著者
古牧 徳生
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 = Bulletin of Nayoro City University (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.33-86, 2017-03

13世紀も後半になると神学者たちは、強まりゆく理性主義に対して、学問としての神学の確実性を示さなければならなくなった。そこで彼らの多くが採った理論は知性認識の根底においては神が働いているとする証明説であった。だがそうなると、知性認識に形象は不要ということになり、また知性は個々の事物を直接的に把握できるとする直観説になる。その結果、次第に神学は、個物のみが存在するとする唯名論に傾くことになった。だが現実の人間に認識できるのは感覚できる個物だけだから、神についてはいかなる知識も不可能ということになる。その結果、ただ信仰のみが主張されるようになり、宗教改革と教会分裂の悲劇を招くことになった。 1章ではトマスが採用した抽象説とそれが秘める困難について説明される。 2章ではヘンリクスの折衷説とそれがもたらす困難について説明される。 3章では個物こそ事物の完成であると説いたスコトゥスの学説が説明される。 4章ではスコトゥスを否定したオッカムの唯名論により神学が不可能になったことが説明される。 5章ではオッカムがもたらした敬虔主義とその破局である宗教改革そして懐疑思想の復活が説明される。In the late 13th century, facing the rise of rationalism, many theologians had to prove the certainty of theology. Consequently, they adopted the theory of divine illumination, which claims the intervention of God in human intellectual cognition. In such case, however, cognitive species come to be needless, and all theology leaned inevitably towards nominalism which admits the existence of only individual things. But human beings can only recognize things that can be sensed, so we can't acquire any knowledge about God. As a result, people relied only upon belief, which led consequently to the Reformation and the tragedy of schism. 1st chapter : The theory of abstraction in Thomism and its two difficulties. 2nd chapter : The eclectic theory of Henry of Ghent. 3rd chapter : The theory of john Duns Scotus, who taught that individual things were ultimate perfection. 4th chapter : Occam's Nominalism which, by negating Scotus' doctrine of formal univocity, brought impossibility to theology. 5th chapter : Devotionism, Reformation and revival of skepticism in the 16th century.
著者
深澤 圭子 高岡 哲子 根本 和加子 千葉 安代
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.63-68, 2010-03

本研究の目的は、終末期ケアを検討するための知見として、高齢者自身が終末期における「生死」に関してどのように考えているかを明らかにすることにある。10例の対象者へ半構成的面接を行い、データを質的に分析した結果7カテゴリーを抽出した。高齢者は〈痛みの回避〉や〈傍にいてほしい〉等《苦痛緩和》を望んでいることがわかった。《死の準備》では〈妻と対話〉〈身辺整理〉や〈遺言〉等を考えていた。《延命は望まない》では〈高度の医療は不要〉等をあげていた。《終の棲家》では、〈できれば自宅〉〈住み慣れた地域〉とする一方、〈病状悪化時病院〉とし、その裏には家族への遠慮もある。《平安なる死》では〈眠るが如き〉や〈自然死〉等を希求していた。《死の恐怖感》では、〈死への恐れ〉を抱き、それを抱く一方、〈死と共に〉生死は表裏一体と考えている。《死後の世界》には〈信じる〉〈肉親に会える〉等、死後の世界を希求していると考えられる。以上のような高齢者の気持ちを汲み取り尊厳・尊重した終末期の《苦痛緩和》ケアが重要であることが示唆された。
著者
高岡 哲子 紺谷 英司 深澤圭子
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.49-58, 2009-03

本研究の目的は、高齢者の死生観に関する文献検討から、高齢者がどのような死生観を持っているのかを明らかにし、高齢者のみを対象とした死の準備教育を確立させるための基礎資料を得ることである。資料とした文献は、『医学中央雑誌Web(ver.4)(1998年-2008年)』で、「高齢者」と「死生観」の「AND」検索によって抽出した。これによって得られた文献は、160件であった。なお検索は、2008年5月に行った。この結果、高齢者の死の迎え方に関する希望が多岐にわたっていたこと、死を考えることで不安や恐怖と結びつくことがあること、死の準備が必要であることは高齢者にも認識されていることがわかった。しかし、実際に高齢者に対する死の準備教育を体系的に行っているという報告はなく、研究としても見当たらなかった。これらのことから、今後は高齢者の特徴をふまえ、死に対する過度の不安や恐怖から健康障害を起こすことがないような、死の準備教育が行われる必要性が示唆された。
著者
古牧 徳生
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-26, 2013-03-31

本稿はプラトンノイデア論を、彼の師であるソクラテスの思想史的位置から考察したものである。イデアは自然哲学者たちが問うたピュシス論の一形態であること、最終的にはその不可知性ゆえに提唱者のプラトン自身が懐疑的になっていたことが説明される。
著者
鹿嶋 桃子
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.27-35, 2013-03-31

自由遊びへの保育者の介入をめぐっては、指導と子どもの自発性のバランスのあり方をめぐる対立がある。そこで、本研究ではこうした対立を乗り越える視座として、子どもに必要な経験を保育者が読み取り、その発達に必要な支援をする過程として遊び指導を位置付けジユウアソビ場面の分析を行った。その結果、次のことが示唆された。保育者は遊びを指導する際に、保育者の指導上のねらいを意識下あるいは無意識下で参照しながら指導する。しかしながら、指導を通した子どもと保育者の相互作用結果としての遊びの展開内容はその場の状況によって変化しうるという意味で、保育者のねらい通りには展開しない自由で創発的過程である。すなわち遊びの指導とは、子どもの活動の自由が保障されている分だけ管理保育とその性質を異にし、子どもたちの発達支援を保障するものと考える。
著者
松岡 是伸 小山 菜生子 Yoshinobu MATSUOKA Naoko KOYAMA
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 = Bulletin of Nayoro City University (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.21-29, 2012-03-31

本稿の目的は児童養護施設におけるソーシャルワーク実践事例を用いて,ソーシャルワークの機能を明確にしていくことである。その意義は実践事例の分析と検討からソーシャルワーク実践理論の研究的積み上げに多少なりとも貢献できるからである。 その結果,ソーシャルワーク機能は子どもの生活援助・支援においては随所に活用されていた。直接的援助機能やケースマネージャー機能,保護機能などが実践では多く活用され,子どもの成長と発達によってソーシャルワーク機能は広範囲にわたり活用されることなどが明らかになった。