著者
伊藤 太一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 = Journal of the Japanese Forest Society (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.125-135, 2009-04-01
参考文献数
38
被引用文献数
4

近年自然地域におけるレクリエーションのための入域や施設利用, インタープリテーションなどのサービスに対する費用負担が国際的課題になっているが, 日本では山岳トイレなど特定施設に限定される。ところが, 江戸時代の富士山においては多様な有料化が展開し, 登山道などの管理だけでなく地域経済にも貢献し, 環境教育的活動の有無は不明であるが, 環境負荷は今日より遙かに少なくエコツーリズムとしての条件に合致する。そこで本論ではレクリエーション管理の視点から, 登山道と登山者の管理およびその費用負担を軸に史料を分析し, 以下の点を明らかにした。1) 六つの登山集落が4本の登山道を管理しただけでなく, 16世紀末から江戸などで勧誘活動から始まる登山者管理を展開することによって, 19世紀初頭には庶民の登山ブームをもたらした。2) 当初登山者は山内各所でまちまちの山役銭を請求されたが, しだいに登山集落で定額一括払いし, 山中で渡す切手を受け取る方式になった。さらに, 全登山口での役銭統一の動きや割引制度もみられた。3) 同様に, 登山者に対する接客ルールがしだいに形成され, サービス向上が図られた。4) 一方で, 大宮が聖域として管理する山頂部では個別に山役銭が徴収されるという逆行現象もみられた。
著者
佐藤 輝明 中田 誠
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 = Journal of the Japanese Forest Society (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.364-371, 2008-12-01
参考文献数
35
被引用文献数
2

耕作放棄後約40年が経過し、現在は森林になっている新潟県佐渡島の中山間地にある放棄棚田において、森林の成立に関わる要因を調査した。本調査地では、コナラやクリを主とした樹木の侵入が棚田の放棄前後から始まり、その後20年くらいの間に徐々に進んでいた。放棄棚田における森林の成立には、斜面位置による地下水位と、棚田面・畦・法面といった微地形による土壌の水分環境が強く影響していた。斜面上側では地下水位が低いために土壌含水率が高くなく、棚田面・畦・法面にともに樹木が生育していた。しかし、斜面下側ほど地下水位が高いために棚田面の土壌含水率が高く、樹木は過湿な土壌環境が緩和された畦や法面におもに生育し、それらによって林冠が閉鎖されていた。法面では傾斜が土壌含水率や樹木の生育に影響を与えていた。棚田の微地形間での樹種分布の違いには、種子の散布様式や土壌の水分環境に対する生理的な耐性も関係していると考えられた。
著者
松永 孝治 大平 峰子 倉本 哲嗣
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 = Journal of the Japanese Forest Society (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.335-343, 2009-10-01
参考文献数
44
被引用文献数
1

効率的なクロマツさし木苗の生産方法を確立するため, 二つの実験を行った。まずさし木発根性に及ぼす穂のサイズの影響を調べるため, 5家系の5∼6年生クロマツ採穂台木各1個体から穂を採取してさし付けた。その結果, 穂が長いほど, また穂の直径が太いほど発根性が低下する傾向があった。次に, 採穂台木の剪定後に得られる萌芽枝数とそのサイズに影響する要因を明らかにするために, 5家系各3個体の4年生クロマツ採穂台木について, 剪定した枝とそこから発生した萌芽枝数とサイズの関係を調べた。その結果, 剪定枝あたりの萌芽枝数は剪定枝上で萌芽枝が発生している部位 (萌芽帯) の長さと剪定枝の直径, 萌芽枝のサイズは剪定枝の直径に強く影響された。また分散分析の結果, 萌芽枝数, 剪定枝の直径および萌芽帯の長さは家系間に有意差があった。これらの結果は家系の選抜により萌芽枝数の改良が可能であることを示唆した。
著者
原田 茜 吉田 俊也 Resco de Dios Victor 野口 麻穂子 河原 輝彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 = Journal of the Japanese Forest Society (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.397-403, 2008-12-01
参考文献数
14
被引用文献数
4

