1 0 0 0 OA 小児領域

著者
森内 浩幸
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.27, 2023 (Released:2023-07-21)
参考文献数
22

【要旨】子どもは当初 SARS-CoV-2 に感染することが少なかったが、オミクロン株に置き換わってから感染例が激増した。ただ子どもは大人(特に高齢者)にくらべて重症化することがきわめて少なく、その機序としては自然免疫応答の強さや抗感冒コロナウイルス免疫の交差反応が想定されている。重症化率は低くても感染例が激増したことを受けて重症例・死亡例がみられるようになり、特に国内では急性脳症の併発が危惧されている。またコロナ禍における社会の変化や子どもの感染予防対策が過度に行われることにより、子どもの心の発達を妨げられ心の健康を蝕まれていることに留意すべきである。
著者
﨑山 佑介
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.16, 2023 (Released:2023-07-21)
参考文献数
24

【要旨】次世代シーケンサーを活用したショットガンメタゲノム解析とはサンプル内に含まれる細菌や真菌、ウイルス、原虫などの病原体ゲノムをわずか1 つのアッセイで網羅的に検出できる革新的なゲノム診断技術である。わずかなサンプル量から病原体ゲノムを検出できるため、生検脳や脳脊髄液を対象にした本解析は、脳炎や髄膜炎の感染症スクリーニングとして役立つ。一方で、高コストであり、偽陽性や偽陰性の問題もある。
著者
大場 洋
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.15, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
8

【要旨】Neuroimaging plays a crucial role in the diagnosis in infectious diseases of the central nervous system. The review summarizes top 10 important things to know in the imaging diagnosis of infectious diseases of the central nervous system. 1. Herpes simplex virus encephalitis. MR image shows high signal in the temporal lobes, insulae, and cingulate gyri bilaterally on T2-weighted images, FLAIR images and diffuse weighted images. 2. Varicella-zoster virus (VZV)infection. MR images shows multiple focal high signal intensities in cerebral cortices and white matters especially peri-ventricular areas on T2-weighted images. VZV vasculopathy causes cerebral arteries occlusion resulting in cerebral infarctions and rarely hemorrhages. 3. Japanese encephalitis. Bilateral thalamic and nigral involvement is classical MR imaging. Other areas may be involved are pons, cerebellum, basal ganglia, cerebral cortex and spinal cord. 4. Influenza encephalopathy includes acute necrotizing encephalopathy, acute brain swelling encephalopathy, hemorrhagic shock and encephalopathy syndrome (HSES), Acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion (AESD), mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion (MERS). 5. progressive multifocal leukoencephalopathy (PML)shows asymmetric periventricular and subcortical white matters, brainstem and cerebellar white matters involvement. Lesions show T1 and T2 prolongation and sometimes diffusion restriction. 6. human immunodeficiency virus encephalopathy/encephalitis shows symmetric cerebral white matter T2 prolongation. 7. Cerebral abscess and subdural empyema shows diffusion restriction on diffusion weighted images and are critical for the diagnosis. Bacterial meningitis shows meningeal enhancement on post gadolinium T1-weighted images. 8. The neuroimaging characteristics of tuberculous meningitis classically include leptomeningeal and basal cisternal enhancement, ventriculomegaly due to hydrocephalus, periventricular infarcts, and the presence of tuberculomas. 9. Neurosyphilis shows cerebral and meningovascular involvement and appears T2 prolongation and meningeal contrast enhancement. Syphilitic gummas appear as small focal nodules adjacent to the meninges and shows homogeneous contrast-enhancement. 10. cerebral sparganosis mansoni typically shows tubular enhancement in a linear or curvilinear fashion-the tunnel sign-on post gadolinium T1-weighted images
著者
浜口 毅 山田 正仁
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.65, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
33

