著者
増田 賢嗣 今泉 均 橋本 博 小田 憲太朗 古板 博文 松成 宏之 照屋 和久 薄 浩則
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産技術 (ISSN:18832253)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.7-13, 2011-10
被引用文献数
2

現在ウナギ仔魚用飼料としてはアブラツノザメ卵を主体とする飼料 (SA)が用いられている。この飼料により飼育が可能になったが,サメ卵の中でも特に本積の卵が優れていることは確認されていなかった。加えて,シラスウナギ量産に対応するためには新たな飼料原料を見出す必要がある。本研究ではイタチザメ卵主体飼料(GC)およびアイザメ卵主体飼料(CA)を調製し、 SAとの初期飼育の比較試験を行った。その結果GC区、CA区ともにふ化後21日まで生残が認められ,GC区の生残率および両試験区の終了時全長はSA区に劣ったものの、CA区の生残率はSA区に匹敵した。これにより複数のサメ卵が飼料原料として利用可能であることが明らかとなった。
著者
井口 恵一朗 鶴田 哲也 山口 元吉 羽毛田 則生
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産技術 (ISSN:18832253)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-6, 2011-10

長野県佐久地方で、営まれる稲田フナ養殖の現状把握を目的に,アンケート調査を実施した。就業者の平均年齢は70代に近づき,新規の参入は少なかった。フナ仔魚は圃場内の天然餌料で育ち,稲藁や鶏糞の投入によりプランクトンの発生を促す工夫があった。フナの健康が配慮され,抗菌剤や防虫剤の使用は控えられたが,除草剤使用に関して高齢者の間で容認の傾向があった。また,生産者は,低農薬・有機栽培のフナ米に,慣行栽培米にはない付加価値を意識していた。さらに,稲田養魚には,魚飼い喜びや食慣習の地域共有等,経済評価に馴染まない効用が見出された。
著者
溝口 弘泰 長谷川 勝男 古川 秀雄 宇野 秀敏 大貫 伸
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産技術 (ISSN:18832253)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.27-36, 2010-09
被引用文献数
1

日本の海岸に漂着する大量のゴミは年間約15万トンであり,美観を損ねるだけでなく生態系まで破壊する問題となっている。漂着ゴミ発砲スチロールを回収し油化することによって得られるスチレン油を,軽油と混合し漁船エンジン等で使用することができれば,新しい循環サイクルを構築することができる。本研究では,漂着ゴミ (発砲スチロール) から抽出されたスチレン油を軽油と混合し (5wt%,10wt%,15wt%,20wt%),エンジン試験を行い,燃焼特性,排気特性ならびに耐久性について比較検討した。スチレン油の動粘度が小さいため,混合率20wt%が使用限度となる。それぞれの混合油の燃費率,排気温度ならびにCO2濃度は軽油と比較して,特段の変化は見られなかった。混合油のNOx濃度とスモークは,軽油と比較して混合率が高くなるに従い増加傾向となった。混合油 (10wt%) 使用での32時間耐久試験を行い,エンジンヘッドを開放し燃焼室の汚れ具合を軽油使用後と比較した結果,カーボンの付着具合ならびに吸排気弁裏側の汚れについては同等であった。以上のことより,漂着ゴミ発砲スチロールを油化して生成されるスチレン油は,軽油と20wt%までの混合であればディーゼル機関の燃料として使用できる可能性があることが示唆された。
著者
重田 利拓 薄 浩則
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産技術 (ISSN:18832253)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-19, 2012-09

野外での魚類によるアサリ食害実態に関する知見を取りまとめレビューするとともに,食害魚種に閧するリストを作成した。トビエイ科からフグ科の12科23種がリストアップされた。このうち,日本には12科21種が,瀬戸内海には12科18種が生息する。アサリの被食4部位区分では,稚貝を食害する魚種が多く,このうち,ナルトビエイ,クロダイ,キチヌ,キュウセン,クサフグの5種が親貝をも食害すること,イシガレイやマコガレイの稚魚・未成魚など8種が水管を食害すること,クロダイとキュウセンは,足を除く,全ての区分で食害が認められること等を明らかにした。
著者
松里 壽彦
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産技術 (ISSN:18832253)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.5-11, 2008-09

現存する多くの産業も同様であろうが、水産業は複雑な技術の塊である。現在の水産業で用いられている技術のなかには、科学的には説明されていない古来からの伝承的技術から現代科学の最先端の技術までを含むことから、水産業の技術を一言で説明することは困難である。考え方によっては、現在用いられている我が国の水産業の技術は、農業と同様、知的財産化されていない宝の山とも、多くの先人達の工夫と知恵の集合体とも思える。特に他産業技術と比べ、機械、器具等のハード技術より、永い歴史とともに蓄積された機械、器具を使いこなす技術、いわゆるソフト技術の比重が大きいことが特徴である。多少乱暴な言い方をするなら、水産業は人間の食料供給に係わる産業であるため、業としての成立はともかく、基本的な技術の発祥は、人類の発祥とともに始まったと考えられる。少なくとも、今から五千年以上前の古代エジプトにおいて川漁で今日用いられている道具の多くが壁画現物(網地・鈎針等)として残っており、さらには船上での干物加工(背、腹両開き)や蓄養と思われる図まで発見されている。我が国においても、全国各地で発見されている貝塚は、現在も行われている「煮貝」技術の証拠でもあろうし、貝塚から発見される数十種にのぼる魚骨は、それぞれの魚種に対応した漁獲技術があったからに他ならない。この永い歴史を持つが故の、近代科学成立以前からのハード、ソフト技術の塊である水産業の技術を考えるためには、多少考え方を整理することが必要であろう。