著者
増田 玲一郎
出版者
京都大学
雑誌
京都大学文学部哲学研究室紀要 : Prospectus
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-12, 1998-12-01

長い間,指図されなくても自分で判断し行動する,気の利いたコンピュータが求められている。人間のように思考する人工知能は,まだ夢の世界の存在である。他方,最近のソフトウェア製品は,その多機能を簡単に利用できるような工夫がなされていて,気を利かしているつもりらしい。しかし,私見ながら,この工夫は上手く行っていないように思われる。困難は技術的な問題ではなく,'気を利かす'という働きそれ自体にあると思われる。気を利かせるべき状況で,人間はどのように振る舞っていて,コンピュータはどのように振る舞うべきか,それらに関する問題をこの論文で考察する。気を利かせる働きの重要な部分は予断に基づく。コンピュータは予断するべきではないであろう。あくまで人間が主体的に判断し,コンピュータは,人間の判断行為を支援することに専念すべきであろう。