著者
卯木 希代子 早崎 知幸 鈴木 邦彦 及川 哲郎 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.161-166, 2009 (Released:2009-08-05)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

数年来の耳鳴に対して蘇子降気湯を投与した症例を経験したので,著効を得た2症例の症例呈示と合わせて報告する。症例1は70歳女性。主訴はめまい,耳鳴,不眠である。5歳時の両耳中耳炎手術後より耳鳴があったが,3カ月前より回転性めまいが出現,以後耳鳴が強くなり来所した。頭重感,不眠,足先が冷えやすい等の症状があり,蘇子降気湯加紫蘇葉を処方したところ,服用1カ月でめまいは改善し,3カ月後には不眠や耳鳴も改善し,8カ月後には普通の生活ができるようになった。症例2は58歳男性。難聴,耳鳴を主訴に来所した。5年前より回転性めまいと右の聴力低下が出現,進行して聴力を喪失し,さらに1年前より左の聴力低下も出現した。近医にてビタミン剤や漢方薬を処方されたが聴力過敏・耳鳴が出現した。イライラ,不眠,手足が冷える等の症状も認めた。八味丸料加味を投与したが食欲不振となり服用できず,気の上衝を目標に蘇子降気湯加紫蘇葉附子に変方したところ,服用1カ月で自覚症状が改善し,騒音も気にならなくなった。その後の服用継続にて不眠・足冷も改善した。当研究所漢方外来において耳鳴に対する蘇子降気湯の投与を行った13例中,評価可能な10例のうち5例に本方は有効であった。有効例のうち4例は,のぼせまたは足冷を伴っていた。蘇子降気湯は『療治経験筆記』において「第一に喘急,第二に耳鳴」との記載がある。数年経過した難治性の耳鳴にも本方が有用であることが示唆された。
著者
雪村 八一郎
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.123-130, 1984
被引用文献数
2

未治療の甲状腺機能亢進症患者19名を4群にわけた。対照群には, メチマゾール, プロプラノロールによる治療を行い, 他の3群には, それぞれ灸甘草湯, 柴胡加竜骨牡蠣湯, 桂枝加竜骨牡蠣湯エキス剤の併用を行った。灸甘草湯を併用した群では, 治療初期には血中サイロキシンの, 治療全経過を通じては血中トリイオドサイロニンの下降率が, 対照群に比し有意に増大していた。このことから, 灸甘草湯は, 血中甲状腺ホルモン値を下降させることにより, 甲状腺機能亢進症の治療上有効であることが示唆された。
著者
小川 恵子 並木 隆雄 関矢 信康 笠原 裕司 地野 充時 中崎 允人 永嶺 宏一 寺澤 捷年 秋葉 哲生
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.641-645, 2008 (Released:2009-01-15)
参考文献数
12
被引用文献数
1

我々は,短腸症候群を漢方治療で安定した状態に管理できた1例を経験した。症例は,74歳,女性。主訴は,重症下痢,腹満感,腹痛である。23歳で結核性腹膜炎と診断され,26歳時,腸閉塞により小腸・大腸部分切除術を受け,短腸症候群となった。60歳,漢方治療目的に,当院受診。茯苓四逆湯を投与したところ,腹痛・腹満・下痢ともに改善した。さらに,蜀椒を加味することにより,大建中湯の方意も併せ持つ方剤とした。茯苓四逆湯加蜀椒にて,経過を見ていたところ,64歳には,体重45kgと,術後初めて術前体重に戻った。短腸症候群は,予後の悪い疾患ではあるが,本症例は14年間漢方治療で安定した経過を得ることができた。
著者
御影 雅幸 遠藤 寛子
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.25-34, 2008 (Released:2008-07-23)
参考文献数
65

日本薬局方では釣藤鉤としてUncaria rhynchophylla (Miq.) Miq., U. sinensis (Oliv.) Havil., U. macrophylla Wall.のとげが規定されているが,中国の局方ではこれら3種以外にU. hirsuta Havil.とU. sessilifructus Roxb.を加えた5種の鉤をつけた茎枝が規定されている。本草考証の結果,当初の原植物はUncaria rhynchophyllaであり,薬用部位は明代前半までは藤皮で,その後現在のような鉤つきの茎枝に変化したことを明らかにした。一方,日本では暖地に自生しているカギカズラの主として鉤が薬用に採集されてきた。このことは明代に李時珍が「鉤の薬効が鋭い」と記したことに影響を受けたものと考察した。釣藤散など明代前半以前に考案された処方には藤皮由来の釣藤鉤を使用するのが望ましい。