北海道北部の森林では, ササ地を森林化させるために掻き起こし施業が広く行われてきた。施業から6∼8年が経過した樹冠下の掻き起こし地を対象に, 9種の高木性樹種を対象として樹高成長量と生存率を調べ, それらに影響する要因(植生間の競争・促進効果)を明らかにした。成長量と生存率が高かったのはキハダとナナカマド, ともに低かったのはアカエゾマツであった。多くの樹種の成長は, 周囲の広葉樹または稚樹以外の下層植生の量から促進効果を受けていた。ただし, シラカンバについては, 施業後3∼5年目の時点では促進効果が認められていたものの, 今回の結果では競争効果に転じていた。一方, 生存率については, 多くの樹種について周囲の針葉樹による負の影響のみが認められた。密度または生存率の低かった多くの樹種に対して, 周囲のシラカンバやササの回復が負の要因として働いていないことから, 多様な樹種の定着を図るうえで, 除伐や下刈りの実行は, 少なくともこの段階では有効ではないと考えられた。
著者
北島 博
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 = Journal of the Japanese Forest Society (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.61-69, 2008-02-01
参考文献数
136
被引用文献数
1

カミキリムシ類の人工飼育技術に関して,供試虫の確保,成虫,卵,幼虫,蛹の各発育ステージごとの取り扱い,および発育の斉一化方法に分けてレビューした。幼虫の餌として,一般的には天然の餌および人工飼料が用いられる。人工飼料として,寄主植物の乾燥粉末が主成分である飼料と,脱脂大豆粉末,デンプン,スクロース,および小麦胚芽が主成分で,それに寄主植物を添加した飼料が多く用いられている。また,休眠打破のための低温処理や,蛹化を斉一化させるための最適な日長条件が考案されている。人工条件下で継代飼育を行うためには,飼育の目的,労力,および設備に合わせて幼虫の飼育方法を選択し,その上で飼育計画を策定する必要がある。
著者
岡部 貴美子
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本森林学会誌 = Journal of the Japanese Forest Society (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.461-468, 2009-12-01
被引用文献数
1 2 1

キクイムシとダニの相互関係は, ダニによる便乗, 寄生, 捕食, および (便乗以外の) 片利共生や相利共生などである。最も歴史が長く一般的な関係はダニが移動分散のために他の生き物にヒッチハイクする便乗であり, 寄生をはじめとするより長期的な共生関係が進化したものと考えられた。共生や捕食などの相互関係は, トゲダニ, ケダニ, コナダニ, ササラダニの4亜目に認められ, それぞれ独立に始まったと考えられた。捕食性のダニはキクイムシ未成熟ステージのほか, 他の昆虫や線虫も摂食するものが多く, 餌としての選好性は低かった。キクイムシの卵や幼虫を捕食または捕食寄生するダニがキクイムシに便乗することが普通であり, ダニによる個体群動態へのインパクトは低いものと予想された。これまでに知られているキクイムシとダニの相利共生は直接的ではなく, 菌や線虫, 他種のダニなどを介した間接的なものであることが示唆されている。これらのことからキクイムシとダニおよびその他の微生物を含む相互関係は, ハビタットの共有が起点となっていると考える。
著者
江崎 功二郎
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 = Journal of the Japanese Forest Society (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.391-396, 2008-12-01
被引用文献数
3 4

コナラ林およびミズナラ林においてフェニトロチオン乳剤(以下, MEP)をカシノナガキクイムシ成虫の発生前に1回, 地上から6mまで樹幹散布した。コナラ林の成虫発生密度は, ミズナラ林より5倍以上高かった。コナラ林において, イニシャルアタック防止率は散布後1∼3週間は100%であったが, 散布5週間後には50%に低下した。さらに, イニシャルアタック防止効果を示す未穿入木での♂捕獲数7頭以上は22回出現し, 20回は散布1∼5週間後に集中していた。また, マスアタック防止効果もこの期間示された。ミズナラ林において, イニシャルアタック防止率は散布5∼7週後まで100%であったが, それ以降は約80%に低下した。コナラ林において薬剤散布高までの穿入密度は無処理木より低く, 地上高0.5∼1.5 mの範囲で最も差が大きかった。これらのことより, MEPの樹幹散布はカシノナガキクイムシの穿入防止に有効で, MEPを1回散布すると, 3週間以上にわたり高い穿入防止効果を維持できることが明らかになった。