【要旨】Creutzfeld-Jakob 病(Creutzfeldt-Jakob disease、以下 CJD)に代表されるプリオン病は、脳における海綿状変化と異常プリオンタンパク質蓄積を特徴とする神経変性疾患である。ウシ海綿状脳症からヒトへ伝播したと考えられる変異型 CJD やヒト乾燥屍体硬膜移植や成長ホルモン療法、脳外科手術等によって伝播したと考えられる医原性 CJD のように、プリオン病は同種間あるいは異種間で伝播しうる。一方、Alzheimer 病(Alzheimer's disease、以下 AD)の病理学的特徴の一つであるアミロイドβタンパク質(amyloid β protein、以下 Aβ)の脳への沈着も、プリオン病の異常プリオンタンパク質と同様に個体間を伝播することを示す動物実験結果が近年多数報告され、さらに、硬膜移植後 CJD や成長ホルモン製剤関連 CJD といった医原性CJD 剖検脳の検討から Aβ病理変化がヒトにおいても個体間を伝播した可能性が報告されている。脳血管へのアミロイド沈着症である脳アミロイドアンギオパチー(cerebral amyloid angiopathy、以下 CAA)は、脳血管へ Aβが沈着する孤発性 CAA(Aβ-CAA)が、高齢者や AD 患者でしばしば認められるが、若年での報告はきわめて少ない。しかし、近年、若年発症の CAA 関連脳出血の症例が複数報告され、それらの症例は脳外科手術歴を有していたことから、脳外科手術での Aβ-CAA が個体間伝播した可能性が指摘されている。 これらの症例にはヒト乾燥屍体硬膜移植がはっきりしない症例も含まれており、ヒト乾燥屍体硬膜移植だけでなく脳外科手術器具によって Aβ-CAA が個体間伝播した可能性も疑われている。
著者
雪竹 基弘
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.72, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
30

【要旨】進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy、以下 PML)の概説と、最近の話題を論じた。PML 診療は病態修飾療法(disease modifying therapy、以下 DMT)関連 PML に対応する時代であり、特に多発性硬化症(multiple sclerosis、以下 MS)の DMT 関連 PML が注目されている。MS における新規 DMT は本来 PML の基礎疾患ではない MS に、その薬剤自体が単剤で PML を発生させるという意味で重要である。薬剤関連 PML においては免疫抑制剤等による日和見感染症としての PML のみでなく、DMT 関連 PML という新たな要因が加わった。その他、PML に特徴的とされる MRI 所見の提示と、PML 治療の可能性に関してマラビロクとペムブロリズマブによる PML 治療の報告を紹介した。
著者
中嶋 秀人
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.64, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
20

【要旨】抗 N-methyl-d-aspartate 型グルタミン酸(NMDA)受容体抗体を含む神経細胞表面抗体が関与する自己免疫性脳炎の臨床スペクトラムが解明されるにつれ、自己免疫性脳炎の診断機会が著しく増加している。一般的に自己免疫性脳炎は免疫療法に良好な反応性を示すため、早期の抗体診断にもとづく免疫療法の導入が推奨され、自己免疫性脳炎の診断アルゴリズムも提唱されている。自己免疫性脳炎の診断として、抗 NMDA 受容体抗体など個々の神経細胞表面抗体の同定には cell-based assay(CBA)が有用であるが、自己免疫性脳炎の幅広い臨床スペクトラムにおいては既知の CBA が陰性のことも少なくないため、CBA の相補的検査であるラット脳凍結切片を用いた免疫染色である tissue-based assay(TBA)と初代海馬培養細胞による抗体診断を併用した神経抗体スクリーニングを含む診断アルゴリズムの構築が求められる。実際の臨床の現場においては、TBA を含む抗体スクリーニングで陽性を確認したのち CBA の結果を待たずすみやかに免疫療法を導入する治療アルゴリズムが適用できる可能性がある。近年、スペインにおける単純ヘルペス脳炎コホートを対象とした前向き追跡調査では、単純ヘルペス脳炎後 27%に自己免疫性脳炎が続発し、全例で神経細胞表面抗体が陽性であることが確認されている。単純ヘルペス脳炎を含めた神経感染症と自己免疫性脳炎の双方をあわせて理解したうえで、自己免疫性脳炎の新しい診療アルゴリズムについて考察する。
著者
豊田 一則
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.75, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
16

【要旨】近年の衛生環境の変化に伴い、梅毒や結核などの脳動脈への直接感染は減った。現在での直接感染による脳卒中の代表例は感染性心内膜炎で、患者の 10〜35%に脳合併症を認める。一方で脳動脈に対する感染の間接作用として、末梢血単核球からの炎症性サイトカインの増加をはじめとする諸反応が粥状硬化を促進し脳梗塞を起こし得る。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、発生初期の報告では脳卒中を増やしたが、その後の各地からの報告では脳卒中患者が減ったとの報告が目立ち、これには受診控えなどの社会的側面が影響するとみられる。
著者
河村 吉紀
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.70, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
19

