著者
村井 貞彰
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 農学 = Bulletin of the Yamagata University. Agricultural science (ISSN:05134676)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.95-100, 1959-02-28

1) 両卵寄生蜂は1958年現在著者によって,本州,四国及び九州の一部府県にその分布が確認されたにすぎない.しかし,両卵寄生峰の活動,習性から判断して,何れの寄生蜂も新農薬の水田への多量投入以前においては,本州,四国及び九州の水田地帯に広く分布していたものと考えられる.エゾイナゴ Oxya yezoensis SHlRARI の卵にも寄生可能であるが,北海道でのこの種卵塊は採集出来なかったので,この地の分布については将来の調査を必要とする.2) 両卵寄生蜂の敵虫としては,寄生峰の卵,幼虫及び桶を捕食するアオバアリガタハネカクシPaederus fuscipes CURTIS,ベニイボトビムシ Achorutes roseus GERVAISの2種が日本各地の調査で確認されたが,両敵虫とも被寄生寄主卵ばかりでなく,不寄生寄主卵をもそれを包むコルク状物質とともに喰害するので,寄生峰の生物的抵抗としては余り重きをなさないようである(東北地方における被寄生卵塊の被害度は10%以下).第2次寄生峰は発見出来なかった.
著者
村井 貞彰
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 農学 = Bulletin of the Yamagata University. Agricultural science (ISSN:05134676)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.73-79, 1959-02-28

1)両卵寄生峰ともイナゴ(Genus Oxya)の卵にのみ首尾よく寄生し,他のバッタ属卵には全く注意を払わない.これは寄主卵をつつむ卵塊構造の物理,化学的な差異にもとづくもののようである.また,両卵寄生蜂とも寄主卵胚子の発育状態に関係なく寄生するが,イナゴ仔虫脱出直前の寄主卵からは寄生峰の脱出は認められなかった.一方,寄生蜂の脱出した寄主卵においては,寄主胚子の進んだ卵ほど,寄生してから成虫脱出までの所要日数が長引く傾向が認められた.これは寄主匹子の発育にともなって,寄生峰の発育が阻害されるためと推察される.2) 両卵寄生蜂とも地下lcm前後の深さまでは潜土して寄主卵を発見出来る.この場合,寄主卵をつつむ卵塊は明らかに寄生峰の視覚のおよばないところにある.一方,卵塊をいろいろに処理した場合,卵塊を構成するコルク質状物質を取除いた卵粒は真の寄主であるにかかわらず,寄生蜂は全く注意を払わない.この事実は,両卵寄生蜂が寄主卵それ自体に誘引されるのではなく,卵粒をつつむコルク状物質の化学的臭気に誘引されたものと考えられる.
著者
村井 貞彰
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 農学 = Bulletin of the Yamagata University. Agricultural science (ISSN:05134676)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.311-317, 1960-03-30

【摘要】 第1報においては卵寄生蜂の新種Scelio sp.として日週活動と温度反応などを報告したが,翌年渡辺博士により数多くの送付標本から形態的に若干の差異ある個体が見出され,ムライクロタマゴバチとツルオカクロタマゴバチの2新種に分けられた.著者はその後種類別に追調査を行い2種の日週活動と温度反応にも著しい差異のないことを第2報【緒言】にのべたが,詳しいデーターは示さなかった.本報は両種を同一日時に,しかも同様環境条件下で調査した結果を示し,第1報と併せ考察したものである.1)両卵寄生蜂の日週活動については著しい差異は認められなかった.しかじ1957年8月13日の追調査時には降雨による活動抑制が観察された.前回の,そしてその後の調査から,両種の日週活動には気温と日射量が1次的な影響を及ぼし,風雨などは2次的な影響を及ぼすものと思われた.一方照度は日中の気温が活車有効温度以下(約200℃以下)に降る時期には2次的に働くが,日夜活動有効温度内(約20℃以上)にある時期には活動支配の要因に変るようである.2)温度反応においても,両卵寄生蜂に著しい差異は認められなかった.即ち両種とも95%信頼限界値の平均では,9℃前後で微動をはじめ,18℃前後で正位となり,約20℃前後で匍匐あるいは歩行をはじめる.更に飛翔は23℃前後ではじまり,33℃前後で興奮状態となり,46℃前後で不正伎となり転倒,47℃前後で熱死する.もし,匍匐あるいは歩行開始から興奮状態に至るまでの間を正常活動とみなすならば,その温度範囲は約18℃となる.一方微動から熱死に至るまでの活動可能限界範囲は約40℃となる.これら両種の温度反応の結果は,他の多くの昆虫のそれに較べるとイネツトムシ成虫のそれにかなり似ている.
著者
村井 貞彰
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 農学 = Bulletin of the Yamagata University. Agricultural science (ISSN:05134676)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.189-193, 1957-02-25

