著者
木村 容子 清水 悟 杵渕 彰 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.897-905, 2010 (Released:2011-03-01)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

緒言:桂枝湯エキスと麻黄附子細辛湯エキスの併用が有効な冷えのタイプを検討した。症例提示:麻黄附子細辛湯エキスに桂枝湯エキスを追加して,胃もたれの軽快とともに,長年の冷えも改善した一例を挙げた。この症例を参考にして当初より同処方を併用し,症例1は冷え,食欲不振,倦怠感や関節の動きが悪い,症例2は冷え,悪寒しやすい,疲れやすい,胃もたれ,風邪を引きやすいなど,症例3では悪寒を伴う全身の冷えや倦怠感,月経痛などが改善した。対象と方法:冷えを訴え,随証治療にて桂枝湯エキスと麻黄附子細辛湯エキスを投与した患者43名を対象とした。随伴症状,体質傾向や診察所見など52項目を説明変数とし,冷えの改善の有無を目的変数として多次元クロス表分析により検討した。結果:「悪風または悪寒」と「全身の冷え」を含む組み合わせが臨床的に最適な効果予測因子となった。考察:悪寒や悪風を伴う全身の冷えがあり,頭痛を訴え,下痢がない場合に有効な可能性が高い。
著者
小池 宙 堀場 裕子 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.178-183, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
31
被引用文献数
1

はじめに:抑肝散加芍薬厚朴に良好な反応を示した不随意運動を有した1例を経験したので報告する。症例:17歳の男性。6年前から突然体が反り返るような痙攣様の不随意運動を認めていた。精神科・神経内科等を受診し加療を受けるも改善を認めていなかったため,漢方治療を希望し受診した。抑肝散加芍薬厚朴を煎剤にて開始したところ不随意運動は徐々に軽減した。考察:抑肝散は明代の薛已の創方とされる。江戸時代に日本に伝えられ,様々な加味方も使用された。大塚敬節は先人の加味方を基礎に抑肝散加芍薬厚朴を考案し使用した。抑肝散加芍薬厚朴はエキス剤にないため昨今では使用される機会は多くないが,本例のように有効な緊張興奮を伴う症例には有効である。抑肝散との使い分けについては今後さらに研究が必要であると考えられる。
著者
大野 賢二 関矢 信康 並木 隆雄 笠原 裕司 地野 充時 平崎 能郎 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.29-33, 2011 (Released:2011-07-08)
参考文献数
25
被引用文献数
1

千葉大学医学部附属病院和漢診療科の入院患者が入退院時に内服していた薬剤およびその薬剤費を調査した。対象は2006年9月から2008年10月の間に入院した患者のうち,治療目的以外の入院や急性疾患を除外した35名とした。疾患内訳は多岐に渡っていたが,転帰が死亡,悪化した症例は認められなかった。西洋薬の薬剤数は入院前後で平均3.7剤から2.7剤へと減少し,その薬剤費は1日当たり302.1円より227.6円へ平均74.5円推計学的に有意に減少した。一方,漢方薬の薬剤費も入院前後で減少した。また,総薬剤費は入院前後で1日当たり平均437.8円から348.0円へと有意に減少し,約20%節減できた。以上の結果より,種々の疾患に漢方薬を適正使用することで,患者の病状が改善すると同時に薬剤費および医療費節減という医療経済的有用性がもたらされる可能性が示された。
著者
中永 士師明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.77-81, 2008 (Released:2008-07-23)
参考文献数
19
被引用文献数
1 3

大建中湯はイレウスの保存的治療法の一つとして現代医学に定着しつつある。今回救急受診した急性腹症3例に対して大建中湯を使用したので報告した。3例とも腹痛が強く,小腸ガスも認められたが,大建中湯の内服によって症状が改善し,入院することなく帰宅することができた。救急診療において機能性イレウスであれば積極的な大建中湯の投与により入院治療を回避できる可能性が示唆された。
著者
伏見 章 山岡 秀樹 永田 耕一 鹿野 美弘 井口 敬一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.324-332, 2017 (Released:2018-02-07)
参考文献数
11
被引用文献数
3

