著者
塩谷 雄二 嶋田 豊 松田 治巳 高橋 宏三 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.823-831, 1995-04-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

駆〓血生薬であるサフランの薬理学的作用を明らかにする目的で, まず投与前に性成熟期の12人の健常女性の月経期, 卵胞期, 黄体期で11-dehydro TXB2, 血小板凝集能, 血液粘度, 血液生化学の検査を行った。月経期では卵胞期または黄体期に比べ, 血液粘度, 血小板凝集能, 11-dehydro TXB2 の上昇と平均赤血球容積 (MCV) の増加を認めた。このことから血液粘度を昇させる要因としてMCVの増加による赤血球変形能の低下が考えられた。月経期では子宮内膜の PGE2 が最高値を示すことから, MCVの増加に PGE2 が関与していることが推測された。次いで6例の対照群には白湯を投与し (約4週間), 他の6例にはサフラン振り出し液を投与し (約4週間), これらの指標の変化を比較検討した。サフランは月経期においてMCVと血液粘度を明らかに低下させたことから, 血液粘度の低下の要因にはMCVの減少による赤血球変形能の改善が関与しているものと考えられた。また血中エストロゲンが低値の卵胞期において11-dehydro TXB2を低下させた。〓血病態においては全血粘度が上昇していること, 血小板のトロンボキサン合成が亢進していることが報告されているが, サフランはこれらの指標に対し明らかな作用を持つことから, 駆〓血作用を有することが健常の性成熟女性で示された。
著者
小暮 敏明 巽 武司 佐藤 浩子 伊藤 克彦 関矢 信康 並木 隆雄 寺澤 捷年 田村 遵一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.61-68, 2007-01-20 (Released:2008-09-12)
参考文献数
14
被引用文献数
3 1

和漢薬が奏効した線維筋痛症 (FMS) の二例を提示し, FMSの臨床像と甘草附子湯証との類似点を考察した。症例1は52歳, 女性で2001年左手関節痛を自覚, その後両側の肘, 肩, 足関節痛とその周囲の筋痛が出現。近医リウマチ科で精査を受けたが異常はなくFMSと診断された。NSAIDsが無効のため, 04年当科を紹介受診した。桂枝二越婢一湯加苓朮加防已黄耆湯葛根を投与, 内服2ヵ月で疼痛は半減。06年3月VASは20%となりNSAIDsは不要となった。症例2は58歳, 女性で10年前から左肘痛を自覚。2004年から項頸部痛や両側上肢, 肩の疼痛が出現し, 近医整形外科を受診。頸部X-rayや神経学的に異常がなかったためNSAIDsで経過観察となった。05年3月症状が不変のため4月に当科を紹介受診。炎症反応が陰性でACRのFMS分類基準に適合した。甘草附子湯の3ヵ月の服用でVASは30%となりADLは向上した。
著者
寺澤 捷年 土佐 寛順 平崎 能郎 小林 亨 地野 充時
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.309-312, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
27

宿便という用語は単に便秘によって消化管内に内容物が停留していることを意味するのではなく,通常の排便では排泄できない消化管内の貯留物を想定したものである。しかし,その実態は不明であった。筆者らは硫酸バリウムによる上部消化管検査を受けた過敏性腸症候群の一患者において,検査後に下痢がみられたにも拘わらず3日後の腹部単純X 線撮影よって,下部消化管壁に附着した硫酸バリウムを確認し,これが宿便の一つの形態であることを示唆するものと考えた。また,宿便という用語が何時から用いられたかについて過去の文献検索を行い,尾台榕堂の方伎雑誌が初出であり,この用語が宿食から派生したものであると考察した。
著者
橋本 すみれ 地野 充時 来村 昌紀 王子 剛 小川 恵子 大野 賢二 平崎 能郎 林 克美 笠原 裕司 関矢 信康 並木 隆雄 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.171-175, 2009 (Released:2009-08-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1

線維筋痛症による全身の疼痛に対し,白虎湯加味方が有効であった症例を経験した。症例は65歳女性。自覚症状として,夏場に,あるいは入浴などで身体が温まると増悪する全身の疼痛および口渇,多飲があり,身熱の甚だしい状態と考えて,白虎湯加味方を使用したところ全身の疼痛が消失した。線維筋痛症に対する漢方治療は,附子剤や柴胡剤が処方される症例が多いが,温熱刺激により全身の疼痛が悪化する症例には白虎湯類が有効である可能性が示唆された。
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.413-418, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
22

