著者
大野 健次 延原 弘明
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.55-61, 1995-07-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

三叉神経痛の患者34名に, 小柴胡湯と桂枝加芍薬湯のエキス顆粒を同時に投与し, 2週間後における効果を検討した。漢方薬開始前から carbamazepine (CBZ) を服用していた19名のうち11名において, CBZ を減量または中止することができ, 症状の変化から14名において漢方処方が有効であると考えられた。漢方薬のみを投与した11名中8名に痛みの消失ないし軽減がみられた。効果判定不能の4名を除くと, 30名中22名 (73%) において小柴胡湯・桂枝加芍薬湯が有効であった。小柴胡湯合桂枝加芍薬湯は基礎実験と臨床の両面から抗けいれん作用が確かめられており, 三叉神経痛治療の標準薬であるCBZと薬理学的な共通点が多い。小柴胡湯・桂枝加芍薬湯を単独で, あるいはCBZと併用して用いることにより, 三叉神経痛の薬物療法がより有効で安全なものとなる可能性があると思われた。
著者
矢野 博美 田原 英一 山田 靖子 山内 俊彦 吉永 亮 犬塚 央 久保田 正樹 平田 道彦 栗山 一道 三潴 忠道
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.13-22, 2014 (Released:2014-07-22)
参考文献数
22
被引用文献数
1 3

58歳男性。20年来の2型糖尿病を放置し,糖尿病足病変を発症した。HbA1c10.8%(JDS)でトリオパチーを合併していた。発症12日後に漢方治療を希望して当科に転院した。右足全体は浮腫状で,第4・5趾間と足背に潰瘍(約7 × 4 cm と 5 × 4 cm)を認め,骨髄炎を合併していた。抗生剤,インスリン,プロスタグランディン製剤とともに,漢方治療は小腹不仁を目標に八味地黄丸料を用い,瘀血を改善する目的で桂枝茯苓丸大量投与(自家製剤2 g × 24丸/日)を7日間行い漸減した。その後,八味地黄丸料を自家製剤に変更し,肉芽形成促進を期待して帰耆建中湯(黄耆20 g)に転方した。経過中に右第5趾の骨が露出したが,潰瘍は退院時(発症50日)に2.5 × 1.8 cmに縮小した。発症約2ヵ月後には潰瘍部分が上皮化して包帯が不要になり,4ヵ月後に治癒した。漢方治療は糖尿病足病変に有効で治癒を早める可能性があると考えた。
著者
山本 篤志 福永 智栄 新沢 敦 堀江 延和 米谷 さおり 長濱 通子 藤原 進 山田 陽三 福永 淳 錦織 千佳子
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.133-139, 2018 (Released:2018-11-08)
参考文献数
18

ステロイド忌避を含む難治性のアトピー性皮膚炎(AD)患者で顔面に皮疹を有する12名を対象に,白虎加人参湯エキスに石膏末を加味した方剤を4週間投与し,AD 診療ガイドラインに基づく皮疹の重症度スコア,痒みVAS,生活の質(Quality of life)の指標であるSkindex-16および各種血液検査を行い,有効性を前向きに評価した。 また,どのような証(漢方医学的に把握した病態)に有効かを後ろ向きに調査した。 その結果,内服4週間で重症度スコアとSkindex-16の平均が有意に低下した。好酸球数,IgE 抗体,TARC 値は有意な低下を認めなかった。白虎加人参湯と同様で「暑がり」,「汗かき」の証を有する患者に有効であった。4週間という短期間で皮疹が改善したことより,ステロイド忌避を含む難治性アトピー性皮膚炎患者に使用する内服薬の選択肢の1つになりえると考えた。
著者
佐藤 田實
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.211-215, 2002-05-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
18
被引用文献数
2 1

