著者
高橋 守 三角 仁子 増永 元 田原 義太慶 角坂 照貴 鳥羽 通久 三保 尚志 高橋 久恵 高田 伸弘 藤田 博己 岸本 寿男 菊地 博達
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第62回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.45, 2010 (Released:2010-10-12)

ウミヘビツツガムシV. ipoidesはウミヘビの気管や肺に寄生する内部寄生性のツツガムシで、南西諸島で捕獲したエラブウミヘビ亜科の3種(エラブ、ヒロオ、アオマダラ)に寄生していた。未吸着幼虫は鼻腔内や気管入り口で吸着しないで生存しているのが観察された。気管や肺で観察された幼虫の多くは、体長5-8mmにも達する大型の幼虫であった。エラブウミヘビを水を張った飼育容器内で観察したところ、約2ヶ月後に口から吐き出された生きた満腹幼虫30個体と、肺に吸着している満腹幼虫4個体および未吸着幼虫1個体を得た。なお消化管内での寄生は全く認められなかった。以上のことから未吸着幼虫は、陸上の産卵場所などでウミヘビの鼻腔から侵入し、下顎に開く気管から肺に侵入し、体液を吸って満腹し、気管入り口から外に吐き出されるものと考えられた。満腹幼虫を25℃下で飼育すると、体表にある多数のイボ状突起は約1週間で消え、滑らかになり、やがて腹部に脚原基が形成され、背中の外皮が破れて8本足の成虫が出現した。これは、通常の哺乳類に寄生するツツガムシで見られる第二若虫や第三若虫の形態を経ないで成虫になるという、ウミヘビの生活に適応した生活環とみなされた。成虫になった1-2日後、雄は精包を産出し、雌がこれを取り入れて11日後に産卵した。産卵は16日間続き、1日平均16.5卵(3-31/日)、孵化率52.8%であった。他に発育速度およびstylostomeについても述べる。
著者
林 利彦 中山 恒友
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第62回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.66, 2010 (Released:2010-10-12)

フサヒゲフンコバエLeptocera caenosa (Rondani)はヒト親和性の強いハエであり, ヒトの活動と共に世界中に分布を広げた種と考えられている. この種はしばしばヒトの生活環境内で大量発生することが知られている. カナダでは汚水槽の汚泥より大発生の報告があり, 日本でも北海道でマンション等から13件の大量発生の報告がなされている. 我々は栃木県宇都宮市の食品工場で本種の大量発生の事例に遭遇した. トラップによる調査で, 2009年4月からハエの大量発生が確認され, その後約1ヶ月で発生が終息した. この工場では外部からの昆虫侵入に対して対策がなされており, 多数のハエが侵入してくることは考えられず, 内部に発生源があるのは確実と思われたが, 工場での調査でその発生源を見つけることができなかった. 工場には1階から3階までに食品製造所があるが, ハエが見られたのは1階製造所のみであった. 北海道での事例では発生場所のほとんどが床下の排水管の破損による汚泥からの発生とされているが, 本事例でも床下からの発生が疑われた. 今回の大量発生に際し, トラップでは多数捕獲されていたにもかかわらず, 従業員等は目視で確認していなかったという. このハエはヒト親和性が強いにもかかわらず, 生息環境は屋根裏や床下等人目に付きにくい場所であるためにあまりポピュラーな種ではない. 本種の形態や発生状況等を紹介する. キーワード:フサヒゲフンコバエ, 大量発生, 食品工場, 栃木県.
著者
三條場 千寿 Ozbel Yusuf 麻田 正仁 Sumbuu Gantuya 長田 康孝 宮城 一郎 松本 芳嗣
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第62回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.54, 2010 (Released:2010-10-12)

サシチョウバエは,パパタシ熱,バルトネラ症,リーシュマニア症などの人獣共通感染症を媒介する昆虫である.我が国における唯一のサシチョウバエとしてPhlebotomus squamirostris Newstead,1923が記載されている.1956年に青森県で9頭のサシチョウバエ採集が記録されて以来(緒方,1958),約50年間国内での報告はない.現在の我が国におけるサシチョウバエの棲息状況を明らかにするため,2008年秋田県,群馬県,鳥取県,沖縄県においてオイルトラップおよびCDCライトトラップを用いサシチョウバエの採集を試みた.その結果,秋田県で27頭(雄15頭,雌12頭),群馬県で491頭(雄369頭,雌122頭),鳥取県で3頭(雄1頭、雌2頭),沖縄県で192頭(雄157頭,雌35頭)を採集した.群馬県で採集したサシチョウバエの詳細な観察を行ったところ,形態学的特徴は1923年に記載されたP.squamirostrisと同じであった.さらに現在のサシチョウバエ同定に用いられているkeyによれば,Sergentomyia属サシチョウバエの特徴を有することが明らかになった.このため日本産サシチョウバエPhlebotomus squamirostrisをSergentomyia squamirostrisと再記載すべきである.国際化による地球規模でのヒト,動物,物資の移動,地球温暖化などの要因により,サシチョウバエの棲息域が拡大し,リーシュマニア症の流行地も拡大しつつある.我が国におけるサシチョウバエの棲息およびサシチョウバエが媒介する諸感染症に対する警戒を行う必要があると考える.