著者
井奈波 良一
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.294-302, 2019

<p>女性看護師の主観的幸福度に関連する職業性ストレスを明らかにすることを目的に,A総合病院の経験年数1年以上の女性看護師318名(年齢35.6±11.3歳)の自記式アンケート調査結果について分析した。職業性ストレスの把握には,新職業性ストレス簡易調査票の短縮版を使用した。対象者を主観的幸福度が「高い」,「中庸」,「低い」の3群に分け,多重ロジスティック回帰分析を行った。その結果,主観的幸福度が「高い」は,職業性ストレス要因の指標である「仕事の資源」の中の「仕事の適性」(オッズ比1.83),「同僚からのサポート」(オッズ比1.24),「家族や友人からのサポート」(オッズ比1.30)および「キャリア形成」(オッズ比2.54)の各得点が高いことに有意に関連していた(p<0.01またはp<0.05)。また,主観的幸福度が「高い」は,アウトカムでは,「活気」(オッズ比1.24),「家庭満足度」(オッズ比3.03)および「ワーク・エンゲイジメント尺度」(オッズ比1.05)の各得点が高いことに有意に関連し(p<0.01),「抑うつ感」(オッズ比0.87)得点が低いことに有意に関連していた(p<0.01)。以上のことから,経験年数1年以上の女性看護師の主観的幸福度が「高い」ことは,仕事の資源に有意に関連していることがわかった。</p>
著者
熊井 三治 洲崎 好香 有吉 浩美
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.10-19, 2012-04-30 (Released:2017-12-28)
参考文献数
15

近年増加し続ける糖尿病において,その心理的な発症要因を明らかにするために,多面的生活ストレス調査表を施行した。また大うつ病患者と健常者において同様の調査表を施行し,三群間でその相違を比較検討した。次に糖尿病患者が有するさまざまな精神症状,病的性格,生活満足度の低下が糖尿病の原因なのか糖尿病悪化のための二次的結果なのか調べるために,糖尿病群においてHbA1cとそれぞれの尺度の相関を調べた。さらに問診表の質問項目の中かから,その特徴的な気質及び行動パターンより,セロトニン作動神経性向尺度,ドーパミン作動神経性向尺度,ノルアドレナリン作動神経性向尺度の新尺度を作成し,それぞれの尺度において三群間の相違を調べた。同様に糖尿病群において新尺度とHbA1cとの相関を調べた。糖尿病群とうつ病群は健常者群と比較しうつ傾向など多くの病的尺度が高く,幸福度を示す生活満足度が低かった。しかし、糖尿病群は大うつ病群と異なり過剰適応型性格が低く,攻撃型性格が高かった。またこれらの二つの性格は糖尿病の重症度とは相関していなかった。新尺度における比較では糖尿病群とうつ病群は健常者群と比較し,セロトニン作動神経性向尺度とドーパミン作動神経性向尺度はともに低いものの,ノルアドレナリン作動神経性向尺度は糖尿病において高値であり,HbA1cとも相関が見られなかった。これらのことより,糖尿病の精神症状の発症や生活習慣や生活満足度の悪化とその程度は糖尿病による二次的影響と言えるが,攻撃型性格やそれに伴うノルアドレナリン作動神経系の機能亢進が,糖尿病の心理的な側面での要因と考えられる。したがって糖尿病の生活指導や心理的アプローチにあたっては,多面的な生活ストレスの調査を行いながら行動療法を中心とした,糖尿病患者の各病相に合った総合的アプローチが必要であると言える。
著者
高山 直子 雨宮 俊彦 西川 一二 吉津 潤 有吉 浩美 洲崎 好香 中村 登志子
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.87-94, 2012-07-31 (Released:2017-12-28)
参考文献数
13

本研究では成人勤労者および青年期学生における,肥満におよぼす心理的要因の影響を明らかにするために,日本語版Dutch Eating Behavior Questionnaire(以後,DEBQ)を用いて食行動を調査した。DEBQはVan Strien, Frijters, Bergers, Defares(1986)によって開発された食行動尺度で,情動的摂食,抑制的摂食,外発的摂食の3尺度で構成される。体格指数(BMI)を用い,BMIとDEBQ3尺度および性差との関連について検討した。調査対象は成人勤労者602人,平均年齢は32.9(SD7.48)歳青年期学生705人,平均年齢は174(SD1.56)歳であった。因子分析の結果,日本語版DEBQの下位尺度を構成する項目は,成人勤労者群においてオリジナルと完全に一致,青年期学生群においてはほぼ一致し,情動的摂食,抑制的摂食,外発的摂食の3尺度が確認された。DEBQ3尺度とBMIとの関連では,肥満の成人勤労者群は抑制的摂食,また,肥満の青年期学生群は抑制的摂食に加え,外発的摂食では尺度値が低いことを示した。成人勤労者群および青年期学生群のBMIとDEBQの性別比較では,BMIは男性の方が高く,外発的摂食,抑制的摂食,情動的摂食は女性の方が高かった。

