著者
全 雲聖 上野 重義
出版者
九州大學農學部
雑誌
九州大学農学部学芸雑誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.p185-194, 1987-03

日韓併合を契機に本格的に始められた土地調査事業は,その後における日本の韓国に対する収奪のための基礎作業だった.土地調査事業は日本人地主の急激な増加,韓国農民の没落をもたらした.しかも日本資本主義の発達過程における資本の蓄積のために韓国農民が犠牲にされたという側面が強かった.すなわち,土地調査事業が終了した1920年からは日本国内の食糧不足のため,いわゆる「産米増殖計画」等を通ずる収奪が形容できない程の厳しさで進められた.戦後,韓国農業の展開をめぐる研究過程で戦前の地主制に対する解明があらためて問題にされ,土地調査事業の果たした役割が何だったのか,とくに土地所有の近代化とは何かが問われている.土地調査事業は韓国における近代的土地所有制形成の契機となったといえよう.それはすでに形成されつつあった地主的土地所有に立脚し,それを促進するものであった.しかし端緒的に形成されつつあった農民的土地所有は地主的土地所有によって押し流されてしまったのである.しかし,地主的土地所有も近代的土地所有の一形態であり,土地調査事業はたしかに土地所有に関する限り近代化を達成した.しかしそれは旧支配階級が土地所有者へ転化されることによって形成された地主制であり,封建的諸関係を色濃く残していた.この旧い諸関係は植民地的収奪のもとで一層強く現われたのであった.つまり,支配者にとっては被支配社会の近代的改編が問題ではなく,支配に役立つように編成するのが目的とされるからである.土地調査事業によって形成された地主的土地所有,農民を貧窮の中におとしこんだ地主的土地所有はいずれは農民的土地所有によっておきかえられるべきものであった.解放後の農地改革によって,初めて耕作農民が現実に土地所有者になる農民的土地所有が成立することになったのである.
著者
平岩 馨邦 徳田 御稔 内田 照章 吉田 博一
出版者
九州大學農學部
雑誌
九州大学農学部学芸雑誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, 1957-03
被引用文献数
1

昭和28年から31年にかけて九州各地で主にハジキワナによる"野鼠"の採集を行つた. これらの結果の大要は次のようである. 1) これまで九州で採集されたアカネズミ, ヒメネズミ, カヤネズミ, ハタネズミおよびスミスネズミの5種を今回の調査で再び確認することができた. 2) これらの野鼠の中, アカネズミが最も優勢であり, ヒメネズミがこれに次ぎ, この両種が野鼠の大半を占めて広く九州一円に分布していることがわかつた. 3) スミスネズミはヒメネズミについで多く, 600m以上の高地でのみ採集された. 4) ハタネズミは鳥栖・福岡の低地で採集されたのみであるが, 集団的にかなり棲息することが考えられる. 5) カヤネズミも局所的にはかなり集つて棲息しているが一般には少い.
著者
篠原 和毅 曽 耀崑 大村 浩久
出版者
九州大學農學部
雑誌
九州大学農学部学芸雑誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.23-30, 1974-09

TRとアミノ酸との反応における褐変におよぼすCu^2+の影響について検討した結果,Cu^2+共存下においては,特にGly,Asp,Try,Arg,Pheとの1:2反応で,Cu^2+無添加の場合よりも著しい褐変が観察された.他のアミノ酸との反応系ではCu^2+を加えない時とほぼ同程度か,あるいはそれ以下であつた.他方,Cu^2+共存下でも褐変は1:1反応よりも1:2反応において顕著であつた.続いて,Cu^2+存在下でのTRとアミノ酸との反応における吸収スペクトル,およびその吸光度の変動を求めた.その結果,反応時間とともにTRに特徴的な吸収の減少がみられた,その低下の度合は各反応系ともほぼ同程度であつた.さらに,特に1:2反応において縮合物の生成を示す225nm,および310nm付近を中心とした吸光度の増加が認められた.また各反応液についてペーパークロマトグラフィーを行なつた結果,すべての反応系に縮合物と思われるスポットが検出された.
著者
中西 喜彦 岡本 正幹
出版者
九州大學農學部
雑誌
九州大学農学部学芸雑誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, 1964-12
被引用文献数
1

