著者
伊藤(高山) 睦代
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.124, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
20

【要旨】2020 年5 月に日本では 14 年ぶりとなる狂犬病の輸入症例が発生した。患者はフィリピンで犬に咬まれてから8 ヵ月後に発症し、治療の甲斐なく約1 ヵ月後に亡くなった。狂犬病は狂犬病ウイルスにより引き起こされる致死的な神経感染症であり、世界では年間推定 59,000 人が亡くなっている。日本は 1957 年の清浄化後国内での発生はないが、これまでも 1970 年と 2006 年に計3 件の輸入症例が報告されている。狂犬病は一度発症すると有効な治療法はないが、長い潜伏期を利用して咬傷後すぐにワクチン接種を行うことにより、ほぼ100%発症を予防できる。渡航者への啓蒙活動と医療関係者への注意喚起が重要である。
著者
平山 正昭
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.80, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
35

【要旨】パーキンソン病では、Braak らによる Lewy 小体病理が迷走神経背側核から青斑核、黒質に次第に進展するという prion-like の進展仮説から、α-synuclein の上行性伝播が病態にかかわるのではないかと考えられるようになった。prion-like の進展仮説や血行性免疫障害説に腸内細菌が関与する可能性が考えられている。しかし、すでにパーキンソン病の腸内細菌の報告は 15 報以上になるにもかかわらず結果が一致しない。本稿では、腸内細菌がパーキンソン病を発症させる原因と考えるエビデンスや腸内細菌の既報告をレビューする。
著者
吉川 哲史
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
神経感染症 (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.39, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
13

【要旨】水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus、以下 VZV)は初感染で水痘を起こし、その後脊髄後根神経節に潜伏感染し宿主の加齢、免疫抑制、ストレス等に伴い再活性化し帯状疱疹を起こす。水痘予防のためワクチンが定期接種化され水痘患者数は減少しているが(pros)、一方で患者数減少に伴うナチュラルブースター効果の減衰に伴い、既感染者の水痘特異的細胞性免疫能の減衰スピードが速くなり、帯状疱疹患者の増加、若年化が懸念されている(cons)。帯状疱疹患者の増加は、疱疹後神経痛だけでなくウイルス再活性化に伴うさまざまな神経合併症の増加にもつながる。よって、今後帯状疱疹ワクチンによる帯状疱疹予防の重要性が増すと考えられる。
著者
高橋 徹
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
神経感染症 (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.49, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
30

【要旨】重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia symdrome、以下SFTS)は、 2011 年に中国から報告された SFTS ウイルスによるマダニ媒介新興ウイルス感染症である。日本でも流行しており、西日本地方で年間約 80 人が発症していて致死率は約 20%と高い。臨床像は高熱、血小板減少、白血球減少、下痢や嘔吐が特徴で、「ボーッとして理解が緩慢な感じ」の意識障害もよく伴う。AST、LDH、CK は上昇し、骨髄で血球貪食像をみる。特異的治療はなく、抗ウイルス薬のファビピラビルの治療開発が期待されている。マダニのほかに SFTS 発症ネコによる咬傷が新たな感染経路として注目されている。ヒト−ヒト感染もあり、患者を扱う医療者には標準・接触予防策が必須である。
著者
谷口 清州
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.111, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
5
著者
吉岡 暁 門前 達哉 久保 雄器 河野 優斗 千葉 篤郎 内堀 歩
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.154, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
8

【要旨】コロナウイルス(COVID-19)感染後に四肢筋力低下をきたし、Guillain-Barre 症候群(Guillain-Barre Syndrome:GBS)の診断で救命し得た症例を2 症例経験したので報告する。症例は 70 歳代と 50 歳の男性で、感冒症状出現からそれぞれ 15 日後、17 日後に四肢遠位優位の脱力が出現した。先行感染のある四肢筋力低下、腱反射消失を認めた。ICU にて気管内挿管、人工呼吸器管理とした。免疫グロブリン大量療法、単純血漿交換療法の両方を施行したが、四肢はほぼ完全麻痺にいたり、長期人工呼吸器管理となった。リハビリテーション病院に転院し、ADL は自立まで回復した。COVID-19 感染症が蔓延し、重症患者を診療する病床が不足するなかにおいても、COVID-19 感染後 GBS は重症であり、治療のための病床確保が必要である。
著者
大平 雅之 髙尾 昌樹 佐野 輝典 瀬川 和彦 富田 吉敏 佐藤 和貴郎 水澤 英洋
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.85, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
13