1 0 0 0 OA 表紙

出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.Cover1, 2013-07-31 (Released:2017-12-28)
著者
若菜 宣明 軣木 喜久江 一場 博幸 田中 越郎 樫村 修生 本間 和宏
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.171-177, 2015

近年,健康の維持・増進を主眼としたヘルスツーリズムが注目されている。宿泊施設の食事は,栄養成分表示がされていることが少なく,また,ヘルスツーリズムでの利用に適しているか検討した報告も見られない。本研究では,群馬県片品村の4つの宿泊施設の食事がヘルスツーリズムの食事として適しているかどうかについて検討した。対象には50代男性を想定し,これに対して日本人の食事摂取基準(2015年版)で設定されているエネルギーおよび各栄養素の目標量ないし推奨量を50代男性基準値として,片品村の4施設にて実際に提供された夕食と朝食のエネルギー量および各栄養素量を比較検討した。また,現在の日本人の食生活状況と比較するため平成25年度国民健康栄養調査結果の全国平均値との検討も併せて行った。片品村の宿泊施設の食事は,ミネラルやビタミン,食物繊維が豊富であり,エネルギーや各栄養素を十分補給できる内容であった。しかし,脂質やたんぱく質エネルギー比率,食塩が多かった。そのため,宿泊施設の食事の食塩を減らし,炭水化物主体の軽食を昼食に摂ることで,宿泊施設の食事はヘルスツーリズムでの食事として健康の維持増進に寄与できると考えられた。したがって,片品村の宿泊施設の食事は,宿泊施設の食事の食塩を減らし,昼食を炭水化物主体の軽食にすることで,ヘルスツーリズムに適した食事になると考えられた。
著者
鈴木 康宏 土井 徹
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.114-129, 2015-07-31

未就学児の子どもがいる女性看護師と未就学児の子どもがいる一般就労女性のワーク・ファミリー・コンフリクト(以下:WFC)を比較するために,質問紙を用いて仕事と生活の実情ならびにコンフリクトの強さを調べた。未就学児の子どもがいる働く女性を対象とするため,子どもを保育施設に預けている働く女性に限定し,調査対象者を次のように設定した。女性看護師は病院付属の保育施設を利用する女性看護師6施設計236名,一般就労女性は一般保育園を利用する働く女性2施設計263名を対象に調査を行った。両群にWFCの強さを測定するWFCS日本語版を含めた自記式質問紙調査を行った。分析にあたり両群ともに夫と同居していない者を除外し,さらに一般就労女性では医療職の者を除外した。2群の属性とWFC得点の関連を,統計的手法を用い分析した。回収は女性看護師136名(回収率57.6%),一般就労女性170名(回収率64.6%)であり,そのうち分析には女性看護師125名,一般就労女性122名を使用した。WFC得点の中央値は女性看護師が52,一般就労女性が45であり,マン・ホイットニーのU検定の結果,p=0.000となり,2群のWFC得点に違いがあることが認められ,平均ランクは女性看護師の方が高く,女性看護師の方がWFC得点が高いことを示していた。また,WFC得点の中央値より低い値を1(コンフリクトが小),高い値を0(コンフリクトが大)としたロジスティック回帰分析の結果,p<0.05となり有意であることが認められた要因は女性看護師では正職員に比べパート勤務でオッズ比が3.8,時短勤務で6.8,また夫との会話時間が大の場合のオッズ比は1.6であった。看護師では負担の少ない勤務形態と,夫との会話時間の増大がWFC得点の低減に関連していた。一般就労女性では有意であることが認められた要因はみられなかった。女性看護師は一般就労女性に比べて残業時間が多く,夜勤もあり,WFCを生じやすい。そのため,パートタイムや時短勤務はWFCを回避する勤務形態と考えられる。また夫とのコミュニケーションの機会の増加がWFCの低減に関連していたことが注目された。
著者
小石 真子
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.87-89, 2011
参考文献数
9
被引用文献数
1

高齢者サロンにおいて,寝たきりを予防するための取り組みとして平成21年1月から標語を記したかるた(寝たきり予防健康いろはかるた)を会員間で意見を出し合い完成させた。このかるた作りが高齢者の行動変容に及ぼす効果について検討することを目的にサロン会員17名を対象とした質問紙調査を行った。回答を得た会員は13人であり回収率76.5%であった。作成したかるたの標語の内容は,「骨折予防」に関連したものが17句でもっとも多く,ついで「栄養・運動・休養」に関連するもの11句,「気持ちの持ちよう」に関するもの10句であった。かるたづくりに参加しての意見としては,「人の役に立ちたい」,「かるたはわかりやすい」,「注意喚起した」,「年齢を自覚」,「知恵を出し合った」,「楽しかった」,「感心した」があった。かるた作りに関連した保健行動の変容として,新たに始めた行動,再び始めた行動止めた行動は,かるたの標語を参考にしたものが多かった。これらより,寝たきり予防の取り組みとして「かるた作り」を高齢者サロンの活動として行ったことは評価できると考える。今後,「寝たきり予防健康いろはかるた」の活用方法に関する検討や高齢者の保健行動に関する継続した調査が必要と考える。
著者
安藤 達彦 舘 博 松岡 景子 吉田 宗弘
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.67-72, 2000-06-25
参考文献数
3