In the primary report,the author considered that,some individuals of the egg parasites may occur twice a year. On October in 1953, the author collected one egg pod in which were enclosed 15 individuals of Scelio tsuruokensis, though it seemed to have passed through the period of the appearance in that year, and was impossible to the emergence (MURAI 1954). Thereupon, the author has continued rearing of this individuals. On the other hand, the adults of Scelio nuraii, which were collected on the ridges of the paddy field, were reared in the laboratory. Thus,the author has gained some knowledge as to the number of times of the occurrence. ln the present paper the results of the ecological studies of adults of the egg parasites are shown. A special study was made on the number of times of theo ccurrerence and the longevity.
著者
村井 貞彰
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 農学 = Bulletin of the Yamagata University. Agricultural science (ISSN:05134676)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.65-72, 1959-02-28

1) 両卵寄生峰の産卵能力は主として温度条件に左右され(関係湿度70%以上において),適温下では能力の増強が認められる.交尾,未交尾の雌の聞には産卵能力に著しい差異は認められない.また,両卵寄生蜂とも平均して1雌,約140個の卵をその体内に臓しているが,実際に寄主卵内に産下されるのは100-110卵位と推察される.2) 両卵寄生蜂とも単寄生と,多寄生をする場合とがあるが,野外においては前者が普通のようである. 後者の場合,それは所謂過寄生で,寄主卵内で首尾よく発育を遂げ脱出してくる成虫は1個体に限られる.多寄生により脱出した成虫は,その体躯小さく,抱卵数もまた少ない.寄主卵内における両卵寄生峰の分布様式は寄生蜂成虫の出現期間内(普通8-9月)の調査では大体中間型分布を示すが,越冬した寄主卵(10月以降産卵された寄主卵を含む)での調査の場合には,寄生率の高低によって集中分布-中間型分布となる.したがって,寄生様式は調査の時期,各地の寄生率などによって変化するものと考えられる.
著者
村井 貞彰
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 農学 = Bulletin of the Yamagata University. Agricultural science (ISSN:05134676)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.81-94, 1959-02-28

1)両卵寄生蜂の生活環は胚子の発育同様の寄主卵を供試し,同様の環境条件下で飼育した場合には,殆んど差異を認めない.しかし,野外においては寄生の時期,寄生後の環境条件(特に温度)などによって生活環は変化するようで,大部分の個体は年に1世代しか経過しないが8月中に羽化して直に寄主卵に寄生を完了した個体は年に2世代を経過する.越冬は第1令幼虫でなされる.2)両卵寄生蜂とも,その後胚子発生は極めて類似しており,各ステージの体長,休巾,活動習性などにおいては著しい差異を認めることは出来なかった.ただ,現在のところでは,第1令幼虫及び蛹化後の形態的特徴において,僅かに両卵寄生蜂の区別がつけられる程度のようである.したがって,将来更に詳しい両卵寄生峰の未成熟ステージでの区別点と,両種の血縁関係などについて調査する必要があるものと思われる.一方,両卵寄生蜂の発育速度は,寄生の時期,寄生当時の寄主胚子の発育状態,寄生後の環境条件(特に温度)などによって影響される.
著者
村井 貞彰
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 農学 = Bulletin of the Yamagata University. Agricultural science (ISSN:05134676)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.319-322, 1960-03-30

【摘要】 両卵寄生蜂に関するこれまでの研究は,主として蜂の利用を目的として研究がおしすすめられたが,同時にScelio属すべてに未知だった問題についても解決されるところが少くなかった.この継続した研究の間,著者は両種の類縁関係に少なからぬ興味をいだき,主として生態学的立場から追求を試みたが,両種には多くの共通性が認められた.本報においては,遺伝学的立場から追求の手はじめとして試みた両種の交配結果が示された.即ちScelio muraii♀ x S.tsuruokensis ♂,S.tsuruokensis ♀ x S.muraii ♂ の場合においても,著者の実験ではその子孫は何れも母親の形質を表現した.これは正常遺伝とは異った型のものである.しかし寄生性膜趨目の性決定機構,遺伝方式は定まっていないので,両卵寄生蜂のそれらについても更に多くの交配実験と,細胞学的あるいは遺伝学的立場からの検討が必要と思われる.
著者
村井 貞彰
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 農学 = Bulletin of the Yamagata University. Agricultural science (ISSN:05134676)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.169-178, 1957-02-25

