の相関を認めた.顎舌骨筋はr =-0.50,胸骨舌骨筋はr =-0.54 であった.【結論】体幹傾斜60°かつ頸部伸展20°は,他の肢位と比べ嚥下困難感の値は低値であり,その要因として,姿勢保持時に顎舌骨筋と胸骨舌骨筋の筋活動の大きさが関係すると考えられた.嚥下困難感を生じさせないためには,顎舌骨筋と胸骨舌骨筋の筋活動が少ないポジショニングを検討することも一つの指標になると考えられた.
著者
篠崎 昌子 川崎 葉子 内田 武
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.55-63, 2004-06-30 (Released:2020-08-21)
参考文献数
23

肢体不自由児通園施設の摂食指導において,指導に難渋する症例に遭遇することがある.12年間に摂食指導を受けた716名のうち,脳性麻痺などの原疾患により嚥下に障害があるため,訓練を継続したが24名が全面的に経管栄養が必要であった.一方,嚥下や口腔機能に大きな異常はないが,1年以上にわたり拒否のため経口摂取が進展しなかった21名を経験した.この21名は原因により 1)顔面,口腔,食道に外科的治療や処置の既往のある10名, 2)Costello症候群6名, 3)重度精神遅滞と難治性のてんかんを合併した5名の3群に大別された.外科的疾患症例では,新生児,乳児期からの治療に伴うさまざまの不快体験,指しゃぶりやおもちゃなめといった乳児期の感覚体験の欠如,味覚体験の遅延,強制栄養による空腹感の欠如などが摂食拒否と関係している可能性があった.また食べさせようとする介助者との心理的葛藤が,増悪要因になっていることも考えられた.比較的早期より経口摂取を経験した症例では,経口摂取への移行が順調に進んだ.一方,外科治療を反復し,味覚体験や経口摂取経験が遅れるほど,移行は困難であった.味覚体験や嚥下の時に食物塊が咽頭を通過する圧触覚体験には感覚入力として臨界期があり,未体験のままこの時期を過ぎると,経管依存あるいは不可逆性の摂食拒否の状態を引き起こすと考えられた.Costello症候群では摂食拒否の期間はさまざまであるが,学童期以降,自然軽快することが特徴であった.重度精神遅滞と難治性てんかんを合併した症例では,誘因が不明または些少の状況変化によって,摂食拒否や食への無関心といった症状が惹起されており,このような病態では「食への欲求」という基本的な生命維持力へも障害が及ぶことを示唆していた.
著者
髙橋 摩理 内海 明美 大岡 貴史 向井 美惠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.284-291, 2011-12-31 (Released:2020-06-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

地域療育センターを利用している自閉症スペクトラム障害(以下,ASD)と診断された小児のうち,研究協力の同意が得られた小児とその保護者338 名を対象にアンケートを行った.アンケートの調査項目は,食事時における問題行動の有無,食べ方の問題の有無,感覚偏倚の有無,嫌がる行為の有無,である.アンケートの質問項目について,年齢および発達レベルとの関連,食事時における問題行動の有無・食べ方の問題の有無と感覚偏倚との関連の検討を行った.食事時の問題行動として「立ち歩く」「ガタガタさせる」,食べ方では「1 品食べ」「詰め込み」「丸飲み」が多くみられた.食事時の問題行動は発達レベルとの関連がみられ,年齢に応じて問題が自然に軽減・消失することが困難であると推察された.感覚偏倚は「嫌がる触覚がある」「好きな触覚がある」「嫌いな音がある」が30% 以上にみられたが,年齢や発達レベルとの間に一定の傾向はなかった.嫌がる行為は8,9 歳群,正常群に少なく,過去はあったが現在はない「過去あり」の占める割合が多いことから,成長により改善できる項目と推察できた.食事における問題と感覚偏倚の間に多くの関連がみられ,感覚偏倚の軽減が重要であるが,対応は困難と思われる.嫌がる行為が改善している様子がうかがわれたことから,感覚偏倚というASD の特性はありながら,食事時を含む日常生活上の問題を改善できる可能性があると推察された.そのためには,全体的な発達を促す対応が重要と思われた.
著者
佐藤 光絵 山縣 誉志江 栢下 淳
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.102-113, 2021-08-31 (Released:2021-12-31)
参考文献数
24

