著者
戸田 雅之 山本 真行 重野 好彦
出版者
高知工科大学
雑誌
高知工科大学紀要 (ISSN:13484842)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.45-55, 2010-07
被引用文献数
1

流星出現直後にはごく稀に流星経路をなぞるように細い発光体が見える。それは短時間で減光し、形を変えながら消失する。これを流星痕と呼ぶ。流星痕の発生確率が最も高いのは毎年11月中旬に出現する「しし座流星群」である。我々はしし座流星群の2001年大出現で、イメージインテンシファイアを使用した流星の2点観測を実施した。動体検出ソフトウェアの使用により、動画から発光継続時間が短い流星痕(以下、短痕)を効率よく抽出できた。本研究では、しし座流星群に属する流星起源の短痕18例、しし群以外の流星起源の短痕8例、計26例の短痕を測定して発光高度と継続時間を求めた。その結果、(1)短痕は平均的に120kmから96kmの範囲で発光する。(2)短痕発生後、上端側は時間経過とともにその高度を直線的に徐々に低下させる一方で、下端側は母流星突入に伴い低高度側へ一気に成長し短痕長の最大を迎えた後、対数関数の漸近曲線的に上昇し、短痕消失直前には平均高度107kmに収れんする。(3)短痕の継続時間は短いもので0.1秒、最長で5秒。(4)母流星絶対等級と短痕の継続時間に有意な相関がある。(5)短痕の継続時間はOI557.7nm(励起状態特性寿命0.7秒)発光を仮定すれば説明できる可能性が高い、ことが分かった。Just after appearing of meteors, faint illuminating trails can rarely be seen along their trajectories. The luminescence, so-called meteor trains, rapidly disappear with changing their shapes in the sky. Meteor shower with the most frequent appearance rate of meteor trains is "Leonid." In 2001, during an encounter of Leonid meteor storm in Japan, double-station observation of meteors was carried out by using image-intensified (I.I.) video cameras. Purpose of the I.I. video observation was to obtain precise trajectory parameters of Leonid meteors, however, many video clips of meteors with meteor trains of short duration within 3 s (short-duration meteor trains, hereafter) were found. By using a motion-detection software, 26 short-duration meteor trains (18 examples of Leonids as well as 8 of sporadic meteors) were successfully picked out, deriving altitude distribution of short-duration meteor trains. As a result, (1) short-duration meteor trains averagely appeared between 120 km and 96 km altitude, (2) altitude distribution of short-duration meteor trains averagely changes in time to be finally centered at around 107 km, with having linear dependence for their upper limit altitudes as well as logarithmic dependence for lower limits, (3) duration time of short-duration meteor trains was in a range between 0.1 s to 5 s, (4) high correlation between absolute magnitudes of parent meteors and duration time of short-duration meteor trains, and (5) the altitude distribution of short-duration meteor trains could be explained with OI 557.7nm luminescence and collision (quenching) process with surrounding upper atmosphere.査読あり論文
著者
山本 真行
出版者
高知工科大学
雑誌
高知工科大学紀要 (ISSN:13484842)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.167-175, 2010-07