【要旨】新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)では、さまざまな精神・神経症状が急性期症状の回復後、長期に持続し、新たに出現することが知られるようになり、神経症候についてはCOVID-19 後神経症候群(PCNS)と呼ばれることもある。国立精神・神経医療研究センターでは 2021 年6 月より後遺症外来を開設し、このような PCNS あるいは COVID-19 後遺症の患者さんを積極的に受け入れている。当院でも嗅覚障害、記憶障害、不安、うつ状態、疲労など多彩な症候がみられ、その治療は容易ではない。今後は神経内科医を含む複数の専門科が横断的に COVID-19 の長期症状の診療にかかわることが望ましい。
著者
久枝 一
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
神経感染症 (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.55, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
19

【要旨】日本をはじめ、先進国で寄生虫感染症はほぼみられることはなくなった。しかし、世界に目を向けると人口の6割が感染のリスクにさらされている。グローバル化が進み輸入感染症として、また、地球温暖化により熱帯・亜熱帯に蔓延する寄生虫感染症が頻繁に起こる恐れもあり、寄生虫感染症を臨床の場でみることも多くなると予想される。寄生虫感染症のなかには中枢神経系を侵し、重篤な症状を示すものがある。本稿では、中枢神経病態を生じる寄生虫感染症について、注意喚起の意味も込めて紹介したい。
著者
高橋 健太 鈴木 忠樹 片野 晴隆 長谷川 秀樹
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.125, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
28

【要旨】中枢神経系では病原体の感染により種々の病態がもたらされる。病理学的には脳炎・脳症は組織形態により区別される。形態観察で炎症が認められる場合に脳炎、炎症を欠くものが脳症とされ、これらは宿主側の反応の違いによる。感染症の病理学的検索では、同一検体上で病原体の感染とその結果としての組織反応や形態変化の関係性を併せて評価することが重要となる。本稿では病原性微生物の感染による脳炎および脳症の代表的疾患につき病理組織像を提示しながら概説し、感染症が疑われる原因不明脳炎に対する国立感染症研究所感染病理部における網羅的な病原体の新規検索法についても紹介する。
著者
水口 雅
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.7, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
41

【要旨】急性脳症の研究は1980 年から現在まで、日本で急速に進歩した。1980〜2007 年には急性壊死性脳症、けいれん重積型(二相性)急性脳症、脳梁膨大部脳症など急性脳症の新しい症候群がつぎつぎと提唱、確立された。インフルエンザ流行期の急性脳症症例の多発が認識され、インフルエンザ脳症を対象に疫学調査、病態解明からガイドライン策定へと進んだ。2007 年に病原体による分類と症候群分類が整理された後は、急性脳症全体の疫学調査と症候群別の病態・診療の研究が進み、2016 年の急性脳症ガイドライン刊行へとつながった。同時期に発症の遺伝的背景となる遺伝子多型、変異が同定された。 今後の研究では、重症かつ難治性の症候群における早期診断と治療の開発が最大の課題である。
著者
林 昌宏
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.104, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
28

【要旨】わが国は日本脳炎およびダニ媒介脳炎の流行地である。日本脳炎ワクチンの接種等により日本脳炎の流行は制御されているが、現在も日本脳炎ウイルスの分布状況には変化がないことが疫学的に示されている。またダニ媒介脳炎は 1995 年に初めて国内流行が発生し、これまでに5 例の報告がある。さらに海外からこれまでに、ウエストナイル熱、デング熱・出血熱、ジカ熱等の蚊媒介性ウイルスによるヒトの輸入症例が報告されている。2014 年および 2019 年にはデング熱の国内流行が発生した。デングウイルス、ジカウイルス等を媒介するヒトスジシマ蚊は本州以南に生息するため、今後も蚊媒介性ウイルス浸淫の可能性は否定できない。蚊媒介性ウイルスの発生動向にはヒト、カ、気候、環境等の要因が複雑にかかわるためその予防には疾病の理解が必須である。
著者
川端 寛樹 佐藤(大久保) 梢
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.118, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
23

【要旨】ボレリア感染症としてライム病、古典型回帰熱および新興回帰熱が知られている。ライム病はわが国においては希少な感染症ではあるが、感染の機会は存在することが社会的によく知られている。古典型回帰熱は、「国内にはすでに存在しない、海外で流行している病気」として認識されていた一方で、輸入例が報告されたことや、新興回帰熱の発見があったことから、近年再び注目を浴びるようになった。本稿ではこれらボレリア感染症についてヒトの公衆衛生の観点から解説を行う。
著者
中島 一郎
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.60, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
21