【目的】嚥下調整食学会分類2013 推奨のとろみ液の簡易評価法であるLine Spread Test(LST)は,溶媒や増粘剤の種類によっては正しく粘度評価できないと報告されている.一方,International Dysphagia Diet Standardisation Initiative(IDDSI)推奨のシリンジテストを検証した報告は少ない.本研究は,シリンジの種類による誤差の検証,溶媒の種類による影響の検証,およびLST との比較を目的とした.【方法】試料は,ずり速度50 s-1 における粘度が50,150,300,500 mPa・s 程度になるよう,とろみ調整食品で粘度調整した.試験1:水と経腸栄養剤をキサンタンガム系,デンプン系のとろみ調整食品でとろみ付けし,3社(BD, TERUMO, JMS)のシリンジを用いてテストを行った.また,BDの結果より検量線を作成し,各シリンジテストの残留量より粘度を推計,誤差を検証した.試験2:水,食塩水,お茶,オレンジジュース,経腸栄養剤をキサンタンガム系とろみ調整食品でとろみ付けし,シリンジテストを行った.試験3:水と経腸栄養剤をキサンタンガム系とろみ調整食品でとろみ付けし,シリンジテストとLSTを行った.【結果と考察】試験1:シリンジの種類により残留量が変化したが,BD のシリンジテストの検量線を用いてTERUMO・JMS の残留量より粘度を推計したところ,全試料の約8 割は粘度との差が10% 未満で,現実的に問題は少ないと思われた.試験2:お茶とオレンジジュースは水と同様の残留量となった.経腸栄養剤は残留量が他の溶媒より少ない傾向があり,食塩水はばらつきが大きかった.経腸栄養剤は実際の粘度より薄く評価しやすいこと,食塩水はテスト値が不安定であることに注意を要すると思われた.試験 3:LST は経腸栄養剤の全試料において,低粘度の水よりLST 値が高くなることがあった.シリンジテストは,LST でみられたような順位の逆転が粘度の高い領域のみでみられた.薄いとろみに関しては粘度の分類に矛盾がない点において,シリンジテストはLST よりとろみ液の簡易評価法として優れていると考えられた.
著者
原田 瞬 立山 清美 日垣 一男 田中 啓規 宮嶋 愛弓
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.165-172, 2017-12-31 (Released:2020-04-20)
参考文献数
16

自閉スペクトラム症(ASD)は,社会的コミュニケーションの障害を主症状とし,近年増加傾向にある.ASD 児は,定型発達児よりも高い割合で偏食等の食事に関する問題をもつことが知られている.著者は,臨床で口を開けたまま咀嚼しているケースを多く目にした経験から,ASD 児には口腔機能の未熟さがあり,食べにくいという経験を積み重ねやすいのではないかと考えた.ASD 児の口腔機能については,食事場面の観察評価から,捕食,咀嚼,前歯咬断や嚥下の問題が指摘されている.しかし,定量的な指標を用いた評価や定型発達児と比較検討した報告はなされておらず,ASD 児の口腔機能の実態は十分には明らかになっていない.そこで,本研究の目的は,定型発達児との比較によりASD 児の口腔機能の特徴を明らかにすることとした.ASD 群27 名,定型発達群25 名を対象に,捕食機能,咀嚼機能の定量的な評価を試みた.捕食機能については,定型のスプーンからヨーグルトを捕食した際にスプーンに残ったヨーグルトの量から評価した.咀嚼機能については,定型定量のせんべいを摂取した際の咀嚼回数と,咀嚼中にどの程度口唇閉鎖ができているかを評価した.両群の口腔機能を統計的に比較した結果,ASD群においては,口唇を使ってスプーンから食物を取り込む捕食機能が未熟であった.また,定型定量の食物を食べた際の咀嚼回数が定型発達群よりも有意に多く,咀嚼中の口唇閉鎖が明らかに未熟である児が多かった.ASD 児の食事に関する問題については,ASD 児の感覚の偏りや,行動の特性によるものと考えられてきたが,口腔機能の未熟さという視点を加え,総合的な支援が必要であることが示唆された.
著者
小山 珠美 黄金井 裕 加藤 基子
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.20-31, 2012-04-30 (Released:2020-05-28)
参考文献数
25