慢性腎臓病に対する薬物療法の主体は西洋医学的治療であり,東洋医学的アプローチの推奨は記述されていない。 今回,腎炎・腎機能改善作用が報告されている単一成分の生薬“黄耆”に着目し,使用経験を解析し臨床的な特徴を検討した。対象症例は22例で性別,75歳以上,未満,CKD 罹患期間,開始1年前の推算GFR(eGFR)低下速度,開始時の蛋白尿の存在,糖尿病の有無に関係なく,全ての患者においてeGFR 値の改善を認めた。さらに診察室血圧変動幅と尿蛋白定性も改善を認めた。黄耆は,臨床的な特徴,重症度,原因疾患に関係なく,CKD に対し有効で安全に使用できる可能性がある。
著者
桜井 みち代 本間 行彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.38-44, 2011 (Released:2011-07-08)
参考文献数
11

難治性の中高年の女性にみられた第1,2度の酒皶の10症例に,漢方治療を行い,著効を得たので,報告する。患者の年齢は,46歳から81歳までで,平均年齢は60.6歳,発病から受診までの期間は1カ月前から5,6年前までで,平均期間は約2.2年であった。奏効した方剤は,大柴胡湯と黄連解毒湯の併用が7例,葛根紅花湯が3例であった。後者のうち,1例は葛根紅花湯のみ,1例は始め葛根紅花湯で治療し,のち白虎加人参湯と加味逍遙散の併用に転方した。残りの1例は桂枝茯苓丸と黄連解毒湯で開始,のち葛根紅花湯に転方した。本病に大柴胡湯と黄連解毒湯の併用,または葛根紅花湯が治療の第一選択として試みる価値がある。
著者
竹谷 徳雄
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.185-190, 1989
被引用文献数
1 2

機能的夜尿症と考えられる62例に漢方随証治療を行った。頻尿が著明でない尿保持群20例において85%の有効率を示し, 全例に何らかの効果を認めた。一方, 頻尿を認める自発覚醒群10例, 夜尿群27例においては無効例がそれぞれ20%, 40%にみられ, 何らかの併用療法を必要とし, 難治な例がみられた。漢方方剤として葛根湯, 麻杏甘石湯, 越婢加朮湯, 柴胡桂枝湯, 桂枝加竜骨牡蛎湯, 小建中湯, 甘麦大棗湯を多用した。特にどの方剤が有効ということではなく, 病型に左右された。しかし越婢加朮湯については有効例がなく, 証の取り違いが考えられた。夜間覚醒困難を麻黄剤の証の一部に取り入れて用いたが, 有効率が他と変らず妥当であったと思われる。漢方治療は副作用が少なく, 長期にわたって容易に継続でき, かつ精神的・肉体的ストレスを和らげて目覚めやすくし, 頻尿も改善するので有用な治療法であると結論できる。
著者
森脇 義弘 杉山 貢
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.287-290, 2008 (Released:2008-09-18)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

鍼治療後の両側気胸症例を経験した。58歳の女性,体調不良に対し頸部から腰部にかけて約20箇所の鍼治療直後に胸部違和感,呼吸困難感自覚し,救急搬送された。意識清明,血圧200/110mmHg,脈拍数151回/分,呼吸数36回/分,苦悶様顔貌,発汗著明であったが,チアノーゼや気道狭窄音,呼吸音の左右差はなく,心臓超音波,心電図で異常なく,血液検査でも白血球上昇以外異常はなく,動脈血ガス分析(酸素10l/分)はpH7.215,Pao2118.7mmHg,Pco263.9mmHgであった。前医鍼灸院から情報を得て,胸部単純X線検査で両側気胸と診断,両側胸腔ドレナージを施行した。血液ガス分析はpH7.326,Pao2181.6mmHg,Pco242.8mmHgと改善,症状も消失し,第13病日退院となった。考察・結論:気胸など鍼治療の合併症が生じると鍼治療担当者とは別の医師が治療を行うことになるが,鍼治療合併症に対する対応体制は未発達である。今後は,鍼治療時のインフォームドコンセントの充実と合併症時の鍼灸治療者と救急医療機関との連携あるシステム構築が必要と思われた。
著者
寺澤 捷年 竹田 眞 八木 明男 地野 充時
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.165-167, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
2

