著者
益田 理広 Michihiro MASHITA
出版者
Japan Association on Geographical Space
雑誌
地理空間 = Geographical space (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.19-46, 2018-06-20

地理学の語源たる「地理」の語は五経の一,『易経』を典拠とする。『易経』は哲学書としての性格を有し,「地理」の語義についてもその注釈を通し精緻な議論が展開されている。本稿は,初期の「地理」注釈である唐宋の所説を網羅し,東洋古来の「地理」概念がいかなる意味を以て理解され,かつどのように変遷したのかを明らかにしたものである。唐代における最初期の「地理」には,地形や植生間の規則的な構造とする孔穎達,及び知覚可能な物質現象たる「気」の下降運動とする李鼎祚による二説が存在する。続く宋代には「地理」の語義も複雑に洗練され,次のような変遷を経る。即ち,「地理」を(1)位置や現象の構造とする説,(2)認識上の区分に還元する説,(3)形而上の原理の現象への表出とする説,(4)有限の絶対空間とする説の四者が相次いで生まれたのである。これら多様な「地理」の語義は,東洋地理学および地理哲学の伝統の一端を開示する好資料といえる。Di-Li ( 地理)”, supposed to be the word origin of “geography,” is authentically based on the “Yi-Jing (Book of Changes),” one of the “Five-Classics” of Confucianism. This metaphysical book has predominated in Chinese philosophy and other sciences for more than two thousand years since published. Confucians, therefore, always have relied on commentaries on this book when they defined the concept of “Di-Li.” The oldest definition of this word was noted during the Tang dynasty (618 - 907 ). This paper surveys all the relevant commentaries about “Book of Changes,” written until the Song (960 - 1279 ) period, in order to clarify how the “Di-Li,” the concept of geography in East Asia, was understood over time and how those commentaries were formed.First, we discuss the earliest two types of definition of the “Di-Li” that was written in the Tang period: Kong Ying-da (孔穎達) considered the “Di-Li” as an orderly “structure” in landforms and vegetation; Li Ding-zuo ( 李鼎祚) regarded the “Di-Li” as a kind of atmospheric vertical circulation which is sensible in our “cognition”. Next, we analyze the commentaries on Yi-Jing written in the Song period. In this period, following four types of theories about a definition of the “Di-Li” were provided: (1 ) “structure” as abstract positional relations; (2 ) “cognition” as a basis of an idealistic classification criterion; (3 ) “phenomenon” as an incarnation of a metaphysical principle; (4 ) “space” that is absolute but finite. These diverse definitions of the “Di-Li” provided during Tang-Song period preserve certain aspects of philosophy of traditional Chinese geography.
著者
中村 容子
出版者
Japan Association on Geographical Space
雑誌
地理空間 = Geographical space (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.221-232, 2016

本稿は,NHK大河ドラマを活用した観光振興について,大河ドラマ「功名が辻」(2006)と「龍馬伝」(2010)で舞台となった高知市を取り上げ,行政や関連団体の取り組みの違いが観光客誘致にどのように影響したかを明らかにした。この二つの大河ドラマは,誘客数と自治体の取り組みに違いが表れた。2006年は,土佐藩主の山内一豊を活用し観光振興を行ったが,観光客の増加は一時的なもので継続性はなかった。一方,2010年の坂本龍馬を活用した観光振興では放映前年から観光客数が増加し,放映後も観光客が漸増した。歴史上の人物である坂本龍馬を継続活用した自治体による観光振興は,観光客の継続的な誘致という点では,高知市の観光客誘致に一定の効果があったといえる。
著者
小島 大輔 谷口 佳菜子 城前 奈美
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 = Geographical space (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.289-303, 2015

本稿では,唐津市呼子町における「呼子朝市」について,観光化の変遷と出店者の構成から,その存続基盤を検討することを目的とする。 「呼子朝市」は地域の変化に合わせて移動しており,また法律への対応のために組織化するなど柔軟に対応してきた。さらに,「呼子朝市」では「生活市」としての機能が低下していくなかで,「観光市」としての機能が増した。「呼子朝市」の出店者調査で,①鮮魚にイカが付加された呼子独特の出店品目構成による集客,②加工・乾物水産物販売による保存が可能な土産品の提供,③野菜販売者による賑わいの補強,④その他の販売による土産品目の多様性の創出,が把握され,いずれも「観光市」としての機能であった。ただし,この存続基盤の背景には,「生活市」としての機能が消失されず,賑わいの補強につながっていること,出店者同士の交流が出店者の出店意欲を維持させていることがある。