【目的】脳卒中急性期では,肺炎などの合併症や廃用症候群の予防を含めたリスク管理に加えて,早期経口摂取の開始と段階的摂食訓練,セルフケア能力の向上にむけた系統的,包括的な摂食・嚥下リハビリテーションが必要である.今回,脳卒中急性期患者への効果的な摂食・嚥下リハビリテーションを行うために,平成19 年度より実施したプログラムの有効性を検討した. 【対象】平成18 年4 月1 日から平成21 年3 月31 日までに,救急搬送された脳卒中急性期患者のうち,摂食機能療法で介入した367 名.男性223 名,女性144 名,平均年齢71±12.8 歳. 【方法】367 名の属性および摂食機能療法介入による結果(経口摂取移行者数,入院から摂食機能療法開始までの日数,入院から経口移行までの日数,入院中の肺炎発症率,退院時嚥下能力グレード点数,平均在院日数)を年度ごとに比較し,プログラム実施前後の変化および影響因子を検討した.分析は統計ソフトSPSS ver13 を使用し,統計学的有意水準は5% 未満とした. 【結果】プログラム実施前(平成18 年度)に比べ,プログラム実施後(平成19 年度・20 年度)は経口摂取移行者が増加し(プログラム前83.1%,プログラム後93.4%),入院から経口摂取移行までの日数が短縮した(プログラム前14 日,プログラム後6.8 日).また,入院中の肺炎発症率が減少(プログラム前13%,プログラム後2.8%),退院時嚥下能力グレードが改善し(プログラム前7.6 点,プログラム後8.8 点),普通食を食べて退院できる患者が増えた.また,ロジスティック回帰分析により,プログラムは,入院中肺炎発症を減少させ,退院時嚥下能力グレードを改善させていた. 【結論】脳卒中急性期において,入院当日からの包括的なプログラムにより実施される摂食・嚥下リハビリテーションは,早期経口摂取の再獲得を高め,経口摂取移行率を増加させた.また,肺炎合併症の予防,退院時嚥下能力グレードの改善に寄与することが示唆された.
著者
斎藤 徹 石井 芝恵 小池 早苗 小澤 照史 川田 陽子
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.274-281, 2014-12-31 (Released:2020-04-30)
参考文献数
46

【目的】統合失調症の嚥下障害者における誤嚥発症の要因を解析することを目的とした.【対象と方法】対象症例は2009 年11 月から2014 年1 月の間に当院歯科口腔外科を受診した統合失調症の嚥下障害者225 例とし,後方視的研究を行った.対象症例は男性122 例,女性103 例であり,平均年齢は65.5 歳(標準偏差12.5 歳)であった.これらの症例における水の誤嚥の有無を嚥下内視鏡検査(Videoendoscopic examination of swallowing,VE)により評価した.VE 施行時に投与されていた種々の抗精神病薬の投与量を,クロルプロマジン(CP)の力価に換算したCP換算量の平均は501 mg /日(標準偏差584 mg)であった.本研究では,水の誤嚥の有無と,年齢,性別,日常生活の自立の可否,屋内生活の自立の可否,座位の可否,肥満係数(BMI),CP 換算量,口腔顔面ジスキネジア発症の有無および咽頭反射の有無との関連を,単変量解析およびロジスティック回帰分析(変数減少法)を用いた多変量解析にて検索した.【結果】単変量解析では,水の誤嚥と,BMI(p=0.022),日常生活の自立の可否(p=0.036)および咽頭反射の有無(p=0.004)との間に有意な関連を認めた.しかし,性別,年齢,屋内生活の自立の可否,座位の可否および口腔顔面ジスキネジア発症の有無と,水の誤嚥との間には有意な関連は認められなかった.上記の9 要因と水の誤嚥との関連を,ロジスティック回帰分析で解析した結果,誤嚥の有無は咽頭反射の有無と有意(p=0.015)に関連していたが,他の8 要因とは有意な関連は認められなかった.【結論】ロジスティック回帰分析により,統合失調症の嚥下障害者では,咽頭反射の有無が水の誤嚥の有無と有意に関連することが認められた.
著者
斎藤 徹 小池 早苗 小澤 照史 臼井 洋介
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.201-208, 2013-12-31 (Released:2020-05-28)
参考文献数
43

