著者
神野 秀雄
出版者
愛知教育大学
雑誌
治療教育学研究 (ISSN:09104690)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.1-9, 2006-02

本論文は,初来所時31歳(男性)の高機能自閉症(IQ:92)に関する事例報告である。Aさんは女子学生5,6名を回答者にして「クイズサークル」を年数回実施し,それを5年間続けて終了した。Aさんは,クイズサークルの「会長」として来所していたが,まもなく学生たちにAさん自身のことを「先生」と呼ばしめるようになり,大学の非常勤講師としてクイズサークルを主宰しているという揺るぎない妄想に変化していった。このように学生たちには尊大な態度を示したが,一方筆者(セラピスト)には,強迫行為や強迫観念など"気になること"や"悩みごと"をクライエントとして相談し,カウンセリングによりいくらかでも悩みを軽減できる神経症的な心の構造を示した。本事例の発達経過をみると,Meltzer,D.のいう自閉(autistic)から後自閉(post-autistic)に移行・成長した経過を経たと思われ,その視点から妄想や強迫症等について考察した。
著者
神野 秀雄
出版者
愛知教育大学
雑誌
治療教育学研究 (ISSN:09104690)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.1-9, 2006-02-28

本論文は,初来所時31歳(男性)の高機能自閉症(IQ:92)に関する事例報告である。Aさんは女子学生5,6名を回答者にして「クイズサークル」を年数回実施し,それを5年間続けて終了した。Aさんは,クイズサークルの「会長」として来所していたが,まもなく学生たちにAさん自身のことを「先生」と呼ばしめるようになり,大学の非常勤講師としてクイズサークルを主宰しているという揺るぎない妄想に変化していった。このように学生たちには尊大な態度を示したが,一方筆者(セラピスト)には,強迫行為や強迫観念など“気になること”や“悩みごと”をクライエントとして相談し,カウンセリングによりいくらかでも悩みを軽減できる神経症的な心の構造を示した。本事例の発達経過をみると,Meltzer,D.のいう自閉(autistic)から後自閉(post-autistic)に移行・成長した経過を経たと思われ,その視点から妄想や強迫症等について考察した。
著者
神野 秀雄
出版者
愛知教育大学
雑誌
治療教育学研究 (ISSN:09104690)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.1-10, 2008-02

ASD (自閉症スペクトラム障害) の人たちは, Low-functioning, High-functioning といった二分法で分類されることが多く, さらに細分化したサブグループが必要と思われる。本研究は, ウェクスラー式IQおよび治療教育的実践に基づく臨床像の視点から7つのサブグループ化を試みたものである。対象となった自閉性障害児は37名(男33名, 女4名) である。各事例の療育期間は2年余りより30年余まで広範囲にわたっているが, WISC系知能検査を実施した平均年齢は, 11歳7ヶ月(SD=2歳10ヶ月) であり, FIQの平均は82.8 (range=43~140) であった。対象事例のVIQとPIQのdiscrepancyの絶対値の平均は, 20.1 (SD=9.7) と有意な差があり, ASDはこの点に大きな特徴があることから, 対象児を動作性IQ優位群(VIQ<PIQ) 21名, 言語性IQ優位群(VIQ>PIQ) 16名の2つに大きく分類した。さらに一人一人のVIQとPIQの関連や臨床像の特徴より, 4つのPIQ優位群, 3つのVIQ優位群のサブグループを提案し, 因子分析のデータに基づきdiscrepancy の視点からサブグループ化について若干の考察した。
著者
北野 絵美
出版者
愛知教育大学
雑誌
治療教育学研究 (ISSN:09104690)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.29-39, 2010-02

本研究は,療育機関等から保育園・幼稚園への移行の様子を1年半に渡って縦断的に観察を行う事により,広汎性発達障害を早期に疑われる幼児の発達支援について検討したものである。第1報(北野,吉岡,2009)では早期療育の『意義』について検討を行った。今回は第2報として,保育園・幼稚園等での観察記録,発達検査の結果を踏まえて統合保育の『意義』及び"移行"に際する発達支援の『意義』について検討をいった。本研究を通じて,統合保育とは早期療育からの"継続性"が非常に重要である事が示唆された。その上で,統合保育を行う『意義』として他児への興味・関心を持ち,模倣行動が出始めている幼児にとって,他児がモデルとなり大きな成長,発達等を遂げる事が第一に挙げられる。さらに,他児と「共に生きること」そのものも大きな『意義』となる一方で,他児と広汎性発達障害を有する幼児との関係性をいかに築いていけるがが,統合保育の『課題』点として挙げられる事示唆された。
著者
吉岡 恒生
出版者
愛知教育大学
雑誌
治療教育学研究 (ISSN:09104690)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.13-21, 2010-02