漢方医学においては腹部の診察は証の決定に必須である。筆者らは腹診によって診断した腹部大動脈瘤の二症例を経験した。腹部動悸という症候に動脈瘤を伴うことは非常に稀なことではあるが,全ての臨床家はこのことに注意を払う必要がある。
著者
杵渕 彰 小曽戸 洋 木村 容子 藤井 泰志 稲木 一元 永尾 幸 近藤 亨子 山崎 麻由子 田中 博幸 加藤 香里 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.180-184, 2014 (Released:2014-11-26)
参考文献数
18
被引用文献数
4 5

今回,我々は,抑肝散の原典について『薛氏医案』を中心に検討した。抑肝散の記載は,薛己の著書では『保嬰金鏡録』(1550年)にみられ,また,薛己の校訂した文献では,銭乙の『小児薬証直訣』(1551年),薛鎧の『保嬰撮要』(1556年)および陳文仲の『小児痘疹方論』(1550年)に認められた。『保嬰金鏡録』および『小児痘疹方論』には,「愚製」と記述されていた。一方,熊宗立の『類証小児痘疹方論』には「愚製」の記載がなく,また,薛己校訂以外の『小児薬証直訣』には抑肝散の記載は認められないため,抑肝散は薛己の創方である可能性が高いと考えられた。これまで,抑肝散の原典は薛鎧の『保嬰撮要』とされていたが,今回,「愚製」の表現に着目して古典を検討したところ,薛己の父である薛鎧ではなく,薛己の創方であり,原典は薛己の『保嬰金鏡録』であると考えられた。
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1-12, 2016-01-20 (Released:2016-05-27)
参考文献数
26
被引用文献数
2 1

漢方医学において腹部の触診は非常に重要である。なぜならばある種の腹部徴候は特定の方剤群を指示するからである。最近,著者は心下痞鞕と背部兪穴の硬結が緊密に関連していることを見出した。また,28症例の検討によって,この旁脊柱筋の硬結を鍼によって緩めると心下痞鞕が即座に解消されることを明らかにした。この新知見は二つの事実を示唆している。則ち何等かの共通の要因が心窩部と背部兪穴に同時的に徴候を現していること,及び上部消化管からの迷走神経の痛覚求心性信号が背部兪穴からの求心性信号によって視床への投射が遮断されることである。すなわち心下痞鞕という腹部徴候が出現する背景には迷走神経・交感神経反射系の存在が示唆された。この知見は漢方と鍼灸のパラダイムの相違を乗り越えたものであり,今後の伝統医学の在り方に発想の転換を求めるものである。
著者
山川 正 鈴木 淳 永倉 穣 重松 絵理奈
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.28-33, 2015 (Released:2015-06-29)
参考文献数
33
被引用文献数
1

糖尿病患者の不眠の頻度は高く,睡眠の質の低下はHbA1c の上昇との関連が認められており,不眠の改善が重要である。今回,酸棗仁湯が2型糖尿病患者の不眠に有効であった2症例を経験した。症例1は58歳男性。罹病期間10年の糖尿病で,インスリンにてHbA1c は7%代であった。数ヵ月前より不眠となり,酸棗仁湯を投与し2週間で不眠は消失した。症例2は79歳男性。罹病期間15年の糖尿病で,経口薬にてHbA1c は7%代。1年前より不眠症となり,酸棗仁湯投与にて,不眠は徐々に改善した。酸棗仁湯は2型糖尿病患者の不眠に有用であると思われた。
著者
久永 明人 伊藤 隆 新沢 敦 横山 浩一 喜多 敏明 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4-5, pp.501-505, 2002-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
9

