著者
田中 信行
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.1-15, 2015-06-25

2011年に広東省烏坎村で燃え上がった土地紛争は,同年末に広東省党委員会が村民の要求を基本的に受け入れるかたちで収束した。烏坎村の経験は貴重な紛争解決の成功事例ともてはやされ,「烏坎モデル」と呼ばれるようにもなった。ところが,それから3年経った現在でも,村は失われた土地の大半を取り戻せていない。そして,なぜ土地を取り戻せないのかという問題をたどっていくと,土地紛争の実態は多くのメディアが伝えていたようなものではなかったことが明らかとなってくる。本稿は,村に土地が返還されない原因を分析することを通じて,烏坎村における土地紛争の実態を解明しようと試みたものである。
著者
楊 暁文
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.1-13, 2012-02-25

中国における初めての『源氏物語』全訳は豊子〓のみによる訳業であったというのが今日の定説となっている。しかし,本稿の発見した新史実により,この定説が覆されようとしている。つまり,中国初の『源氏物語』全訳の成立にはこれまで知られてこなかったプロセスがあった。本稿は楼適夷及び文潔若の存在,特に新中国における豊子〓・銭稲孫・周作人の境遇及び全訳をめぐる三人のかかわりについて考察を加えた。その結果,全訳の成立過程で銭稲孫と周作人が深くかかわり,出版社の編集者として文潔若も尽力し,リーダーだった楼適夷が全訳者の人選において中心的役割を果していたことなどが本稿によって初めて明らかになったのである。
著者
安部 聡一郎
出版者
中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.61-62, 2011-11-25

発行後3年より全文を公開
著者
中津 俊樹
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.14-27, 2012-02-25

19世紀における共産主義思想の出現とロシア革命(1917年)以降,ローマ教皇庁及びカトリック教会は共産主義の無神論的理念を宗教としてのカトリックと教会組織への脅威と見なし,教会組織と信徒に対する共産主義思想の浸透の阻止を図った。第二次世界大戦終結後の冷戦構造の拡大に伴い,ローマ教皇庁及びカトリック教会はこの動きを加速させた。中国のカトリック教会は教皇庁の方針を踏まえ,中華人民共和国の建国前後の時期に国内の教会組織と信徒に対する共産主義思想の影響の排除を試みた。本来,教皇庁の一連の方針は教会組織の防衛と信徒の宗教的意識という内的領域の堅持を目指したものであり,政治権力との対決は意図されていなかった。中国のカトリック教会の場合も同様であった。だが,カトリック信徒が社会的少数派で,かつ新政権が無神論的理念を新たな政治・社会秩序の建設における理論的柱と位置付けている状況下において,中国のカトリック教会の行動が本来の意図とは無関係に,新政権への敵対的行為と見なされる事は不可避であった。