本論では,子どもを援助する者の「心の傷」が援助プロセスへ与える影響について論じた。子どもを援助する者の「心の傷」が子どもの「心の傷」に触れる際に,どのようなプロセスが起こりうるか,またその癒しの効果と危険性はどのようなものかについて,「傷ついた癒し手」「メサイア・コンプレックス」等の概念を用いて論じた。また,特別支援学校教員への記述式アンケートにより,自身の子ども時代の「心の傷」をめぐるエピソードが,特別支援学校教員としての職業選択・教育実践に影響しているかもしれない,と半数近い者が感じていることがわかった。またアンケートの記述をもとに,「心の傷」が職業選択・教育実践にどのように影響するかについて,7事例を紹介しつつ考察した。以上を踏まえて最後に,特別支援学校における「子どもたちの心の傷とその対応」について論じた。
著者
神野 秀雄
出版者
愛知教育大学
雑誌
治療教育学研究 (ISSN:09104690)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.21-30, 2007-02

本論文は,ある高機能自閉症児(A君,言語性IQ:72)の情緒(感情)発達に伴う不安に関して検討したものである。A君が本センターに初来所したのは小1であり,小6まで週1回定期的に来所し療育を終了した。筆者は母親面接,学部生や院生がA君のプレイを担当した。A君はプレイ開始当初よりセラピストと野球や卓球などを好んでしており,人とのかかわりを求めていた。そして次第に情緒発達が促され,家庭や学校等で多様な不安感情を体験するようになった。これらの不安体験の背景として①聴覚過敏に由来する不安,②病気やケガに対する身体の安全に関する不安,③他者評価からもたらされる不安,④自閉性障害(情緒発達障害・認知障害)に由来する不安,以上の4つの不安の源泉が考えられた。そして4つの不安に対して①→回避・逃避,②→強迫観念・行為,③→努力,④→質問癖などによる適応機制を用いていた。そして高学年になるにつれて①②は次第に改善され,③④が課題となってきたが,一般的には,②が高機能自閉症の理解にとって最も重要な不安の起源ではないかと考察された。
著者
吉岡 恒生
出版者
愛知教育大学
雑誌
治療教育学研究 (ISSN:09104690)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.13-21, 2010-02-26

本論では,子どもを援助する者の「心の傷」が援助プロセスへ与える影響について論じた。子どもを援助する者の「心の傷」が子どもの「心の傷」に触れる際に,どのようなプロセスが起こりうるか,またその癒しの効果と危険性はどのようなものかについて,「傷ついた癒し手」「メサイア・コンプレックス」等の概念を用いて論じた。また,特別支援学校教員への記述式アンケートにより,自身の子ども時代の「心の傷」をめぐるエピソードが,特別支援学校教員としての職業選択・教育実践に影響しているかもしれない,と半数近い者が感じていることがわかった。またアンケートの記述をもとに,「心の傷」が職業選択・教育実践にどのように影響するかについて,7事例を紹介しつつ考察した。以上を踏まえて最後に,特別支援学校における「子どもたちの心の傷とその対応」について論じた。
著者
神野 秀雄
出版者
愛知教育大学障害児治療教育センター
雑誌
治療教育学研究 (ISSN:09104690)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.1-12, 2009-02

本論文は,筆者が最近特に関心をもっている自閉性障害に関する3つのテーマに関して言及したものである。①わが国における戦前の自閉症に関する専門家による記載:山下清をはじめとして八幡学園に入所していた自閉性障害と思われる子どもたちについて記載した戸川行男,および杉田直樹によるアスペルガー障害と重なると思われる性格異常児に記載されている「病的奇矯症」ついて取り上げた。②FC(Facilitated Communication)について:欧米では,1990年代前半にFC擁護派と批判派の激しい対立があった。その後の10年余りのわが国や欧米の動向について検討したところ事態に変化は見られず,FCに関する論文数は著しく減少してきた。FC現象は Pseudo の世界と思われるが,なぜそのような現象が起きてくるのか,その真実の機序を明らかにする必要がある。③解離性障害について:最近自閉性障害に対し「解離」という視点から論ぜられることがある。2つの名前を主張した事例,「反対側の自分」が出現した事例(玉井),「ばしばしまん」に変身し集団に適応した事例を提示し,このような現象について「解離」という概念を使用することの問題点について論じた。
著者
原 恵美子
出版者
愛知教育大学
雑誌
治療教育学研究 (ISSN:09104690)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.61-69, 2010-02
被引用文献数
1

知的障害児への学校での性教育は,継続的な取り組みや教材等の開発も困難な状態が今日まで続いている。その根拠として学習指導要領の中での位置づけがいまだ決まっていないことに加えて,教員や保護者等関係者らの「寝た子を起こすな」という消極的な姿勢があげられることが少なくないが,これを確認するため,おおむね1990年代以降発表の性教育に関する文献を調べ,特別支援学校教員による記述に見られる性教育に対するイメージの整理,関係者へのインタビューを実施した。今回特に女子知的障害児の保護者の意識を中心に調べたが,子の状態によって保護者の要望も個人差が大きいことがわかった。しかし,女子の場合は性的問題行動や性被害が問題になりやすいのは学校教育終了後で,卒業後の性教育の担当者や場所の確保が必要であることが示唆された。