【目的】統合失調症の嚥下障害者における嚥下機能低下の要因を,重回帰分析を用いて解明することを目的とした.【対象と方法】2008 年4 月から2012 年11 月の間に当院歯科口腔外科を受診した統合失調症の嚥下障害者272 例を対象とし,後方視的研究を行った.男性:147 例,女性:125 例で,平均年齢は68.6 歳(標準偏差:12.7 歳)であった.歯科口腔外科初診時(嚥下機能評価時)に投与されていた種々の抗精神病薬の投与量を,chlorpromazine(CP)の力価に換算したCP換算量の平均は454 mg/日(標準偏差:603 mg)であった.嚥下機能は,Functional Oral Intake Scale(FOIS)に基づき評価した.【結果】年齢,日常生活の自立の可否,屋内生活の自立の可否,座位の可否,CP 換算量および口腔顔面dyskinesia 発症の有無を説明変数,FOIS を目的変数として,重回帰分析を行った.その結果,日常生活の自立の可否(p<0.05),屋内生活の自立の可否(p<0.0001)および座位の可否(p<0.01)とFOIS との間に,有意な相関が認められた.しかし,年齢(p=0.990),嚥下機能評価時のCP 換算量(p=0.092)および口腔顔面dyskinesia 発症の有無(p=0.056)とFOIS との間には,有意な関連は認められなかった.【結論】統合失調症の嚥下障害者の嚥下機能は日常生活自立度(ADL)と有意に相関することが認められたが,年齢,嚥下機能評価時の抗精神病薬の投与量および口腔顔面dyskinesia 発症の有無との間には,有意な関連は認められなかった.
著者
横関 彩佳 森田 倫正 小浜 尚也 永見 慎輔 福永 真哉
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.173-179, 2022-12-31 (Released:2023-04-30)
参考文献数
26

【目的】高齢者の嚥下障害の有無は誤嚥性肺炎と密接に関連し,その発症リスクを増加させることが指摘されている.そのため,早期から嚥下機能の評価や対応を行うことが望ましい.当院では,嚥下障害が疑われた症例に対し,主に嚥下内視鏡検査(VE)を用いて評価を行っている.VE 検査は簡便に実施することができ,質の高い評価が可能であるものの,本邦ではVE 検査所見から誤嚥性肺炎発症との関連因子を検討した報告は少なく,十分な研究が行われていない.そこで本研究では,臨床現場でしばしば遭遇する高齢者の誤嚥性肺炎に焦点をあて,VE 検査所見から嚥下動態を解析することで,誤嚥性肺炎の発症に関連する因子を明らかにすることを目的とした.【対象と方法】当院にて嚥下障害が疑われVE 検査を受けた65 歳以上の高齢者254 例を対象とし,1 カ月以内に誤嚥性肺炎発症の既往がある群(54 例)と非発症群(200 例)で,VE 検査における嚥下動態について統計学的に比較検定を行い,関連性を検討した.加えて,検査時の姿勢,藤島の摂食嚥下能力グレード(FILS),栄養状態について統計学的に比較検討を行った.【結果】誤嚥性肺炎既往群と非既往群の群間比較では,男性,高年齢,神経変性疾患の有無,検査時の姿勢,FILS で有意差を認めた(p<0.05).VE 検査所見では,声門閉鎖の程度,梨状陥凹唾液貯留,早期咽頭流入,水分の梨状陥凹残留で有意差を認めた(p<0.05).誤嚥性肺炎の既往の有無を目的変数,2 群間の比較で有意差を認めたVE 検査項目を説明変数としたロジスティック回帰分析では,早期咽頭流入が抽出された.【結論】本研究の結果,誤嚥性肺炎の既往がある高齢者のVE検査所見から,誤嚥性肺炎の既往に関連する因子として早期咽頭流入に着目する必要があると考えられた.
著者
塚谷 才明 小林 沙織 金原 寛子 山本 美穂 長東 菜穂 酒井 尚美 中村 さおり 小林 孝行 兼田 美紗子 牧野 桜子 赤田 拓子 岡部 克彦 小森 岳 高塚 茂行
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.247-257, 2020-12-31 (Released:2021-04-30)
参考文献数
28

