著者
牧 陽一
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.109-123, 2020

不在をキーワードにして中国、韓国、日本の作品を比較検討する。まず岳敏君の「無人の風景シリーズ」と小泉明郎の「空気シリーズ」を取り上げて、その影の持つ不可視性について考察する。さらに空っぽの椅子の表象に注目し、キム・ウンソン & キム・ソギョン「平和の碑」から対話への希望と不戦へのメッセージを見出す。また不戦の具体的な意図を銃の表象に求め、小沢剛「ベジタブル・ウェポン」や尹秀珍「時尚恐怖主義」に共通する危機感を考察する。最後には二重の不在である毛同強「我有一個夢 I Have a Dream」を取り上げて、不可視的な観念の世界で結びあう可能性がある事を指摘する。
著者
古川 光流 袁 景竜 陳 怡禎 山崎 敬一
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.237-258, 2020

本研究は、アイドルファンであることの経験を中心に、現代の大学生の音楽受容の実態を量的研究と質的研究を組み合わせた多段階調査を行い、分析したものである。本研究では、第1段階として、S 大学の学生を中心に音楽受容の実態を調査した。その結果、音楽受容に男女差は見られず、また、現代の音楽産業の中心となっている音楽ライブの参加経験者も少数にとどまっていた。しかし、S 大学の学生のうち、アイドルの音楽ライブ参加経験がある学生を対象にした第2 段階の調査においては、どのようなアイドルを応援するかについて、男女差がみられた。また、年間4 回以上音楽ライブに参加する熱心な参加者や、複数のアイドルを応援するファンが多く見られた。さらに、第3 段階の調査として、アイドルの音楽ライブ参加経験者に対して、グループインタビューとグループディスカッションを行い、日常生活におけるアイドルファンの応援活動やコミュニケーション、複数のアイドルを応援する傾向について考察した。This paper examines the music experiences practiced by Saitama University students through quantitative and qualitative research. Data analyzed in this paper were from the questionnaire survey for the quantitative analysis and group interviews for the qualitative analysis. The first questionnaire survey revealed that there was no gender difference in respondents’ music experiences and only a small number of students who had participated in music live. However, the second survey established that there was the gender difference in attending concerts between the respondents. The second survey also showed that the respondents who participate in music live at least four times a year have tendencies to support more than one idol. The third survey as a qualitative research was to demonstrate the fan activities and communications in the idol-fan communities. This is conducted through sources from group interviews and group discussions with fan club members and idol music live participants.
著者
野中 進
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.87-103, 2023

本論では、まず差別語とメトニミー(換喩)的表現の関係について検討する。すべてではないにせよ、相当数の差別語がメトニミー的原理、すなわち〈部分で全体を言い表す〉表現方法に拠っている。なぜ〈部分で全体を言い表す〉と、言葉は差別的に響くのか考察する。論文後半では、前半の議論を「能力主義/業績主義(meritocracy)」に当てはめ、能力/業績(merit)とは人間の部分か全体かという問題を考える。その際、この問題について大学生たちのいくつかの発言を紹介し、考察に付したい。
著者
辻 絵理子
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.97-103, 2021

ヴァティカン図書館所蔵ギリシア語写本1927番は、ビザンティン世界で制作された挿絵入りの詩篇写本である。全289葉に145もの図像を有する貴重な作例だが、その独特の図像体系には比較対象となる写本が現存しない。そのため1940年代のモノグラフ出版の後は、旧約の王ダヴィデの表現に着目した分析などは見られたものの、写本全体を取り上げて各挿絵と対応する本文を詳細に検討する包括的な研究は為されてこなかった。本稿では同写本のテクストと挿絵を突き合わせ、同じ章句に挿絵を有する他の詩篇写本作例と比較しながら、紙幅の許す限り分析を進めていく。
著者
都築 正信
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.219-286, 2018

序文プロローグ第一章 古代ギリシア科学第一節 古代ギリシア初期自然学第二節 アリストテレス自然学第三節 ヘレニズム期科学第二章 アリストテレスの栄光第一節 古代ギリシア科学の伝搬第二節 アリストテレスの栄光第三章 近代への序曲第一節 イタリアルネサンスの勃興第二節 動的対象の把握第四章 近代科学の成立第一節 物体運動の解明第二節 近代科学の成立第三節 実験と観測第四節 ニュートン力学の言語エピローグ
著者
平林 紀子
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.95-121, 2022