【要旨】ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(myelin oligodendrocyte glycoprotein:MOG)は、中枢神経の髄鞘を構成する蛋白質の一つで、髄鞘の最外層に発現する免疫グロブリン構造を有する膜蛋白質である。近年、MOG を標的とする自己抗体、MOG 抗体が中枢神経に炎症性病変を生じるうることが報告されるようになり、MOG 抗体関連疾患(MOG-IgG associated disorders:MOGAD)として新たな疾患概念が確立しつつある。
著者
三須 建郎
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.56, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
12

【要旨】抗アクアポリン4(aquaporin 4:AQP4)抗体が発見されて以後、細胞表面抗原に対する抗体を検出することに重点が置かれる大きなパラダイムシフトがあったといえる。そのようななかで、わが国でも非ヘルペス性の自己免疫性脳炎のなかから最初に発見されることになったのが NMDA 受容体抗体関連脳炎である。以後、辺縁系脳炎において LGI1 抗体や AMPA 抗体などつぎつぎと自己抗体が報告されるにいたっている。これらの自己抗体は髄腔内で持続的に産生されることが知られ、病理学的に異所性リンパ濾胞を形成する形質細胞から持続的に産生されていることが明らかになっているが、AQP4 抗体のような補体介在性の細胞傷害はまれであり、NMDA 受容体抗体は抗体介在性に内在化させることで病原性を発揮するほか、LGI1 抗体はシナプスにおける蛋白結合を阻害することで、てんかん発作を誘発する。
著者
前木 孝洋
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.115, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
19

【要旨】日本脳炎(Japanese encephalitis:以下 JE)は、日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus:以下 JEV)の感染によって生じる中枢神経感染症である。JE 患者から急性期に採取された髄液中からでも JEV 遺伝子が検出されることはきわめてまれであるため、JE を正確に診断するためには、急性期に採取された髄液だけでなく、急性期血清と回復期血清(ペア血清)を採取、保管しておくことが重要である。2019 年、2020 年に日本で報告された JE 患者から検出された JEV の遺伝子型はⅠ型であった。JEV Ⅴ型株が近年、中国、韓国で検出されており、日本への侵入に注意を払う必要がある。
著者
大場 洋
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.15, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
8

【要旨】Neuroimaging plays a crucial role in the diagnosis in infectious diseases of the central nervous system. The review summarizes top 10 important things to know in the imaging diagnosis of infectious diseases of the central nervous system. 1. Herpes simplex virus encephalitis. MR image shows high signal in the temporal lobes, insulae, and cingulate gyri bilaterally on T2-weighted images, FLAIR images and diffuse weighted images. 2. Varicella-zoster virus (VZV)infection. MR images shows multiple focal high signal intensities in cerebral cortices and white matters especially peri-ventricular areas on T2-weighted images. VZV vasculopathy causes cerebral arteries occlusion resulting in cerebral infarctions and rarely hemorrhages. 3. Japanese encephalitis. Bilateral thalamic and nigral involvement is classical MR imaging. Other areas may be involved are pons, cerebellum, basal ganglia, cerebral cortex and spinal cord. 4. Influenza encephalopathy includes acute necrotizing encephalopathy, acute brain swelling encephalopathy, hemorrhagic shock and encephalopathy syndrome (HSES), Acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion (AESD), mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion (MERS). 5. progressive multifocal leukoencephalopathy (PML)shows asymmetric periventricular and subcortical white matters, brainstem and cerebellar white matters involvement. Lesions show T1 and T2 prolongation and sometimes diffusion restriction. 6. human immunodeficiency virus encephalopathy/encephalitis shows symmetric cerebral white matter T2 prolongation. 7. Cerebral abscess and subdural empyema shows diffusion restriction on diffusion weighted images and are critical for the diagnosis. Bacterial meningitis shows meningeal enhancement on post gadolinium T1-weighted images. 8. The neuroimaging characteristics of tuberculous meningitis classically include leptomeningeal and basal cisternal enhancement, ventriculomegaly due to hydrocephalus, periventricular infarcts, and the presence of tuberculomas. 9. Neurosyphilis shows cerebral and meningovascular involvement and appears T2 prolongation and meningeal contrast enhancement. Syphilitic gummas appear as small focal nodules adjacent to the meninges and shows homogeneous contrast-enhancement. 10. cerebral sparganosis mansoni typically shows tubular enhancement in a linear or curvilinear fashion-the tunnel sign-on post gadolinium T1-weighted images
著者
浜口 毅 山田 正仁
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.65, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
33