【目的】誤嚥性肺炎患者の中長期的な生命予後に関する報告は少ない.この研究の目的は,誤嚥性肺炎患者の中長期的生命予後ならびに予後因子を明らかにすることである.【方法】本研究は,後方視的に検討したコホート観察研究である.2018 年4 月から2019 年3 月までの1 年間,耳鼻咽喉科に嚥下評価依頼のあった症例のうち,主病名が誤嚥性肺炎の入院患者を対象とした.脳血管障害急性期に続発した誤嚥性肺炎例,嚥下評価前の肺炎急性期に死亡した例は対象外とした.生命予後に関係する因子として,年齢(3 群:74 歳以下,75 歳から89 歳,90 歳以上),性別,嚥下障害重症度(2 群:正常~機会誤嚥,水分誤嚥~唾液誤嚥),日常生活自立度(2 群:非寝たきり,寝たきり),BMI(3 群:18.5 以上,18.5~16,16未満),代替栄養の有無,既往症・併存症(肺炎既往,脳梗塞既往,パーキンソン病,認知症,高血圧,糖尿病)に関して多変量解析を行い,ハザード比(HR)を求めた.患者生死,生存日数,代替栄養導入の有無に関しては,2020 年1 月から4 月の期間,電話による聞き取り調査を行った.【結果】誤嚥性肺炎患者は109 例,年齢中央値86 歳,64 歳以下は5 例のみで104 例は65 歳以上であった.調査期間内の死亡67 例,生存42 例,生存期間中央値254 日,6 カ月生存率54.8%,1 年生存率41.8% であった.予後因子のHR は高齢1.76,男性1.78,水分誤嚥以下の嚥下機能2.01,寝たきり2.39,BMI 低値1.60,代替栄養導入あり0.27 と,6 項目すべてにおいて有意差を認めた.既往症・併存症では,パーキンソン病があると生命予後悪化を認めた(HR5.00)が,その他は有意差を認めなかった.【結論】誤嚥性肺炎患者の半数以上が1 年の時点で死亡していた.高齢,男性,水分誤嚥以下の嚥下機能,寝たきり,BMI の低下が生命予後を悪化させる因子であり,代替栄養の導入は生命予後を改善した.既往症・併存症のうちパーキンソン病は生命予後を悪化させた.
著者
田澤 悠 村上 健 堀口 利之
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.121-129, 2020-08-31 (Released:2020-12-31)
参考文献数
27

【目的】 近年,COPD の増悪に誤嚥が関与していることが明らかになってきている.今後の課題はCOPD 増悪の予防であり,呼吸機能や嚥下機能が具体的にどのようにCOPD の増悪に関わっているのかについて知ることが重要であると考えられる.今回,外来通院中のCOPD 患者を対象に,呼吸機能に加え嚥下機能に関する評価を行い,それらが過去の増悪歴の有無を有意に反映するかどうかを検討した.【方法】 対象は,外来通院中のCOPD 24 名(男性22 名,女性2 名)とした.増悪と診断されて入院の適応となった既往を増悪歴有りとすると,増悪歴が有ったのは11 名,無かったのは13名であった.MASAから抜粋した項目を評価した.嚥下造影検査により10 mL の液体嚥下での喉頭侵入/ 誤嚥の有無を調べ,スパイロメトリーでは特に努力肺活量(FVC),1 秒量(FEV1),対標準1 秒量(%FEV1),最大呼気流量(PEF)などを検討項目とした.次いで各々の項目に対し増悪歴の有無を最も効率的に分類できる最適cutoff値(co)を求め,各評価項目および測定値と増悪歴との関係を検討した.解析にはFisher の正確確率検定あるいはχ2 検定を用い,各々の項目の2 群と増悪歴に有意な関係を認めるかどうかを検討した.【結果】 増悪歴と有意な関係を認めたのは%FEV1(co: 42.0%, p=0.033)であった.一方,MASA, FVC,PEF は,増悪歴と有意な関係を認めなかった.【考察】 MASA は,嚥下機能低下が顕在化するに至っていない本研究の対象者において増悪歴を反映しないものと考えられた.PEF が有意ではなかったにもかかわらず%FEV1 が有意であったことは,PEF が瞬間的な呼気流速を反映するのに対し,%FEV1 は呼気流速に加え呼気流量も反映するためで,すなわち誤嚥に対する下気道防御においては,呼気流速に加え呼気流量も重要であることを示したと考えられた.