高大連携最先端理科教育の一環として、高知工科大学では、地球高層大気中の放電発光現象である「スプライト」の観測的研究を、全国の高校と共同し進めてきた。本稿では過去6年間の活動を振り返り、日本の理科教育における問題点として指摘される「考える力」の不足に対して、未知の自然現象の観測と発見というプロセスによるアプローチを議論する。スプライトは雷放電に関係する未知の自然現象として1989年にアメリカで発見された歴史の新しい現象で、以降およそ20年間に研究者により多くの科学的知見が得られた。電子撮像技術と画像処理技術の進展により、同現象は市販高感度ビデオカメラ等でも撮影可能となり、著者らによる観測技術の伝授と広報の結果、2004年12月の愛知県立一宮高校チームによる高校生としての初観測を皮切りに飛躍的発展を遂げた。2006年12月には全国14のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)採択高校と高知工科大学が共同し「SSHコンソーシアム」を結成、世界最大規模のスプライト同時観測が開始された。著者と参加高校理科教員による緊密に連携した研究指導と高校生チームの活躍により、2010年2月末までの間に計1613例を観測し、うち292例の同時複数点観測を得た。これら観測から統計的研究への礎となるデータセットを得たほか、2008年2月には大規模発光現象であるエルブスの同時観測に成功し、世界で初めてエルブスの発光高度を精密に検証した。2009年11月には世界的に10例程度の観測例しか得られていない発光現象ジェットの観測に成功した。これら結果は、国内および国際の学会にて高校生自らが発表して専門家から高い評価を得ており、高校生観測チームによる同時観測が最先端理科教育における教育面のみならず、最先端サイエンスの進展への貢献に繋がることを実証した。As one of high-school-university collaborative educational projects, observational studies of TLE (Transient Luminous Events: sprites, elves, blue-jets, etc.) have been carried out with a collaboration with many high schools (HS) in Japan. In these days "lack of consideration ability" in younger generation has been discussed especially in educational field in Japan. In this article, efficiency of tracing a process in science field by students for obtaining new findings in nature as an education program to HS students is discussed, with looking backward on our 6-year activities. Sprites, firstly found over United States in 1989 as an unknown phenomenon in upper atmosphere, highly related to lightning, have been investigated for about 20 years by scientists, revealing many interesting findings. Recent progresses of electrical imaging devices and image processing technique enable us to detect sprites by using high-sensitivity and relatively low-cost video cameras. After teaching observational technique, as well as encouraging HS students and their teachers for TLE observation by the author and earnest collaborators, the first detection of sprites by high school students of Ichinomiya HS of Aichi prefecture was obtained in December 2004, and then, sprites observation by HS students has been dramatically developed. In December 2006, we organized the "SSH consortium" by collaborating 14 Super Science High schools (SSH) and Kochi University of Technology, establishing one of the largest observational network for triangulation of sprites. As of February 2010, owing to educational activities based on successful collaboration between participating HS teachers and University side, 1613 examples of sprites including 292 triangulation observations were successfully obtained by many HS groups. Not only valuable datasets for statistical studies of TLEs were obtained but also the first triangulation of an elf was detected in success in February 2008, deriving the first triangulated result of detailed altitude of the elf. In November 2008, students observed a jet that is very rare phenomenon detected only about 10 examples in total in all over the world. These results have been reported by students themselves in domestic and/or international scientific conferences, having good experiences and valuable comments by scientists. It might be a good proof that these activities are effective not only in educational field but also in contribution to the science.
著者
村瀬 儀祐
出版者
高知工科大学
雑誌
高知工科大学紀要 (ISSN:13484842)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.101-110, 2011

会計基準設定には、⑴「生成・一般承認アプローチ」と、⑵「企画設計・概念ベース・アプローチ」がある。国際会計基準は、後者のアプローチを採用するものであるが、それは、実際の会計実務使用から遊離した会計基準設定となる潜在性をもつために、国ごとに違った詳細な基準実行ルールを生み出し、その結果、財務諸表の国際的な比較可能性を高めるものとならない。査読あり論文
著者
西秋 良宏 仲田 大人 米田 穣 近藤 修 石井 理子 佐々木 智彦 カンジョ ヨーセフ ムヘイセン スルタン 赤澤 威
出版者
高知工科大学
雑誌
高知工科大学紀要 (ISSN:13484842)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.57-69, 2010-07

2009年度のシリア、デデリエ洞窟における先史人類学的調査成果について報告し、あわせて今後の研究の展望を述べる。デデリエはシリア北西部、死海地溝帯北端に位置する西アジア最大級の旧石器時代洞窟である。前期旧石器時代末から終末期旧石器時代にいたる30万年以上の人類居住層を包蔵している。2009年度は洞口部、洞奥部で発掘をおこない、それぞれ前期旧石器時代末、中期旧石器時代後半の地層に残る先史人類の活動痕跡を調査した。洞口部ではJ27区、K22/23区をそれぞれ地表下約7m、6mまで掘り下げた。いずれにおいても基盤岩が一部で露出し、当洞窟居住史の起点に近づくことができた。認定し得た最古期の文化層で最も顕著なのは前期旧石器時代末ヤブルディアンであった。より堆積状況の良好なK22/23区では前期ムステリアンと基盤岩の間に当該文化層が挟まれて検出された。数少ない層位的出土事例の一つであり、いまだ不明の点が多い前期旧石器時代末に生じた複雑な文化継起を先史学的に議論する好材料となる。一方、洞奥部では中期旧石器時代、ムステリアン後期のネアンデルタール人生活面を詳細に記録する作業を実施した。結果は、当洞窟に彼らの居住痕跡が保存よく残存していることを示した。石器、動物化石、炉跡などの空間配置を分析することでネアンデルタール人の生活構造、社会体制の考察が可能であろうとの見通しが得られた。
著者
眞田 克 安富 泰輝
出版者
高知工科大学
雑誌
高知工科大学紀要 (ISSN:13484842)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.49-56, 2011