閉塞性睡眠時無呼吸症候群に半夏厚朴湯が有効であった1例を経験した。症例は32歳の男性で, 21歳頃よりいびきと睡眠時無呼吸を指摘され, 27歳時に口蓋垂軟口蓋咽頭形成術を受けたが改善なく, 日中の過度の眠気を自覚するようになり来院した。「咽中炙臠」と考えられる咽喉部不快感を認めたため半夏厚朴湯エキス (ツムラ, 7.5g/日) を投与し, 2週間後には咽喉部不快感が消失した。1ヵ月後にはいびきが消失し, 日中の過度の眠気が自覚的に改善した。投与前と投与5ヵ月後に終夜睡眠ポリグラフィを施行したところ, 無呼吸指数は19.2から10.3に, 無呼吸低呼吸指数は19.2から12.8に改善していた。本例の経過から, 半夏厚朴湯が上気道抵抗を上気道下部において減弱させた可能性があると推察した。
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.57-66, 2018 (Released:2018-07-04)
参考文献数
10

三焦は漢方医学における六腑の構成要素のひとつである。このものと体内の如何なる臓器が関連するかについての論考は『井見集』に初出し,その後大友一夫により臓側腹膜(腸間膜)と対応するとの学説が呈示されている。 最近,腸間膜に関する総説が The Lancet 誌に公表されたが,これには腸間膜を一つの臓器として認識すべきことが提案されている。大友学説は1980年に公表されたものであるが,本稿は最新の解剖学的知見を基にその学説の妥当性を論じる事を意図した。
著者
木下 恒雄
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.607-611, 1994
被引用文献数
1 2

柴葛解肌湯 (浅田家方) は小柴胡湯と葛根湯の合方から人参と大棗を去り石膏を加えた合方的薬方であり, 薬方の構成や出典の記載内容から太陽病と裏的少陽証の併病に運用されるべきものと思われる。一方, 併病の治療において, このような病態に対しては太陽病と陽明病の治療原則に倣い先表後裏で対応するのが原則と思われるが, 本方証では例外的に表裏双解的効果を狙ったものと思われる。呈示した, かぜ症候群の症例は当初麻黄湯証と思われたが, 初診の翌日には裏的少陽証への転属すなわち太陽病と裏的少陽証の併病に移行したと診断した。そこで本方を用いたところ, 短時日で症状軽快をみた。このことは太陽病と裏的少陽証の併病の一病態に対する本方の有意性の一端を示すものではないかと思われる。併病治療に際しては治療原則を勘案の上, 本方証の如き例外的な薬方の運用もあることを念頭に置いておくべきではないかと思う。
著者
御影 雅幸 吉田 あい
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.411-418, 1996-11-20 (Released:2010-11-22)
参考文献数
32
被引用文献数
2 2

漢薬「大黄」は近年ではもっぱら瀉下薬として著名であるが, 古くから駆淤血薬としても利用され, 大黄の古来の薬効が駆淤血であるのか瀉下であるのかについては未だ明確な結論が得られていない。また, 近年薬用部位に混乱が見られる。本研究ではこれらの問題点を解決するために古文献をひもといて史的考察を行い, 次のような結果を得た。大黄の古来の薬効は駆淤血であったが, 瀉下その他の薬効でも使用されていた。清代までは Rheum palmatum を始めとする大型ダイオウ属植物の根茎が良質品大黄として使用されていた。近年, 根も使用されるようになったのは, 大黄が瀉下薬として評価された結果であると考える。大黄の薬効は多様であり, 今後は根茎と根の薬効の相違, 潟下活性以外の効能などについて詳細に検討する必要があろう。
著者
三谷 和男 若山 育郎 吉田 宗平 八瀬 善郎 上林 雄史郎 三谷 和合
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.83-98, 1989-10-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
27
被引用文献数
2 1

SMON患者は多彩な病像を呈するが, 疾病の長期化と加齢により漢方的に類似の証に収束する症例も見られる。このような一群の症例の中に「血痺」と捉え得る症例があり, 我々はこれまで黄耆桂枝五物湯加紅参煎剤を5例に6年間投与し, その効果を舌証を中心に検討した。5例全例で舌質の色調が淡紫紅色から淡紅色に変化し, 1例では地図状苔が一様な白浄苔となった。つまりSMONに特徴的な〓血証が全例で改善されたことが舌所見より明らかとなった。腹証でも, 臍下の抵抗等の改善を認めたが, 舌証ほど著明ではない。また, 神経学的にも知覚・運動共に改善を認め, その後の経過も良好である。副作用は, 現在認められていないが, 長期投与は加齢による影響を考慮し慎重に行う必要がある。