【要旨】ヒトヘルペスウイルス 6B(HHV-6B)は乳幼児期に好発する熱性発疹症である突発性発疹の原因病原体である。本症は熱性けいれんや急性脳症といった中枢神経系合併症の合併頻度がほかの熱性疾患にくらべて高い。脳炎、脳症に加え、近年 HHV-6B の関与が示唆されている中枢神経疾患として内側側頭葉てんかん(MTLE)がある MTLE の主要な病理所見である内側側頭葉硬化症(MTS)の発症には、小児期のけいれん重積や複雑型熱性けいれんとの関連が示唆されている。本稿では、MTLE 発症における HHV-6B の関与について最新の知見を交え概説する。
著者
加藤 哲久 川口 寧
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.38, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
18

【要旨】ウイルスは感染伝播の必要性から、ウイルス粒子にゲノムをパッケージングしなければならない。この生存に必須な過程を効率化するため、ウイルスはゲノムサイズを最少化させ、遺伝子重複や選択的スプライシング等の非標準的なエレメントを獲得することで、限られたゲノムに多様な遺伝情報を搭載してきた。近年、大型 DNA ウイルスである単純ヘルペスウイルス1 型(HSV-1)もまた、非標準的遺伝子をコードすることが明らかとなりつつある。本総説では、chemical proteomics を駆使した非標準的ウイルス遺伝子の解読の確立と解読した新規遺伝子産物である piUL49 の HSV-1 神経病原性への関与に関して解説する。

1 0 0 0 OA 狂犬病

著者
伊藤(高山) 睦代
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
神経感染症 (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.113, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
19

【要旨】狂犬病(Rabies)は狂犬病ウイルスにより引き起こされる致死的な神経感染症である。感染動物に咬まれることにより体内に侵入したウイルスは、神経細胞を逆行性に伝播して1〜3ヵ月の潜伏期を経て脳に到達する。そしてさまざまな神経症状を引き起こし、発症から1週間程度で呼吸器不全や多臓器不全等によりほぼ 100%が死亡する。日本は過去 60 年以上狂犬病の発生がないが、世界では年間 59,000 人が狂犬病により亡くなっていると推定されている。狂犬病を発症した場合、有効な治療法はないが、感染後すぐにワクチン接種を行うことにより、ほぼ 100%発症を予防できる。狂犬病について正しい知識を得ることが、ヒトの死亡をゼロにするために重要である。
著者
西條 政幸
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
神経感染症 (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
17

【要旨】単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus-1、以下 HSV-1)によって引き起こされる疾患は 一般的に良性感染症といえるものの、造血幹細胞移植患者や原発性免疫不全患者では、HSV-1 は重篤で、かつ、慢性に経過する重篤な病態を引き起こす場合がある。大学医学部を卒業して小児科医として勉強し始めたころ、一人の原発性免疫不全症(Wiskott-Aldrich 症候群)の患者と出会った。その患者は3歳のときにHSV-1 に初感染し、再活性化に伴う口唇ヘルペスを繰り返し発症する状態になった。その当時から幸いにも抗ヘルペス薬アシクロビル(acyclovir、以下 ACV)が用いられるようになり、この患者の HSV-1 感染症はACV により治療された。しかし、ACV 治療を継続していたところ、ACV 耐性 HSV-1 による難治性 HSV-1 皮膚粘膜感染症を発症するようになった。また、この患者に対して免疫能再構築を目的に、同種骨髄移植が実施されたが、その際に重症皮膚粘病変が眼瞼部、口唇部などに出現し、ウイルス学的に調べたところ ACV 耐性 HSV-1 によることが明らかにされ、DNA ポリメラーゼ(DNApol)阻害薬フォスカルネット(foscarnet:PFA)で治療された。症状は軽快したが PFA 耐性 HSV-1 が出現した。残念ながらこの患者は移植約半年後に JC ウイルスによる進行性多巣性白質脳症によって亡くなった。この患者に関するウイルス学的検査や研究を行う過程で多くのことを学んだ。ACV 耐性 HSV-1 による新生児での脳炎を世界で初めて報告する研究にも参画し、造血幹細胞移植患者における ACV 耐性 HSV-1 感染症に関する研究を主催する機会も得た。これらの患者から多くのことを学び、多くの共同研究者に支援をいただいた。本論文では、これまでの私が行ってきた患者から学ぶ HSV-1 感染症研究について紹介する。