首都圏および関西圏に在住する20歳前後の女子学生を調査対象として,健康意識と食行動に関するアンケート調査を行った。その結果,「健康である」と意識している学生は両地域で88%以上を示した。「体力に自信がある」と答えた学生は首都圏が有意に多かった。学生の平均睡眠時間は首都圏に比べて関西圏が有意に長かった。学生の90%以上が何らかのストレスを感じていた。ストレス解消法は「スポーツをする」が首都圏に多く,「カラオケ」が関西圏に多かった。朝食の主食は首都圏は「米飯」,関西圏は「パン食」が多く有意な差があった。学生の健康食品の利用目的は両地域とも「栄養補給」が最も多かったが,関西圏では「美容のため」も多かった。情報化社会の発達により人々への情報の伝達速度が増し,情報の地域的な片寄りはほとんどないといれわている。しかし,首都圏および関西圏という東西2つの地域で健康意識や食行動を比較すると,生活環境や文化の違いが現代の若者にも多少現れている結果となった。
著者
原田 小夜
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.253-263, 2014-01-31

精神認知機能に問題がある高齢者の地域包括ケアを進めるために,介護職のケア困難感を軽減することを目的に教育プログラムを提供し,その効果と課題を検証した。プログラムは,高齢者の精神認知機能の特徴,精神認知機能の問題への対応に関する講義と事例検討である。研修前後に自記式アンケートを実施した。困難度24項目のリッカートスケールを作成し,研修前後の得点の比較についてFriedman検定を実施し,困難度に違いが見られた項目について多重比較(Bonferroniの調整)を行った。有意水準は5%とした。研修前の困難度では,7項目が3.0以上,その他でも2つ以下の項目は無かった。精神症状,不安に対する理解,コミュニケーションの取り方,ケアの拒否の項目は,研修後に困難度が有意に減少した。逸脱行動,自殺企図,頻回の電話,金銭感覚など利用者に応じた具体的な対応の必要がある項目の困難度は変わらなかった。事例検討によって,生活障害に対する困難度の軽減が図れ,事業所内の情報交換や多職種連携の必要性の理解に繋がった。
著者
畑下 博世 川井 八重 坪倉 繁美 河田 志帆 笠松 隆洋 鈴木 ひとみ 西出 りつ子
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.287-293, 2014-01-31

精神障害者が入院医療中心の生活から地域生活中心へ転換を図るために,保健所が現在の取組みから考える課題や,今後の保健所の役割について検討することを目的に,全国518保健所を対象に精神保健福祉活動の実態調査を行い,238保健所から回答を得た(回収率45.9%)。地域生活中心への転換に向けた保健所の取り組みとしては,関係機関との調整や連絡会などが行われていた。しかし,長期入院中の患者にアプローチし,退院促進を図る活動実践は約3割に過ぎなかった。都道府県保健所は地域の実態を把握することが容易でないことが予測されるが,これまでの活動で得た経験を生かし,市町村と協同して活動を展開していくことが重要である。また,地域生活を支える保健所の課題として,住民への啓蒙,住宅整備,相談支援体制,就労支援があげられた。これらの充実に向けて,保健所が今後どのような役割を果たしていくのかを検討していく必要のあることが明らかになった。
著者
原田 小夜
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.26-35, 2013-04-30

本研究は,高齢精神障害者の在宅生活支援においてホームヘルパー(以下,HH)が対応に困った利用者の行動とHHの対処を検討するためにインタビュー調査を行った。対応に困った利用者の行動を抽出し,カテゴリ分類を試みた。HHの対処を4段階のレベル,1「全く対応できなかった」.2「対応できなかった」.3「対応できた」,4「上手く対応できた」に分類し,利用者の行動別に対処レベルの割合を求めた。HHが困った利用者の行動は151件で,7カテゴリ,18サブカテゴリに分類された。《精神症状への対応》51件,《うつ状態への対応》5件,《不安への対応》12件,《拒否・攻撃への対応》17件,《生活障害への対応》36件,《コミュニケーションの取り方》23件,《認知機能を伴う行為》7件であった。対処行動は,レベル1が31.1%,レベル2が29.1%,レベル3が21.9%,レベル4が17.9%であった。《精神症状への対応》,《うつ状態への対応》,《拒否・攻撃への対応》が低く,《不安への対応》,《認知機能を伴う行為》で高かった。《生活障害への対応》,《コミュニケーションの取り方》は,サブカテゴリにより異なった。HHのケア困難感を軽減するためには,(1)精神症状と障害の理解と対処に関する教育プログラムの開発,(2)ケアチームの医療職に相談できる体制づくり,(3)HHの観察情報の多職種ケアチームでの共有とケアモニタリングでの活用の3点の重要性が示唆された。