本実験は,幼雛の恒温性の発達に対する低温環境の影響を知るために行なつた.すなわち白色レグホン種(WL),横斑プリマスロック種(BPR)およびこれらの交雑種(BPR×WL)の雄雛を,20~24℃と30~33℃の環境温度で,孵化時から4週齢時まで飼育した.その間,死亡率,直腸温,体重および甲状腺I^131-放出率などを測定した.その結果はつぎのとおりである. 1) 飼育期間中の雛の死亡率は,30~33℃ 区では非常に低いのが認められた.しかし20~24℃区では,どの品種においても高く,低温環境に対する抵抗性の点では,BPRがWLよりも強いことが観察された. 2) 品種による体温の違いは,30~33℃区では認められなかつた.しかし20~24℃区では,WLが1日齢時でのみBPRやBPR×WLよりも有意に高い値を示した. 3) 20~24℃区の雛は30~33℃区の雛よりも,1週間ほど恒温性の発達が早く,約2週齢で成鶏の体温の水準に達した.しかしながら成長の点では20~24℃区のものの方が有意に低い値を示した. 4) 甲状腺I^131-放出率については両温度区の間での差は認められなかつた.一方30~33℃区においては,BPRがWLやBPR×WLよりも有意に高い値を示した.また甲状腺重量は,BPRでのみ20~24℃区の雛が30~33℃区の雛のものより重い値を示した.
著者
戸島 信一
出版者
九州大學農學部
雑誌
九州大学農学部学芸雑誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.193-210, 1998-03

日本資本主義はポスト高度成長下で国内的また国際的に大きな変化を迫られ,また遂げてきた.例えば高度成長期には工業=製造業の飛躍的発展によって労働市場が著しく拡大し,また大衆消費財の国内市場拡大や労働運動による統一的ベースアップ闘争(春闘)もあって,賃金水準は全体的に上昇し,底上げされた.しかし,高度工業化社会段階に到達した日本経済はオイルショックを期に,雇用調整や賃金抑制を迫られ,重厚長大型から軽薄短小型への産業構造の再編を迫られた.そして徹底したコスト削減,省資源・省エネ対策によって国際競争力を短期間で回復し,以前よりさらに強化することに成功し集中豪雨的に輸出を拡大し,貿易黒字を稼ぐことになる.しかしそれは貿易黒字の堆積→円高→コストダウン努力→国際競争力強化→貿易黒字増大→円高の一層の進行という「悪魔のサイクル」に陥ることにもなった.円高は国内の賃金水準の相対的上昇をもたらし,賃金水準の低い地域への生産拠点の移動=資本輸出を進行させることになった.また一方でポスト高度成長下の,合理化,省資源・省エネ対策を契機とするME革命は,生産と生活の社会化を極限にまで推し進めてきた.それによって従来の労働市場の構造や,生活様式を変化させつつある.労働市場においては,高度成長期とは逆に,企業規模別や産業別あるいは雇用形態による賃金格差構造の固定・拡大が進行している.労働市場は第3次産業の展開によって拡大はしているが,パートタイム労働者の増加が顕著であり,またリストラや景気変動による労働力の解雇や流動化が頻繁に行われるようになっている.このようなことは終身雇用制や年功序列賃金制を動揺させることになりひいては労働者の企業への帰属意識・忠誠心を弱化させることにならざるをえない.このことは日本資本主義を支えた会社本位主義・法人資本主義(奥村,1995)=会社は永遠に不滅という幻想,の崩壊を意味する.このように経済の徹底した国際化,ボータレス化の進行は従来の日本経済の発展を支えてきた経済構造,さらには産業政策の構造,制度構造の改変をも迫ることになる.