著者
李 為
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー = Kyoto Management Review (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.143-159, 2021-03-31

p 値は学界で論争されてきた話題で,ロナルド・フィッシャーはp 値を形成することを提案し,0.05 をこのp 値の閾値に設定した後,この話題の論争は中断されたことがない.p 値の廃止を提案した方々は,p 値を過度に重視しすぎたため,研究者は様々な方法でp<0.05 を求めるだけに腐心し,実際の効果の大きさを無視していると指摘している.近年,多くの学者が連名でp 値の廃止を呼びかけているが,廃止を支持しない研究者は,p 値が帰無仮説として成立する確率は客観的な評価基準とみなし,p 値を廃止すると論文で結論を判定することが困難であり,様々な無意味な結論に満ちてくるだろうと反論している.現在,様々なフォーラムで,この問題を議論する議題が次々と出ており,議論の内容は素晴らしいが,参加者の見解には大きな隔たりがあり,p 値が廃止されるべきか否かの結論は出ていない.筆者は社会調査データ分析を扱う立場から,本稿で現状に基づいてp 値の是非を考える.
著者
涌田 龍治
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー = Kyoto Management Review (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.89-102, 2021-09-01

本稿の目的は,スポーツの試合に対する需要が結果の不確実性仮説でどの程度説明できるのかを文献レビューを通じて明らかにすることにある.ここでは,不確実とされる結果を短期としているか長期としているかで先行研究を分類し,それぞれの分野で何が明らかになったのかを問う.試合の勝敗という短期的結果の不確実性が需要を左右すると捉える先行研究からは,需要量の増加を正確に捉えることができないと,結果が不確実であっても需要は増加しないように見えるという可能性が示された.シーズンの優勝という長期的結果の不確実性が需要を左右すると捉える先行研究でも,同様の可能性が示された.それゆえ,売上高のような需要量の増加を正確に捉える変数を用いると,多くのスポーツリーグで結果の不確実性仮説が支持されるだろうと推測できる.
著者
井村 直恵
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー = Kyoto Management Review (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.17-53, 2021-09-01

本稿は,400 年以上の歴史を持つ錦市場商店街が,平成24 年(2012 年)頃以降のインバウンド顧客の急増と平成30年(2019 年)をピークにしたオーバーツーリズムによる商店街の急激な観光地化を経験した後,COVID-19 発生に伴う令和2 年以降の観光客激減をどのように経験したかに関する調査・分析である.オーバーツーリズムは,現象としては古くから議論されてきたものの,オーバーツーリズムという用語で議論され始めたのは平成29 年頃以降であり,比較的新しい概念である.オーバーツーリズムに関する先行研究では観光客増加による地元の環境悪化や観光客と地元住民との軋轢等の議論がされている.本稿では,観光客増加に伴い商店街の中に地元住民や常連客ではなく,一見の観光客を対象にした店舗や軽食店・土産物屋の増加がどのように起きたか,それらの店舗がコロナ禍でどう行動したか,などを明らかにする.結論として,卸売中心の店は緊急事態宣言下でも営業を続けたこと,観光客向けの店は一時休業,撤退,店舗数集約などを行ったこと,実店舗での収益が減少した反面,オンライン販売の業績が倍増した店舗があったこと,などが明らかになった.また,錦市場商店街としては,コロナ禍の観光客現象を機に,食べ歩き禁止を徹底し,個店の側でも店内にイートインスペースを作るなど,令和2 年中に改装を進めた店舗が多かったこと,などコロナ後の再生に向けた環境づくりを行っていた.
著者
松本 和明
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー = Kyoto Management Review (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.85-102, 2021-03-31

渋沢栄一の絶大なる信頼を受けてビジネスパートナーの一人として活躍し,「渋沢の股肱」(実業之世界社編輯・発行『財界物故傑物伝』1936 年)と評された,長岡出身の梅浦精一の足跡と活動について考察していきたい.梅浦は長岡藩医の脩介の長男として生まれた.脩介は長岡藩の藩医を務め,東洋,西洋医学ともに長ずる,先進的でかつ優れた漢蘭折衷医であった.梅浦は漢学にも造詣が深かった脩介の影響を強く受けて幼少期から学問への興味を抱き,刈羽郡南条村で藍沢南城が主宰していた三余堂で漢学を学び始めた.続いて,長岡藩の代表的な儒学者である山田愛之助に師事してオランダ語を学んだ.周知のとおり,山田は崇徳館の教授・都講として,小林雄七郎さらには外山脩造も指導した.雄七郎と外山は梅浦の生涯に大きな影響を与えたが,彼らとの関係構築は山田の門人となったことが大きなきっかけであった.その後,江戸に出て西洋医学を学ぶものの,学費が続かなくなり,洋学に転じた.1872 年に大蔵省に入り,A・シャンドの指導のもとで,小林雄七郎などとともに,近代複式簿記の翻訳を『銀行簿記精法』として完成させた.これの普及に尽力した1 人が外山である.1873 年には新潟県令の楠本正隆から招かれて一等訳官に着任した.あわせて楠本の主導により創設された洋学校である新潟学校の責任者を担い,学生に加えて教員にも英語を講じた.同校は新潟県の中等教育機関の嚆矢である.さらに,長岡洋学校の後継である新潟学校第一分校でも教????をとっている.
著者
行待 三輪
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー = Kyoto Management Review (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.341-355, 2018-03-15

本研究では,Bernard and Noel[1991]およびStober[1993]の先行研究に依拠する形で,売上債権および棚卸資産における各要素(商製品・仕掛品,原材料)の「意図せざる」差額と将来利益にかかる予測可能性の検討を行った.分析の結果としては,売上債権に関しては売上総利益及び各利益との間に負の相関を発見することができた.また,仕掛品(WP)および原材料(RM)に関してであるが,仕掛品に関してはLEVEL に関して限定的ではあるが,利益に関して負の相関があることを発見した.原材料に関しては,CHANGE およびLEVEL のいずれに関しても売上高および利益に関して非常に強い負の相関を見ることができる.これは先行研究とは異なる結果となっている. そこで,次に本研究では分析に用いた棚卸資産各要素の「意図せざる差額」(FG,WP,RM)の分布の確認を行った.その結果,WP およびRM の平均値が極めてゼロに近いこと,またヒストグラムに関してもほぼゼロを中心として正規分布に従っていることを確認することができた.これらの分析より,仕掛品および原材料に関して予測回帰式より導き出された「意図せざる差額」は非常に僅少な金額であること,言い換えれば日本企業においては企業で意図せざる仕掛品や原材料の在庫投資は行われておらず,製造ラインにおける在庫管理は非常に徹底されており,これら在庫の存在そのものが企業の生産管理システムの機能不全を意味するものではないかとの推論を得た.
著者
井村 直恵
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー = Kyoto Management Review (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.295-309, 2018-03-15

リスクマネジメントは定義も多様で,分析視点も多岐にわたる.法令で求められる内部統制システムを持つ企業でもアウトプットが異なるのは,現場での運用が異なるからである.本研究では,Weick&Suttcliffe(2001, 2007, 2015)らによる高信頼性組織で主張する「マインドフル」な組織文化が日本企業内でどの程度存在するのか,企業を人的被害の大小・経済的被害の大小で4 類型に分け,類型の違いと文化について10 社からの聞取り調査の結果をテキスト分析した.分析の結果,インフラ系の企業(人的被害大×経済的被害大)の企業は,マインドフルな文化を持ち,一般企業の多くが個人の愛社精神やコミットメントに依存したリスクマネジメントを行っている事が示された.