治療に際し処方の効きが鈍いとき, 少量の附子を加えると効果を著しく高めた。これは附子と薬との相乗効果の結果と思った。その解明のため自験例と古典の記載を分析し考察を加えた。第1例は22歳女性の紅斑性狼瘡で小柴胡湯合当帰芍薬散に附子1gを追加し6週間で紅斑が消えた。第2例は25歳女性のニキビで当帰芍薬散+補中益気湯に附子末1gを追加して8週間でニキビが治った。第3例は44歳男性で慢性微熱に補中益気湯に附子末2gを加えて6週間で治癒した。附子はどんな症状に効果的なのか。3症例には冷えは認めずむしろ熱のある例も含まれた。また症状はまちまちで一定の傾向がなかった。そこで症例を増せば大凡の傾向が出るものか, 古典の附子加味の例を集め分析した。すると症状は陰陽虚実, 気血水で見ても, 自験例と同様に, 様々であった。この結果を説明するに, 多様な症状に応じ附子に各の効能を想定すると, 多数の効能が必要となりそれは不自然である。そこで附子は, 分量が少なくそれ自体の効果は少ないが, 組む相手薬の効能を高めると仮定すると, 説明し易いことを示した。以上の議論を集約し, 附子の働きには薬への感受性を高める間接効果即ち相乗効果と, 四逆湯のような熱薬としての直接効果との, 2通りの様式があることを述べた。最後に附子加味の臨床に有用な事柄を古典をもとに纏めた。
著者
磯部 哲也
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.264-273, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
19

【緒言】月経前症候群(PMS)は月経前3∼10日に限定する愁訴と定義されイライラが精神的症状の中で最多である。【対象】月経前のイライラを主訴に受診し鍼治療を行なった30人を治療群とし,同症状で無治療の22人をコントロール群とした。【方法】精神症状の程度はSRS—18質問票を用いて測定した。治療群に対して1週間に1回のペースで計6回(1 クール)の施術を行った。SRS 合計点数20以上40未満の症例を両群から選出して連続する月経周期での点数を比較検定した。【結果】SRS 合計点数に関して,選出治療群17症例と選出コントロール群7症例の間および選出治療群の治療前後で統計学的有意差を認めた(P = 0.0080,P = 0.00025)。73.3%(22/30)の症例が治療効果に満足されイライラを含むすべての症状が平均43%の程度に改善した。【結論】PMS の精神症状が1クールの鍼治療によって改善した。
著者
篁 武郎
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.161-163, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
11

症例は54歳女性。約1年前に職場で殴られて以降,全身の痛みが出現し,元来よりあった冷えが増悪した。恐傷腎による陽虚水泛と診断して桂枝加苓朮附湯を主体に八味丸を兼用したところ症状が軽快した。主として桂枝加苓朮附湯の補腎利水作用による効果と考えられた。
著者
渡辺 一郎
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.557-561, 1995-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
2

近年の社会構造の変革に伴い, 疾病の病態にも変化がみられる。桃核承気湯証の増加もその一つであろう。当院においても本方剤が頻用処方となったので, 1992年1月~10月末までの外来患者で本方エキス剤投与183例中効果判定可能な125例 (男12例, 女113例) につき臨床効果の検討を試みた。投与例数の多い順に有効率をみると, 月経困難症82%, 過多月経74%, 高血圧随伴症状69%, 更年期障害72%, 腰痛59%, 冷えのぼせ55%, 月経不順55%, しみ38%, にきび60%, 痔核57%, アトピー性皮膚炎60%, その他外陰打撲症, 前立腺肥大, 脳血栓後遺症がみられる。本方は古典 (湯液) の指示, 構成生薬から陽明病期・〓血病態で精神不安, 上熱下寒などの気逆を示すものに有効で, ストレスの多い, 美食で運動不足, 便秘などの背景をもつ今日的症例に幅広く適応されるべきと思う。
著者
落合 和徳 松本 和紀 寺島 芳輝
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.365-369, 1994-10-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1

