著者
原田 小夜 宮脇 宏司
出版者
聖泉大学
雑誌
聖泉看護学研究 = Seisen journal of nursing studies (ISSN:21871981)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.9-17, 2013

背景 施設職員のストレスが高いことが指摘されている.高齢者介護施設では,認知症ケア施設のユニット化,障害者自立支援法の施行による障害者支援施設職員の勤務環境が変化した.高齢者介護施設の介護職のストレスに関する報告はあるものの,障害者支援施設職員を対象とした研究や施設職員全体のストレス,抑うつに関する報告は見られない.目的 障害者支援施設,特別養護老人ホーム,認知症ユニットケア施設職員の異なった施設環境にある施設職員を対象とし,抑うつ・ストレス状態と関連要因を明らかにすることである.方法 特別養護老人ホーム,認知症ユニットケア施設職員,障害者支援施設,272人を対象として,Zungの自己評価式抑うつ尺度(Self-rating depression scale 以下SDS)を用いた.本調査の信頼性係数(α係数)は0.82であった.また,職場のストレス判定には,原谷(1998)のNOIOSH(National Institute for Occupational Safety and Health)職業性ストレス簡易調査票を用いた. 調査項目毎のSDS平均値の差にはWelchのt検定,一元配置分散分析を実施し,多重比較分析は,Tukey-kramer検定を実施した.SDSは40点をカットオフポイントとし,40点未満を健康群,40 ~ 49点を軽度抑うつ,50点以上を中等度以上の抑うつと判定した.抑うつと関連要因の比較においては,健康,軽度抑うつ,中等度以上の3群に分け,カイ二乗検定を行った.職業性ストレス簡易調査票は,リスクA,B,Tを職場別,職種別に算出し,比較した.結果 回収数は,184人(回収率74.8%)で,SDS及び職業性ストレス簡易調査票のデータに欠損の無かった169人(有効回答率62.1%)を分析対象とした.SDSの平均値は,42.1(SD=9.1)で,軽度抑うつ以上が,55.0%と抑うつの割合が高かった.抑うつ状態には,年齢,職種,仕事の満足度,相談者の有無が関連していた.職業性ストレス評価の総合健康リスク値では,従来型特別養護老人ホームが129,障害者支援施設が124で高く,職種別では介護職,役職者が高かった.考察 介護施設は他の事業場よりも抑うつ傾向にあることが推察された.また,施設によって,職業性ストレスに違いが見られ,各施設の環境に合わせたラインケアの体制づくりが必要である.若い介護職と役職者の抑うつやストレスが高い傾向にあり,ハイリスク群であると考えられ,相談支援体制を強化する必要がある.結語 施設に合わせた相談支援システムとハイリスク群への介入の必要性が示唆された.
著者
原田 小夜 西垣 里志
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.122-132, 2021-07-27 (Released:2021-10-16)
参考文献数
28

高齢精神障害者支援において精神科訪問看護が介護支援専門員との連携を進める上で直面している課題と対応について明らかにすることを目的に,精神科訪問看護ステーション3カ所6名の精神科訪問看護師にインタビューを行い,質的帰納分析を行なった。その結果,【家族が抱え込んだ精神・身体の両方のケアが必要な高齢者】,【介護支援専門員の高齢精神障害者に対する生活支援力の不足】,【地域での連携が進まないジレンマ】,【訪問看護は介護と障害の架け橋】の4コアカテゴリを抽出した。家族だけで長年援助してきた精神科未治療で身体的ケアの必要な高齢精神障害者の紹介が介護支援専門員から精神科訪問看護に入るが介護支援専門員の精神疾患・精神障害に対する知識不足や観察力不足があるため連携が難しいこと,介護支援専門員は精神科訪問看護の役割が理解できていないこと,支援を進める上で介護保険制度上の課題があること,精神科訪問看護が多職種間の連携を主体的に進めていこうと考えていることが示唆された。
著者
清水 めぐみ 原田 小夜
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.94-102, 2021 (Released:2021-12-28)
参考文献数
26