そしてこの貿易の自由化の進展とその黒字の拡大,またME革命による著しい技術革新は,国内農業を益々窮地に陥れることになる.円高の進行による,国内農産物の国際競争力の低下や2次,3次産業との所得・賃金格差の拡大は農業,農村からの慢性的労働力流出現象を引き起こしてきた.しかし,農村の労働力は無尽蔵ではない.また農村でも少子化現象が波及したこともあって,農業労働力不足問題が本格化し,家族経営の存続問題が発生するに至る.家族経営の再編成,サポートシステムの構築なくして農業の担い手の確保は困難になっている.とりわけ農業は地域的産業としての特質を持ち,その帰趨は地域経済,生活の問題に影響を与える.また生活様式の面では,ME革命による労働の軽量化,週休2日制の普及・拡大=労働時間の短縮,男女雇用平等や育児休業の制度化=女性の労働環境の改善など,仕事の場面の変化によってライフスタイル,特に女性のそれに大きな変化がもたらされつつある.ME化は耐久消費財の性能,利便性を高め家事労働時間の一層の節約をもたらす.かつて「主婦業」を成立させていた熟練労働としての家事はME革命によって非熟練化したし,また家事サービス業の展開はそれを外部化することを促進した.このようなME革命による労働場面での労働の軽量化・単純化の進行と家庭内における家事の技術革新と外部化による家事労働時間の減少が,主婦層の就業者化,特にパート労働者化を促進した.さらにME革命による生活の技術革新,特に冷凍冷蔵庫,電子レンジ,電子ジャーの普及は,家族いっせいの食事とその食物の分配権を握る主婦の権利と義務を無意味化し.家族の個食化を進行させている.また装置系の技術革新と家事の商品化・外部化は生活技術のない単身者のサバイバルを可能にした.つまり,生活技術の著しい非熟練化によって大都市地域での男子単身世帯の成立を容易にし,中高年の単身赴任を可能にした.生活技術の革新は家族の分裂,個族化を引き起こす要因にもなることを意味する.さらに子供に個室を与え,パーソナルユースのテレビや電話(コードレスフォン)を与えるによって,子供は家族の管理外で直接外部と通信・交渉し情報を取得することが可能になった(上野,1994,p180~185).このように生活における個別化の進行は留まることをしらないかにみえる.家族の凝集力,家族の文化,家族生活の共同性は喪われていくのであろうか.賃金・所得の格差構造は,経済の国際化の進展の中では国内の需給関係を通じて修正される可能性は少ない.農業労働や家事労働は最も価値の低い労働として序列づけられたきた.周知のようにアメリカでは移民や移動する低賃金労働力を利用して労働集約的な農業部門が成立してきた.わが国ではまだ法的に認めれれているわけではないが,一部に途上国からの低賃金労働力の導入がみられる.また農業後継者の配偶者を途上国に求めている.この路線でいけば最終的に農業生産のほとんどを海外に移転するという発想になる.またわが国でも戦前は家事使用人を農村からの出稼ぎによって調達していたし,現在既に欧米各国ではみられているように,家事労働力を途上国からの出稼ぎ労働力に依存するという発想になる.しかしそれでは南北問題の解決どころか南北格差を固定し,国際矛盾を益々激化していくことになる.
著者
槇原 寛 竹野 功一 中條 道崇
出版者
九州大學農學部
雑誌
九州大学農学部学芸雑誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.595-600, 1972-03

