著者
加藤 由麻 妙田 貴生 藤森 嶺 戸枝 一喜 西澤 信 桜井 智野風
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.92-97, 2013-07-31

リノール酸などの不飽和脂肪酸は,必須脂肪酸として生体の恒常性維持に不可欠なばかりか,血中コレステロールの上昇抑制作用を有することが知られている。エミュー(学名:Dromaius novaehollandiae)はオーストラリア原産の大型走鳥類で,エミューの皮下脂肪から調製したエミューオイルは原住民により万能薬として用いられてきた歴史がある。エミューオイルには,オレイン酸などの不飽和脂肪酸が多く含まれており,エミューオイルの経口投与は皮膚炎や関節炎への抗炎症作用が報告されている。一方,血中脂質の抑制作用や脂質代謝の改善作用が報告されているが,詳細なデータはいまだ報告されていない。本論文では,エミューオイルの経口投与がラットの脂質代謝に及ぼす影響を分析した。エミューオイルの経口投与(1.0mg/kg/day)6週間では,体重や精巣上体脂質量に対する影響は認められなかった。しかし,精巣上部脂質から単離した脂肪細胞をイソプロテレノールで刺激して生じる脂質分解反応は,エミューオイル投与群でラード投与群や大豆油投与群に比べて亢進した。以上の結果より,エミューオイルの経口投与はラットの脂質代謝に影響を及ぼし,投与量依存的に脂肪分解反応を亢進することがわかった。エミューオイルの脂質代謝に及ぼす注目すべき影響は,機能性食品や医薬品に応用可能と考えられる。
著者
原田 小夜
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.2-9, 2012-04-30

介護支援専門員(以下,CM)が直面する在宅ホスピスケアの課題を明らかにするため,A県B地域の居宅介護支援事業所55か所のCM151人を対象に自記式質問紙郵送調査を行った。2009年2月〜3月に実施した「在宅ホスピスケア,ケアチームに関する困難,課題と思うこと」の自由記載調査の意味内容を類似性で分類した。回答者133人から得られた記述件数は150件であり,【多職種との連携】,【本人,家族へのケア】,【ケアサービスの調整】,【CM自身の課題】の4つのコアカテゴリーに分類した。【多職種との連携】の記述件数が最も多く,CMは,病院職員全体が在宅支援者との連携を意識し,介護保険サービスに関する理解を深める必要があり,退院前の病診連携に課題があると認識していた。また,在宅療養を継続する上で,24時間対応できる在宅医の存在,訪問看護とCMとの相互の役割確認とタイムリーなケアプラン変更が課題であり,本人及び,家族の不安に対する支援が重要であると認識していた。介護保険制度上の問題では,介護認定の遅さ,CMへの無報酬が課題とされ,CMの基礎的ながん患者のケアに関する学習の必要性が示唆された。
著者
坂爪 一幸
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.50-55, 2012-07-31

発達障害や認知症は伝統的には行動や能力から理解されてきた。行動や能力には高次脳機能という基盤がある。発達障害も認知症も高次脳機能に生じた問題であり,高次脳機能を理解した支援が欠かせない。障害のある子どもや成人だけでなく,健常な子どもの能力や行動の発達も高次脳機能の成熟に基づく。また健常成人の加齢に伴う能力や行動の衰えは高次脳機能の低下に起因する。神経心理学の発展に伴って,能力や行動の基盤である高次脳機能の特徴を明確にして対応を策定する神経心理学的なアプローチの重要性が増している。本論では,発達障害と認知症の伝統的な障害理解の問題点,神経心理学的な視点による理解の有用性,そしてそれらに基づく包括的な支援の枠組みをまとめた。神経心理学は胎児・乳幼児・児童・生徒・成人・高齢者を対象にして,高次脳機能という視点から一貫した人間観と健康観を提供できる。