医療用漢方製剤の当帰四逆加呉茱萸生姜湯の効能の一つに凍瘡(しもやけ)がある。凍瘡は寒冷な環境で見られるありふれた病症であり,この病症が末梢の血流低下と関連することは既に記されている。しかし,これに伴う炎症機転がどのようなものであるかについては不明であった。筆者は最近の免疫学が提唱している自然炎症の視点からその発症機序を推測することを意図した。凍瘡は細静脈の微小血栓を伴い,虚血にさらされた血管あるいは細胞から放出されるサイトカインにより起こるものであろうと考察した。
著者
小暮 敏明 巽 武司 佐藤 浩子 伊藤 克彦 関矢 信康 並木 隆雄 寺澤 捷年 田村 遵一
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.61-68, 2007-01-20
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

和漢薬が奏効した線維筋痛症(FMS)の二例を提示し,FMSの臨床像と甘草附子湯証との類似点を考察した。症例1は52歳,女性で2001年左手関節痛を自覚,その後両側の肘,肩,足関節痛とその周囲の筋痛が出現。近医リウマチ科で精査を受けたが異常はなくFMSと診断された。NSAIDsが無効のため,04年当科を紹介受診した。桂枝二越婢-湯加苓朮加防已黄耆湯葛根を投与,内服2ヵ月で疼痛は半減。06年3月VASは20%となりNSAIDsは不要となった。症例2は58歳,女性で10年前から左肘痛を自覚。2004年から項頸部痛や両側上肢,肩の疼痛が出現し,近医整形外科を受診。頸部X-rayや神経学的に異常がなかったためNSAIDsで経過観察となった。05年3月症状が不変のため4月に当科を紹介受診。炎症反応が陰性でACRのFMS分類基準に適合した。甘草附子湯の3ヵ月の服用でVASは30%となりADLは向上した。
著者
福田 美絵子 來村 昌紀 隅越 誠 小林 亨 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.204-211, 2012 (Released:2012-10-11)
参考文献数
9

麗澤通気湯は『蘭室秘蔵』収載の方剤で副鼻腔炎との関連が推測できる諸症状を改善する事が知られている。先にわれわれは,本方剤が奏功した常習頭痛,気管支喘息,気管支アミロイドーシスの3症例を報告した。本稿は副鼻腔炎を合併した,月経前症候群,頭痛,食欲不振,手指知覚障害,咳嗽を主訴とした5症例に対し,副鼻腔炎を目標に本方剤を単独,あるいは補助的方剤との併用を行い,本方剤の証を明確にすることを試みた症例の報告である。
著者
伊藤 隆 喜多 敏明 嶋田 豊 柴原 直利 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.433-441, 1996-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
16
被引用文献数
3 3

八味地黄丸が奏功した慢性喘息患者4症例を報告した。症例は63歳女, 57歳女, 41歳女, 42歳男。いずれも成人発症, 通年型である。重症度では第1例は軽症, 第2例は中等症, 第3, 4例は重症に相当した。漢方医学的には4例ともに八味地黄丸証を認めた。第1例はウチダ八味丸Mが奏功したが, 第2~4例は反応せず熟地黄を用いた自家製丸剤により始めて喘息病態の改善を認めた。4例ともに喘息病態の改善に伴い発作点数の低下, 治療点数の低下, 早朝時ピークフロー値の上昇を認めた。経口ステロイド剤は第3例と第4例に使用していたが, 第3例で離脱, 第4例で減量できた。本報告により八味地黄丸が慢性喘息患者の呼吸機能改善に対して有用であること, 丸薬として投与する場合には乾地黄よりも熟地黄を用いた方が治療効果においてより優れている可能性が示唆された。
著者
萬谷 直樹 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.72-81, 2018 (Released:2018-07-04)
参考文献数
22