月経前症候群 (PMS) は月経前, 3~10日の間続く精神的あるいは身体症状で, 月経開始とともに減退ないし消失するものと定義されている。原因としては, エストロゲン・プロゲステロン失調説, βエンドルフィン上昇説, ビタミンB6欠乏説, 低血糖説, 自己免疫説などが提唱されているが, いまだ定説はない。したがって治療も多岐にわたって試みられており, 治療効果を客観的にとらえる必要がある。そこで我々は臨床症状を精神, 神経, 乳房, 水分貯留, 胃腸, 皮膚などの各症状に大別しそれぞれに0-20点を与え総計100点となるPMSスコアを作成した。治療前後で比較し, 治療前値の30%以下になったものを著効, 31~60%を有効とし桂枝茯苓丸エキス剤 (TJ-25) の効果を検討した。実証のPMS患者4名に投与したところ2名が著効, 2名が肩効であり副作用もなく, TJ-25の有効性が示された。
著者
大岡 均至
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.1-6, 2018 (Released:2018-07-04)
参考文献数
22
被引用文献数
1

【目的】スニチニブ投与に合併する口腔粘膜炎(OM)に対する半夏瀉心湯(HST)含嗽の臨床的有用性につき検討する。【対象と方法】対象はOM を発症した22例。12例に対してはHST を2.5g∗3回,食後30秒間含嗽後飲食を控えるよう指導(HST 含嗽群),他の10例に対しては含嗽以外の治療を行った(HST 非含嗽群)。治療前後における,KPS・OM グレード・体重・アルブミン(Alb.),ヘモグロビン(Hb.)・摂食状況の変化につき検討した。 【結果】HST 非含嗽群におけるOM グレードや摂食状況の改善は不良であったが,含嗽群では,開始翌日からOM は改善,摂食も好転し,体重・Alb.・Hb. 低下を認めなかった。【考察】HST は,含嗽により癌化学療法に伴うOM に対しても有効である。含嗽によりOM がより早期に改善し,摂食が好転することで,全身状態の増悪が軽減されたものと考えられる。
著者
後藤 博三 新谷 卓弘 三潴 忠道 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.459-465, 1995-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

慢性関節リウマチ (RA) においてアミロイドーシス (ア症) による腎障害は予後増悪因子として重要である。今回我々は, 全身性ア症による腎障害を伴ったRAに対し, 大防風湯を投与しRAの活動性と腎機能の改善を認めた一例を経験したので報告する。症例は64歳の女性。主訴は多関節痛。約10年前にRAの診断をうけ金製剤・副腎皮質ステロイド製剤等の投与を受けた。1993年2月に腎機能低下を認め, RAおよび腎障害の加療を希望し同年〓飯塚病院漢方診療科入院となった。入院時RAは Class II, Stage IV で, 胃十二指腸粘膜と腎糸球体にアミロイドの沈着を認め全身性ア症と診断した。大防風湯を投与し2週間後にランスバリー指数は64%から39%に改善し, 4週間後にS-Cr値が1.7mg/dlから1.5mg/dl, 1日尿蛋白が約4gから約2.5gに改善した。退院後, 1年以上を経過しているが, RAおよび腎機能とも増悪なく経過している。
著者
関口 由紀 畔越 陽子 河路 かおる 長崎 直美 永井 美江 金子 容子 吉田 実 窪田 吉信
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.268-272, 2014
被引用文献数
1

間質性膀胱炎/慢性骨盤痛症候群の疼痛緩和と自律神経失調症状の治療に漢方薬を西洋薬に併用した症例を4例提示した。1例目は42歳女性で,膀胱部痛・陰部痛にたいして竜胆寫肝湯を投与し,自律神経失調症状の改善と慢性疼痛による血流障害の改善に加味逍遥酸を用いた。2例目は51歳女性で,内臓を温めて下腹部痛を改善する安中散を用いた。3例目は49歳女性で,全身の冷えに対して真武湯合人参湯を用いた。4例目は27歳女性で,下半身の冷えに対して当帰四逆加呉茱萸生姜湯を用いた。間質性膀胱炎/慢性骨盤痛症候群の自律神経症状改善をめざす漢方治療が結果的に患者の気血水のバランスを整えていた。
著者
日沖 甚生 大萱 稔 舘 靖彦 村嶋 洋司
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.609-613, 1998-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