目的:介護支援専門員の高齢者の飲酒問題に対する認識と飲酒問題を持つ本人,家族への関わりを明らかにする.方法:介護支援専門員24人の面接内容を質的統合法(KJ法)により分析した.結果:介護支援専門員は【飲酒問題に対する学習機会の不足と飲酒に寛容な地域の中で飲酒問題を抱える高齢者を支援する難しさ】と【家族の揺れ動く気持ちを理解することの難しさと支援がうまくいかなかったことへの不全感】を認識しており,【飲酒に向き合う本人の気持ちに寄り添いながら介入のタイミングを見極め,本人の気づきを促す姿勢】で【介護サービスを利用した家族支援と飲めない環境づくり】を行っていた.【専門外の内科医の熱心な指導と専門医との協働】と【本人・家族の学習の場となる断酒会の存在】を望んでいた.考察:介護支援専門員は飲酒問題の学習不足を感じつつ,介護サービスを活用し,医師や断酒会と連携して本人,家族を支援していたと考える.
著者
吉益 光一 藤枝 恵 原田 小夜 井上 眞人 池田 和功 嘉数 直樹 小島 光洋 山田 全啓 窪山 泉
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.547-559, 2019-09-15 (Released:2019-10-04)
参考文献数
55

目的 精神科救急医療体制の構築と関連する法律の整備に関して,現代の日本における課題を明らかにし,解決策を探ること。方法 日本公衆衛生学会モニタリング・レポート委員会精神保健福祉分野のグループ活動として,2014年度から2017年度にかけて精神科救急および措置入院に関する情報収集を行った。各年次総会に提出した報告書を基に,必要に応じて文献を追加した。結果 地域における精神科医療資源の偏在や,歴史的な精神疾患に関する認識の問題なども絡んでいるため,全国均一的な救急医療システムの構築のためには越えなければならないハードルは高い。また,強制入院の中で最も法的な強制力が強い措置入院制度に関しては,その実際的な運用を巡って全国でも地域差が大きいために,精神保健福祉法に,より具体的な記載が盛り込まれるとともに,厚生労働省から一定のガイドラインが提示されている。とくに近年は凶悪犯罪事件との関連を巡って,社会的にも関心が高まっており,一部では措置入院の保安処分化を懸念する声が上がっている。精神疾患は今や五大疾病の一つに位置づけられているが,その性質上,生活習慣病などに比べて,疫学的エビデンスが圧倒的に不足しており,これが臨床や行政の現場での対応に足並みが揃わない主要因であると考えられる。結論 日本公衆衛生学会は,医療・福祉・行政などに携わる多職種から構成される学際的な組織である強みを活かして,多施設共同の疫学研究を主導し,措置入院解除および退院後の予後に関する,すべての関係自治体が共有しうるデータベースとしての疫学的エビデンスの構築を推進する役割を担っている。
著者
原田 小夜 種本 香
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.575-588, 2018-10-15 (Released:2018-10-31)
参考文献数
29

目的 地域ケア会議は地域包括ケアの推進に重要な役割を担っている。本研究目的は,地域包括支援センター(地域包括)職員の地域ケア会議の企画運営の課題と運営における工夫を明らかにし,保険者の効果的な地域ケア会議の企画運営を推進することである。方法 地域ケア会議を運営している職員30人(1グループ5~9人),委託地域包括職員3グループと保険者職員1グループに「地域ケア会議の進め方,困ったことや課題に思ったこと,効果のあったこと」をテーマにグループインタビューを実施し,質的帰納的に分析した。グループごとに,逐語録を作成し,コード化し,サブカテゴリを抽出した。その後,4グループのサブカテゴリを比較,内容の共通性から,中位カテゴリを抽出し,その共通性からカテゴリを抽出し,カテゴリを比較し,その共通性からコアカテゴリを抽出した。サブカテゴリを比較して中位カテゴリに統合する段階で,すべてのグループで共通するものか,グループにより異なるものかを比較した。 結果 4グループインタビューの結果,454コード,91サブカテゴリ,29中位カテゴリ,11カテゴリ,4コアカテゴリを抽出した。地域ケア会議の企画運営における課題は,【地域ケア会議の位置づけ・目標設定に対する迷い】,【会議運営のスキル不足に伴う負担感】,【地域包括の介護支援専門員(以下,CM)や住民を巻き込んだ地域づくりへの足踏み】の相互に関連する3コアカテゴリを抽出した。課題を解決するための工夫として,【効果的な会議にするための工夫によって得られた効果の実感】の1コアカテゴリを抽出した。【効果的な会議にするための工夫によって得られた効果の実感】は,地域ケア会議の構造化と経験の蓄積によるスキル強化とCMの地域ケア推進力の育成,地域ケア会議を住民と一緒に活動するきっかけと捉えるという地域包括職員の地域ケア会議に関する認識の変化であった。結論 地域ケア会議の効果的な企画運営には,保険者の地域ケア会議の目的の明確化と体系化,地域包括職員のファシリテート能力の向上が必要であり,また,保険者による委託包括への支援,CM研修とともに,保険者の地域ケア会議結果と関連するデータの収集,分析から政策化に向けた保険者機能の強化が必要である。
著者
原田 小夜
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.253-263, 2014-01-31