【要旨】Creutzfeld-Jakob 病(Creutzfeldt-Jakob disease、以下 CJD)に代表されるプリオン病は、脳における海綿状変化と異常プリオンタンパク質蓄積を特徴とする神経変性疾患である。ウシ海綿状脳症からヒトへ伝播したと考えられる変異型 CJD やヒト乾燥屍体硬膜移植や成長ホルモン療法、脳外科手術等によって伝播したと考えられる医原性 CJD のように、プリオン病は同種間あるいは異種間で伝播しうる。一方、Alzheimer 病(Alzheimer's disease、以下 AD)の病理学的特徴の一つであるアミロイドβタンパク質(amyloid β protein、以下 Aβ)の脳への沈着も、プリオン病の異常プリオンタンパク質と同様に個体間を伝播することを示す動物実験結果が近年多数報告され、さらに、硬膜移植後 CJD や成長ホルモン製剤関連 CJD といった医原性CJD 剖検脳の検討から Aβ病理変化がヒトにおいても個体間を伝播した可能性が報告されている。脳血管へのアミロイド沈着症である脳アミロイドアンギオパチー(cerebral amyloid angiopathy、以下 CAA)は、脳血管へ Aβが沈着する孤発性 CAA(Aβ-CAA)が、高齢者や AD 患者でしばしば認められるが、若年での報告はきわめて少ない。しかし、近年、若年発症の CAA 関連脳出血の症例が複数報告され、それらの症例は脳外科手術歴を有していたことから、脳外科手術での Aβ-CAA が個体間伝播した可能性が指摘されている。 これらの症例にはヒト乾燥屍体硬膜移植がはっきりしない症例も含まれており、ヒト乾燥屍体硬膜移植だけでなく脳外科手術器具によって Aβ-CAA が個体間伝播した可能性も疑われている。
著者
雪竹 基弘
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.72, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
30

【要旨】進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy、以下 PML)の概説と、最近の話題を論じた。PML 診療は病態修飾療法(disease modifying therapy、以下 DMT)関連 PML に対応する時代であり、特に多発性硬化症(multiple sclerosis、以下 MS)の DMT 関連 PML が注目されている。MS における新規 DMT は本来 PML の基礎疾患ではない MS に、その薬剤自体が単剤で PML を発生させるという意味で重要である。薬剤関連 PML においては免疫抑制剤等による日和見感染症としての PML のみでなく、DMT 関連 PML という新たな要因が加わった。その他、PML に特徴的とされる MRI 所見の提示と、PML 治療の可能性に関してマラビロクとペムブロリズマブによる PML 治療の報告を紹介した。
著者
中嶋 秀人
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.64, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
20

【要旨】抗 N-methyl-d-aspartate 型グルタミン酸(NMDA)受容体抗体を含む神経細胞表面抗体が関与する自己免疫性脳炎の臨床スペクトラムが解明されるにつれ、自己免疫性脳炎の診断機会が著しく増加している。一般的に自己免疫性脳炎は免疫療法に良好な反応性を示すため、早期の抗体診断にもとづく免疫療法の導入が推奨され、自己免疫性脳炎の診断アルゴリズムも提唱されている。自己免疫性脳炎の診断として、抗 NMDA 受容体抗体など個々の神経細胞表面抗体の同定には cell-based assay(CBA)が有用であるが、自己免疫性脳炎の幅広い臨床スペクトラムにおいては既知の CBA が陰性のことも少なくないため、CBA の相補的検査であるラット脳凍結切片を用いた免疫染色である tissue-based assay(TBA)と初代海馬培養細胞による抗体診断を併用した神経抗体スクリーニングを含む診断アルゴリズムの構築が求められる。実際の臨床の現場においては、TBA を含む抗体スクリーニングで陽性を確認したのち CBA の結果を待たずすみやかに免疫療法を導入する治療アルゴリズムが適用できる可能性がある。近年、スペインにおける単純ヘルペス脳炎コホートを対象とした前向き追跡調査では、単純ヘルペス脳炎後 27%に自己免疫性脳炎が続発し、全例で神経細胞表面抗体が陽性であることが確認されている。単純ヘルペス脳炎を含めた神経感染症と自己免疫性脳炎の双方をあわせて理解したうえで、自己免疫性脳炎の新しい診療アルゴリズムについて考察する。