芍薬甘草湯による副作用を呈した4症例を報告した。患者はすべて女性で年齢は60歳以上, 中間証から虚証であった。低カリウム血症が4例, 脱力感が3例, 浮腫が1例にそれぞれ認められた。副作用に対する治療は, 全例に対し芍薬甘草湯の投与を中止し, 過度の低カリウム血症を来した2症例に対してはカリウム製剤の投与を施行した。その結果血清カリウム値の是正に比例して, 脱力感と浮腫は改善した。過去の報告を含めて検討した結果, 芍薬甘草湯による副作用が発症する危険因子として, 患者が女性, 高齢者, 虚証, 水毒傾向であることなどが考えられた。
著者
周防 一平
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.147-154, 2015

岡部素道は昭和の日本鍼灸界における第一人者であった。その功績は,経絡治療の樹立,GHQ 旋風時のGHQ との直接交渉,北里研究所東洋医学総合研究所設立への貢献など数知れない。そこで筆者は昭和鍼灸史の見直しを目的とし,戦前における岡部の治療方法とその成立過程についての調査を行うこととした。岡部晩年の内弟子であった相澤良氏に対する岡部本人の談話の聞き取り調査,岡部最初の論文「古典に於ける補瀉論に就て」を中心とした岡部の著作,論文等の調査を行ったところ以下のことが判明した。<br>戦前の岡部の治療は,晩年の比較脈診による69難本治法とは異なり,六部定位による脈位脈状診に基づき診断を行い,単刺による一経補瀉を行っていた。<br>現在一般にいわれている昭和14年(1939)3月3日の新人弥生会結成が経絡治療の始まりではなく,昭和11年(1936)の段階で経絡治療の理論・臨床体系が出来上がっていた。
著者
笠原 裕司 小林 豊 地野 充時 関矢 信康 並木 隆雄 大野 賢二 来村 昌紀 橋本 すみれ 小川 恵子 奥見 裕邦 木俣 有美子 平崎 能郎 喜多 敏明 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.519-525, 2009 (Released:2010-02-23)
参考文献数
16
被引用文献数
4

奔豚と思われた諸症状に呉茱萸湯エキスと苓桂朮甘湯エキスの併用が奏効した症例を6例経験した。5例はパニック障害,1例は全般性不安障害と推定され,6例いずれも,動悸,吐き気,めまい,頭痛やそれらに随伴する不安感などを訴えて,肘後方奔豚湯証と考えられた。呉茱萸湯エキスと苓桂朮甘湯エキスの併用投与で症状軽快し,あるいは肘後方奔豚湯からの変更で症状は再発しなかった。呉茱萸湯エキスと苓桂朮甘湯エキス併用は肘後方奔豚湯の代用処方として奔豚の治療に有効である可能性が示された。
著者
山本 修平 西森(佐藤) 婦美子 大前 隆仁 武原 弘典 松川 義純
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.89-92, 2015 (Released:2015-08-12)
参考文献数
3
被引用文献数
2

芎帰調血飲は,気血両虚から来る様々な症状,特に出産後に用いられる処方であるが,代表的な補気剤である人参,黄耆は含まれていない。万病回春には様々な加減法の記載があり,人参,黄耆を加える方法も述べられている。 今回,無月経加療中の労作時呼吸困難,全身倦怠感の33歳女性の1例と出産後の全身倦怠感,月経不順,頭痛の39 歳女性の1例を報告する。いずれも気虚の症状が強く前者では芎帰調血飲エキスに補中益気湯エキスを,後者では停飲の所見も伴ったため,芎帰調血飲エキスに六君子湯エキスを併用し短期間で症状改善を得ることができた。芎帰調血飲を使用する際は,気虚の要素が多くみられる場合,補気剤の併用が有効である可能性が示唆された。
著者
井上 博喜 岡 洋志 八木 清貴 野上 達也 小尾 龍右 引網 宏彰 後藤 博三 柴原 直利 嶋田 豊
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.861-865, 2007-09-20 (Released:2008-09-12)
参考文献数
28