不安定な出力論理を有するフローティング・ゲート故障に対して出力論理値を固定化する実験を行った。実験はゲートオープン故障を作り込んだInverter回路に外部からレーザを照射する方式である。その結果、出力論理は"H"固定した。同時にIDD値も変動した。この変動値は正常状態の特性の動作点に一致した。レーザ照射を止めると特性は元の状態に戻った。この現象を検証するためにゲート電極を共通にしたInverter回路の一方側にレーザを照射し他方側の出力を測定した。その結果"H"に固定した。この実験はレーザを照射することで形成される電子がフローティング・ゲート電極へ入り込み電圧を低下させていると考える。単体Trによるレーザ照射実験と合わせてこの現象を述べる。
著者
榎本 惠一 堀澤 栄 有賀 修 松元 信也 大濱 武 角 克宏 両角 仁夫 井上 喜雄 冨澤 治 那須 清吾 平野 真 草柳 俊二 馬渕 泰
出版者
高知工科大学
雑誌
高知工科大学紀要 (ISSN:13484842)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.125-131, 2010-07

森林や海洋の自然環境の保全には、その資源の適切な利用と管理が欠かせない。森林資源である木質バイオマスを利用するために、木材腐朽菌が生産するセルロース分解酵素の遺伝子配列の決定を試みた。他生物で明らかにされているアミノ酸配列などの生物情報を参照し、遺伝子増幅に必要なCODEHOPプログラムを用いて、迅速簡便に標的遺伝子配列を得ることができた。また、殺藻作用をもつ赤色色素であるプロディジオシン類を生産する細菌を用いて赤潮制御技術の研究を行った。この細菌の赤色色素は、赤潮プランクトンを迅速に溶菌させる作用を示した。この細菌を固定化したアルギン酸ゲルビーズは、赤潮プランクトンの増殖を抑制し、プランクトン数を減少させることができた。For the conservation of forests and marine natural environment, the proper use and management of their resources are essential. In order to use woody biomass of forests, genetic sequences of cellulases produced by woodrotting fungi were determined. Based on the biological information, including amino acid sequences, revealed in other organisms, target gene sequences could be easily and quickly obtained by the CODEHOP program for gene amplification.Technologies to control red tide were also studied, employing bacteria that produce algicidal red pigments, a family of prodigiosin. The red pigments from the bacteria showed quick lytic action to red tide plankton. Alginate gel beads containing immobilized bacteria inhibited the growth of red tide plankton and could reduce the number of plankton.
著者
松本 泰典 黒原 健朗 下元 道夫
出版者
高知工科大学
雑誌
高知工科大学紀要 (ISSN:13484842)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.199-206, 2011
被引用文献数
2

全国の約40%以上の水揚げが高知県であるマルソウダガツオ(メジカ)は、高知県内の特産物と成り得る魚介類と考えられる。しかし、現状の取り扱いは鮮度劣化が速い魚であるとされ、宗田節などの加工食品などに用いられ、安価に流通している。一方、水揚げされている地域内では、鮮度の良い状態の内に流通していることから、時期によってはカツオより高値で刺身として販売されている。そこで、本研究では生鮮メジカを高知県の特産物として全国的に展開が図れるかを検証するため、冷却保存法の違いによる鮮度およびヒスタミン含有量の時系列変化を調べた。その結果、鮮度とヒスタミン含有量から生鮮魚として全国に流通するのに必要となる水揚げから少なくとも24時間以内では、刺身で食することのできる鮮魚として流通が可能であるというデータを得た。
著者
竹田 史章
出版者
高知工科大学
雑誌
高知工科大学紀要 (ISSN:13484842)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.227-232, 2011

平成22年度高知工科大学教員海外研修制度の支援をいただき。マレーシアのマレーシア工科大学AI&ロボティクス研究センターに平成22年9月1日から12月1日の3ヶ月間滞在した。滞在期間中は知的認識システム、知的制御システム、DSPによるリアルタイム認識システムの共同研究ならびに講演、講義を実施した。特に、AI&ロボティクス研究センターはヨーロッパ、中東、米国などの若手研究者を受け入れる国際交流システムがあり、活発な知能システムに関する学際的な意見交換および情報提供の場ともなっていた。これらの環境での3ヶ月にわたる研究体験について以下に報告する。