- 出版者
- 公益社団法人 東京地学協会
- 雑誌
- 地学雑誌 (ISSN:0022135X)
- 巻号頁・発行日
- vol.129, no.6, pp.Cover06_01-Cover06_02, 2020-12-25 (Released:2021-01-18)
生命誕生の過程では,多種多様な生命構成単位(building blocks of life; BBLs)を合成するための強力な外部エネルギーが必要である.太陽エネルギーは化学進化を駆動するには弱すぎるうえ,夜間のエネルギー供給はゼロである.それゆえ他のエネルギー源が必要である.その有力な候補の一つが,冥王代地球表層に普遍的に存在していたと考えられる自然原子炉である.自然原子炉起源のウランの崩壊熱と電離放射線は前駆的化学進化において重要な役割を担う.電離放射線のように,十分な活性化エネルギーがコンスタントに確保されと,無機分子からより複雑な有機分子が合成されうる.こうした反応は,太陽光やマグマ由来の熱では到底不可能である.つまり,生命誕生へ向けた最初のプロセスは電離放射線が駆動したと考えられる.自然原子炉と間欠泉が組み合わさり物質・エネルギー循環系が形成されると,初期生命の誕生に向けたさまざまな反応が試行され,代謝と自己複製の機能がつくられたと推定される.間欠泉によって大気中に放出されたミクロンサイズの液滴飛沫が,もっとも原始的な細胞をつくりだし,より複雑化した膜やさまざまなBBLsの組み合わせをつくりだしたのであろう.さらに地上に放出された多種多様な原始細胞は,強力かつ豊富なエネルギー源である自然原子炉から離れたことが原因で,生き残りをかけて,やがて太陽光を利用する新たな機能を獲得したのであろう.表紙の画像は,生命進化を駆動する重要なエネルギー源である自然原始炉と太陽を対照的に描いたもので,地球と生命の誕生,共進化,未来を描いた12編からなるCG動画集「全地球史アトラス」1)の1シーンである.(丸山茂徳)Notes1) YouTube; https://www.youtube.com/c/冥王代生命学の創成 (in Japanese) or https://www.youtube.com/c/HadeanBioscience (in English) [Cited 2020/10/27].