国際癌研究機構は発癌実験の結果などからベルベリンを含有するヒドラスチス根をグループ2B(発癌性を示す可能性がある)に分類した。超高濃度のベルベリンを負荷した実験用細胞でもDNA 障害が確認された。これらをふまえ日本医師会雑誌に掲載された医師会会員による2つの投稿は,黄連・黄柏がベルベリンを含有し,ベルベリンや大黄の成分がDNA 障害を示すことから,黄連・黄柏・大黄が発癌性・生殖毒性を持つと主張した。しかし,同投稿には数々の科学的な誤りや恣意的な記述が多いことが明らかとなった。実験で毒性を示したベルベリン濃度は漢方薬の服用では到底得られない濃度である。黄連・黄柏そのものの発癌性や生殖毒性を示すデータは確認されていないにもかかわらず,投稿内容が週刊誌にも取り上げられて患者を無用の不安に陥れていることから,会員投稿の数々の誤りに対して科学的根拠を示して反論した。
著者
後藤 博三 嶋田 豊 引網 宏彰 小林 祥泰 山口 修平 松井 龍吉 下手 公一 三潴 忠道 新谷 卓弘 二宮 裕幸 新澤 敦 長坂 和彦 柴原 直利 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.471-476, 2008 (Released:2008-11-13)
参考文献数
22
被引用文献数
1

無症候性脳梗塞患者に対する桂枝茯苓丸を主体とした漢方薬の効果を3年間にわたり前向き研究により検討した。対象は富山大学附属病院ならびに関連病院を受診した無症候性脳梗塞患者93名で男性24名,女性69名,平均年齢70.0±0.8才である。桂枝茯苓丸エキスを1年あたり6カ月以上内服した51名をSK群,漢方薬を内服せずに経過を観察した42名をSC群とし,MRI上明らかな無症候性脳梗塞を認めない高齢者44名,平均年齢70.7±0.7才をNS群とした。3群間において,開始時と3年経過後の改訂版長谷川式痴呆スケール,やる気スコア(apathy scale),自己評価式うつ状態スコア(self-rating depression scale)を比較した。また,SK群とSC群においては自覚症状(頭重感,頭痛,めまい,肩凝り)の経過も比較検討した。その結果,3群間の比較では,自己評価式うつ状態スコアにおいて開始時のSK群とSC群は,NS群に比べて有意にスコアが高かった。しかし,3年経過後にはNS群は開始時に比較し有意に上昇したが,SK群は有意に減少した。さらに無症候性脳梗塞にしばしば合併する自覚症状の頭重感において桂枝茯苓丸は有効であった。以上の結果から,無症候性脳梗塞患者の精神症状と自覚症状に対して桂枝茯苓丸が有効である可能性が示唆された。
著者
関矢 信康 引網 宏彰 古田 一史 小尾 龍右 後藤 博三 柴原 直利 嶋田 豊 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.811-815, 2004-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

難治性の気管支喘息の3症例に対して咽喉不快感, 動悸, 自汗を目標として清暑益気湯を投与した。目標とした症状および所見は速やかに改善した。さらに発作の回数が著明に減少あるいは消失した。そのほか3症例に共通していた事柄は中年期であること, 発作が通年性であること, 心窩部不快感, 心下痞〓, 臍上悸を認めることであった。これまで清暑益気湯は夏やせ, 夏まけに対して用いられることが多かったが中年期の気管支喘息の長期管理薬 (コントローラー) としても認識されるべき処方であると考えられた。
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.354-363, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

臍傍部,回盲部および S 状結腸部の筋肉の有痛性硬縮は瘀血病態と関連していることが知られている。しかし,これまでにその発現機序は不明であった。最近,筆者はこれらの徴候が経穴の痞根(ExB4),血海(SP10),あるいは硬縮部それ自体への鍼の施術で消失することを見いだした。さらに,これらの腹部の硬縮が上腹壁動脈あるいは下腹壁動脈の最も末梢の部位に位置することに気づいた。これらの事実は腹部の硬縮が上腹壁動脈あるいは下腹壁動脈の血流量の減少によりもたらされることを示唆しており,鍼による入力信号は単に胸髄11と12髄節のαとγ運動神経細胞の興奮を抑制するばかりでなく,興奮状態にあった交感神経活動をも抑制することを示唆するものである。硬縮を発現させる最初の有害信号は自然炎症をともなった骨盤腔内静脈の鬱血によって発生するものと推測した。
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.89-97, 2012 (Released:2012-10-04)
参考文献数
15

