著者
狩野 武道 津川 律子
出版者
日本精神衛生学会
雑誌
こころの健康 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.2-10, 2008-12-20 (Released:2011-03-02)
参考文献数
30
被引用文献数
3

大学生における無気力をスチューデント・アパシー的な無気力と抑うつ的な無気力に弁別することが可能かどうかを検討することを目的に, 大学生283人 (有効データ数233) を対象とし, 質問紙調査を集団で実施した。使用した尺度は, 対象及び活動領域別に意欲を問う項目, 自己意識尺度, 自己認識欲求尺度, アパシー傾向測定尺度, SDSであった。対象及び活動領域別に意欲を問う項目に対して因子分析を行い, その因子得点を使用してクラスター分析を行ったところ, 対人関係や娯楽に対して意欲低下を示す群, 生活全般に対して意欲低下を示す群, 学業に対して意欲低下を示す群, どの領域にも意欲低下が認められない群という4つの群が見出された。学業に対して意欲低下を示す群の特徴は, 抑うつ的ではない, 自分の内面について考えないなど, スチューデント・アパシーの特徴と一致するものが多く, この群はスチューデント・アパシー的な無気力を呈している群と考えられた。それに対し, 生活全般にわたって意欲低下を示した群は抑うつ傾向が認められ, 抑うつ的な無気力を呈している群と考えられた。このことから, 大学生における無気力は抑うつを伴うものと伴わないものとに分けられ, 前者をスチューデント・アパシー的な無気力, 後者を抑うつ的な無気力に区別できる可能性が示唆された。しかし, 後者の群においては従来の抑うつ理論と不一致な点が認められ, さらなる追研究が望まれた。
著者
喜多 祐荘
出版者
日本精神衛生学会
雑誌
こころの健康 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.55-66, 2001

健忘症あるいは老年性痴呆といわれている人は, 実際には, 自らの意思をもつ人間である。とくに, 逆向性記憶障碍 (アルツハイマー症候群を代表とする) を中核とする人々は, その個別の記憶喪失年代を越えて, 自らの再生可能な体験と現在の状況を統合することにより, 面接者との共感関係, 役割関係, 生活実践関係を作ることが可能である。また, 家族や援助者が, これらの人々との共感関係, 役割関係, 生活実践関係を作ることが可能である。この基本的仮説=人間観・障碍観の前提のもとに, 面接者が逆向性記憶障碍の人々の記憶 (長期) の再生を促し, 共感関係をつくり, 受容・肯定・支持の構造を保持することにより, 本人の記憶再生, 共感関係, 自己統合の意識活動を保証しようとする-これが「人生回想面接」の基本的特質である。本稿では, 筆者が考案した「人生回想面接」の技法を紹介するとともに, この援助技術を逆向性記憶障碍の人へ適用した結果を報告する。これらの実践を通して, 逆向性記憶障碍の人の意識活動において, つぎのことが明らかになった。(1) 長期記憶の中に, 人生の大切な, 又は, 未解決の体験が豊かに保存されている。(2) 記憶の最新映像を「現在の自分の世界」として感じ, 解釈している。(3) 関心を集中して映像を甦らせつつ, それを相手に語り続けられる。(4) 自己の体験の映像と感情を表現し, それを客観的に見て解釈し直せる。(5) 自己と環境との関係を解釈し, 相手の言動を予測し, 自己の行動を決めることができる。また, 面接者による効果的な面接の態度・技法の内容が明らかになった。
著者
岩崎 直子
出版者
日本精神衛生学会
雑誌
こころの健康 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.52-61, 2000

性的被害の実態と, 被害者および周囲の人々へのサポートに関するニーズを調べるため, 大学生を中心とした男女学生277名を対象に, 質問紙調査を実施した。さまざまな性的被害に関して具体的な行為を提示し, 調査実施時点までの被害経験率を調べたところ, 女性の74.0%および男性の25.0%が何らかの被害経験を持ち「レイプ既遂」の被害率は3.4%であった。そのすべてが「友人・知人」「恋人」などの「顔見知り」から被害を受けた"date/acquaintance rape (DAR)"の被害者であり, 社会に蔓延する"real"rape像にはあてはまらないことがわかった。一方, 被害者を身近でサポートする重要な他者 (=SOs) は, 時に自らも被害の影響を受けることが知られているが, 回答者の約3割は, 自分の身近な人が性的被害経験を持つSOsであった。そのうちの7割以上が自分自身のためにも「何らかのサポートが必要である」と感じていた。これらの結果から, 今後の調査研究と被害者支援の方向性について考察した。