精神認知機能に問題がある高齢者の地域包括ケアを進めるために,介護職のケア困難感を軽減することを目的に教育プログラムを提供し,その効果と課題を検証した。プログラムは,高齢者の精神認知機能の特徴,精神認知機能の問題への対応に関する講義と事例検討である。研修前後に自記式アンケートを実施した。困難度24項目のリッカートスケールを作成し,研修前後の得点の比較についてFriedman検定を実施し,困難度に違いが見られた項目について多重比較(Bonferroniの調整)を行った。有意水準は5%とした。研修前の困難度では,7項目が3.0以上,その他でも2つ以下の項目は無かった。精神症状,不安に対する理解,コミュニケーションの取り方,ケアの拒否の項目は,研修後に困難度が有意に減少した。逸脱行動,自殺企図,頻回の電話,金銭感覚など利用者に応じた具体的な対応の必要がある項目の困難度は変わらなかった。事例検討によって,生活障害に対する困難度の軽減が図れ,事業所内の情報交換や多職種連携の必要性の理解に繋がった。
著者
原田 小夜
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.26-35, 2013-04-30

本研究は,高齢精神障害者の在宅生活支援においてホームヘルパー(以下,HH)が対応に困った利用者の行動とHHの対処を検討するためにインタビュー調査を行った。対応に困った利用者の行動を抽出し,カテゴリ分類を試みた。HHの対処を4段階のレベル,1「全く対応できなかった」.2「対応できなかった」.3「対応できた」,4「上手く対応できた」に分類し,利用者の行動別に対処レベルの割合を求めた。HHが困った利用者の行動は151件で,7カテゴリ,18サブカテゴリに分類された。《精神症状への対応》51件,《うつ状態への対応》5件,《不安への対応》12件,《拒否・攻撃への対応》17件,《生活障害への対応》36件,《コミュニケーションの取り方》23件,《認知機能を伴う行為》7件であった。対処行動は,レベル1が31.1%,レベル2が29.1%,レベル3が21.9%,レベル4が17.9%であった。《精神症状への対応》,《うつ状態への対応》,《拒否・攻撃への対応》が低く,《不安への対応》,《認知機能を伴う行為》で高かった。《生活障害への対応》,《コミュニケーションの取り方》は,サブカテゴリにより異なった。HHのケア困難感を軽減するためには,(1)精神症状と障害の理解と対処に関する教育プログラムの開発,(2)ケアチームの医療職に相談できる体制づくり,(3)HHの観察情報の多職種ケアチームでの共有とケアモニタリングでの活用の3点の重要性が示唆された。
著者
原田 小夜
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.2-9, 2012-04-30

介護支援専門員(以下,CM)が直面する在宅ホスピスケアの課題を明らかにするため,A県B地域の居宅介護支援事業所55か所のCM151人を対象に自記式質問紙郵送調査を行った。2009年2月〜3月に実施した「在宅ホスピスケア,ケアチームに関する困難,課題と思うこと」の自由記載調査の意味内容を類似性で分類した。回答者133人から得られた記述件数は150件であり,【多職種との連携】,【本人,家族へのケア】,【ケアサービスの調整】,【CM自身の課題】の4つのコアカテゴリーに分類した。【多職種との連携】の記述件数が最も多く,CMは,病院職員全体が在宅支援者との連携を意識し,介護保険サービスに関する理解を深める必要があり,退院前の病診連携に課題があると認識していた。また,在宅療養を継続する上で,24時間対応できる在宅医の存在,訪問看護とCMとの相互の役割確認とタイムリーなケアプラン変更が課題であり,本人及び,家族の不安に対する支援が重要であると認識していた。介護保険制度上の問題では,介護認定の遅さ,CMへの無報酬が課題とされ,CMの基礎的ながん患者のケアに関する学習の必要性が示唆された。