漢方は1875年に明治維新政府によって捨て去られるまで,我が国の医療の主流であった。1910年,和田啓十郎は『医界之鉄椎』を公刊し,西洋医学との協調の下に漢方を正当に評価すべきことを提唱した。今から丁度100年前,明治43(1910)年のことである。この著作に啓発され,漢方復興運動に取り組んだのが湯本求真であり,そして湯本求真の精神に共鳴したのが大塚敬節である。このように見ると,この『医界之鉄椎』が漢方の復興に果たした歴史的意義は甚大である。本稿では『医界之鉄椎』が発刊された当時の時代背景と,それから一世紀,我々の先輩は何を成し遂げたかを明らかにした。
著者
小暮 敏明 渡辺 実千雄 伊藤 隆 嶋田 豊 寺澤 捷年
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.349-355, 1997-11-20
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

温経湯が奏効した原発性シェーグレン症候群(pSjS)の三例を報告した。症例1は, 67歳, 女性。1992年4月に目のゴロゴロ感を自覚, 11月砺波総合病院受診。抗核抗体(+), 乾燥性角結膜炎の存在, 唾液腺シンチで分泌低下からpSjSと診断。点眼薬で加療されたが無効のため1995年6月同院東洋医学科受診, 温経湯を投与したところ眼・口腔乾燥症状の軽快が得られ, 6ヶ月後乾燥性角結膜炎の改善が確認された。症例2は73歳, 女性。1987年腰痛で当科受診し和漠薬治療を受けていた。1991年胸鎖関節痛が出現し当科入院。シルマーテスト(+), 抗SS-A抗体(+), 口唇生検でリンパ球浸潤の存在より, pSjSと診断。温経湯の投与後1ヶ月で胸鎖関節痛は消失し, 赤沈などの炎症反応も正常化した。しかし, この例は乾燥症状の改善は得られなかった。症例3は39歳, 女性。1991年6月多関節痛, 口腔乾燥感を自覚し近医受診, 高γ-グロブリン血症, 抗SS-A抗体(+), 唾液腺シンチで分泌低下からpSjSと診断,非ステロイド性抗炎症剤を受けていた。和漢薬治療希望で1994年3月当科受診。多関節痛が強いため, 桂枝加苓朮附湯等を投与し関節痛は軽減。口唇乾燥と月経痛から温経湯に転方, 口腔乾燥感, 目のカサカサは軽快したが, 手関節痛の出現のため2ヶ月後, 桂枝加朮附湯加減に転方した。これらから温経湯のpSjSへの応用の可能性が示唆されるとともに, 乾燥症状だけでなく, 関節痛という腺外症状にも有効であったことから, 本方剤を運用するうえで示唆に富む症例と考えられた。
著者
田原 英一 新谷 卓弘 森山 健三 中尾 紀久世 久保 道徳 斉藤 大直 荒川 龍夫 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.957-961, 2003-09-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8

療養型病床群における高齢者の性的逸脱行動に桂枝加竜骨牡蛎湯が有効であった2例を報告する。症例1は71歳男性で, 前立腺肥大症の術後リハビリテーション目的で入院となった。入院後まもなくから自慰行動が出現し, 他の女性入院患者や介護職員が不快感を訴えるようになった。桂枝加竜骨牡蛎湯を投与したところ自慰行動は消失した。症例2は90歳男性で, 脳梗塞のリハビリテーションのために入院となった。入院後半年ほどして卑猥な言葉を言ったり, 他の女性患者の体を触るようになった。桂枝加竜骨牡蛎湯を投与したところ, 性的逸脱行動は軽減した。桂枝加竜骨牡蛎湯は痴呆による高齢者の性的逸脱行動に有効な治療法となると示唆される。
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.13-21, 2016-01-20 (Released:2016-05-27)
参考文献数
10
被引用文献数
7 7

筆者は先に心下痞鞕と背部兪穴の関連を報告したところである。この報告において旁脊柱筋の硬結への施術によって心下痞鞕は消失するが,胸脇苦満は消失しないことを記した。そこで筆者は,改めて胸脇苦満と関連する背部諸筋の硬結を探索し,棘下筋の硬結が胸脇苦満と密接に関連することを発見した。またこの棘下筋硬結への施術が吃逆を改善することも見出した。棘下筋の硬結は肩こりなどでも現れるがその中に胸脇苦満と同時にあらわれるものがあることを明らかにした。本論文は棘下筋の硬結を手がかりに胸脇苦満が横隔膜の異常緊張と関連したものであることを具体的な2症例および15症例を基にその病態生理学的背景を明らかにしようと意図したものである。