呉茱萸湯が奏効した難治性のあい気の一例を報告した。症例は74歳の女性。あい気, 腹部膨満感, 食欲不振のため7回の入院歴があり, 様々な方剤で加療されたが, 症状は消長を繰り返していた。呉茱萸湯を投与したところあい気はほぼ消失し, 食欲も改善した。あい気に使用される方剤は少陽病の方剤が多いが, 陰証で心下痞こうと胸脇苦満を伴うあい気には呉茱萸湯が有効である可能性が示唆された。
著者
伊藤 隆 渡辺 賢治 池内 隆夫 石毛 敦 小曽戸 洋 崎山 武志 田原 英一 三浦 於菟 関矢 信康 及川 哲郎 木村 容子
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.195-201, 2009 (Released:2009-08-05)
参考文献数
1

東洋医学論文には東洋医学を西洋医学のルールで論じることに起因した特異性がある。西洋医学に比較すると,人文科学的要素の多い東洋医学では記述が主観的になる傾向がある。目的,方法,結果,考察は,論文内容を客観化させ,査読者と読者の理解を容易ならしめるために必要な形式と考えられる。より客観的な記述のためには,指定された用語を用いることが理想であるが,現実的には多義性のある用語もあり,論文中での定義を明確にする必要がある。伝統医学では症状と所見と診断の区別が不明瞭な傾向があるが,科学論文では明確に区別して記述しなくてはいけない。新知見を主張するためには,問題の解決がどこまでなされているかをできるだけ明らかにする必要がある。投稿規定の改訂点である,漢方製剤名の記述方法,要旨の文字数,メール投稿について解説した。編集作業の手順について紹介し,再査読と却下の内容に関する最近の議論を述べた。
著者
高木 嘉子
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.541-545, 1995-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
3
被引用文献数
1 7

治打撲一方は, 香川修庵により創方された処方であるといわれ, 打撲, 捻挫, 疼痛等に用いられる薬方である。打撲直後より, 数日経たものに用いる場合が多い。打撲や捻挫の既往のあるもの18例に, 臍右横1~2横指附近に放散する圧痛と抵抗を認め, 本湯の服用により症状の改善・軽減とともに, 圧痛・抵抗の軽減または消退を認めた。また1例ではあるが, 打撲の新しいものでは, 圧痛・抵抗は認められず, 日を経てから出現していた。既往の古いもの, 40年経過しているものにも, 圧痛と抵抗を認め, 本湯の服用により, 症状も圧痛, 抵抗も消退した。打撲歴と, 圧痛抵抗を目標に投薬して著効を得たことから, 治打撲一方の腹候の一つとして有効性があると思われるので報告したいと思う。
著者
藤本 誠 森 昭憲 関矢 信康 嶋田 豊 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.655-660, 2004-09-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
11
被引用文献数
3 1

帰耆建中湯が有効であった潰瘍性大腸炎の2症例を経験した。症例1は35歳, 男性。他院にて潰瘍性大腸炎と診断され, ステロイド治療などの内科治療を受けたが寛解に至らず, 漢方治療を希望して当科紹介受診。帰耆建中湯を投与したところ約2週間の内服で腹痛・粘血便・下痢が消失して退院した。症例2は28歳, 女性。他院にて潰瘍性大腸炎と診断され, ステロイドパルス療法, 顆粒球除去療法などを繰り返し, 発症後10年が経過していたが寛解に至らず, 1日10回以上の腹痛を伴う粘血便・下痢を主訴に当部を受診した。帰耆建中湯加文葉山東阿膠の約4週間の服用で腹痛・粘血便・下痢が消失した。今回の経験から, 帰耆建中湯が潰瘍性大腸炎の治療方剤の一つになり得る可能性が示された。