米国大統領ドナルド・トランプの第一期政権(2017-2021) および2020 年再選選挙における政治マーケティングと戦略広報を「ブランド」戦略の観点からアプローチする研究の予備作業の二回目として、ブランドコミュニケーションおよび戦略広報に焦点をあてる。第一部では両陣営のブランドマーケティング戦略を概観し、第二部~第五部では、ブランドコミュニケーションおよび戦略広報を、広告、ビジュアル、トランプ陣営と保守派ならびにバイデン陣営とリベラル派双方のデジタルコミュニケーション戦略の新動向に分け、ブランディングとのつながりを詳しく検討する。
著者
劉 志偉
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.121-135, 2018

本稿は、実生活では日々耳にするものの、日本語教材には取り上げられることがほとんどなかった言語現象であるラ行音撥音に注目して考察を行った。音声学や音韻論における専門用語を可能な限り避け、日本語学習者にとって分かりやすい学習ルールを提案することが、その目的である。具体的には、まず、マスメディアを中心に集めた用例をもって、ラ行音撥音の全体像を明らかにした。続いて、筆者自身が来日以来、記録してきた学習メモに基づいて、ラ行音撥音の中で、学習者にとっての難点と考えられる箇所を示した。そして、以上の点を踏まえた上で、ラ行音に由来する撥音を体系的に理解する学習ルールを提案した。また、近畿方言を含む「準標準語」を学習する際に、上記のルールが援用できる可能性についても言及した。日本語学と日本語教育が「別居」状態にあると言われる中、日本語学習者の視点を重視し、いわゆる標準語に限定せず、方言を視野に入れて学習する必要性、また、通時的観点を部分的に取り入れることがより効率的な現代語の学習に繋がる可能性を、「越境する日本語」という枠組みで捉えるものである。
著者
水野 博介
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.167-174, 2014

1 問題意識2 『ガールズ&パンツァー(略称:ガルパン)』聖地巡礼①「聖地」をめぐる概要②まち歩き③「大洗町商工会」へのインタビュー3 『耳をすませば(略称:耳すま)』①「聖地」をめぐる概要②まち歩き③「せいせき観光まちづくり協議会」へのインタビュー4 結語:
著者
辻 絵理子
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.97-103, 2021

ヴァティカン図書館所蔵ギリシア語写本1927番は、ビザンティン世界で制作された挿絵入りの詩篇写本である。全289葉に145もの図像を有する貴重な作例だが、その独特の図像体系には比較対象となる写本が現存しない。そのため1940年代のモノグラフ出版の後は、旧約の王ダヴィデの表現に着目した分析などは見られたものの、写本全体を取り上げて各挿絵と対応する本文を詳細に検討する包括的な研究は為されてこなかった。本稿では同写本のテクストと挿絵を突き合わせ、同じ章句に挿絵を有する他の詩篇写本作例と比較しながら、紙幅の許す限り分析を進めていく。
著者
佐藤 雅浩
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.53-74, 2021

本稿の目的は、「うつ」で通入院経験のある人々を対象とした社会調査によって得られたデータを分析することで、精神疾患に関する医学的知識が、どのような経路を辿って社会に普及し、また人々に受容されているのかについて、その実態を明らかにすることである。佐藤(2019)においては、上記調査における回答者の属性的特徴や通院・治療経験、医療情報の取得経路、診断前後の意識変化などについて、主として計量的な観点から分析を行った。本稿では上記論文の問題意識を引き継ぎつつ、特に「うつ」で通入院経験のある人々が、受診前から接触していた医療情報の取得経路について、より詳細な検討を行う。具体的には、調査対象者らが、自身の「うつ」に気が付くきっかけとなったと考えている各種の情報源について、その概要と媒体の特徴を考察する。この作業により、精神疾患の流行と関連するI. Hacking の言う「ループ効果」について、その過程の一端を経験的な水準から明らかにすることが、本稿の最終的な目標といえる。