著者
松本 訓枝 日比 薫 谷口 惠美子
出版者
岐阜県立看護大学
雑誌
岐阜県立看護大学紀要 = Journal of Gifu College of Nursing (ISSN:13462520)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.101-111, 2018-03

本研究の目的は、ひきこもり状態にある子どもの親の困難を明らかにすることにある。 ひきこもり者の状況についてある程度整理し語ることが可能な親のうち、研究への同意が得られた父親1 名、母親3 名に半構成的面接調査を実施した。 その結果、ひきこもり当初の親の対応では、ひきこもりをどう理解し対応して良いのかに苦慮し、なすすべがない困難な状況下で【接触を回避する】【怒る】【子どもを信じるしかない】など、かろうじて可能な対応を講じていた。しかし、その後の現在の対応では、ひきこもり状態から歩み始めたケースでは【経済的支援の模索】と【待つ】対応を、自室に閉じこもりひきこもり状態に変化がないケースでは【家族との会話をもつことの模索】【かかわるきっかけの模索】といった対応をとり、ひきこもり状態に即した対応の相違が浮き彫りになった。今後、親として対応すると良いと思うことでは、ひきこもり者への支援が行き届かない分、家族、とりわけ親の関わりが問われる事態となっていることが想像された。親が考える社会参加の内容には【就労する】【仲間と良い体験をする】があがった。一方で、【地域に存在する】【地域での認知】という対面的な関わりのある近隣コミュニティの認知、受け入れをあげた親もいた。ひきこもり者の社会参加の意思には【就労したい】【人と関わりたい】があがった。 ひきこもり状態から歩み始めたケースでは、子どもを経済的に自立させるという社会化エージェントの役割を果たせないことによる困難が、ひきこもり状態に変化がないケースでは、ひきこもり当初の親の対応にみられた子どもをどう理解すべきか、講じるべき対応がない、わからないというケア役割を果たせないことによる困難があった。身近な近隣コミュニティとひきこもり者・親との関係をつなぐ支援、親を含めた周囲のひきこもりへの理解と対応の啓発、地域社会の関係機関が連携した体制整備が求められる。
著者
服部 律子 武田 順子 名和 文香 布原 佳奈 松山 久美 田中 真理 小森 春佳 澤田 麻衣子
出版者
岐阜県立看護大学
雑誌
岐阜県立看護大学紀要 = Journal of Gifu College of Nursing (ISSN:13462520)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.63-73, 2019-03

A 県の1 次産科医療機関に勤務する経験7 年目以上の助産師を対象に、助産師が日ごろ感じている「気になる母子」とはどのような母子であるか、また一次医療機関と他機関の連携について明らかにするために質問紙調査を行った。調査内容は助産師が「気になる母子」と感じた経験の有無や具体的な場面、また「気になる母子」への対応、組織やチームの対応、他の医療機関との連携の課題、行政との連携の課題などである。勤務助産師180 名に質問紙を郵送し、そのうち返信があったのは68 名であった。「気になる母子」であると認識したことがある助産師は64 名(94%)であり、気になる場面としては【児の接し方や児への愛着に問題があると思われる場合】【母に精神的な問題があると思われる場合】【夫婦関係や家族関係に問題があると思われる場合】などであった。また「気になる母子」への対応は【地域の保健センターへ連絡する】【母の話を聞くようにする】【スタッフ間で状況を共有し対応を検討する】【母の様子を見守る】などであった。これらは日ごろから妊産婦に寄り添ってケアを行っている助産師が気づく視点であり、助産師はまず妊産婦の話を聞くことで状況を把握したり、問題解決に繋げたりする支援を行い、スタッフ間で状況を共有し対応を検討し保健センターへ連絡していた。 行政の保健師との連携における課題として【保健師と直接的な連携が取れていない】【「母と子の健康サポート支援事業」の依頼基準が不明確であり、緊急性が伝わりにくい】【退院後の保健師のケアの現状が分からない】【保健師との情報共有の場があるといい】などであった。行政の保健師とは、顔の見える関係づくりを進め、お互いの支援について理解を深めることが連携を築くことになると示唆された。「気になる母子」への介入は助産師の気づきを医療施設のチームそして地域へ広げていくことで、母子と家族への支援へ繋げることができると考えられる。
著者
田辺 満子 小森 春佳 茂本 咲子 橋本 麻由里 黒江 ゆり子
出版者
岐阜県立看護大学
雑誌
岐阜県立看護大学紀要 = Journal of Gifu College of Nursing (ISSN:13462520)
巻号頁・発行日
vol.20, no.特別号, pp.105-112, 2019-09

