著者
ロジャー H. ブラウン
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.103-126, 2019

日本政治思想史研究では昭和初期における安岡正篤と内務省のいわゆる「新官僚」との関係が長く重視されてきた。また近年の研究において内務官僚の「牧民官」意識の重要性が認められている。しかし、この官僚の意識と安岡の官治論との関係、そして歴史的意義は明らかにされていない。本稿は、安岡と内務官僚の交流に焦点を当て、当時「東洋的な牧民思想」と呼ばれた安岡の官治論を考察する。この思想は、儒教の徳治主義的観点により政党政治を非難し、日本の国体に相応しい政治とは優れた「官」による国民の教化であるということを唱えたのである。安岡の「東洋思想」におけるこの牧民思想は内務官僚から支持を継続的に受け、戦間期に政党内閣の凋落を促進し、国民精神総動員運動に至った教化総動員運動の一要素になった。したがって、近世の牧民思想に基づいた近代の内務省の「牧民官」意識とそれらを取り入れた安岡の「東洋的な牧民思想」が、近代日本の官僚政治思想の一つの重要な要素であったと言える。
著者
川野 靖子
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.37-50, 2020

「塗る」等の動詞は、「壁にペンキを塗る/壁をペンキで塗る」のように、格体制の交替を起こす。従来から指摘されているように、こうした交替動詞は位置変化と状態変化の 2 つの意味を持つと考えられる。しかし一方で、交替動詞が表す位置変化の意味(e.g., 壁にペンキを塗る)と状態変化の意味(e.g., 壁をペンキで塗る)は、「別義」と言うには似すぎていることから、通常の多義語における意味間の関係とは異なる関係にあると考えられる。本稿では、それが具体的にどう異なるのかを考察し、以下のことを指摘した。交替動詞:「~ニ~ヲ塗る」と「~ヲ~デ塗る」は現実世界の同一事態を指示している。両表現の意味の違いは、その同一事態を位置変化として捉えているのか、状態変化として捉えているのか、という点にある。多義語 :多義語の各意味が指示する事態は、関連はするが同一事態ではなく、別の事態である。上記のように多義語との違いを詳らかにすることにより、交替動詞の特徴を明確にした。
著者
岡崎 勝世
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.1-17, 2020

アジア・太平洋戦争開始2 年後の1943(昭和18)年、軍部の教学刷新要求を反映した「中等學校令」と「中學校規程」、「昭和18 年要目」が公布され、「皇國の道」に則った教育、四年制への移行、国定教科書の使用、軍事教練強化等が定められた。欧米諸国のアジア侵略を厳しく批判し、「大東亞史」としての東洋史を軸とする世界史の国定教科書、『中等歴史一』(昭和19)が刊行され、歴史教育も「大東亞戦争」へと生徒を駆り立てるものとなった。だが皇国史観を鼓吹する国史教科書(『中等歴史二、三』)は学徒動員による教育崩壊で殆ど使用されず、続編も未刊行のまま敗戦を迎え、戦時教育体制が瓦解した。
著者
水野 博介
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.159-164, 2014

1 はじめに2 リキッドモダンとは何か? ~近代史の現段階の比喩~ ① 近代の流動性 ② 自由と解放 ③ 個人化 ④ 人間的絆のネットワークの解体3 リキッドモダンにおけるメディアの現状4 リキッドモダンにおける「監視」の概要 ① パノプティコン時代 ② ポスト・パノプティコン時代5 結語
著者
水野 博介
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.319-329, 2012

1 本稿の目的2 映画シリーズ『男はつらいよ』における都市および地方 (1) 東京 (2) 葛飾柴又 (3) 地方都市 (4) 都市以外の地方3 映画シリーズ『男はつらいよ』第1~24作までのロケ地4 分析のための覚書き5 結語
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.157-178, 2019

本稿は、2019年6月15日(土)におこなった、埼玉大学創立70周年記念リベラルアーツ連続シンポジウム3「池谷薫監督『蟻の兵隊』をめぐって-人間を撮る 人間の尊厳個人と戦争」の講演および討論を誌上にて掲載したものである。映画上映後、池谷薫監督の講演に続き、討論者として埼玉大学大学院人文社会科学研究科の一ノ瀬俊也教授と、小野寺史郎同研究科准教授が討論者としてコメントをおこない、質疑応答へと移った。司会は、牧陽一同研究科教授が担当した。主催は、埼玉大学教養学部/大学院人文社会科学研究科である。