Introduction: The author carried on further investigations on the ecological differences of adults of both species,but on the diumal activity,the period of the appearance,etc.,as is recorded in the primary report,no remarkable differences were seen.As to the distribution area, except Shonai district,Yamagata Pref.,where both the species occur together, the only area newly known is the neighbourhood of the city of Takada, Niigata Pref.,where Scelio muraii alone occurs. In the present paper, the results of the ecological studies of adults of both species are shown. A special study was made on the emergence of adults, the seasonal prevalence,the rate of appearance and the sex ratio. The investigations have been done from 1953 to 1956. Before going further, the author wishes to express his sincere thanks to Prof.Dr. Noboru ABE for the kind guidance given to the author during the course of the present study, and to Dr. Chihisa WATANABE of Hokkaido University,Dr. Tei Ishii of Tokyo University of Agriculture and Technology, and Mr. Shizuo KATO of National Institute of Agricultural Sciences for the kindness given to the author in naming the species and the literature.
著者
村井 貞彰
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 農学 = Bulletin of the Yamagata University. Agricultural science (ISSN:05134676)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.101-105, 1959-02-28

【摘要】 本誌の第1報から第9報まではムライクロクマゴバチとツルオカクログマゴバチの成熱,未成熟ステージの主として生態学的研究の結果を報告した.一方イナゴ仔虫及び両卵寄生蜂に対する農薬の影響,日本におけるイナゴの分布と発生状況,イナゴ卵塊の分布密書度,深度と大きさなどについては別誌(山形農林学会報)にそれらを報告しておいた.本報は上の基礎研究から両卵寄生蜂の利用価値を推論したものである.1) 日本の場合,両卵寄生蜂は寄主成虫の分布に伴い,各地の水田地帯に広く分布していたものと思われる(北海道は未確認).しかも両卵寄生蜂ともイナゴ(Genus Oxya)の卵のみを寄主選択し.大部分の個体が単寄生をするので,寄生峰の大量生産には大量の寄主卵を必要とし,これを集める労力と費用は莫大で,現在のところ満足な量を集めることは困難である.また,人工的寄主を他に求めることも今のところ不可能である.したがって,両卵寄生蜂に著しい成果を期待することはむつかしい.しかし,野外から採集した寄主卵,あるいは室内飼育の成虫から得た寄主卵に両卵寄生蜂を寄生させ,増補した蜂を野外出現期間の8~9月の間,それに正常出現期ではないが,話動可能な10月中の20℃以上の日時に野外に放飼い寄生率を現在より高めることは可能である.2)外国の場合,両卵寄生蜂の分布するか否かは将来の調査を必要とするが,熱帯及び亜熱帯地方では寄主の発生回数も日本におけるよりは多く,両卵寄生蜂の活動,繁殖にも一層好適だと思われるので,将来両卵寄生蜂が発見されない場合には利用価値は充分あるように思推される.
著者
村井 貞彰
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 農学 = Bulletin of the Yamagata University. Agricultural science (ISSN:05134676)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.179-187, 1957-02-25

In .the previous report,the author recorded on the emergence of adults of the egg parasites,the seasonal prevalence,the rate of the appearance and the sex ratio. In that paper, the author considered that, both species seem to indicate the possibility of the rare parthenogenesis because of the fact that the females have a great number of them,and the percentage of the parasitism may be also increased by that. In the present paper, the results of the ecological studies of adults of the egg parasites are shown. A special study was made on the activity of copulation,oviposition and the percentage of the parasitism.
著者
苫名 孝
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 農学 = Bulletin of the Yamagata University. Agricultural science
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.73-81, 1956-03-30

【緒言】 大根のすいり現象については,従来多くの業績があり生態的,組織解剖的な面で得る所多大であるが,体内成分の点では定量的な成績を見出し難いうらみがあった.著者はさきに,根菜類に及ぼす肥料三要素の影響について報ずる所があったが,その一端として体内含量とす発現との関係を調査し,更に窒素含量の消長についてはようやく詳細に検討を試みた.なお,地上部茎葉との関係を明らかにする必要から,その手がかりとして浸透圧に就いても若干の測定を行った.