本学の卒業者支援・キャリア形成支援におけるオリジナリティは、第一に、4 年間の体系的な就職進路ガイダンスにより、専門職としての自分の将来の在り方を考える機会を在学時から各学年に合わせて配していることである。第二に、卒業者と在学生が意見交流できる機会が多様に設けられていることであり、在学生は専門職者として活動している先輩の体験談を直接的に聞くことで、卒業後の自己の成長をイメージする機会となっている。同時に、卒業者にとっては、卒業後の自己の実践活動を振り返り語ることで、今後の活動のあり方を考える機会となっている。第三に、卒業後の新任期に母校に集まり同級生・同窓生と意見交流する機会が設けられていることである。たとえば、新卒者交流会では、就業後3 か月程が経過した頃に集まり、仕事への対応がまだ十分にできない自分について悩んでいるのは自分ひとりではないことに気づき、明日への活力を得ており、卒後2 年目卒業者交流会では、就業後1 年が経過し、自身が新人を迎える時期に今後のあり方を考える機会となっている。さらに第四として、大学教員が県内医療機関を訪問し、看護管理者・卒業者・大学院修了者と話し合うことを通して、現場と大学が協働して人材育成の在り方を考える機会に繋がっていることである。すなわち、在学期から卒業後までの継続的な支援、および大学と現場との繋がりをもった支援を体系的に推進していると言えると考える。
著者
橋本 麻由里
出版者
岐阜県立看護大学
雑誌
岐阜県立看護大学紀要 = Journal of Gifu College of Nursing (ISSN:13462520)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.39-50, 2018-03

本研究の目的は、看護実践の経験において、大卒新任者がどのように考えて看護実践に取り組み、看護について何を得たのかという視点で、大卒新任者の看護実践経験をもとにした学びを明らかにすることである。そして、看護実践経験をもとに学び続ける看護専門職となるために、学士課程において何を学ぶとよいのかを考察する。 方法は、学士課程卒業後2 ~ 3 年目の看護師6 名を対象に、自分の成長や学びにつながったと思う看護実践経験について2 回の半構成的面接を実施し、その内容から看護実践経験において取り組んだこと、看護について得たことを質的帰納的に分析した。 結果、6 名の大卒新任者は、2 回の面接を通して3 ~ 6 つの看護実践経験を語った。その内容は、受け持ち患者へのかかわりや新たに担う役割に関する看護実践経験が多かった。6 名の大卒新任者の看護実践経験をもとにした学びは〔実践における確かさが持ちにくい中で自立を目指す〕〔対象者の思いに焦点を合わせたかかわりを模索する〕〔看護師としての責任や使命感を意識して取り組む〕〔他者と協働して実践を進めていく〕〔実践をもとに、今後の看護に向けて自分を進めていく〕〔自分の成長や実践力を向上する〕の取り組みにより、《対象者への深い理解》《患者・家族の思いに直接かかわる看護の役割》《命を守る看護師の責任の重さ》《患者の問題解決に対する受け持ち看護師の責任》《チームで実践に取り組むこと》《確実に看護を実施するための準備方法》《自分の成長のための目標や機会・方法》《看護に対する“できる”という手応え》を得たことであった。 以上のことから、看護実践経験をもとに学び続ける看護専門職となるために、学士課程では対象者の思いに焦点を合わせ、その人を人として理解し尊重する基礎的態度、看護専門職として自分を育てていく責任と方法、他者と一緒に考え問題解決していく意義や方法を学ぶことが重要であると考える。