At the zone over 800 m above the sea level on Mt. Hiko (Hikosan), there grow many beech-trees, Fagus crenata Blume, on the dried and decayed wood of which a fungus, Lampteromyces japonicus (Kawam.) Sing. is commonly found. In association with this fungus, interestingly, many insects belonging to miscellaneous families can be seen. It is of interest, moreover, to observe even a kind of food-chain in such a narrow space as fungi. None the less only a few record of the insects related with the fungi have been reported. In this paper we recorded 51 species of insects belonging to three orders which were collected from the dried and decayed fungi. We will report in succession a check list of insects collected from the fungi in different seasons
著者
藤井 博
出版者
九州大學農學部
雑誌
九州大学農学部学芸雑誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.p155-166,図1枚, 1979-01

Effect of ecdysterone on RNA and DNA synthesis in the midgut of Bombyx mori was studied. It was found that ecdysterone stimulated in vivo RNA and DNA synthesis in the midgut of the I-day-old larva of the fifth instar. At first, stimulation of incorporation of ^3H-uridine into RNA occurred at the 6th hour after ecdysterone injection and continued from then. On the other hand, stimulation of incorporation of ^3H-thymidine into DNA occurred from the 18th hour after ecdysterone injection and silver grains were observed only in the nuclei of generative cells in autoradiography, and at the 48th hour after ecdysterone injection, new epithelium is formed as generative cell divided and multiplied. This indicates that RNA synthesis occurs in the nuclei of generative cell in the midgut of the larvae injected with ecdysterone, suggesting that ecdysterone stimulates first RNA synthesis for DNA synthesis. It may be understood that the action of ecdysterone on the midgut of the fifth instar larva as follow, ecdysterone acts on the generative cells which exists in the undifferentiated cells in the midgut tissue, induces the stimulation of RNA synthesis in the cell, the synthesized RNA induces it to synthesize DNA and subsequently the cell divides, multiplies and forms the new pupal epithelium. In order to examine the primary action of ecdysterone, one should try to use in vitro RNA synthesis in isolated nuclei. The isolated nuclei had the ability of RNA synthesizing activity. RNA synthesis elevated in the isolated midgut nuclei from 24th hour after ecdysterone injection. The result is consistent with similar effect observed with ecdysterone in the midgut nuclei in vivo RNA synthesis. The rate of RNA synthesis in the isolated midgut nuclei from various time after ecdysterone injection was examined. RNA synthesis enhanced greater in the isolated nuclei at 48th hour after ecdysterone injection than that at 1 hour. The rate of RNA synthesis in the isolated nuclei at 48th hour after ecdysterone injection increased linearly with incubation time, whereas the rate of RNA synthesis in the isolated nuclei after ecdysterone injection is lower than at the 48th hour and continued at lower level until 120 minutes after incubation. The result indicates that a physiological change, such as RNA synthesis elevated in the nuclei of the midgut, is developed by the action of ecdysterone. The direct effect of ecdysterone on RNA synthesis in the isolated nuclei was examined, by means of the nuclei isolated from the midgut of the 1-, 3- and 6-day-old larvae and incubated with ecdysterone. Each of the larvae were not injected with ecdysterone. There was little stimulation effect of ecdysterone in the isolated nuclei from the 1 and 3-day-old larvae, so-called the stage of feeding. On the other hand, in the isolated nuclei from the 6-day-old larvae, the stage of larval maturation, stimulation effect of ecdysterone on RNA synthesis increased by 30 per cent. It was found that there is a degree of responsiveness of nuclei from different stages to ecdysterone, and the nuclei in the midgut of the matured larva have more responsiveness to ecdystrone that that of the feeding larva.RNA合成におよぼすエクジステロン(ED)の影響としては,ED注射後24時間後に,核において顕著なRNA合成の昂進がみられるが,細胞質においてはみられなかつた.DNA合成におよぼすEDの影響をみると,ED注射24時間後に顕著な合成がみられた.さらにDNA合成をオートラジオグラフィー法で調べたところED注射18時間後に,新生細胞の核にのみ^3H-thymidineのとりこみがみられた.48時間後には新生細胞による新しい皮膜形成がみられ,この細胞核に顕著な^3H-thymidineのとりこみがみられた.ED注射後のRNAとDNAとの合成促進効果の時間関係をみると,ED注射6時間後にRNA合成の促進効果が現われ,DNA合成は注射18時間後に促進効果がみられた,すなわちED注射によりまずRNA合成が高まり,ついでDNA合成が起こると解される.さらにDNA合成を詳しくみると.アクチノマイシンDでRNA合成を阻害した場合,DNA合成が低下することからDNA合成にはRNA合成が必要であると考えられる.ED注射24時閻後にみられるDNA合成には,アクチノマイシンDを用いた実験から,ED注射後12~24時間(DNA合成が顕著にみられる以前)につくられたRNAが大きな影響をおよぼすことがわかつた.したがつて,EDの作用は中腸細胞,特に新生細胞に働き,まずその細胞のRNA合成を誘起し,ついでこのRNAがDNA合成の開始を導き,ついには細胞分裂を引き起こすものと考えられる.つぎにはRNA合成におよぼすEDの影響を中腸単離核を用いて調べた.ED注射を受けた中腸の単離核でのRNA合成は注射後24~28時間で高くなつた.さらにこの核ではRNA合成速度においても違いがみられた.すなわちED注射1時間後の核ではRNA合成開始後,反応時間が長くなつてもRNAへの^3H-uridineのとりこみは変わらなかつたが,48時間後の核では反応時間に比例して,直線的に増加していつた.したがつてEDの作用により生体内の中腸細胞核においてはRNA合成を高めるような生理的変化が起こつていると言える.単離核のRNA合成におよぼすEDの直接作用をin vitroで調べると,5令1日目と3日目との摂食期の中腸単離核ではホルモンによるRNA合成促進効果はみられなかつたが,6目日の閉鎖系に入つたものでは約27%の促進効果がみられた.すなわち発育時期によつて核のホルモンに対する反応性に差異がみられた.以上の結果を総合すると,中腸組織は閉鎖系に入ると消化機能が低下するが,単に退化してゆく組織ではなく,全く新しい機能を持つように変化していくものであると結論される.